Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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前半までクロノ編で、後半からDOG DAYS編となります。
また、この投稿でストックが切れましたので投稿ペースが落ちます。ご了承ください。


第14話「流れ着いて異世界へ」

 魔法の王国ジールが崩壊して数日。

 小さな大陸で生き残った人たちが作った村で目を覚ましたマールとルッカは地の民の村長から崩壊後の話を聞くと時の最果てからカエルを呼び出し、現状把握のため外に出た。

 

 

「マール、本当に大丈夫なの?」

 

「うん。きっとクロノはどこかにいる。だから、私はクロノを探しにいく」

 

 

 クロノが生きていると信じて行動を始めたマールに若干の不安を抱くが、落ち込んでいるよりは遥かにいいと判断しルッカたちもそれに頷く。

 

 

「さて、シルバードは」

 

 

 村長の話では無事だったということだが、肝心の機体がどこにあるのかを聞き忘れていた。

 カエルがどこだろうと辺りを見回すと、シルバードとは違う大きな飛行機が海岸に停泊しているのが見えた。

 

 

「あれって……黒鳥号?」

 

「む? 見ろ、シルバードだ」

 

 

 カエルが指さした先では、黒鳥号の搬入口付近でダルトンの部隊がシルバードを囲って何かをしているようだった。

 

 

「あいつらなにを……。ま、まさかシルバードに何かする気じゃないでしょうね!?」

 

「行ってみよ!」

 

 

 そろって駆け出して黒鳥号の近くに来てみると、シルバードに何かがとりつけられようとしていた。

 

 

「あんたたち! 私たちのシルバードに何してるのよ!?」

 

「ん? おお、目が覚めたか」

 

 

 ルッカが威嚇するように武器を取り出して叫ぶと、それに気づいた男が声をかける。その人物と姿を見て、三人は呆気にとられた。

 

 

「……ダルトン、だよね? そ、その格好は?」

 

「あん? 改造作業してるんだから作業服にきまってるじゃねえか。嬢ちゃんは油まみれになる作業をするとき一張羅で作業をしたりするのか?」

 

 

 かつて敵対関係にあったが海底神殿侵入に手を貸してくれたダルトンが自分の部隊の兵たちと同じ服を着て油まみれになっていた。

 

 

「いや、そんなことしないけど……」

 

「それよりお前、いま改造と言わなかったか?」

 

「ああ。この機体、以前ガッシュが設計したものとそっくりだったんでな。誰かさんが大量に資材を積み込んで余裕があったから、ちょいと強化させてるところだ」

 

「人に断りなく何やってるのよ! ……ところで、どんな改造しようとしてるの?」

 

 

 無断改造に怒りを露わにするルッカだが、発明家としての血が騒ぐのか改造内容が気になり怒りを鎮めてそう尋ねる。

 その質問にダルトンはよくぞ聞いてくれたとばかりにふふんと胸を張り、腕を広げる。

 

 

「聞いて驚きそして喜べ! この機体は俺様の指揮の元、飛行機能が追加されるのだ!」

 

「飛行、機能……それってまさか!」

 

「こいつが、シルバードが空を飛ぶってのか!?」

 

 

 流石に空を飛ぶようになるとは予想外だった三人は純粋に驚く。

 それが本当なら願ってもいないことだが、無断で改造に踏み出されたことを考えるとどうも素直に感謝できなかった。

 

 

「完成はまだ掛かるが、楽しみにしてな。 ところで、あのツンツン頭の坊主はどうした?」

 

 

 その質問が出た瞬間、また少し重い空気が流れだした。

 

 

「……なにかあったみたいだな。ま、あれだけのことがあったんだ。行方不明になっても不思議じゃない。俺の知り合いも、居なくなっちまったしな」

 

 

 どこか遠くを見るように天を仰ぎ「だが……」と続けるダルトン。

 

 

「あいつがあれくらいでくたばる奴じゃないだろうから、俺はどこかで生きてるって信じてるんだがな。お前らも、いなくなった奴がどんな人間だったか思い返してみるといい。本当にアレで死ぬような奴なのかをな」

 

「……クロノは」

 

 

 出会ってから今日までのクロノとのやり取りを思い返す。魔王や恐竜人との決戦。嘆きの山でのギガガイアとの戦闘。いずれも死んでもおかしくない戦いではあったが、誰も欠けることなく生き抜いてきた。

 その筆頭であるクロノが、そう簡単に死んでしまうだろうか?

 

 

「……クロノは、簡単にはいなくならないよ」

 

 

 マールの自信に満ちた声が響く。その内容に満足したのか、ダルトンはニッと笑い頷いた。

 

 

「それでいい。さて、俺はこのまま改造を続ける。お前らは向こうの広場で情報を集めてきな」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 ポニーテイルを翻し、マールはルッカたちを連れてダルトンが示した広場へと向かった。

 

 

「……さて。お前ら! さっさと完成させてあいつらに返してやるぞ!」

 

『ハッ!』

 

 

 正史ではありえない信頼を勝ち得たこのダルトンは腕をまくると作業の続きに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 広場である情報を得たマールたちは残された村の北にある岬へ足を運んでいた。

 誰かが岬に向かうのを見た。

 それだけの情報だが、これがクロノではないとは言いきれない。

 とりあえず得られた情報は片っ端から確認して行こうと言うことになり、やがて彼女たちはは目的の場所へとたどり着いた。

 しかしそこには人っ子一人おらず、岬の先には穏やかな海が広がるだけだった。

 

 

「……そんな簡単に吉報が入るわけもない、か」

 

 

 カエルがそうつぶやいて海を眺めると、不意に後ろから何者かの気配を感じる。

 三人そろってもしやと思い後ろを向くがそこには誰もおらず、再び後ろから気配を感じた。

 

 

「お前たちか……」

 

 

 瞬間、三人は反射的に気配から飛び退いて振り返る。

 

 

「なっ、貴様は!?」

 

「ま、魔王……」

 

 

 ジール宮殿に予言者として潜入し、ラヴォスに敗れた魔王がそこにいた。

 マールのつぶやきに何の反応も見せず、彼は岬の先に広がる海へと目をやる。

 

 

「見るがいい。全ては海の底だ……。永遠なる夢の王国ジール……。そして――かつて私はそこにいた。もうひとりの自分としてな……」

 

 

 その一言でマールたちの中で引っかかっていたピースがかちりとはまり、一つの結論が浮かび上がる。

 

 

「あなた、もしかして……ジャキ?」

 

 

 サラの弟にして自分たちに誰かが死ぬと宣告した子供。その成長した姿こそ、目の前にいる魔王そのものだった。

 

 

「私はヤツを倒すことだけ考え生きてきた。ヤツが作り出した渦に飲み込まれ中世に落ちて以来な……。我が城でラヴォスを呼び出す事をお前達にジャマされ……再び次元の渦に飲み込まれ、辿りついた先がこの時代とはな……皮肉なものだ」

 

 

 自嘲するように呟き、魔王は続ける。

 

 

「歴史を知る私は予言者として女王に近づきラヴォスとの対決を待った……。しかし結果は……。――――ラヴォスの力は強大だ。ヤツの前では、全ての者に黒き死の風が吹き荒ぶ。このままではお前達も同じ運命だぞ――あのクロノというヤツとな!」

 

 

 クロノの名前が出た瞬間、マールたちの頭に一気に血が上る。

 

 

「クロノは! クロノは、あなたのせいで……!」

 

「貴様、あいつを侮辱する気か!?」

 

「ヤツは死んだ! 弱き者は虫ケラのように死ぬ。ただそれだけだ……」

 

 

 激昂するマールたちへ振り向きながら叫び、クロノを虫ケラと吐き捨てる。

 その一言が、二人の逆鱗に触れた。

 

 

「ッ! 許せない……!」

 

「魔王ッ!!」

 

 怒りにまかせボウガンを取り出し、魔王の眉間に照準を合わせるマール。

 カエルもまたグランドリオンを抜き、剣を正眼に構える。

 

 

「今ここでやるか……?」

 

 

 挑発するような物言いに釣られ二人の得物に力が込められるが、それは間に入った人物によって収めることとなる。

 

 

「! ルッカ」

 

「やめましょう。あなたを倒したところで、クロノは喜ばないわ……」

 

 

 ずっと沈黙を保っていたルッカが悲しげな表情で告げると、はっとしたようにマールたちも武器を下ろす。

 魔王も思うところがあるのか、それ以上何かをするわけでもなく、再び海の方角へと体を向ける。

 もはやこれ以上語ることはないとし、三人は岬から去ろうと踵を返した。

 

 

「待て」

 

 

 突如響く制止の声。振り返ると、魔王がマールたちへ歩を進める。

 

 

「私も行ってやる」

 

「え!?」

 

 

 あまりにも突然な発言に言葉を失う一同だが、彼は何食わぬ顔でさらに衝撃的な発言を繰り出す。

 

 

「ヤツを……クロノを生き返らせる手が無いわけではない」

 

「ホ、ホント!?」

 

「時の賢者ハッシュなら失った時を取り戻す方法を知っている筈だ。それに、あの男の行方も気になるのでな……」

 

「あの男?」

 

「宮殿ではシドと名乗っていた男だが、正体は魔王城でお前たちと共闘し俺に傷を与えた男だ」

 

「! ミコトさんが!?」

 

 

 ここにきて明かされる衝撃的事実。マールの中ではシドに対して引っかかっていた感覚が一気にほぐれていった。

 シドが尊だというのなら、自分たちに協力するようなメモを残したことについても辻妻が合う。

 

 

「奴は自らこの世界とは異なる世界の未来から来たと明かした。そして奴の言う通りジールはラヴォスによって崩壊し、サラも行方不明となった。もしかしたら、この先のことも知っている可能性がある」

 

「異なる世界の未来から……。それでか、あいつが魔王城でやたらと貴様やラヴォスに詳しかったのは」

 

 

 カエルも合点がいったようで、マールたちは希望が出てきたことを強く実感するのだった。

 

 

 

 一方、マールたちの中で重要なキーマンとなった男はと言うと…………。

 

 

 

「……どうしましょう、サラ様」

 

「……どうしましょうか」

 

 

 ラヴォスが猛威を振るう時代から脱出できたのは間違いないが、猫のような耳をつけた兵たちに囲まれ尊とサラはなおも自分たちの身に危険があるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 サテライトゲートのおかげでどうにか古代を脱出することに成功したが、今度は同じような顔をして似たような武器を持ったネコ耳ネコしっぽの人たちに包囲されてしまった。まあ、何もない空間から突然人間が現れたらこの対応も無理ないか。

 

 

「おまえ、ビスコッティの兵か!? どうやってここにきた!?」

 

 

 一人の兵が短剣を突き出して問い詰めるが、正直言って全く怖くない。あの吹雪の中で魔王に追い回された時の方が圧倒的に怖い。それに今、ビスコッティの兵といったか? 全く心当たりのない言葉だ。

 

 

「いや、俺たちは迷い込んだだけで……。ちなみにここは何処――」

 

「白々しい! 覚悟ぉ!」

 

「おっと、流石にそれは見過ごせないな」

 

 

 一人の兵が剣を掲げて襲い掛かったのを見て、これは容認できないとサテライトエッジを召喚。ハルバードで剣を弾き柄の部分で相手を突き飛ばす。瞬間――

 

 

ポゥン!

 

 

 コミカルな音とともに倒した兵から煙が上がり、煙が張れるとそこにはボールみたいなネコが目を回して気絶していた。

 

 

「……はぁ!?」

 

「まあ!」

 

 

 あまりの変貌ぶりに俺は動揺し、サラは口に手を当てて驚いた。

 いや、どうして人間がこんな姿になるんだ!? 本当にここはいったい何処なんだ!?

 

 

「おのれぇ! よくもやったな!」

 

「一斉にかかれぇ!」

 

 

 仲間がやられたことで怒りが増長したのか、今度は三方向から同時に剣を掲げて迫ってきた。

 

 

「サラ様、失礼します! ――『加速』!」

 

 

 海底神殿でしたようにサラをお姫様抱っこし、『加速』を使って正面の相手に膝蹴りをかます。

 速さの乗った攻撃が相手の顔面に突き刺さり、さっきの奴同様にそいつもネコボールになって目を回した。

 正面が開けたので『加速』の速さを維持し、そのまま隙間を縫って群衆から脱出すると、目の前に広がる光景に思わず足が止まる。

 巨大なアスレチック施設がいくつも存在し、そこでさっきのネコみたいな人のほかに犬みたいな耳をした人たちが剣戟を繰り広げ戦っていた。

 

 

「ミコトさん……ここはいったい……」

 

「……俺にもわかりません。ですが、少なくともジールではないことは確定です」

 

 

 確かに俺が望んだラヴォスがいなくてジール崩壊の大災害に見舞われるような危険な場所ではないが、心当たりが全くない場所というのはそれはそれで不安になる。

 

 

「とりあえず今やるべきことは……あいつ等を撒いて情報収集ですね」

 

 

 後ろから迫る一団が見え、あからさまに増えたその数に俺は若干鬱になるのを実感しながら再びその場から駆け出した。


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