Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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第34話「巨人のツメ攻略 後編」

 巨人のツメ攻略三日目。ティラン城の仕掛けを駆使して敵を落としたり経験値をがっぽりくれるイワンを倒したり逃したりしながら突き進み、俺たちはついに最深部一歩前の牢屋にまで到達した。

 元々ここはティラン城に連れ去られたキーノが閉じ込められていた牢屋であり、崩れた壁の向こうからは今までの比ではない咆哮がビリビリと空気を震わせている。

 つまりこの先にいるのだ。恐竜人のボスアザーラの忘れ形見。ルストティラノとして復活したブラックティラノが。

 

 

「――準備はいいか?」

 

 

 一度振り返って4人に声をかける。ガイナーたちは一度やりあっているおかげか落ち着いてはいるが、サラは轟くバインドボイスにたじろいでいた。

 いくらここまで大量の恐竜を倒してきたり、フロニャルドで巨大な魔物と相対したといっても、この先にいるのは文字通り格が違う化け物だ。気圧されるのも無理はない。

 

 

「確認するぞ。この先にいる敵は5回ほど大きな咆哮を上げたのちに強力な火炎を吐き出してくる。行動はこれだけだが、火炎は決して看過できるものではない。これで間違いないな?」

 

「はい。咆哮が響く間に一気呵成で攻め立て、火炎が近づいたら物陰に隠れるか奴の背に取りつけば良いでしょう」

 

「しかし、炎の奔流は並のものではなく、岩など表面が溶けてしまうほどです」

 

「そして無暗に懐に飛び込んではいけません。奴は懐に飛び込んだものを捕食する傾向があります」

 

 

 捕食……確かゲームだと食ったやつからHPを奪う技なんだよな。けどこの世界でそれはどう考えても死亡フラグですから。

 しかも敵がアレなだけに昔見た恐竜映画よりひどい展開になりそうだ。

 

 

「となると、サラのマジックバリアでダメージを和らげるしかないか。――サラ、マジックバリアはどれくらい続く?」

 

「一回につき5分ほどです。使うのであればその火炎が放たれる直前の方がいいでしょう」

 

 

 5回目の咆哮がいつになるかわからないからこれは当然だな。一番の理想は火炎が放たれるまでに撃破することだが、かなりの体力を持っていたはずだ。

 輝力武装でシンクみたいに大きな盾を作り出すのもありかもしれないが、輝力武装一つを用意するのにMPがごっそり持っていかれる上に一回攻撃を受けたら盾が消滅することを考えるとあまり現実的ではない。

 そうなると……攻撃の暇も与えないほど攻めて立てて完封するしかないな。

 

 

「俺がまず一撃をたたきこむ。サラはそれを確認したらすかさずサンダガを。ガイナーたちはサンダガが放たれると同時に奴の後ろを取って攻めろ。挟み撃ちにする」

 

「わかりました」「「「承知」」」

 

「なら、作戦開始だ」

 

 

 それを合図にして俺も頭に疾風の鉢巻――オートヘイストの鉢巻をそう命名した――を縛り直し、シルバーピアスが装備されているのを確認してサテライトエッジをブラスターモードで呼び出す。

 壁の向こうへと足を踏み入れ、すぐにターゲットを視認する。黒っぽい巨体に首にはとてつもなく大きな鉄の首輪と鎖。間違いなくルストティラノだ。

 だがこいつは……予想以上にでかいな。目測でモンハンの怒り喰らうイビルジョーくらい……いや、下手すりゃもっとあるか?

 しかし幸いなことに奴のサイズに対して洞窟がそこまで広くないので動きを制限できそうだ。

 まだこちらに気づいていないチャンスを逃す理由もないのでまずは切り札ともいえるの精神コマンド『勇気』を使い、射程ギリギリの位置まで接近する。

 一度後ろへ眼を向け4人の準備が整ったのを確認し、ブラスターを構えてカウントダウンを開始。

 

 

「3……2……1……今だ!!」

 

「『サンダガ』!」

 

 

 手筈通りブラスターから攻撃が打ち出されると同時にサラがサンダガを唱える。さらにガイナーたちが軽い身のこなしで駆け出しルストティラノへ突っ込む。

 ブラスターの光が頭部を呑みこみ、サンダガが全身に炸裂する。

 

 

「GU!? GUAAAAAA!?」

 

 

 不意打ちを受けたルストティラノも流石に堪えたのか苦しそうな叫びを上げ体を震わせる。その隙にガイナーたちは開いた股下を抜け背後を取り、各々の得物で攻撃を開始する。

 無論俺たちもこのままじっとしている訳もなく、俺はサラを守るように前に立つとサテライトエッジをボウモードに変形させヘイストの恩恵に物を言わせとにかく光の矢を連射する。サラもまた一歩下がった位置からガイナーたちに注意しつつ正面に向かってアイスガを連発し、ルストティラノの動きを鈍らせようとする。

 

 

「GUUU……! GUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「っ!?」

 

「チッ! 『熱血』!」

 

 

 流石に頭に来たのか思わず身が竦みそうなほど大きな咆哮を放つルストティラノ。

 その大音量にサラが耳を塞いで蹲り、俺は舌打ちをしながら打ち込まれるはずだったダメージの穴を埋めるべく攻撃力を倍加させる『熱血』を使用して射る。

 

 

「――ッ、す、すみません!」

 

「謝るのは後だ! MPの残量に注意しつつどんどん打ちこめ!」

 

 

 そう叱咤して俺も一度MPの残量を確認し、再び『勇気』を使って今度は一呼吸置いてから眉間を狙う。しかし突然大口が開かれ狙った矢は鼻の上にある角を砕くまでに終わった。

 同時に轟く2回目の咆哮。先ほどより大きなそれを受けてしまい反射的に耳を塞いでしまう。

 

 

「クッ! 馬鹿でかい声を上げやがって! サラ、大丈夫か!?」

 

「ど、どうにか……」

 

 

 耳を押さえたまま辛そうに返すサラをみてどうにか黙らせる方法はないか考える。

 ガイナーたちの分銅で口を縛る……には長さが足りないか? 正確な長さを測ったわけではないが、あのサイズの口を塞ぐにはおそらく足りないだろう。仮に3人分をつないで長さを確保しても次に強度の問題が上がってくる。

 見た目通りの凶悪そうな口からしてその力は計り知れない。ただの鎖では簡単にちぎりそうだ。

 しかもあの口のサイズだ。下手をすれば縛りに言った時点で大口に食われる可能性も……ん? 大口?

 

 

「! そうだ! なんで思いつかなかった!」

 

 

 『熱血』と『集中』を使い矢を引き絞り、ブーストアップで動体視力を上げてタイミングを計る。

 まだだ……まだ…………ッ!

 

 

「いけぇ!」

 

 

 口が開かれようとした直前で溜めていた運動エネルギーを開放。放たれた一撃は今度こそ狙い通りの位置へと着弾する。

 すなわち、肉質が柔らかい口の中だ。

 

 

「GYAAAAAAAAAAAAAA!?」

 

 

 今まで経験したことがないであろうダメージを受け、ルストティラノはその巨体で悶絶し暴れだす。

 取り付いていたガイナーたちは被害を受けぬよう後方へと退避し、虹色の貝殻の元へと降り立つとそれぞれが同時にかまいたちを放つ。

 

 

「『サンダガ』!」

 

 

 今までガイナーたちのことを考えて控えていたサンダガをサラがここぞとばかりに唱える。

 

 

「よし! もう一回――――ッ!?」

 

 

 有効な手応えを掴み同じ攻撃をしようと矢を番え、再び『熱血』と『集中』、ブーストアップを使用したところで不意に視界がブレる。

 何故、と考える前に理解する。これはブーストアップの副作用だ。

 ただでさえ集中しなければならない状況でさらに体へ負担がかかるドーピングを施したのだから副作用が現れるのも早かったのだろう。

 

 

「これは……予想以上にクル…………なッ!」

 

 

 視界が歪む中タイミングを計り、再び開かれようとする口を狙う。しかし今度は狙いがズレ、頬肉を浅く抉るだけに留まってしまった。

 今の一撃を外したのは余りにも痛い。次にブーストアップをしたら今度は意識を持っていかれそうなのだ。ここで倒れたらそれこそ終わりだ。

 しかもこれは疲労から来るものであり万病に効く万能薬では治せない可能性が高く、傷を治すだけのケアルやポーションでも無理だろう。

 

 

「くそ、使い時を間違えたか……」

 

「ミコトさん! 大丈夫ですか!?」

 

「問題ない。ただ、少しばかり手数が減るけどな」

 

 

 こちらの異常を察知したサラが寄り添うが、それを手で制して体に渇を入れ再度矢を番える。

 

 

「GUUUURUAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「グッ!?」

 

「うっ!?」

 

 

 口の中を痛めているはずなのにそれを感じさせない三度目の咆哮。フラフラの体に膝をつかせるには十分なものだった。

 

 

「御館様! サラ様!」

 

「オルティー!」

 

「承知!」

 

 

 ガイナーたちが再びルストティラノに取りつき、軽い身のこなしで一気に頭上まで駆け上がる。そして振り落とされないよう間髪いれず得物を両眼に突き立てた。

 

 

「GUGAAAAAAAAAAAAAA!?」

 

 

 目をつぶされたルストティラノは口の中を攻撃されたときと同じ……いや、それ以上の叫びをあげて暴れだす。

 既に離脱したガイナーたちは俺たちの前に降り立つと二人が再び切り掛かり、残ったマシューがサラと一緒に俺を支える。

 

 

「御館様! ご無事ですか!?」

 

「心配するな、少し無茶が祟っただけだ……。それより、奴の動きはどうだ?」

 

「最初のころに比べ明らかに勢いが落ちております。火炎を吐かれる前にしとめられるかは微妙なところではありますが」

 

「だったら最大火力で押し込むまでだ。サラ、前に教えてくれたコキュートスって魔法は未完成っだって言ってたな。なにが足りない?」

 

「詠唱の簡略化と試射です。通常詠唱に問題はないのですが、試せる場所がなかったので――まさかミコトさん……」

 

「そのまさか、だ。遠慮することはない、俺が撃った後にお見舞いしてやれ。自分の魔法がとんでもなく強いってことを教えてやるといい」

 

 

 ブレていた視界が落ち着いてきたのを確認し、サテライトエッジをブラスターモードに切り替え立ち上がる。チャージは既に、完了していた。

 

 

「それにいい加減疲れたし、さっさと終わらせて休もう」

 

 

 最後にそう提案して今日三回目の『勇気』を使い、ボロボロになってきたルストティラノの頭部へ狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 

 尊がブラスターを構えたのを見て、サラも覚悟を決め彼の隣に立つ。

 失敗するかもしれない。けどそれは些細なことだ。

 

 ――失敗したなら、成功するまで唱えるまで。ミコトさんたちが整えてくれたこの瞬間、無駄にするわけにはいきません!

 

 呼吸を整え、サラは詠唱を始めた。

 

 

「――フリズ・フロズ・コーディアス、御霊も凍てつく結晶よ、清き氷雪を束ね我が手に宿れ、我が身を襲う敵に永遠の眠りの時間を与えたまえ!」

 

「ガイナー! オルティー!」

 

 

 尊の声とサラに纏わりつく空気から普通じゃない攻撃が来ると察し、ガイナーたちはすぐさま二人の後ろにいるマシューのところまで後退し舞台を整える。

 攻撃が止んだと理解したルストティラノは四度目の咆哮を上げ、口から高温の炎を漏らす。

 しかし、全てを整えた二人の前では既に遅かった。

 

 

「この攻撃で!」

 

「お終いです!」

 

 

 今の尊が撃てる最強の一撃が解放され、ルストティラノの頭部に直撃する。

 サラもまた、自分が使える魔法の中でも最強だと言える魔法を解き放った。

 

 

 

「『コキュートス』!!」

 

 

 

キイィィィィィィン!!!!

 

 サラの手から放たれた蒼い結晶が命中した瞬間、ルストティラノの全身が一瞬にして氷漬けとなる。

 ルストティラノは何をされたかを理解する前に全身の水分が凍りつき、氷像として微動だにしなくなった。

 

 

「――終わっ……た?」

 

 

 誰かが漏らしたその言葉を合図にしたかのように氷に亀裂が走り、ルストティラノは氷と共に粉々に砕け散り永遠の眠りへとついた。

 

 

「…………終わった。間違いなく、俺たちの勝ちだ」

 

 

 緊張の糸が切れて尊が崩れるように座り込み、サラも大きく息を吐いて寄り添うように座り込んだ。

 

 

「御二方、ご無事ですか?」

 

「なに、ただの疲労だ。お前たちこそどうだ?」

 

「ハッ、お二人が注意を引きつけていただいたおかげで我ら三人五体満足であります」

 

「無論、あちらも健在です」

 

 

 示された先にある虹色の貝殻を見て、尊とサラは自然と笑みをこぼすのだった。

 また、レベルの確認のためステータスを開くと新しい魔法を習得していたことに尊が歓喜するのだが、それはまた別の話。


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