Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんにちわ、この作品にシンフォギアをぶち込もうか悩んだ挙句、これ以上は尊君がエグイことになりそうだと判断して導入を見送ることにした作者です。

さて、ここから原作のDOG DAYSから大きく離れた展開となります。いわゆる原作崩壊です。
「のほほんまったりな犬日々になんてものをぶち込みやがったこの作者!」と思われてもおかしくありませんが、作者の頭に沸いた妄想は常に原作を破壊し回っております。ご了承ください。

それでは本編第27話、どうぞご覧ください。


第27話「厄災の種」

「……ん、ぅん」

 

 

 ミルヒが岩の上で目を覚ますと、視界に赤い雷が荒れ狂う暗い空と焼け焦げた大地が広がっていた。

 緑は僅かにしかなく、焼けた木が点々とあるだけで、まるで強大な何かによって滅んでしまったかのような世界だった。

 

 

「こ、ここは……」

 

『姫君』

 

 

 不意に後ろから声が上がり、振り返ってみれば八つの尾を持つ白い狐が現れた。

 黄色の文様と羽衣のようなものが高潔な印象を与え、ただの狐ではないことを雄弁に語っていた。

 

 

『聖剣の姫君』

 

「は、はいっ!」

 

 

 今までにない呼ばれ方に思わず緊張して返事をすると、狐は(こうべ)を垂れて謝罪する。

 

 

『申し訳ありません。我が子があなた方に、酷いことをしてしまいました……』

 

 

 

 

 

 

「邪魔だ!」

 

 

 目の前に機雷の如く浮遊する無数の岩をベースジャバーの砲門で薙ぎ払う。原作同様、射角が左右にしか存在しないので基本的に正面の物に対してしか効力を発揮しない。

 上昇や下降、旋回などで回避するという手もあるが、今は一秒でも時間が惜しいので、消し飛ばせるものはどんどん排除していく。

 シンクとエクレールは俺にやや遅れ気味だがしっかりとついてきており、この調子なら問題なく追いつくだろう。

 ……いや、下手をすれば先に行かれるかもしれないな。

 

 

「空を飛んで迫る俺が、最も脅威に見えるんだろうな」

 

 

 目の前から迫るのは魔物の周りに漂う狐の怨念のようなもの。

 それが群れを成して迫り、俺の行く手を阻もうとする。

 岩を排除したように砲門から攻撃を仕掛けるが、こちらの射角を把握しているのか上下に分かれて回避し、群れの被害を最小限にして突っ込んでくる。

 

 

「なら、こいつはどうだ!」

 

 

 グリップに足を引っかけサテライトエッジをボウにして召喚し、紋章を発動させながら矢を引き絞り一気に解放。

 飛翔した矢は途中で細かく分裂し、散弾の如く広がると怨念の逃げ場を塞いで次々と撃墜した。

 碌に輝力を溜めていないから一発一発の威力はそれほど強くないが、怨念を撃破するには十分だったようだ。しっかりチャージして解放すれば、戦でも十二分に効果を発揮するだろう。

 ただ紋章術である以上、クロノ世界で使用してもモンスターを撃破することはできないはずだからフロニャルド限定の技になりそうだ。

 

 

「とりあえず、『ブレイクショット』とでも名付けるか。 さあ、片っ端から撃ち落としてやるぞ!」

 

 

 再び輝力を込めながら矢を番え、密集している怨念に向けて放つ。

 道が開いたところで一気に加速し、怨念の群れを抜ける。すると第二陣が多方向から殺到し、さっきのようにまとめて撃ち落としにくい攻め方をしてきた。

 学習しているのか? だとしたら長期戦になると物量に押されて不利になるな。

 

 

「一気に駆け抜けるか! 『加速』!」

 

 

 精神コマンドを使用した瞬間、爆発的な加速でベースジャバーが包囲網を突破。追撃されるのも面倒なので無理やりベースジャバーを旋回させ、俺という標的を失い密集する形になった怨念へ再度『ブレイクショット』を叩き込む。

 怨念が根こそぎ撃破されたのを見届け、進路を修正して魔物に向ける。

 すぐに取り付ける距離にまで迫り、行き掛けの駄賃に底面の砲門で怨念を倒し着地点を確保。ベースジャバーを消滅させ、滑りながらその図体にたどり着く。

 すると真後ろからガガガッと何かを擦るような音が上がり、頭から血を流したシンクがトルネイダーから降り立った。

 

 

「シンク! エクレールはどうした!?」

 

「僕をここに届かせるために、途中で飛び降りました! さっさと行けって、送り出してくれた!」

 

「……了解だ! 行くぞ! 二人はもう目の前だ!」

 

 

 『ケアル』でシンクの傷を癒し、ハルバードを構えて突撃する。

 目標点は、ひときわ厚い怨念の壁の向こうにある球体。

 

 

「「道を……開けろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 

 

 

 

 

 

 全てが闇に染まった世界の中、サラは浮いているのか立っているのかもわからない感覚を感じながらそこにいた。

 なにもない無の空間。光もなく、体の芯から凍えるような寒気が全身に纏わりつき、思わず体を抱きすくめる。

 

 

「ここは、いったい……」

 

『ソノ気配……我ガ本体ノ……』

 

 

 サラの目の前で、巨大な目がギョロッと見開かれた。

 

 

 

 

 

 

「殺到するなら女の子の方がいいんだがなぁ! 畜生! 同じ怨念でもナイトゴーストのおんねんはここまで鬱陶しくはなかったぞ!」

 

 

 苛立ちからついつい余計なことを口走ってしまう尊。

 順調かと思えた最後の突撃だが、よほど彼らを先に進ませたくないのか、辺りにいた怨念すべてが神風特攻隊の如く殺到してきたのだ。

 さらに危険度としては尊の方が上らしく、怨念が集中してきたためシンクに二人の救出を頼み彼はベースジャバーで囮となって大量の怨念を引き連れて空を舞っていた。心境としてはタタリ神の触手から逃げるアシタカのようだ。あちらと違って呪いを受けることはないだろうが、一発でも貰った瞬間ベースジャバーの動きが鈍くなり集中攻撃を受けるため、弾幕ゲームさながらの軌道を要求されていた。

 シンクの様子を確認してみると、どうやらうまく目標地点にたどり着いたらしく、球体を破ろうと必死に殴りつけていた。

 

 ――二人を救出したら今度はこの魔物をどうにかしないといけない訳なんだが、何せこの巨体だ。ゲート用に溜めたエネルギーを使う必要があるかもしれない。いずれにせよ、二人の心配がなくならない限りどうにもならない。シンク、早く頼むぞ。

 

 

「っと! ここで合体してファンネルさながらの全方位攻撃(オールレンジ)か! うぜぇ!」

 

 

 怨念が集まり巨大な剣となって尊に迫る。ぼやきながらベースジャバーの紋章砲で正面の剣を撃破し、間髪入れず突撃。

 完全に回避できたことを確認してすぐさま亜空間倉庫からミドルエーテルを取り出し、嚥下する。

 予備のエーテルはあと二つ。尊は残りのMPを留意しつつ『集中』を使用するのだった。

 一方、尊が囮になった甲斐あってシンクはミルヒが捕らわれている球体にたどり着くことができた。

 しかし球体の中にいるのはミルヒだけで、一緒に取り込まれたはずのサラはそこにはいなかった。

 

 

「姫様! 姫様!」

 

 

 殴りつけた個所からは波紋が広がるだけで、とてもではないが球体を破壊できそうな様子はなかった。

 焦りが思考を焦らし始めたが、そこでシンクは砕けたエクセリードと、ミルヒの指にある二つの宝剣が光を発していることに気づく。

 すると球体が揺れるとともに、全体に亀裂を走らせる。亀裂は一気に全体へと広がり、ガラスのように砕けると中に満ちていた水とともに一糸纏わぬ姿となったミルヒを解放した。

 

 

「姫様! 大丈夫ですか!?」

 

 

 解放されたミルヒを支え声をかける。

 小さなうめき声とともにゆっくりと瞼が開かれ、その視線がシンクを捉える。

 

 

「シン……ク……?」

 

「はい! よか――って、ぁ!?」

 

 

 安堵したのも束の間。シンクは彼女の姿を見て言葉を失い、顔を赤くした。

 ミルヒは服を消化されてしまったのか、身を隠すものがない生まれたままの姿としてシンクに支えられていた。

 

 

「? ……はわぁ!?」

 

「すいません! すいません!」

 

 

 ぼんやりとした意識の中、それを把握するとミルヒも急激に顔を赤くし、湧き上がる恥ずかしさから腕で前を隠す。シンクもシンクで羞恥心から彼女から目を背け、謝罪をしながら顔を手で覆う。

 しかしそんなやり取りも長くは続かず、ミルヒは何かを思い出したかのように己の身も顧みずシンクに顔を向ける。

 

 

「そ、それよりもシンク! 私、この魔物を助けてあげたいんです!」

 

「え、助ける?」

 

 

 ミルヒの話によれば、この魔物は元々普通の土地神の子供だったのだが、数百年前に落雷とともに落ちてきた妖刀によって魔物の姿へと変わってしまったというのだ。

 その際に母親の土地神が取り込まれ、魔物となった子供は山の森に棲む動物たちを食らい、全てを滅ぼす破壊の化身となった。

 200年ほど前に聖剣の主の手によって封印されたのだが、何かがきっかけで封印が解かれ、現世に甦ってしまったという。

 何故それを知っているのかという疑問もあったが、彼女曰く取り込まれた際にその土地神の母親に会いすべてを教えてもらったとのことだ。

 

 

「だから私は、このフロニャルドに生きる者として、こんな悲しい終わり方を否定するために、この土地神の子供を助けてあげたいんです!」

 

「……わかりました。それと姫様、サラさんはどこかわかりませんか?」

 

「……すみません。取り込まれる直前に声をかけていただいたのは覚えているのですが、そこから先はわかりません。もしかしたら、別の場所に捕らわれているのかも」

 

 

 どうやら魔物はサラを特別視したらしく、ミルヒとは別の場所に確保しているようだ。

 

 ――あれか!

 

 辺りを見渡し、シンクはここからさらに離れた場所に刺さった禍々しい刀と、ミルヒを捕らえていたものよりも黒い球体に捕らわれたサラを見つけた。

 

 

「尊さん! 魔物の頭のところにサラさんが!」

 

「っ!」

 

 

 シンクの声が耳に届き、剣の怨念を引き連れたままベースジャバーの進路を魔物の頭上へと向ける。

 確かにそこには赤い妖刀と、黒い球体に閉じ込められたサラがいた。そして接近するのを拒むように、無数の怨念が尊に向かって特攻を始めた。

 

 

「邪魔すんなっつってんだろ!!」

 

 

 ブラスターを召喚し、ベースジャバーの紋章砲とともに一斉射。正面が完全に開いたことを認識すると同時に、躊躇いなくベースジャバーから跳躍。同時にベースジャバーを自爆させ、後ろに迫っていた剣をすべて破壊した。

 

 

「『勇気』!」

 

 

 落下しながらブラスターをハルバードに変形させ、あらゆる防壁を突破する効果を持つ『勇気』の精神コマンドを発動。

 目いっぱいハルバードを突き出し、サラを傷つけないように球体を砕かんと狙いを定める。

 しかし魔物の体から刃を持った触手がいくつも生え、攻撃を逸らそうと尊に攻撃を仕掛ける。

 本来の彼ならこれくらいの攻撃は紋章術でどうとでもなるのだが、今自分にかかっている『勇気』の効果のひとつ――『直撃』は何かに攻撃をすると効果が消えてしまう。

 手にしたハルバードが先に触手に当たればこちらの狙いに関係なく『直撃』が発動し、サラの球体を破壊できないと悟ると尊はハルバードを収納し両腕を交差させ攻撃を凌ぐ。

 『勇気』に含まれた『不屈』の効果で初撃のダメージは軽く済んだが、後続の攻撃は容赦なく彼の体を襲った。

 腕からは鮮血が舞い、攻撃の一部が肩を骨ごと切り裂き確実にダメージを与える。

 

 

「それが……どうしたぁ!」

 

 

 アドレナリンが全開となり痛みを封殺。ただ一点を睨み付け、拳を強く握り締める。

 触手を払いのけ続けて防御を突破し、ついにクロスレンジに届く。

 

 

「サラァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 彼女に届けとその名を叫び、尊は渾身の力を込めて球体を殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

「ひっ……!」

 

 

 突如現れた目に悲鳴が漏れ、サラは身を仰け反らす。

 しかしその行為に意味はなく、目はその数を増してあらゆる角度からサラを見つめる。

 

 

『汝ノ魔力ヨリ感ジル我ガ本体ノ気配……。汝ハ何者ナルヤ?』

 

「わ、私は……」

 

『否、重要ナノハソノ点ニアラズ……。汝ノ魔力……ソレサエアレバ、我ハ本体ノ子トナリソノ身ヲ顕現デキル……!』

 

 

 四方八方より黒い触手がサラを捕らえ、数本の針が腕に突き刺さる。

 針のところから魔力が抜けるのを感じ、嫌悪とともにサラの心を恐怖が支配した。

 

 

「ゃ……嫌! 嫌ぁ!!」

 

『素晴ラシイ……実ニ素晴ラシイ! 僅カシカ吸収シテオラヌノニ、コレダケデ顕現デキソウデハナイカ!』

 

 

 正面の目のやや下の空間が裂け、巨大な口が出現する。

 それだけでこれから何をされるのかがわかり、サラの眼に涙が溢れた。

 

 

「助けて! 誰か……!」

 

『完全ニ顕現サセルタメニモ、汝ノ身体……イタダクゾ!』

 

 

 出現した口が大きく開かれ、サラを丸呑みにしようと迫る。

 

 

「助けて……ミコトさぁぁぁぁん!!」

 

 

 

 

「サラァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 思わず叫んだ名前に応えるかのように自分が求めた人物の声が響き、世界が光に満ちた。

 

 

 

 

 

 

 球体が砕けるとともに中から何も纏っていないサラが現れ、とっさに予備のマントを亜空間倉庫から取り出し、受け止めると同時にその身を包む。

 

 

「サラ様! しっかりしてください! サラ様!」

 

 

 何度目かの呼びかけて薄っすらと瞼が開き、何かに怯えた瞳が尊に定まる。

 

 

「ミコト……さん……」

 

「大丈夫ですか、サラさ――ま!?」

 

 

 言い切る前に、サラが思いっきり抱き着いた。

 何事かと思う前に彼女の肩が震えているのに気づき、尊は落ち着かせるべく優しく抱きしめる。

 

 

「ミコト、さん……。ミコトさん……」

 

「もう大丈夫ですよ。ですが、遅くなってすみません」

 

 

 涙声で確認するように何度も彼の名を呼びながら、尊も安心させようと頭を撫でる。

 自分の血が付着することに少々気が引けたが、それ以上に自分を求めるサラに応えながら目の前の妖刀を睨む。

 

 

「これが、すべての元凶か」

 

「尊さん! サラさん!」

 

「お二人とも、大丈夫ですか!?」

 

 

 エクセリードとパラディオンのおかげで傷の治癒と装備を整えられたシンクたちが二人に追いつき、安否を気遣う。

 血まみれの上に一部骨まで露出した尊を見て顔色を悪くした二人だが、視線に気づいた尊が自身に『ケアル』を唱えることで傷を塞ぎ見た目的に若干だがマシになった。

 

 

「すまん、エグイところを見せてしまったな」

 

「い、いえ……それよりも尊さん。実はこの魔物、元は土地神の子供らしいんです」

 

 

 シンクは先ほどミルヒから聞いた内容を伝え、妖刀を抜けば丸く収まることを告げた。

 

 

「なら、妖刀を抜くのを任せてもいいか? 俺は今、見ての通りだからな」

 

 

 落ち着いたとはいえまだ少し体を震わすサラを見て二人は頷き、鎖で固定された妖刀を引き抜きにかかる。

 だが土地神を支配している妖刀がそれをさせまいとするのか、魔物は苦しそうな声をあげながら暴れまわり、体を揺らすことで引き抜かれるのを阻止しようとした。

 

 

「うお……っとぉ!?」

 

「きゃあ!」

 

 

 体勢的にも不安定なのが影響したのか、大きく揺れる足場に踏ん張りが効かず尊とサラは魔物の体から滑り落ちた。

 しかしそれからすぐに尊がベースジャバーを展開し落下を防ぎ、上空へと退避させる。

 状況を確認しようとシンクたちに目をやると、いつの間にか全ての鎖が外れた妖刀をシンクが全力で引き抜こうとしているところだった。

 あと少しだと尊が思ったその時、妖刀が抜かれ勢い余ってシンクが後ろへ飛び、妖刀の先端に刺さっていた岩が抜けると岩は傷を負った小さな狐――土地神の子供へと姿を変える。

 土地神に変わったのを見た瞬間ミルヒは全力で駆け出し、落下させまいと空中でキャッチする。

 

 

「よし! ――って!?」

 

 

 ミルヒのダイビングキャッチを見て思わずガッツポーズをした尊だが、魔物だったものが土となって崩れ出したのとシンクの手にある妖刀が蠢きだしたのを見て驚愕した。

 

 

「マズい! シンク! 今そっちに――」

 

「ミコトさん! あれを!」

 

 

 助けに行く必要があるとみてベースジャバーを向かわせようとした尊だが、サラがグラナ砦から飛来するそれに気づいて指をさす。

 緑色の輝力を纏った強力な矢が寸分の狂いもなく妖刀の柄を破壊し、シンクに取り付こうとした妖刀を遠くの森へと弾き飛ばした。

 あの砦にいてこんな芸当ができる人物を、ここにいる四人は同時に思い浮かべた。

 

 

「今の攻撃は、もしかしなくとも……」

 

「……レオ閣下でしょうね。どうやったらあんな距離からピンポイントで妖刀を弾かせられるんだか……」

 

 

 自分のように確実に命中させる特殊能力があるわけでもないのにと尊は苦笑いを浮かべ、改めてシンクたちの元へと近寄る。

 

 

「二人とも、大丈夫か?」

 

「はい! 早くここから逃げましょう!」

 

 

 既に崩壊は始まっており、端の方から魔物の体はどんどん崩れていた。

 ここは高さもかなりある上に今は守護のフロニャ力も弱まっているため、落ちればただでは済みそうにないのが容易に想像できた。

 

 

「少し狭くなるが、二人ともベースジャバーに――――」

 

 

 

 

 

『逃サンゾ……』

 

 

 

 

 

 怖気を持った声にゾクッと尊とサラの背筋が凍りつき、二人は同時に振り返る。

 

 

 

『万全ニハ程遠イガ、子ノ姿を顕現サセル程度ノ魔力ハ得ラレタ』

 

 

 

 声の発信源は先ほど妖刀が消えた場所。

 その声にサラは先ほどまで自分がいた空間を思い出し、体を震わせる。

 彼女を安心させようと抱き寄せる尊だが、声に感じた気配に近いものを思い出し同じく肩を震わせる。

 

 

 

『見ルガイイ……。コレコソ、イズレ我ガ本体ト同ジ姿ニナル子ノ姿ダ……!』

 

 

 

 バキバキと森の木々がなぎ倒され、先ほどの魔物程ではないにしろかなりの大きさを持ったそれが姿を見せる。

 針山のような殻を背負い、先端の頭部は三つに割れその頭を露出させる。

 

 

「嘘……だろ……」

 

「そ、んな……」

 

 

 事情を知らないシンクとミルヒは警戒をするだけだったが、それが何なのかを知る二人の頭には疑問と絶望が埋め尽くされていた。

 それは本来ここにはいない――否、ここに存在してはならないもの。

 

 

「なんで……なんであれがここにいる!?」

 

 

 尊の問いに答える者は誰もいない。しかし、絶望の種は芽吹いた。

 

 ラヴォスという厄災の子(プチラヴォス)が、ここフロニャルドに目覚めた。

 




本編第27話、いかがでしたでしょうか?

サラの尊に対する好感度がグーンと上がりました。
ついでに禍太刀があろうことかプチラヴォスへと変化しました。(ついでで済まされない)

というわけで次回はプチラヴォス(フロニャルド版)戦となります。
とはいっても所詮はプチラヴォスなので結果はお察しください。
なんでこいつがここに、などの疑問は申し訳ありませんが2期編のある部分まで伏せさせていただきますので、ご了承ください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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