Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんばんわ、職場で勝手すぎるアルバイトに胃のストレスがマッハな作者です。

さて、今回はシンクと出会ったことでサラに尊の秘密が少し明らかになります。
内容的にはJumper -IN CHRONO TRIGGER-の第17話とJumper -IN DOG DAYS-の第10話を足して割った感じです。
あと図解も差し込んでみたので、話の参考に開いてみてください。

それでは本編第16話、どうぞご覧ください。


第16話「芽生えた違和感」

 サラを迎えに行った尊はその後、レオの使いとしてやってきたゴドウィン・ドリュールに連れられてガレット獅子団領軍の天幕へと移動する。

 天幕の中では既に新しい服に着替えたレオが、従者のビオレ・アマレットを控えさせて待っていた。

 

 

「ご苦労であった、ゴドウィン。 さて、まずは自己紹介じゃ。ワシはレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ。ガレット獅子団領の領主をしておる」

 

 

 領主という言葉に僅かに驚いた尊とサラだが、先にこちらの身を明かすべく口を開く。

 

 

「俺は流浪人の月崎 尊。こちらは魔法王国ジールの第一王女、サラ姫様です」

 

「初めまして、レオンミシェリ殿」

 

「ほう、一国の姫君であらせられたか。しかし、魔法王国ジールとは聞いたことがない。どこにあるのだ?」

 

 

 その問いにどうすべきか悩んだサラが尊に視線を送ると、それを受けた尊が一歩前に出て説明を始める。

 

 

「端的に申しますと、我々は異世界から流れ着いた迷い人です。ですから、この世界にジールという国は存在しません」

 

「……ふむ、異世界からのぅ。――それを証明する手立てはあるか?」

 

 

 その言葉を受け尊は僅かに逡巡し、近くの燭台に向かって右腕を向ける。

 

 

「『アイス』」

 

 

 尊の右腕から冷気が走り、燭台を一瞬にして氷漬けにする。

 突然凍った燭台に辺りからどよめきが上がり、レオも「ほう」と感嘆の声を上げた。

 

 

「これが魔法王国ジールと呼ばれる所以の技術、魔法です。そしてジールは魔法によって栄華を極め、巨大な大陸を天に浮かべて存在しました。そのような国や技術は、この世界にありますか?」

 

「……いや、ワシは知らんな。じゃが、証明する手段としては十分じゃ。しかしお主らが異世界から来たとして、この世界――フロニャルドへはどのような理由でやってきたのだ?」

 

「私たちは逃げてきたのです。あの世界から」

 

「逃げた? ……逃避行か?」

 

 

 流浪人と姫がそろって国から逃げてきたという内容からそういう話が理由かと訪ねるレオだが、尊がそれを否定する。

 

 

「我々がいた世界は、未曽有の大災害に見舞われました。あらゆるものを滅亡させる光がジールを滅ぼし、砕かれた天の大陸は地上へと降り注いで大津波を起こし、地上の陸を飲み込んでいきました。そんな災害の最中、ある秘術を使い俺たちはその世界より脱出し、偶然この世界に流れ着いたのです」

 

「……なるほど。兵たちから青白い光とともに現れたという報告は聞いていたが、そういうことか」

 

「こちらに流れ着いた際に兵たちに敵と判断されて攻撃を受けたため、やむを得ず反撃という手段をとらせていただきました。どうか、ご容赦を」

 

「かまわぬ。むしろ自軍の兵が敵意のない相手に武器を向けたとあれば、ワシの方こそ頭を下げねばならん。故に、そのことについては不問とする」

 

「ありがとうございます。では今度はこちらから質問させていただきたいのですが、先ほどの戦いは祭りか何かだったのですか?」

 

「うむ。このフロニャルドにおいて高い人気を誇る戦興業というものだ。今回の相手は我がガレットとも親交が深い隣国、ビスコッティ共和国との戦じゃ」

 

 

 尊の質問にレオが端的に戦興業について説明をする。

 この戦興業は国が主催し『大陸協定』というもので定められたルールの元に行われ、国民が楽しく思いっきり競い合うことが出来る大規模イベントだという。

 さらにこの戦興業は活躍に応じて懸賞金が支払われ、うまく勝利に貢献すれば一攫千金も狙えるという魅力もあった。

 

 

「おそらくこのままいけば今回の戦はビスコッティの勝利となり、最も勝利に貢献したビスコッティの勇者に一番の報酬が支払われるだろう」

 

 

 今回の戦を例に挙げて話すレオの言葉に、サラがそう言えばと尋ねる。

 

 

「レオンミシェリ殿。戦いのときも勇者という言葉をよく耳にしましたが、勇者というのは何なのでしょうか?」

 

「勇者というのはこのフロニャルドにおいて、宝剣を持つ国や領主にのみ認められた儀式によって別の世界から召喚される切り札のことだ」

 

「別の世界から召喚ですと?」

 

「なんじゃ、気になるのか?」

 

 

 強く反応した尊をレオはじっと見つめ、サラにも視線を向けて僅かに思考する。

 

 ――やはり勇者と姿が似ておるな。

 

 二人と勇者の姿に共通するものを見つけ、レオはそう判断する。

 というのも、レオの知る限りこの大陸の人間は皆動物のような耳としっぽがあり、それがない種族を見たことがなかった。

 

 ――かつてパスティヤージュに召喚された英雄王もこのような姿だったと伝来されているが、そうだとすれば面白い。

 

 

「ゴドウィン。戦が終わり次第、ミコト殿とサラ殿を勇者の元へお連れしろ。お二人が勇者と同郷の可能性がある」

 

「ハッ!」

 

 

 下された命令にゴドウィンがしっかりと応え、尊は思わぬ計らいに食いつく。

 

 

「よろしいのですか?」

 

「うむ。ただ、またこちらに戻ってきてもらいたい。ワシはもっとお主たちの話を聞きたいのでな」

 

「わかりました」

 

 

 それから間もなく戦の終了を告げる花火が上がり、ビスコッティ陣営からひときわ大きな歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 ゴドウィン将軍に案内されてビスコッティ陣営へと足を運んだものの、周りから向けられる好奇の視線がなんとも煩わしい。俺たちのような人間が珍しいのか、それともガレットの将軍に連れられてここにいるのが気になるのか……どちらにしても、見世物のようでいい気はしない。

 やがて人だかりを見つけ足を運ぶと、白い鎧を身に着けた男性がインタビューを受けていた。ちょうど会見が終わったのか散り散りになる記者たちをかき分け、将軍はその人物へと声をかける。

 

 

「ロラン団長。少しよろしいか?」

 

「おや、ゴドウィン将軍。――そちらのお二人は?」

 

「ビスコッティの勇者殿と同郷の人間かもしれぬ者たちでな。レオ閣下の命によりお二人を勇者殿に合わせたい。どちらにおられるか?」

 

「えー、勇者殿でしたら、その……」

 

 

 歯切れが悪そうにロランと呼ばれた騎士が視線をずらすと――件の勇者が体育座りのまま頭にキノコをはやして落ち込んでいた。

 

 

「……なにがあったんですか?」

 

「実は召喚された勇者が元の世界に帰ることも連絡を取ることもできないと知らなかったらしく、それで……」

 

「……なるほど」

 

 

 確かにそれは落ち込むのに十分な理由だな。しかしこのまま放置するわけにもいかないので、俺はサラたちから一歩前に出て声をかける。

 

 

「少年、少しいいか?」

 

「――ふぇ?」

 

 

 虚を突かれたように勇者が顔を上げると、僅かに間をおいて首を傾げた。

 

 

「えっと……どちら様ですか?」

 

「俺は月崎 尊。別の世界からこの世界にやってきた人間だ」

 

「……えっ!? 日本人!?」

 

 

 さっきまでの落ち込みが嘘のように反応し、信じられないといった風に声を上げる。

 

 

「状況は聞かせてもらった。元の世界に帰れないらしいな」

 

「は、はい。 えっと、月崎さんはどうしてこの世界に?」

 

「いろいろあってな。 ところで俺が日本人とわかるということは、君も地球からやってきたのか?」

 

「はい。日本の紀乃川市って町から、姫様に召喚されてこの世界に来ました――あ、僕はシンク・イズミって言います」

 

 

 やはり地球人か。紀乃川市という町は聞いたことがないが、全国の市町村を知っているわけではないからどこかにそういう名前の町があるんだろう。

 ただここには、レオンミシェリ殿が俺とサラが彼の同郷の可能性があるということでやってきた。確かに俺とイズミ君は同郷になるだろうが、サラはそういうわけにはいかない。そうなると、必然的にこの問題にぶち当たる。

 

 

「あの、ミコトさん。日本とはどこにある国ですか?」

 

「む? ミコト殿とサラ殿はジールという国の人間ではなかったのですか?」

 

「え? ジール? 地球にそんな国ありましたっけ?」

 

 

 サラの質問を発端に将軍、イズミ君と連鎖的に疑問が上がる。

 流石にこうなっては、もう誤魔化せないな。

 腹を括り、俺はこちらを見ているサラに秘密のひとつを打ち明ける。

 

 

「サラ様にもお話ししていませんでしたが、実は俺も彼と同じ地球の出身です」

 

 

 

 

 

 

 将軍にサラとイズミ君だけで話をしたいと告げ、ロラン団長より天幕のひとつを借りて俺はここまでの経緯を明かすことにした。

 

 

「――先ほども言いましたが、俺は元々イズミ君と同じ地球にある日本という国にいました。ですがある日、目を覚ますと自分の部屋ではなく全く別の場所にいたのです」

 

「それがジールだったということですか?」

 

「いえ、ジールではなく時の最果てと呼ばれる時間の流れから外れた場所にいました」

 

「時間の流れから外れたって、どういうことですか?」

 

 

 イズミ君の問いに俺は近くにあった棒でまず四つの円を描き、そのうちの一つを少し大きくして時の最果てと書き入れる。

 

 

「俺が最初に目を覚ましたこの時の最果てというのは、簡単に言えば別の時代とつながる中継ステーションのような場所でした。確認しただけで三つの時代へ移動でき、それぞれB.C.65000000年、A.D.1000年、A.D.2300年に繋がっていました」

 

「つまり一つの場所で複数の時代へ行けるということから、時の最果てが時間の流れから外れた場所にあるということですか?」

 

「サラ様の解釈で間違いないと俺は思います。目覚めた時の最果てから元の世界に戻る方法を探るべく最初にA.D.1000年という時代へ移動し、新たに見つけたゲートを利用して再び時の最果てへと戻りました」

 

「……もしかしてミコトさんは」

 

「申し訳ありません、その話は後程」

 

 

 古代でゲートを封印した時のやり取りのことで何かに気づいたのであろうサラの言葉を封殺し、二つの円にそれぞれA.D.1000年、A.D.600年と書き込み、少し離れた場所に新たに円を描きながら話を続ける。

 

 

「時の最果てに戻ると新たに出現したゲートを使い、今度はA.D.600年という先ほど訪れた場所から400年前の時代に辿り着きました。ここで旅をしているときに新たに発生したゲートに呑まれ、今度は全く別の次元の狭間と呼称した空間へと辿り着きました。そこで俺は元の世界にいるという女神様に出会い、不可抗力で時の最果てに流れ着いたことを知りました」

 

「め、女神様ですか?」

 

「ああ。そこであるモノの干渉を受けて元の世界に戻れないと知り、それを倒すという目標を定めたところで――ジールに辿り着き、サラ様に出会いました」

 

 

 新たに作った円に次元の狭間と入れ、最後の円にジールと入れる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 追加されたその文字をサラがどこか哀しそうに見つめる中、合点がいったようにイズミ君が口を開く。

 

 

「つまり月崎さんとサラさんはこのジールって場所から、そのゲートっていうのを使って一緒にここに来たってことですか?」

 

「ああ、端折って言ってしまえばそういうことだ。イズミ君は、日本から直でここにだったか?」

 

「はい。学校から帰るときに踊り場から降りようとしたら、着地点でワンコが落とし穴を作ってそのまま……」

 

「……君も災難だな」

 

 

 なんで踊り場からというのは置いとくとして、飛んでる最中にそんなものを設置されたら逃げるに逃げられない。

 しかもそれをやってのけたのが犬というのがまた……。

 

 

「まあ、何とかなるさ。もしかしたら俺みたいに帰るための手掛かりが見つかるかもしれないだろ? 諦めたらそこで試合終了だぞ」

 

「……そうですね。もう少し頑張ってみます!」

 

 

 そう意気込んだところで外からイズミ君を呼ぶ声が聞こえ、彼はそのまま出て行った。ちなみに、出ていく直前に呼び捨てで構わないといわれたので俺も下の名前で呼んでいいとだけ伝えておいた。

 

 

「さて……お待たせしました。俺が答えられる範囲であれば、お答えします」

 

 

 改めて向き直ると、サラがジールの部分を指出しながら問う。

 

 

「ミコトさんは、クロノたちが同じ方法でジールに来たことを知っていましたね?」

 

「はい。A.D.1000年から最果てに戻った際、そこで出会ったマールがどのように移動しているかを教えてくれました」

 

「ではあの時必ず戻ってくると断言できたのは、別の時代でそうなったと知っていたからですか? 海底神殿でガッシュに転移装置を用意させたのも、海底神殿が崩壊すると知っていたからですか?」

 

 

 ――さて、どう答えるべきか。

 ここでサラのいた世界が俺の世界ではゲームの話だったからと返すのは簡単だ。

 しかも当初の目的であったサラの生存もあの世界では原作通り行方不明になっているが、こうして別の世界でしっかりと生存している。

 このままあの世界に戻っても原作から大きく外れた流れになることはないだろうし、ヘマをしなければ誰もが夢見たであろうサラの生存エンドも迎えることができる。

 ――この際、これも話していいかもしれないな。

 十分に確認し、それを伝えてもおそらく大丈夫だろうと思い真実を伝えようとする。が――

 

 

 

「――その通りです」

 

 

 

 出てきたのは、サラの予想を肯定する言葉だった。

 一瞬ハッとなるが、サラはやはりと言って微笑む。

 

 

「では、私はミコトさんに感謝しなければなりませんね。ミコトさんのおかげで、こうして助かることができたのですから」

 

「……いえ、大したことでは」

 

 

 サラを助けることができた。確かに感謝されることだ。

 だが……何だ、この言いようのない罪悪感は。

 別の時代でそうなることを知っていた? 確かに元の世界で、ゲームを通じてそうなることを知っていた。

 海底神殿が崩壊すると知っていた? これもゲームで知っていたし、魔王に問い詰められた時も似たような話で誤魔化したからそこまで大きな矛盾はない。

 そう、矛盾はないのだ。

 だというのに、この気持ちの悪さは何だ?

 説明に使用した図解を見下ろしながら、俺は自身に現れた大きな(しこり)に嫌悪感を隠せなかった。




第16話、いかがでしたでしょうか?

プロットを組んでいたらオリジナル設定が猛威を振るってキリサキゴホウ戦がえらいことになりそうです。
また前回、尊がガレット側についたことでビスコッティがヤバいという感想をいただきましたが、彼のスペックはJumper -IN CHRONO TRIGGER-の第12話と同じなのでそこまで脅威になりません。
作者の中では素の能力ではシンクよりやや低く、精神コマンドなどを解放しても閣下には負けそうなレベルです。
無論、クロノ編が終われば立場は逆転しますが(笑

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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