Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんばんわ、先日兄が結婚式を挙げた際、礼拝堂の素晴らしいステンドグラスを見た時にクロノトリガーの王国裁判が頭を過ぎった作者です。

さて、今回はJumper -IN DOG DAYS-の7話と8話を圧縮したような展開となっています。
あちらと違って尊がガレット側についているため、終了への展開が速くなりました。
また、前回と比べてユキカゼの出番がちょっとだけ増えました。本当にちょっとです、ユッキーファンの方々、申し訳ありません。

それでは、本編第19話、どうぞご覧ください。


第19話「ミオン砦の攻防」

 日もとっぷりと暮れた中、月に照らされた街道を駆け抜ける影が一つあった。

 一騎のセルクルに騎乗している二人は出発時に受け取った地図を頼りに、最短距離で目的の砦へと進んでいた。

 

 

「サラ様、あとどれくらいですか?」

 

「先ほど三つ目の分岐を過ぎたので、次の分岐を左に行けばもうすぐです」

 

 

 手綱を握る尊が自分の前で地図を広げるサラの言葉に頷き、自分に課せられた任務を思い返す。

 ミオン砦についたらまずゴドウィン将軍と合流し、レオの言伝を今回の発端であるガウルに取り次いでもらうよう依頼する。

 これで話が終わればそれでよし。しかし――怒れる姉の言葉を無視するとは思えないが――ガウルがそれを受け入れず戦を続行するのであれば、力でねじ伏せても構わないとのことだ。

 子供相手に全力を出すのも大人気ないが、レオからガウルもガレット国内では指折りの実力者だと伝えられている。

 下手に手加減しようものなら逆にやられると忠告を受けては、子供と見ないほうがいいだろうと尊は自分に言い聞かせた。

 

 ――出発前に紋章術を教えてもらったが、俺のはほとんど付け焼刃だ。余り頼ることはできない以上、できれば穏便に済んでもらいたいところだ。

 

 頭の中でそう呟きながら、少し前にレオから聞いたこの世界特有の技術である紋章術について思い返す。

 紋章術とはこのフロニャルドの大地に眠るフロニャ力というものを集め、自分の命の力と混ぜ合わせることで『輝力』というエネルギーに変換する技術を差し、レオがすり鉢エリアで起こした大爆発もこの紋章術の派生技である紋章砲というもので、紋章術は使い方次第で様々な応用が可能となるとのことだ。

 尊もサラもその場で簡単な輝力の発生を試したが、サラがすんなりと発動させたのに対し、なぜか尊は不安定な発動となった。

 これを見てレオはサラの結果は才能によるもので、尊の結果は修練不足と下した。その言葉に尊は少なからず気落ちし、この問題が終わったら調査の合間に訓練しようと秘かに決意したという。

 二人を乗せたセルクルはやがて四つ目の分岐に差し掛かり、尊は先ほどサラが言ったように進路を左へと切る。

 しばらく駆けると前方が明るくなり、熱気の籠った声が耳に届き始める。

 近い、と思った時点で二人の視界は既に篝火で照らされた砦を捉えていた。

 

 

「この騒ぎ……もしかしたら、もうシンク君たちが突入しているのかもしれませんね」

 

「レオ閣下もあいつらのほうが早いだろうと言っていましたし、そうだとしてもこれは想定の範囲内ですね」

 

 

 むしろ自国の姫が攫われたのだから真っ先に動いて然るべきなので、騒ぎの原因がシンクたちだとしても二人は特に気にしない。

 やがて逃げ出せないようにしたと思われる閉ざされた正門に辿り着き、そこを守る兵が尊たちに気づいて武器を構える。

 

 

「止まれぃ! お前たちは何者だ!?」 

 

 

 守備の指揮をしている騎士が声を張り上げ、尊はセルクルを停止させつつ声を張り上げる。

 

 

「こちらはガレット獅子団領領主、レオンミシェリ閣下の使いだ! 今回の戦について、閣下より言伝を預かっている! 至急ゴドウィン将軍に取り次ぎ願いたい!」

 

「閣下の使いだと? 証拠はあるのか!?」

 

「残念ながら急ぎで来たため証拠たり得るものを俺たちは持っていない! だが将軍に流浪人の尊とサラ姫が来たと伝えればそれで通ると言われている! 将軍に確認してくれ!」

 

「将軍は今、ビスコッティの戦士と戦っている最中だ! 邪魔をするわけにはいかん!」

 

 

 その返答に尊は一瞬呆気にとられ、信じられないといった風に問いただす。

 

 

「領主の使者より戦が大事だというのか!?」

 

「そういうわけではない! だがお前たちが閣下の使いだという証拠がない以上、そう簡単に話を通して将軍の戦いに水を差すわけにもいかん!」

 

 

 確かに証拠がないから取次ぎできないという騎士の言い分は通っている。

 しかし確認すれば済むことなのも確かであり、尊は時間が浪費されることに焦燥感を抱きながら再度自身の主張を述べる。

 

 

「これは水を差す云々の問題じゃない! 国の今後にかかわるから急いでいるんだ! いいから将軍に取り次いでくれ!」

 

「だから閣下の使いだというのなら、将軍の戦いの邪魔をしないで証明できるものを用意しろ! 武人の戦いを邪魔するなど、我らにはできん!」

 

「……どうしてもダメか!?」

 

「ダメだ!」

 

「ならば仕方ない!」

 

 

 このままでは平行線だと判断すると、尊は間髪入れずサテライトエッジを召喚。ブラスターに変形させ閉ざされた正門に銃口を向ける。

 明らかな攻撃態勢に兵たちは動揺し、騎士が慌てて剣を抜く。

 

 

「き、貴様! 何のつもりだ!? 閣下の使いというのなら我らの味方ではないのか!?」

 

「お前と話してダメだというのなら、ここを無理やりにでも突破して直接将軍に伝えるまでだ! 『熱血』!」

 

 

 精神コマンドで火力を押し上げ、躊躇いなくトリガーを引く。

 放たれた光の一撃は兵たちを飲み込み、凄まじい音と共に後ろにあった門を破壊する。攻撃が止んだ後に残ったのは"けものだま"となった無数の兵たちと、ぽっかりと開いた砦への入り口だけだった。

 

 

「……やりすぎましたかね?」

 

「そうかもしれませんが、あのままでは話が進みませんでしたし。私はこれでよかったと思いますよ?」

 

「そう言っていただけるとありがたいです」

 

 

 流石の尊も過剰攻撃かと焦ったがサラの言葉で少し気が楽になり、改めてセルクルを走らせ砦へと突入した。

 その姿を、草葉の陰から見ていた者がいた。

 

 

「うっひゃー。凄まじい威力でござるな」

 

「まさかミコト殿にこんな力があるなんて、予想外でありますよ」

 

「まあしかし、これで砦に侵入しやすくなったでござるな。それに先ほどの話を聞く限り、レオ姫はこの戦を止めようとしているみたいでござるな」

 

「あの方の思考から推測して、間違いなくここにやってくるでありますよ。どうするでありますか?」

 

「ふむ……。あの使者殿の言葉を受けた敵将次第、といったところでござるな。とりあえずは物陰から様子見、といくでござるよ。リコ」

 

「了解であります、ユッキー!」

 

 

 

 

 

 

 尊たちの突入から時は少し遡る。

 ミオン砦の内部ではガレット兵に囲まれたシンクとエクレールが奮戦してどうにか中庭まで入り込んだものの、やはり戦力差が響いてついには通路の柱にまで追い詰められてしまった。

 突入当初こそリコッタの砲撃支援による面制圧で有利に進んでいたが、その彼女も抑えられ支援も得られなくなり万事休すといったところで、ロランより遣わされた思わぬ援軍に救われた。

 ビスコッティ騎士団隠密部隊頭領、ブリオッシュ・ダルキアン。

 その名と実績を知るガレットの兵たちは、湧き上がる動揺と畏怖を抑えることができなかった。

 『大陸最強』と言う異名を持ち、かつて単騎で千を超える敵を薙ぎ払い、そのまま敵将の撃破にまで至ったという実力は『天下無双』と呼ばれているレオを超えるかもしれないと言われるほどだ。

 そんな大物を前にして動きが鈍ったガレット兵の隙を突き、シンクとエクレールは砦の内部へと進攻。ミルヒオーレの奪還を継続。

 一方二人を見逃す形になったゴドウィンは、動揺どころか笑みを浮かべてダルキアンに相対する。

 

 

「まさかこのような場所でビスコッティの最強戦力に相見(あいまみ)えるとは……。武人として、これほど名誉なことはないな」

 

「そう言われると照れるでござるよ。 では、貴殿が拙者の相手でよろしいか? 斧将軍殿」

 

 

 ダルキアンの指名にゴドウィンはこれから訪れるであろう戦いに心を躍らせ、快諾しようと口を開く。

 

 

ドォォォォォォン!!

 

 

 しかし、その意気込みは突如響いた轟音によってかき消され、その場にいた全員が何事かと音の方角へと首を向ける。

 正門の方角から粉塵が立ち込め、兵たちが「敵襲!」と叫びながら武器を手に突っ込む。

 しかし煙の向こうに進んだものは例外なく"けものだま"に変貌し、異常を感知して誰も進まなくなると一騎のセルクルが土埃を突っ切って現れた。その姿を見てゴドウィンとダルキアンの両名が反応し、片方が声を上げる。

 

 

「ミコト殿にサラ殿!? 何故ここへ!?」

 

 

 予想外といった風にゴドウィンが声をあげると、彼を発見した尊はサテライトエッジを収納しながらセルクルを寄せて地面に降り立つ。

 

 

「将軍。レオ閣下からガウル殿下へ言伝があります。取次ぎを願えますか?」

 

「閣下から言伝だと?」

 

 

 訝しむゴドウィンだが、尊から告げられた言葉で一変する。

 

 

「『さっさとバカ騒ぎを止めよ。ワシが到着するまでに終わらなければ、どうなるかわかっておるな?』とのことです」

 

「ぬぅッ!?」

 

 

 彼は一瞬で理解した。もしこのまま戦が続けば、主たるガウルは怒れる姉の制裁を免れることはできないと。

 そして傍らで話を聞いていたダルキアンもその未来が容易に目に浮かび、おやおやと苦笑いを浮かべた。

 

 

「閣下は現在ビスコッティ側に謝罪の報を入れており、そちらが片付き次第こちらへ来られるとのことです。時間としてもそう余裕はないと思われますので、双方のためにも可及的速やかに動いたほうがよろしいかと」

 

「むぅ……し、しかし……」

 

 

 領主の最もな命令を受諾するのは騎士として当然のこと。だが敬愛するガウルの命を簡単に覆す器量を持ち合わせていないゴドウィンは二つの命令の間で揺れ動く。

 周りの兵たちも領主から戦中止の命令が下ったと知らされ動揺が伝播し、どうなるのかと一同して将軍の言葉を待つ。

 しかしそんな時間も許されないとばかりに、城壁の上から声が響く。

 

 

「御館様ー! 敵の増援が参りまーす!」

 

 

 御館様という単語を聞いて思わずあの家臣たちが次元の壁すら超えてやって来たのかと思った尊だが、耳に届いたのが少女の声だったことから落ち着いて違うと判断する。

 声の出所を見てみると、忍者装束にキツネの耳と尻尾を生やした少女が手を振っていた。

 少女、ユキカゼ・パネトーネの呼びかけにダルキアンが声を上げる。

 

 

「戦力はどれほどか、ユキカゼ!」

 

「それが、レオ姫様が一騎駆けでいらしているのでありまーす!!」

 

 

 同じ場所にいるリコッタからの報告に尊とサラ、そしてゴドウィンはぎょっとした。

 レオのことだからビスコッティへの連絡にそれほど時間はかからないだろうとは思っていたが、ここにくるまでもう少し時間がかかると思っていたからだ。

 土埃が晴れ破壊された門の向こうを注視してみると、砂塵を巻き上げながら凄まじい速度で接近する黒いセルクル――レオの愛騎ドーマが確認できる。

 そしてその上にはリコッタの言う通り、武装したレオ一人が騎乗していた。

 

 

「……将軍、タイムリミットです」

 

「……そうだな。申し訳ありませぬ、殿下」

 

 

 ゴドウィンは何もできなかった己を振り返りながらもう一人の主に謝罪しつつ、ついに目の前までやってきたレオの足元に跪く。

 その姿をレオは一瞥し、今度は尊たちへと視線を移す。

 

 

「ミコト。この様子からしてガウルにまで話は進んでいないようだが、ここに着いたのはいつじゃ?」

 

「つい先ほどです。そこの門を守護していた兵と少々問答がありまして、最終的に実力行使で砦に入らせていただきました」

 

 

 尊の報告を聞いて「なるほど」と門が破壊されていたことに納得しつつ、次いでもう一人の人物に視線を向ける。

 

 

「久しいの、ダルキアン」

 

「ご無沙汰でござる、レオ姫」

 

「うむ。じゃが今のワシは領主じゃ。姫と呼ぶでない」

 

「これは失礼」

 

 

 レオは一つ頷いてドーマから飛び降りると、手にした武器を担いでダルキアンに歩み寄る。

 

 

「ダルキアン、そこをどけ。ワシはこの下らん戦を終わらせるためにガウルに話がある」

 

 

 明確に発せられた戦を終わらせるという言葉。

 一分一秒が惜しいこの状況、ビスコッティ側としては――耳を疑いたくなるが――ありがたい申し出である。

 

 ――とりあえず閣下が来たことだし、これで戦も……

 

 

「申し訳ありませんが、それはできませぬ」

 

 

 戦もスムーズに終わるだろうと尊が思ったところでダルキアンから否定的な声が上がり、一同は面食らう。

 続いてそんなことを言っている場合ではないと言うのにどうしてそんな言葉が出たのか、という疑問が頭に埋め尽くされた。

 

 

「どういうつもりじゃ、ダルキアン」

 

「ここが戦場であり、某とレオ様は敵対している以上、相まみえては刃を交えるのが当然というもの」

 

「なるほど、一理あるな。だが、本音はどうじゃ?」

 

「少々、お尋ねしたいことがございましてな。早急に知りたいことですのでここで話を聞かせていただきたい。しかし、レオ様がそれでも先に進みたいと言うのであれば――」

 

「……推して、通れということか」

 

 

 剣呑な空気が漂い、レオが紋章を顕現させてダルキアンと相対する。

 

 

「よかろう。だが、ワシを以前のワシと思うでないぞ。最早、貴様が相手でも引けを取らぬぞ!」

 

「承知いたしました。 では、尋常に――」

 

「「――参る!!」」

 

 

 『天下無双』と『大陸最強』の異名を持つ二人が激突し、辺りに衝撃波が走った。

 

 

 

 

 

 

「将軍! 今のうちにシンクとガウル殿下に戦終了のお知らせをしに行きましょう! 今二人を止めれば彼らに下される刑は(保証しないけど若干くらいは)軽くなるはずです!」

 

 

 激しく剣を打ち合わせるダルキアン卿とレオ閣下の戦いを横目に見つつ、心の中で一部付け足しながら俺は将軍に提言する。

 しかし返ってきたのは苦い表情のまま唸るように否定する将軍の言葉だった。

 

 

「無駄だ。閣下のお怒りに触れた時点で、ガウル殿下に制裁が回避されるという未来が存在せん。ならばせめて、閣下の怒りが落ちるその時まで殿下に勇者との戦いを提供するのが、俺たちにできる唯一のことだ。何より殿下と勇者が戦っている場所へは、あの通路を使わねばならんのだ」

 

 

 指さされた場所は少し離れた正面の通路だ。だがそこへ行くには――

 

 

「ぬんっ! せぇやッ! うおおおおおッ!!」

 

「ふんっ! そぉいッ! はあああああッ!!」

 

 

 キンッ! ガキィッ! ガガガガガガッ!!

 

 

 ――凄まじい攻防を繰り広げる二人の間、もしくは周りを通らなければならないのだ。

 しかしど真ん中は最も攻防が激しいので論外。さらに周りは周りで二人が縦横無尽に動き回っているため、巻き込まれる可能性が非常に高い。しかも動きが速く、紋章術で斬撃を飛ばしたりしているからとてもじゃないが無理をしても通ろうという気にもなれない。

 俺一人なら加速と集中、ブーストアップのゴリ押しで行けるかもしれないが、砦を知る将軍がいないと道に迷いそうだしサラを置いて行くなどもってのほかだ。

 となると、必然的に残されるのは「二人の戦いが終わるのを待つ」という選択肢だけだ。

 それかシンクが既にガウル殿下を撃破して姫様を救出し、現在進行形でビスコッティに全力帰還中という非常に低い可能性に賭けるしかない。

 だが断言しよう。この戦における総大将――ガウル殿下がやられたという宣言がない以上、二人の戦いはまだ終わっていないだろうと。

 現状、どうにもならないことを突き付けられた気分になりながら俺たちは閣下たちから気持ち離れて戦いの様子を眺める。

 数合の打ち合いを経て鍔迫り合いに持ち込まれると、二人の会話がこちらにまで聞こえてきた。

 度重なるガレットの侵攻はいつもの戦興行だというレオ閣下だが、それが原因でロランさんは頭を悩ませ、ミルヒオーレ姫のコンサートや一般のイベントが行われなくなっているとのことだ。

 戦興行をやるには問題ないかもしれないが、他国のイベントを潰しまくるのは正直どうなんだ? イベントスケジュールを調整して行えばそんなことも起きないと思うが。

 

 

「将軍。戦興行には他国のイベントを潰してまで開催しなければいけない理由とかあるのですか?」

 

「いや、特にそういう物はない。だが、国同士のイベントの方が規模の関係で優先されるケースがある」

 

「……なるほど、興行収入などを考慮してですね」

 

 

 サラのつぶやきに俺も「ああ」と納得する。確かに利益計算をした場合、大金が動く戦興行を選択する場合もあるだろう。

 だがそれを差し引いても話を聞いている限りガレット――いや、レオ閣下は戦興行をゴリ押ししている気がする。

 そもそもだ、戦よりもコンサートを見たがっている人だって大勢いるはずだ。その人たちの望みを押しのけてまで戦を行う理由があるだろうか。

 そんなことを考えていると戦況に変化があり、鍔迫り合いから弾けるように距離が取られ、両者が地面を滑る。

 

 

「――犬姫の、ビスコッティの提案する興行が楽しくないと言うわけではない――が、それだけでは若者の血気を癒すことができんのだ!」

 

「ふむ。確かにうちの領主さまは心優しい御方故、その辺りの機微には疎いかもしれませぬ。しかし、歳と経験を重ねればその点にも気を配れる立派な領主になれると、家臣一同信じております。それまで、どうかお待ちいただくことはできませぬか?」

 

 

 ミルヒオーレ姫の姿はジェノワーズが攫うときにちらっと見た程度だが、確かにあの若さで領主に就いたのなら経験不足はどうしても否めない。

 だが若いということは、それだけ将来に期待が持てるということでもある。周りが間違った教育をしなければ善政を行えるし、長期に渡って国民に慕われることもできるだろう。

 既に領主として国を動かしている閣下も、そこは分かる気がするんだがな。

 しかしそれとは別に、気になる言葉が耳に残った。

 

 犬姫。

 

 おそらくミルヒオーレ姫のことを差しているのだろうが、口調からして蔑みの言葉のようだった。

 だが天幕で彼女は心底心配した風に「ミルヒ」と愛称で呼んでいた。

 高々一時間足らずで人に対する考えが変わるとは思えない。となると、なぜ閣下はあんな言葉を使ったんだ?

 

 

「――――――か」

 

「ん?」

 

 

 不意に閣下が何かつぶやいたようだが、俺は最後まで聞き取れなかった。

 しかし、その表情はどこか焦燥感が感じられたような気もした。

 近くにいたダルキアン卿は僅かに眉を寄せていたが、閣下が再び臨戦態勢に入ったのを見て構え直す。

 

 

「今のワシは止まることが出来ぬ! 道を開けよ、ダルキアン!!」

 

 

 ガギィィインッ!!

 

 込めに込めた輝力の一撃が振り下ろされ、真っ向から受け止めたダルキアン卿はその力を殺しきれずそのまま弾き飛ばされた。

 

 

「……うむ、降参にござる」

 

 

 うつぶせに倒れたまま――それでも十分に余力を残しながら――小さな白旗を揚げ、ダルキアン卿は敗北宣言をした。

 

 

 

 




第19話、いかがでしたでしょうか?

次回でミオン砦編は終了し、出来ればガレットのヴァンネット城まで進めたいと思います。
なお、Jumper -IN DOG DAYS-と違ってこちらの二人は夫婦ではないのでイチャラブしません。(若干重要
イチャラブが見たいという方はJumper -IN DOG DAYS-へどうぞ。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。



おまけ

◇前書きで書いた礼拝堂でのやり取り◇

作者
「マールみたいにステンドグラスぶち破りたいな」


「クロノネタやめーやw」


「ここ裁判所ちゃうからそのネタ無理やで」

作者
「( ゚Д゚)あっ」

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