ゴリ押しながらもどうにか最新話を仕上げることができました。
長々と書くこともないので早速ですが本編第23話をご覧ください。
「姉上! ありゃ一体どういうことだ!?」
謁見の間の扉を乱暴に開け放ったガウルは、開口一番に姉であるレオに問いただす。
「どうもなにも、我らガレットとビスコッティの次の戦について、犬姫に宣戦布告しただけだが?」
「んなことわかってら! 俺が言いてぇのはそっちじゃねえ、宝剣についてだ!」
今回、レオがビスコッティに宣戦布告を行うにあたって提示した条件の中には懸賞として国が保有する宝剣を賭けるという項目があった。
国の象徴たる宝剣を賭けた戦。それはすなわち、敗北すれば国を差し出すと言うことに等しい内容だ。
かつて宝剣を友好の証として一時的に預けたりすることもあったため、国民からすれば今回もそれと同じようなものだろうと判断した者がほとんどだった。しかしガウルは宝剣を賭けてまで戦を行おうとする姉の姿勢に疑問を抱かずにはいられず、こうして尋ねに来たのだ。
「こっちが宝剣を出すなら、向こうもそれに見合うものを出すために宝剣を賭けるしかねえ。けどよ、そうまでして行わなきゃならねえ戦なのか!?」
「これは領主の決定じゃ。それに報道陣を通じて両国国民に大々的に発表した以上、戦が避けられないものだというのはおまえも理解しているはずだ」
その指摘にガウルは詰まる。
レオの言う通り、国民や商工会の大半は既に大きな戦を利用して大儲けしようと考えていた。今更宣戦布告を取りやめるなど報道すれば、それは国の威厳や信頼に大きな影響を及ぼすこととなる。
まだ領主として未熟なガウルでもそれぐらいのことは分かるが、それでも納得できないことの方が大きかった。
「ワシはこれから商工会の者たちと会合がある。おまえは好きに動いて構わんが、ワシの邪魔だけはするでないぞ」
「……そうかよ」
苛立ちを隠そうともせずガウルは踵を返し、謁見の間から退室する。
その様子を見ていたバナードは、こうなることがわかっていたように溜息を一つ漏らした。
「やはり、殿下はご納得されませんでしたね」
「当然じゃ。事情を知らねば、ワシもああなっていただろう」
この戦の真意を知る者はこの場にいる二人のほかに、ビオレ、ルージュ、尊、サラの六名だけである。
昨夜、突然レオから語られた星詠みの内容に驚きを隠せなかったビオレたちだが、最悪の未来を回避するためであらばと協力するようになった。
宝剣を回収するのに具体的な口実をバナードが立案し、細かな策と編成を尊とサラも交えて決定した。
あとはビスコッティ側がこの宣戦布告を了承すれば戦が成立し、決戦のときにシンクとミルヒオーレから宝剣を奪取、もしくは正々堂々と勝利して宝剣を獲得できれば未来が変わるはずである。
しかし宝剣の入手に関しては前者も後者も問題があるのだ。
まず前者に関してシンクの相手をするのは生半可な実力を持つ者では対応できず、戦力的に割り当てられるのが非常に限られてくる。特に実力の近しいガウルは今回の戦に否定的で、好きに動いて言いといった以上レオの指示に従うことはない。
さらにシンクにはほぼ間違いなくエクレールも随伴するため、投入する戦力はガウルとジェノワーズに匹敵するほどの戦力が必要になる。レオとしてはゴドウィンに指揮を取らせたいところであるが、彼も今回の戦には納得がいっていないためガウルと行動することになるだろう。
続いて宝剣の片割れを所持するミルヒオーレの方がどうかとなるが、こちらは難易度がさらに上昇する。何せ相手はほぼ間違いなく最後尾に本陣を構えるのだから、総大将としても非力な彼女がわざわざ出向くことなど普通に考えてあり得ない。
ならば戦闘中での宝剣確保を諦め、後者の案である戦術的勝利による宝剣の確保だとどうなるか。
少し前の戦ならば、こちらの案でも問題はなかった。しかし現在のビスコッティには、一人で一軍に匹敵する戦力を持った戦士がいる。
ブリオッシュ・ダルキアン。
彼女が少し本気を出せば軽くジェノワーズ4組分の戦力を誇り、さらに直々の部隊の筆頭戦力ユキカゼ・パネトーネの戦力も相成って、両国のパワーバランスは五分に持ち込まれてしまった。
これらを踏まえた上で、レオは前者の案を実行しつつ勝利条件を満たすように部隊を展開させるという方向で戦略を固めた。
しかしこれらの案もビスコッティ側が宣戦布告を断れば成立しないのだが、それをさせないためにレオは国民たちに向けて大々的にアピールをしたのだ。
ガレットが宣戦布告を取り止めればそれはガレットに大きな不利益をもたらせるが、ビスコッティが宣戦布告を受けなければ今度はビスコッティに不利益が発生する。
つまりビスコッティ側からすれば、レオが宣戦布告をした時点で戦を受けるしか道が残されていなかったのだ。
「ミコトの話によれば勇者の送還までおよそ十日ほど。ワシの読みが正しければ、早ければ明後日にでも戦が行われるだろう」
「兵や物資の準備は明日の早朝にも完了します。ご命令があれば、本日中にも先発隊を出発させることが可能です」
「うむ。 この戦、決して落とすわけにはいかぬ。そなたたちの働きに期待するぞ」
バナードの言葉に頷いて見せると、レオは玉座から立ち上がり次のスケジュール先へと向かった。
◇
レオ閣下の宣戦布告から数時間後。ビスコッティ国営放送がミルヒオーレ姫の発表を自国とガレットに向けて配信した。
内容はガレットの宣戦布告を受諾し、二つの宝剣を賭けて勝負するというものだ。
簡潔に述べればこれだけのことだが、放送越しからでも彼女の明確な勝利に対する意志の強さと、彼女に勝利をもたらそうとする騎士や国民の熱気がはっきりと伝わった。
ともあれ、これで予定通りガレットとビスコッティの対戦カードが組まれたわけだ。正直ここまでは予定通りだが、問題は次の戦そのものといっても過言ではない。
シンクとミルヒオーレ姫から宝剣を奪うか、真っ向から勝負して勝ち星をもぎ取るかがこの戦最大の焦点となるが、どちらをとっても難易度は非常に高い。
昨日レオ閣下が決めた方針では宝剣を奪うように行動しつつポイントを稼いで勝利するということになったものの、ガウルやジェノワーズなどがこちらの指示通りに動いてくれそうにないことを加味するとかなり不安定な戦運びになるだろう。
一般兵の数と質はガレットがまだ優勢なので、こっちの活躍にも一応期待しておくか。
さて、そんな風に次の戦について考えていた俺だが、今日も今日とて練兵所で戦闘と輝力の訓練に明け暮れていた。
戦いに関してはガレットの騎士たちより強くはなったが、将軍たちにはまだ及ばないくらいまで力をつけた。輝力に関しては初めて扱い始めたころに比べたらだいぶ思い通りに使いこなせるようになってきたと思うが、未だに輝力武装の顕現がうまくいかない。成功したと思っても、ものの数秒で霧散してしまうのだ。
イメージの構築はばっちりなんだが、ゴドウィン将軍によれば輝力の練りがまだ甘いらしい。
しかし使い始めてから数日でこれだけできるなら、それもすぐに解決するだろうとの言葉ももらったのでモチベーション的には余裕がある。
だがやはりずっと訓練していて疲れたのもまた事実なわけで、本日何度目かの輝力武装の消滅で俺は体力の限界を迎えて近くの水場に移動する羽目になった。
「調子はどう、お兄さん?」
手酌で水を喉に送っていると横からタオルが現れ、その先ではタオルを手にして腕を伸ばすノワールとベールがいた。
「ありがとう」と礼を述べてノワールからタオルを受け取り、端を少し濡らしてから顔を拭きあげる。
「将軍からはまだまだだって言われてるけど、手ごたえは感じてるってところだな」
「じゃあ、送還の方はどうですか?」
「そっちに関しては俺よりサラ様の方が理解していると思うぞ。一応、夜に成果の確認はしているけど、最新の状態なら彼女の方がずっと詳しい」
何せ今の俺はクロノ世界に戻った時の戦いも見据えて訓練しなければならないから、送還の調査に参加できるのはどうしても練兵所が暗くなって使えなくなる夕方以降になってしまう。
まあ、おかげでここに来た当初よりマシな戦い方をできるようになったわけなんだが。
「ところで、今日はジョーヌは一緒じゃないのか?」
「ジョーヌはガウ様と一緒にビスコッティの勇者に会いに行っています」
「朝に出て行ったからもうすぐ帰ってくると思うけど、それがどうかした?」
「いや、いつも三人一緒のお前たちが別行動をしているのが珍しくてな」
それにしても、ガウルがシンクにか。二人ともどこか似ているから、ライバルとして何か忠告とかをしに行ったのかもしれないな。
別に止めるつもりはないし、閣下が宣戦布告した時点で向こうは警戒しまくっているはずだから戦に大きな影響もないだろう。
むしろ警戒しすぎて疑心暗鬼になったり墓穴掘ってくれればこっちとしてはありがたい。
「ところでミコトさん、今回の戦についてレオ様から何か聞いてませんか?」
「いや、俺も今朝初めて知った。それに俺とサラ様の最優先事項は勇者を送還させるための情報収集だからな。戦絡みでレオ閣下に何か聞けるとも思っていない」
「うーん、お兄さんならレオ様から口止めされていても軽そうだからイケると思ったのに」
「おい、そりゃどういう意味だ」
確かに情報は持ってるが、そこまで軽い口は持ち合わせていないぞ。
「それはそうとお兄さん。前から気になってたんだけど、お兄さんとサラ様ってどういう関係なの?」
「あ、それ私も気になります。レオ様からはミコトさんがサラ様の護衛だってことしか聞いてないけど、それ以外に何かあります?」
俺とサラが別の世界の人間だというのはガレット、ビスコッティ両国の幹部クラスには既に周知の事実となっているが、どうやらこの娘っ子たちは恋バナ的な話題を求めているようだな。
「それ以外も何も、俺はサラ様の護衛だ。それ以上でも以下でもない」
「けどサラ様、ミコトさんの話をするとき楽しそうに話してくれますよ」
「これはつまり、王女と護衛騎士の禁断の恋の足掛かりに他ならない」
「どの辺が禁断の恋なんだかわからんし、足掛かりにもならないからな」
そっけなく答えるが、内心で俺はベールの言葉に少しだけ嬉しいと感じることがあった。
サラが楽しそうにしている。
そのことが俺のやったことは間違いではないと認識させ、この先も彼女を守り通すためにもっと力をつけなければと改めて確認させられたのだった。
◇
ビスコッティが宣戦布告を受け、ガレットとの協議に基づいて開催日が決定すると各々準備や部隊の割り振りで時間はあっという間に流れていった。
宣戦布告から二日後の早朝。遠征戦となった今回の戦は近年類を見ない参加人数が集まったため、朝早くから騎士団を先頭に戦場である国境付近へと軍を進めることとなった。
戦の内容はビスコッティ側がスリーズ砦から、ガレットがグラナ砦から軍をすすめ、本陣を陥落させるか時間いっぱいまでポイントを稼いだ方が勝利するというルールだ。
戦場の広さ、参加人数、そして報奨金のすべてが大規模な今回の戦に兵士たちのボルテージはすでに最高潮を迎えつつあった。
そんな中、尊とサラは移動の招集がかかるぎりぎりまで図書館にこもって送還の調査を継続していた。
「ミコトさん、徹夜をしたみたいですけど大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。けど元の世界では夜勤なんて当たり前でしたし、これくらいなら問題ありませんよ。それに仮眠もしましたし」
積み上げられた本に囲まれながらそう返事をする尊だが、それでもサラは本当に大丈夫なのかと彼の身を気遣う。
――とは言っても、時間的にこれ以上は厳しいか。
時計に目をやれば既に7時を回っており、レオから聞いた進軍開始までもう間もなくまで迫っていた。
「そろそろ行きますか。続きは全部終わってから――げっ」
立ち上がった尊だが、その際に腕が本の塔にぶつかってしまい何冊かの本がバサバサと床に落下する。
これを見てサラも慌てて拾いはじめ、尊もそれに加わる。
「やっぱり疲れてませんか?」
「……かもしれませんね。行軍のときにどこかの荷台でひと眠りでもさせてもらいます」
苦笑いを浮かべながら本をまとめ、最後の一冊を手に取ると本の隙間から何かがひらりと零れ落ちる。
それに気づいたサラが拾い上げると、そこにある蝋印と書かれた文字に目を見開く。
「ミコトさん、これを見てください」
そこにはビスコッティの紋章が施された蝋印と、「王立研究院宛 勇者召喚について」と記されていた。
本編第23話、いかがでしたでしょうか?
次回から本格的に一期最後の戦となります。
予定では実に3話後にオリジナル設定の猛威によって原作乖離となりますが、楽しんでいただければ幸いです。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。