Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんにちわ、SSDの性能に魅入られてHDDでのPC起動に戻れなくなってしまった作者です。

さて、今回は要人誘拐奪還戦の終了と尊がこれからどう動くのかを決定する話となっています。
前半の内容ほとんどがJumper -IN DOG DAYS-の流用ですが、ご容赦ください。

それでは、本編第20話、どうぞご覧ください。


第20話「その時のために」

 レオ閣下がゴドウィン将軍を引き連れて砦の奥へと進んでいくのを見届け、俺とサラは後を追う前に先ほど撃破されたダルキアン卿の元へと駆け寄る。

 外傷は皆無だが、何故か昼の戦場でダメージを受けたレオ閣下のように上着が破れ、下に着ていたインナーのみの姿となっていた。

 

 

「大丈夫ですか、ダルキアン卿」

 

「気遣いは無用にござる。拙者、体は少々頑丈なので問題はないでござるよ」

 

「……頑丈だからいい……のか?」

 

 

 サラの言葉にしれっと返すダルキアン卿だが、弾き飛ばされた際にぶつかったそれを目にして俺は疑問符を挙げずにはいられない。

 大きな石の柱へ背中からモロに突っ込んだことで柱の一部が大きく砕け、普通なら小さくはない怪我をしていたであろうにもかかわらずダルキアン卿は平然と立ち上がりどこからともなく取り出した荷物から替えの服に着替え始めていた。

 

 

「さて。レオ様が来られた以上、この戦も間もなく終わりでござろう。拙者は"けものだま"となった者たちの救護に向かうでござるが、お二人はいかがされるか?」

 

「俺たちは先へ進もうと思う。シンク――勇者やミルヒオーレ姫の安否も確認しないといけないし、レオ閣下に確認したいこともできた」

 

「承知したでござる」

 

 

 ダルキアン卿の言葉に頷いて返すと、それとほぼ同時に砦の奥からレオ閣下の怒声がビリビリと響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 奥へ向かう途中でガレットのメイドに遭遇した二人はミルヒがいる部屋までの案内を頼み、不自然に空いた壁の穴に首をかしげながら目的地へと導かれる。

 扉に手をかけた瞬間、先に到着していたレオが出てくるなり尊たちを一瞥すると何も言わずに立ち去った。

 声をかけるべきかと思った二人だが、彼女から感じられる妙な空気と中の様子が気になったこともありそのまま入室。そこには件のミルヒに先行したシンクとエクレール、ガレットの王子ガウル・ガレット・デ・ロワに同国メイド長のルージュ、そして<よりにもよってこのタイミングで>ミルヒを誘拐した親衛隊ジェノワーズが三人そろって頭にたんこぶを生やして気絶していた。

 

 

「あなたがミルヒオーレ姫ですね? 自分は流浪人の月崎 尊。そしてこちらが――」

 

「サラと申します」

 

「は、はい。勇者様からお話は伺っています。私は、ミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティです」

 

 

 お互いの自己紹介を済ませ、尊は続いてシンクの方に目をやる。あちこちで擦り傷が目立つが、それ以外は特に問題が見当たらなさそうであった。

 

 

「シンク、お疲れ様だ。あとはミルヒオーレ姫をコンサートに送り届ければ、全部解決だ」

 

「そのことなのですが、ミコト殿。今からではとても……」

 

 

 二の句を告げぬエクレールの表情はすぐれない。セルクルをもってしても、ここからコンサート会場まではどう考えても一時間はかかる。圧倒的なまでに、時間が足りない状況であった。

 しかしそんなエクレールの心配を余所に、シンクが思いついたように声を上げる。

 

 

「あの、姫様。僕が送りましょうか? 王子……えっと、名前なんだっけ?」

 

「ガウルだよ! 一発で覚えろよ!」

 

「そうそう! ガウルと戦ってたときに、輝力の使い方をだいぶ覚えたから大丈夫! 勇者超特急で一気に送れるよ!」

 

 

 自信満々に宣言してミルヒオーレを背負うシンクに誰もが呆然とし、尊は若干不安そうな顔をすると何かを決意したようにポケットからあるものを取り出す。

 

 

「正直不安だが、出来るというのならやり方は任せる――ただし、これをつけていけ」

 

 

 シンクの頭の鉢巻きを外し、代わりにポケットから出した――ように見せかけて亜空間倉庫から取り出した――ヘイストの効果が付与された鉢巻をつけてやる。

 

 

「尊さん、これは?」

 

「お守りだ。けど、事が終わったら返してくれよ。大事なものだからな」

 

「分かりました。 それじゃあ行こう、姫様!」

 

「は、はい!」

 

 

 ミルヒを背中に乗せたシンクは覚えたばかりの輝力操作で脚力を大幅に強化させる。

 紋章と共にオレンジの炎が両足に宿ると今度は尊とサラが驚き、ルージュは部屋の窓を開けて進路を確保。

 

 

「それじゃあ尊さん、サラさん、エクレール。いってきます!」

 

「お、おう」

 

「気を付けてくださいね」

 

 

 返事を受けたシンクはたった数歩の助走で大きく跳躍し、オレンジの弾丸となってあっという間に砦の向こうへと消えていった。

 初めて見る輝力の使い方に度肝を抜かれたが、これで自分たちの出番はないと判断した二人は新しい顔ぶれに対して自己紹介をすることにした。

 

 

「とりあえずはじめまして、ガウル殿下。俺は流浪人の月崎 尊です」

 

「私はサラ。よろしくお願いしますね」

 

「ガウル・ガレット・デ・ロワだ。ガウルでいいぜ。 こっちがメイドのルージュで、あそこでノビてんのが親衛隊のジェノワーズだ」

 

 

 側に控えていたメイド――ルージュがお辞儀をし、ガウルの指の先の三人を一瞥すると尊は早速事の顛末を尋ねることにした。

 

 

「とりあえず殿下、今回のことについて、話を聞かせていただけますか?」

 

「タメ口で構わないぜ。 まあ、事の発端といや、本当にオレの我がままなんだけどよ」

 

 

 改めて話を聞き要約したところ、今回の戦はどうにかしてシンクと戦いたくなったガウルがジェノワーズにセッティングを頼んだものの、彼女たちはガウルの命令を第一にしてビスコッティ側の事情などお構いなしにこの砦まで連れてきたとのことだ。

 コンサートがあるというのならばガウルも今回は見送るつもりだったが、それを知ったのがシンクと戦っている真っ最中で事態は既に手遅れの状態にあった。

 つまり、ミルヒのコンサートがあるという情報がちゃんと彼に伝わっていれば、本来ならば回避できたはずの戦だったということだ。

 

 

「今回はどうにか間に合いそうだから良かったですが、最悪の場合、ガレットに対してビスコッティ側が強い反感を覚えるきっかけになりかねませんでしたね」

 

「そういわれちゃ耳がイテェが、アンタの言う通りだ。それに状況を考えなかったジェノワーズもそうだが、元をたどれば同じように軽い気持ちで命令したオレの責任だ」

 

「自覚しているならそれでいい。次からはもう少し考えて行動するようにな」

 

「ああ。 エクレールもすまねぇな、迷惑かけちまって」

 

「いえ。ところで、ミコト殿とサラ殿はこれからどうするおつもりですか?」

 

 

 その問いに尊はレオとの間で取り決めたガレットでの送還探しを口にする。

 この答えにエクレールはなるほどと感心し、ガウルは腕が立ちそうな尊と戦う機会ができたことに喜んだ。

 

 

「ガレットで何かめぼしいものがあれば、すぐにリコッタに連絡を入れさせてもらう。 それとガウル、君の姉さんについて話を聞きたいんだが、いいか?」

 

「おう。オレが答えられる範囲ならな」

 

「ありがとう。――レオ閣下は、ビスコッティに対してなにがしたいんだ?」

 

 

 尊はこの砦に来てから浮き彫りになったレオに関する疑問を尋ねる。

 何故他国のイベントを取り消す事態にしてまで戦興行の開催を推し進めるのか。そしてダルキアンと戦っていた時や先ほどすれ違いざまに感じられた妙な空気が引っ掛かり、どうにも腑に落ちなかった。

 

 

「さあな、オレもそこまでは分からねえ。確かに最近ではかなりのペースでビスコッティと戦が開催されてはいるが、本人はいつもの戦興行だと言い張ってる。一応筋は通ってるし、一般兵も楽しんでるからオレとしてはそれ以上追及できねえ」

 

「……なるほど。 ルージュさんは?」

 

「申し訳ありません。私の方もわかりかねます」

 

「真意はレオ閣下にしかわからない、ということか」

 

 

 有力な情報が得られず少し残念そうにつぶやいた尊だが、側で聞いていたサラは暫し思案に耽っていた。

 

――言い方を変えれば、家臣や弟にも話せない事情があるという可能性もありますが……さすがに考え過ぎでしょうか?

 

 

「――おっ!」

 

 

 唐突にガウルが声を上げると、部屋に置かれていた映像盤が光を発しフィリアンノ音楽ホールの映像が中継で映し出された。

 ステージの上には衣装を纏ったミルヒがマイクを握っており、一同は無事に事が終わったことに大きく安堵した。

 

 

「間に合ったようですね」

 

「いやー、よかったぜ。 で、いつまで狸寝入り決め込んでんだ? おまえら」

 

 

 ガウルの呼びかけに気絶しているはずのジェノワーズの体がビクッと震え、ダラダラと不自然な汗を流し始めた。

 

 

「……ばれてた?」

 

「ばれてましたねー」

 

「ガウ様、いつから気づいてたん?」

 

「姉上が帰ったあたりからだな。 今回のことのケジメは帰ってからつけるとして、今はおまえらも見ろよ」

 

 

 頭頂部に大きなコブをこさえたまま、ジェノワーズはガウルに促されて視線を映像盤に移す。

 映像盤の先ではミルヒが挨拶を終え、持ち歌の「きっと恋をしている」を歌い始めていた。

 彼女の歌唱力と元の世界のライブと遜色ない――輝力が存在する分こちらの方が上かもしれない――演出に尊は感嘆した。

 

 

「世界的に有名な歌い手と聞いていたけど、まさかこれほどとはな」

 

「そうでしょう。姫様ほどの歌い手は、このフロニャルドにおいてそうは――サラ殿?」

 

 

 エクレールが目を見開いたまま動かないサラを不審に思い声をかけるが、彼女の視線はライブに釘付けとなっていた。

 

 

「……すごいですね」

 

 

 彼女がいたジールにも歌はあったが、慎ましやかなものがほとんどでこれほど派手に、そして心を揺さぶることはなかった。

 その反動があったためか、それ以外の言葉が見当たらなかったのだろう。その一言に、彼女が感じたことの全てが集約されていた。

 そんなサラが初々しく、尊はいつか自分の世界のさまざまなものを見せてあげたいと心から思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 コンサートがあった翌日。

 シンクからヘイストの鉢巻きを回収した俺とサラはレオ閣下とともにガレット本国へと移動し、今はヴァンネット城にあるレオ閣下の執務室でこの国における自分たちの処遇などについて話を受けていた。

 

 

「――まずお主たちの扱いだが、ワシの権限でガレット領内において賓客として扱うことにした。サラ殿は言わずもがな、ミコトはその護衛ということにしてある。これに問題はあるか?」

 

「とんでもありません。十分すぎるくらいですよ」

 

「俺も賓客扱いになるっていうのは、少し予想外でしたがね」

 

「昨夜の戦における働きなどを加味した結果じゃ。遠慮などするでないぞ?」

 

 

 フッと笑みを浮かべ側に控えていたビオレさんに目をやると、彼女は小さく頷いて二つの袋を俺たちに差し出す。

 受け取ってみると金属の擦れ合う音が耳に届き、ずっしりとした重みが手にかかった。

 

 

「それはワシからの餞別じゃ。この国――いや、この世界で何をするにしても資金は必要であろう?」

 

「ごもっとも。何分、着の身着のままあの世界からきましたから」

 

 

 あの世界とはもちろん俺たちがやってきたクロノトリガーの世界のことだ。

 いずれあの世界には戻る必要があるため、帰還に必要不可欠なサテライトエッジのチャージがこの世界ではどれほど溜まるのかこの一晩で検証してみた。

 結果、クロノ世界では一晩で2割弱のチャージ率だったのに対して、驚くことにこのフロニャルドではたった一晩で5割近くチャージが完了していた。

 なぜこうなったのかは明確にはわかっていないが、あの世界と違って月が二つあったりフロニャ力の存在することが絡んでいるのではないかと俺は思っている。

 だとしたらこの先、月が二つあったりその世界特有の力がある世界に流れついたら似たようなことが起こり得る可能性が非常に高い。まあ、これについては要検証だな。

 それはさておき。閣下は戦後処理などが残っているため数日はゆっくり話ができないということで、その間に俺たちは送還の調査や紋章術の訓練をしようという話に落ち着いた。

 この後にもルージュさんたちヴァンネット城のメイドたちが城内を案内してくれるそうだ。

 

 

「――ふむ、今決めることはこれくらいかの。 他に何か質問はあるか?」

 

「……そうですね」

 

 

 俺は一瞬、昨日のミルヒオーレ姫に対する心境についてと、他国の行事を潰してまで戦興業を開催する理由について問うべきか迷った。

 要人誘拐奪還戦成立のときはあちらの姫を心底心配した様子だったにも拘らず、ダルキアン卿との戦いでは一転して侮蔑するように犬姫と断じた。そしてゴドウィン将軍とガウル殿下の話を統合して浮き彫りになったビスコッティとの断続的な戦興業。

 不可解なことについて尋ねるチャンスなのではと思ったが、絶対に教えてはくれないだろうという確信めいた予感があった。

 ここはもう少し様子を見るべきと判断し、一先ず別の話題に切り替える。

 

 

「質問ではありませんが、俺から一つ報告を」

 

「ほう、なんじゃ?」

 

「俺たちはこの世界に来るため特別な方法を使用しました。これは昨日お話ししましたね? そして俺の考えに間違いがなければ、俺たちはおそらく明日にでも元の世界に戻ることができます」

 

「戻れるのですか!?」

 

 

 驚くサラに頷いて見せると、今度は閣下が質問する。

 

 

「じゃが、お主らは元の世界で大災害に見舞われたからここに来たのであろう? 元の世界に戻ったとして、そこは人がまともに住める世界だと言い切れるのか?」

 

「ご安心を。俺の考えに間違いがなければ、その問題もクリアできます。まあ、シンクの問題が解決するまで戻る予定はありませんが」

 

 

 女神様は「一度訪れたことのある場所なら自分の意思一つで確実に移動できる」と言っていた。ということはだ、ことクロノ世界においては未来、原始、世界崩壊を除けば何処でも行けるということに他ならない。

 ただし現状戻ったとして、最果てと現代、そして古代にはまだ向かう予定がない。理由としてはいくつかあるが、まず原作組が今どう動いているのかわからないことが挙げられる。

 何せ古代崩壊のあとは黒鳥号に移るはずだが、俺がダルトンを洗脳したおかげでそこに至る可能性がほぼゼロに近いと推測されるからだ。

 ということは、それをすっ飛ばして魔王との会合イベントを経てクロノ復活イベントへ推移すると考えられる。

 確かチャートとしては最果てから情報を得て未来にある監視者のドームに移動、そこでさらに情報を得て現代でドッペル人形を確保して再び未来で死の山攻略という流れになったはずだ。

 どこかのタイミングで合流を図ってもいいのだが、はっきり言って今の俺が彼らに合流しても足手まといになる可能性が高い。

 まず俺自身のレベルが魔王との決戦以降ロクに上がっていないのだ。それに対してクロノたちは恐竜人との決戦、嘆きの山攻略、海底神殿攻略とレベル上げには事欠かない戦闘をこなしてきている。

 これらを統合すればHPだけでも俺の倍は確実にあり、他の能力も彼らと比べれば軒並み下回っているだろう。

 もし本気で彼らに合流するのであれば俺がレベルを上げる機会はこのフロニャルドか、中世にある巨人のツメをクロノたちより先に攻略するかしかない。

 彼らのことだからレベルが低い俺でも受け入れてくれるかもしれないが、俺が足を引っ張ってバッドエンドを迎えるなんて展開は絶対に嫌だ。ならばせめて、戦列に加わるときは胸を張って力になれると言えるくらいにはなっておきたい。

 

 

「ふむ……そのあたりももう少し詳しく聞きたいものじゃが、それはまた落ち着いたときにでも聞かせてもらおう。 ではルージュ、後は頼むぞ」

 

「はい。おまかせください」

 

 

 ビオレさんの反対にいたルージュさんが一礼し、俺たちは彼女に連れられ執務室を後にする。

 

 

「それではまず、このヴァンネット城のご案内をさせていただきますね」

 

 

 退室するとともに切り出された内容に俺たちは特に口出しせず、近くの練兵所から案内をしてもらうこととなった。




本編第20話、いかがでしたでしょうか?

プロット通りに進めば次回で現時点でのJumper -IN DOG DAYS-の最新話(14話)に相当するかと思います。
感想でもあちらの更新を望む声がありましたが、ここで書こうと思っている内容に近いものとなるので書きあぐねているのが現状です。
もしそれでもかまわないというのであれば感想、またはメッセージでお知らせください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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