Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

23 / 84
どうもこんにちわ、最近デレスタを始めた作者です。

さて、今回は急展開と小ネタ満載の22話となっています。
自分的にかなりの駄文なのでいずれ修正が加えられるかと思いますが、とりあえず今は話を進めることを優先します。というか早くグラナ砦攻防戦を書きたいです。

それはさておき本編第22話、どうぞご覧ください。


第22話「風雲急を告げる」

 川での魚獲りが大量に終わり、ユキカゼの案内で竹林の道を進んでいくとやがて古き良き日本家屋の建物が見えてきた。

 テレビで某アイドルが番組企画で作った母屋みたいだなどと思いながら敷地に入ると、着物を着た人たちが忙しそうに動き回っていた。

 そんな中、縁側でのんびりと湯呑を傾けているダルキアン卿を発見し挨拶に向かう。

 

 

「御館様ぁー。夕食のおかずを取ってまいりました」

 

「ご苦労でござる、ユキカゼ。 おお、大量でござるな」

 

「エクレや勇者殿が手伝ってくれたおかげにござる」

 

「そうでござったか。 ――二人とも、かたじけない」

 

「いえ、好きでやったことですから」

 

「それと、これは我々からの差し入れです。ダルキアン卿がお好きなアヤセのお酒もあります」

 

「おお! 『流刃若火』でござるな!」

 

 

 なんだ、その万象の一切を灰燼にしてしまいそうな名前の酒は。

 喜々として酒瓶を受け取るダルキアン卿を見ながら内心でそう突っ込んでみると、当の本人が酒を抱えたままこちらにやってきた。

 

 

「ミオン砦以来でござるな。改めて拙者はブリオッシュ・ダルキアン。ビスコッティ騎士団、隠密部隊頭領を任されているでござる」

 

「サラと言います。今はガレットでシンク君の送還の調査をさせてもらっています」

 

「月崎尊です。同じくガレットで送還の調査をしています」

 

「噂は聞き及んでござるよ。なんでもサラ殿は異世界の高貴な御仁で、ミコト殿は専属の護衛だとか?」

 

「まあ、その認識で間違いはないですね」

 

 

 実際サラは王女だから高貴な人間だし、俺はすべてを承知の上で彼女の運命を捻じ曲げて助けた以上、ラヴォスを倒すまでは守り通す責任がある。

 

 

「して、送還の調査はどのような具合でござるか?」

 

「ここに来る途中で情報を交換したのでありますが、今のところビスコッティの方が進んでいるでありますよ」

 

「ですがどちらも始まったばかりですので、送還の確立には至っていないのですが」

 

「仕方ないでござるよ。そもそも勇者召喚は一生に一度、お目にかかれるかどうかなもの……拙者も御館様と大陸中を渡り歩いていたでござるが、実際に見たのはこれが初めてにござる」

 

「そういえば、戦場でもそんなことが言われていましたね」

 

 

 なるほど。こうして聞けば聞くほど勇者という存在がいかに希少なのか理解させられると、長年にわたって送還についての資料が作られていないのかもわかる気がする。

 出来ればここで送還の手立てを確立させて、後世に伝えていけるようにしたいものだ。

 

 

「なに、いざとなれば永住すればいいでござるよ。あちらに戻ることはできなくとも、声を伝えることはできるらしいでござるし」

 

「うーん……だけど友達もいますから、やっぱり帰りたいですよ」

 

「まあ、帰るに越したことはないな。俺だって元の世界に家族はいるし、仕事だってあるからな」

 

「元の世界でのミコトさんのお仕事って、何ですか?」

 

「しがない警備員ですよ。娯楽施設や宿泊施設、あちこちに出向いて館内の見回りをする仕事です」

 

 

 ちなみに一番気に入っているのは結構クラスの高いホテルの警備だ。そこまでトラブルは起きないし、食堂の飯は安くてうまい。まあ、夜間のときは利用できないからカップ麺で済ましていたが。

 

 

「へぇ……あれ? でも今ここにいるってことは、尊さんそのお仕事にも出れていないんじゃ?」

 

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 …………………………。ブワッ!

 

 

「わっ! ミコト殿から滝のような汗が出てきたあります!?」

 

「だ、大丈夫ですかミコトさん!?」

 

「だだ、だ、大丈夫でござる、まだ慌てる問題はないであります……」

 

「慌てすぎて口調が既に大問題ですよ!?」

 

 

 エクレールが何やら指摘しているが、そんなものは頭に入ってこない。

 それよりもやばい……。シンクが言った通り、クロノ世界に流れ着いたあの日から今日まで仕事になんか出れるわけがない。

 そう考えるとあの日から今日までだと…………。

 

 

「…………一ヶ月ちょいの無断欠勤」

 

 

 詰んだ、どう足掻いても詰んだ。もしかしたら行方不明者として実家に連絡が入って捜査届が出されているかもしれないが、職場復帰は絶望的だろう。

 

 

「け、けど尊さんは僕と違って元の世界に帰れる方法がはっきりしてるじゃないですか! 諦めるのはまだ早いですよ!」

 

「甘いな、シンク……。仮にまだ在籍扱いだとしても、元の世界に戻れるのがいつになるのか分からないというのは致命的だ。少なくとも今日明日に戻れることは絶対にあり得ないし、もしかしたら一年じゃすまない可能性もある」

 

 

 そもそもだ、よしんばクロノたちと合流してラヴォスに辿り着いたとしても確実に生きて帰れるかわからないのだ。

 UG細胞改のおかげで早々死ぬことはないだろうし、ゲームと同じパターンしか攻撃してこないのなら何とかなりそうだが、クロノみたいなやられ方をしたら終わりだろう。

 

 

「だ、だったら僕のことよりも自分を優先して――」

 

「いや、流石にそれは出来ない。ここまで来たら俺はもうどうにもならないが、シンクはまだ問題なく戻れるかもしれないんだ。絶望的な大人の事情で希望のある子どもの可能性を潰すのは俺としても嫌だから、協力は継続させてもらう」

 

「で、でも……」

 

 

 まだ何か言いたそうにするシンクだが、俺はこれ以上言わせないように言葉をかぶせる。

 

 

「どうしても心配してくれるんだったら、まずはお前が心配されなくても大丈夫な状態になってくれ。そうしたら俺もきっと元の世界に帰れるって気持ちになるからな」

 

「……わかりました。大したことはできないと思うけど、頑張ります!」

 

 

 まだ完全には納得していないのだろうが、そういってシンクは頷いてくれた。俺もこう言わせた以上出来ることは何でもしていかないとな。

 

 

「ところで、ミコト殿が元の世界に戻るためには何が必要なのですか? 一年近くかかるかもしれないということは、相当厄介な問題があるのですか?」

 

 

 こちらを見て一区切りついたのであろうと判断したエクレールが、先ほどの会話で気になったことを口にする。

 

 

「厄介な問題……というのに間違いはないな。俺の条件はサラ様の世界にいる特定の敵を倒さない限り、元の世界に戻ることができないんだ。その世界には向かおうと思えばすぐにでも行けるが、それはさっきも言ったようにシンクの問題を解決してからだ」

 

「特定の敵、というものに目星はついているのでござるか?」

 

「ああ。だがそれを倒すためにも、まずは力をつける必要がある。今のままじゃ、とてもじゃないが無理だからな」

 

「――なら、拙者が協力するでござるよ」

 

 

 今まで黙っていたダルキアン卿から声が上がったかと思うと、彼女は木刀を手に小さく笑みを浮かべていた。

 その様子を見て、サラとシンクを除いた三人が驚きの声を上げる。

 

 

「お、御館様自らご指導でございますか!?」

 

「う、羨ましい……!」

 

「すごいであります!」

 

 

 確かダルキアン卿はレオ閣下と同等かそれ以上の実力者なんだよな。

 そんな人物が直々に稽古をつけてくれる。そう考えるとエクレールのような騎士たちからすれば羨望の的なのだろう。

 しかしこれはチャンスだ。ガウル殿下にも一発入れることができない俺が彼女を倒すことなどできはしないだろうが、それでも得られるものがあるはずだ。

 ならばこの機会、存分に活用させていただこう。

 

 

「お手柔らかに頼みますよ、ダルキアン卿」

 

 

 

 

 

 

 日が暮れる前にヴァンネット城に戻った尊とサラは、リコッタから得られた送還の情報を報告すべく早々にレオの元へ向かった。

 

 

「――なるほど。やはり発明王がおるとおらんでは調査の具合は段違いだな」

 

「おそらくあちらの方が先に送還の手がかりを見つけられるかと思いますが、こちらにしかない情報があるかもしれませんので調査はこのまま進めるつもりです」

 

「うむ、また何か進展があれば報告していただきたい」

 

 

 サラの報告を受け満足げに頷き、レオは執務机にあった最後の書類を片付けると背伸びをして立ちあがる。

 

 

「さて、お主ら二人はこの後時間はあるか?」

 

「大丈夫です」

 

「俺も問題はありません」

 

「ならば丁度良い。夕食の時間までお主たちの話が聞きたい。先の戦からしばらくバタバタして時間が取れなかったからのぅ」

 

 

 その言葉で二人はこの世界に来た初日のことを思い出し、喜んでと場所をテラスに移した。

 メイドたちが用意したお茶とお菓子をつまみながら、まず尊がシンクに話したことと同じ内容を語った。一方サラは一部を伏せてジールの話をしたものの、レオは天の民と地の民の格差に怒りを露にした。

 しかし大災害があった以上、生き残ってさえいれば二つの民は協力して生活をすることを余儀なくされるだろうという尊の言葉に納得するといった面も見せた。

 そこからはこのフロニャルドに来てからの話になり、尊はガウルやダルキアンに教えてもらった紋章術について。サラはルージュとの会話で得たお茶の話題について語り、二人の様子からレオは二人が自分の国やこのフロニャルドを気に入ってくれて何よりだと笑みを浮かべた。

 

 

「――ところで、ミコトは今日ダルキアンからどのようなことを教えてもらったのだ?」

 

「そうですね……。簡単な手合わせと、紋章術の応用の輝力武装について教えてもらいましたね」

 

 

 輝力武装とは紋章術を応用した技術のひとつで、明確なイメージがあれば輝力の消費に応じて様々な形に具現化させることができるものだ。

 例を上げるとミオン砦の戦いにおいてガウルが輝力を解放し、獅子王爪牙という輝力を自身の腕や足に纏わせることでエネルギーで出来た鋭い爪を生み出してシンクと戦い、シンクはコンサート会場に向かう途中でトルネイダーというフライングボードを作り出した。

 しかし輝力武装を展開すると輝力が垂れ流し状態となり、大がかりなものを使い続ければすぐに体力を使い切ってしまうという面もある。

 これを聞いた尊は輝力と体力が続く限り大概のものが作れると解釈し、試しに自身が知る様々なものを再現しようとしたがそもそも輝力の生成自体がまだ不安定なためそこまでには至らなかった。

 一方、サラは海底神殿でマールが使用していたソニックアローを輝力で再現していたという。最も再現したのは形だけで、相手をスロウ状態にするという効果は持ち合せていなかったのだが。

 なお余談であるが、手合わせの際に完膚なきまでにあしらわれてガウルの時以上に疲労していたりする。

 

 

「ちなみに、ミコトはどのような輝力武装を作ろうとしたのじゃ?」

 

「んー、いろいろですね。伝説の剣(マスターソード)のレプリカや射撃もできる剣(GNソード)、大きなものでは88ミリ高射砲(アハトアハト)戦闘用バイク(フェンリル)といったところですか」

 

「後半はさっぱりわからんが、かなりふざけたものを作ろうとしたのは分かった」

 

「むしろわかったらこっちが驚きですね」

 

 

 何せ半分以上は元の世界の空想のものだ。もしシンクの地球に同じものがあれば彼も一部はわかるかもしれないが、それでもナチスの大砲の代名詞は知らないだろうと尊は断言できる。

 ちなみに先ほどレオに行ったもののほかに実は尊、調子に乗って1/1ネオ・ジオングも作ろうとも考えていたりする。

 それはさておき。

 そうこうしているうちに日が半分近く沈み始めており、城や町から人工的な明かりが灯り始めていた。

 

 

「む、もうこんな時間か。すまないが、続きはまた今度頼む」

 

「わかりました。それでは、私はもう少し送還について調べてきます」

 

「あ、俺も行きます」

 

「承知した。引き続き、調査を頼む」

 

 

 その一言でその場はお開きとなり、尊とサラはそろって図書館へと向かった。

 二人の姿が見えなくなったのを確認し、レオは椅子に座りながらふぅっと溜息を吐く。

 

 

「……あの二人をワシの問題に巻き込むわけにはいかん。なんとしても、気づかれぬうちに未来を回避せねば」

 

 

 誰にも聞かれないテラスで一人、レオは決意を秘めてそうつぶやくと控えていたメイドに後片付けを命じて自室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「……いったい何だって言うんだ、こいつは」

 

 

 図書館で送還について調べている最中にふと自分の現在のレベルなどが気になってステータスを開いてみると、何やら端の方に文字が浮かんでいた。

 

 ability update.

 

 意訳すれば能力を更新中ということなのだが、いったい何時から起動していて、何の能力が作用しているのか全く見当がつかない。

 ステータスを隅々まで確認してみたが、変動していないレベルのほかには変化が見られなかった。

 

 

「……まあ、いいか」

 

 

 現状で何が更新されているのかはわからないが、いつか終わるときが来るはずだ。どんな能力が更新されるかは、その時までのお楽しみにしておこう。

 ステータスから意識を外し、再び書架の本を指でなぞって勇者召喚に関連する書籍を探す。

 今更新されているって能力、あらゆる言語を日本語に変換する能力とかだったらいいのにな。そうしたらこうやって一文字ずつ確認して探すなんて手間をかけることもないし。

 

 

「すみません、ミコトさん。この本を上の棚に戻していただけますか?」

 

「あ、了解です」

 

 

 調査を終えた本を持ってきたサラの頼みを受け、数冊の本をもらうと空いているスペースに押し込む。

 

 

ガシャァァンッ!

 

 

「きゃあっ!」

 

「うおっ!? なんだ!?」

 

 

 突如、花瓶を落としたような破砕音が聞こえ背中がビクッと震える。

 なんだ、本棚の向こうに陶器でもあったのか? ――いや、これは普通の本棚で奥は壁しかない。

 そう考えると、割れた音は別のところということになる。

 

 

「……今の音、廊下から聞こえませんでしたか?」

 

「……みたいですね。ちょっと見に行ってきます」

 

「私も行きます。怪我をされていたら大変ですから」

 

 

 結局、二人で音の原因を突き止めるべく図書館を後にした。

 それにしても音がしたのは同じフロアのようだが、いったいどこだ?

 

 

 

 

 

 

 花が活けてあった陶器を床に叩き付けたレオは悔しそうに天井を仰いだ。

 

 

「何故じゃ……何故それほど強くないワシの星詠みで、このような未来がはっきり見える……」

 

 

 星詠み。このフロニャルドにおける紋章術の一種であり、遠く離れた場所の様子や探し物がどこにあるかなどを見ることができ、人によっては未来視まで行うことができるものである。最も、未来視に関しては少し先のわずかな瞬間しか見れないのだが。

 そしてミルヒがシンクを勇者として選んだのはこの星詠みで彼が出場したアイアンアスレチックの様子を眺め、その時のシンクの姿に心を打たれたのがきっかけとなっている。ただしシンク本人はその試合で負けているため複雑な心境に陥ったが、それはまた別の話。

 閑話休題。

 レオの前には複数の映像盤が設置されており、その映像すべてに彼女にとって最も受け入れがたい未来が映し出されていた

 

 

 

 聖剣『エクセリード』の主 ミルヒオーレ姫、神剣『パラディオン』の主 勇者シンク、30日以内に確実に死亡。

 この映像の未来はいかなることがあっても揺るがない。

 

 

 

「ミルヒだけでなく勇者まで死ぬ……。星の定めた未来かは知らぬが、かような出来事なにがなんでも起こしてたまるもの――「その話、もう少し聞かせてもらえますか?」――っ!」

 

 

 突然投げかけられた声に振り向くと、鋭い目つきをした尊と真剣な面持ちのサラがいた。

 

 

「……見られてしもうたか。じゃが、何故ここに来た?」

 

「原因はそれです」

 

 

 サラが指差したのは先ほどレオが叩き割った花瓶だ。その音を聞きつけたのだとレオは納得し、腹を括った。

 

 

「お主たち、星詠みというものを聞いたことは?」

 

「ありません。ですがそれを見る限りでは、占いの一種のようですね」

 

 

 レオの隣までやってきた尊はその映像盤の文字を読み、すべてを理解した。

 

 

「これが原因ですか? ミルヒオーレ姫のコンサートを潰してまでビスコッティにゴリ押しで戦を仕掛け続けたのは」

 

「ああ。それが未来を変えるきっかけになればと思ったのじゃが、結果はこのありさまじゃ」

 

 

 自嘲気味に話すレオを見て、尊とサラは少し意外そうな顔をする。

 彼女の性格からして、占いから得られる情報は関係ないと切り捨てると思っていたからだ。

 

 

「じゃが、以前と違ってはっきりとわかったことがある。この星詠みによれば、死ぬのはビスコッティの宝剣の持ち主であるということじゃ。ならばその宝剣を確保すれば、この未来も変わるはずじゃ」

 

「そこまでわかっているのでしたら、ミルヒオーレ姫に全てを話して宝剣を預かろうとは思わなかったのですか? 事情が分かれば、きっと彼女もわかって――」

 

「最初に見えた時からミルヒの身を案じてアメリタや騎士団長に助言や提案をしたが、すればするほど悪い未来がはっきりと映ったのじゃ! 今更そのようなことをすれば、どうなるかわかったものではないわ!」

 

 

 今まで溜め込んでいたものを吐き出すようにレオは叫ぶ。その言葉にレオがどれだけ彼女を大切に思い、そして救おうと必死になっているのか二人には十分すぎるほど伝わった。

 

 

「――だったらせめて、もう少し情報を集められませんか?」

 

「どういうことじゃ」

 

「この未来には何によって二人が死ぬかという直接的な原因が記されていません。この星詠みとやらでは結果しか出ていませんが、原因を突き止めてそれを元から排除できれば……」

 

 

 原因を知っていたからこそ、尊は行方不明になるはずだったサラを助けることができた。

 彼の言わんとすることをレオも理解したが、それでも彼女は首を振る。

 

 

「それがわかれば苦労はせん。何度やっても、肝心の原因は浮かんでこんのじゃ」

 

「ということは、四六時中二人を監視するかカギとなる宝剣をどうにかするしかないということですか」

 

「監視で済めばよいのじゃが、それが裏目に出てさらに悪い方へと動いては本末転倒。だからこそ、ワシは宝剣を抑えるべきだと判断した」

 

「……現状ではそれしか策がない、ということか」

 

「そういうことじゃ。そしてワシは次の戦に確実に勝利すべく、ガレットの切り札を使用する」

 

 

 忌々しそうに舌打ちをする尊にそう返しながら、レオは隣の部屋へと移動する。

 二人もつられて移動をすると、そこには一目で普通のものではないとわかるバトルアックスが鎮座していた。

 

 

「このガレットの宝剣。魔戦斧グランヴェールとワシがおれば、覆せぬものなどなにもない!」

 

 

 レオの言葉に応えるかのように、グランヴェールが力強いオーラを発する。

 そのオーラだけで確かにこれが宝剣たる力の一端であり、ここへ戦場で無類の強さを見せつけたレオの力があれば確かに強力だろうと尊は分析した。

 

――レオ閣下の行動を止めてシンクたちが命を落としては意味がない。遠回しに宝剣を預からせてほしいと言っても、渡してもらえることは決してないだろう。

 

 伊達に図書館で調べ物をしていない二人は宝剣が国の象徴であり、安易に貸し借りをできる代物でないことも知っていた。

 そうなれば使える手が限られてくるのは目に見えており、それを打破するためにも更なる協力者が必要だ。

 

 

「レオ閣下、これを知っているのはあなただけですか?」

 

「ワシしかおらん。下手に広まっては混乱を招き、これ以上に酷い未来が見えるかもしれんかったからな」

 

「だったらまずは、信頼できる人物を絞り込んでこのことを教えましょう」

 

「なんじゃと?」

 

 

 自分が言ったことを承知の上での発言であろうが、尊の提案にレオは思わず聞き返す。

 映像盤を一睨みし、尊は口を開く。

 

 

「こんなふざけた未来、認められないのは閣下だけではないですからね。策を練るためにも、事情を知る者を引き入れる必要があります」

 

「だから信頼できる人物を、ということか」

 

「三人寄れば文殊の知恵という言葉があります。一人であれこれ考えるよりも、信頼できる従者や腹心に協力を求めるのも必要かと。無論、俺も協力させていただきますよ」

 

「私もです。自分では考え付かないことでも、他の方がいればきっと糸口が見えるはずですから」

 

「……わかった。そこまで言うのであればバナードとビオレ、ルージュをここに呼ぼう。暫し待ってくれ」

 

 

 少し心が軽くなったのを感じながらレオは近くの通信機を手に取り、三人に連絡を取り始めた。

 

 

 

 そしてこのやり取りからおよそ12時間後、ガレット獅子団領よりビスコッティ共和国への宣戦布告が発令されることとなる。




本編第22話、いかがでしたでしょうか?

輝力武装にwktkだった尊君ですが、輝力が不安定だったため実現には至りませんでした。
ちなみに今回挙げたものが輝力武装で作られることは(ほぼ)ないです。
次回でDOG DAYS一期の大一番に入るかと思います。
急展開をご用意していますので、どうかお楽しみにしてください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。