Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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第36話「合流」

 サラとの関係が進展した翌日、俺たちは巨人のツメから直接トルースの裏山へと来ていた。

 当初の予定では先にチョラスでアイテムを揃えるつもりだったが、物資にまだ余裕があったので協力の取り付けを最優先ということになり予定を繰り上げることに。

 トルースの裏山にあるゲートにたどり着くなり、俺は早速ガイナーたちへ指示を出す。

 

 

「それじゃあ、昨日話したとおりお前たちは情報収集に向かってくれ。そんなに時間をかけずに戻ってくると思うが、よろしく頼む」

 

「承知しました。伝令役として一人ここに残しておけばよろしいでしょうか?」

 

「それでいい。 ――じゃあ、行ってくる」

 

 

 サラに目配せすると彼女はどうすればいいのか理解したらしく、俺の腕を取って身を寄せる。

 しっかりと捕まれたことと、ここまで運んできた虹色の貝殻が自分とロープで繋がっていることを確認しゲートに触れると、久しぶりの浮遊感が俺たちを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 時の最果てではクロノが戻ってきたことで明るい空気に満ちていた。特にマールは自分にとって最も大切な人が戻ってきたことで甘えるように引っ付いていた。

 そんな中、彼らは広場の老人からもらった話を元にこれからどうするかを相談していた。

 砂漠を蘇らせようとする女性。落ち延びた魔王の配下。さまよう勇者の魂。機械の故郷。悠久の時を経て光を集める石。そして太古の時代より存在するという虹色の貝殻。

 いずれも心当たりがあるものばかりで、何処から手をつけるべきかと話し合っていると、唐突に光の柱に誰かが現れる音がした。

 

 

「おや、心強い相手が来たようだ」

 

「え?」

 

 

 老人の言ったことを把握する前に扉が開かれ、現れた二人に老人以外の全員が驚愕する。

 その中でも特に強い衝撃を受けたのは、クロノたちの話を他人事のように聞いていた魔王だった。

 

 

「久しぶりだな」

 

「ミコトさん!?」

 

「皆さん、ご無事で何よりです」

 

「サラさん!?」「サラ!!」

 

 

 古代から行方知らずになっていた尊とサラが揃って現れたことでその場は騒然となった。

 二人は驚くクロノたちを余所に真っ直ぐと魔王の元まで移動する。魔王は魔王でどう反応していいかわからず、意味もなく口を開閉させるだけだった。

 

 

「心配かけましたね……ジャキ」

 

「ッ、――お前の仕業か」

 

「悪く思うなよ、こっちにも事情があったんだからな」

 

 

 悪びれた様子もなく尊は一歩下がり、合わせるようにサラが一歩前に出る。

 

 

「事情はミコトさんから聞きました。いろいろ言いたいことはあるけれど……」

 

 

 魔王の顔に手を伸ばし、口元を緩ませる。

 

 

「……ただいま、ジャキ」

 

「……姉上……無事で、よかった」

 

 

 感極まり、魔王はサラを抱きしめた。

 めまぐるしく動く展開に置いてけぼりを食らうクロノたちだが、感動の再会だとわかると微笑ましそうに二人を見守ることにした。

 「感動の再会はそれくらいにして」と声をかけ、尊は切り出す。

 

 

「俺たちはラヴォスを倒す協力をするためにここにきた。ただその前に、ここにいる全員にどうしても知ってもらいたいことがある」

 

 

 尊が語ったのは昨夜サラたちに打ち明けたことと同じ内容だ。

 ただし、ここでガイナーたちにも話していなかった別世界に現れたプチラヴォスについて明かすと、クロノたちの表情が険しい物へと変わる。

 まさかこの世界だけだと思っていたラヴォスの情報が、他の世界から出てくるとは思わなかったからだ。

 

 

「――以上が俺から話せるこれまでの経緯の全貌だ。さっきも言ったが、俺はサラを助けるため歴史を大きく変えないようクロノが消えるのを容認した。見殺しと取られても仕方ないからこんなこというのはおかしいかもしれないが、すまなかった」

 

 

 腰を折って謝罪する尊を見て一同は返答に戸惑った。

 サラを確実に助けるために自分が知る歴史を大きく変えないようにしたというのはわかる。

 だがそのためにクロノは一度死んだと思うとどうにもすっきりしなかった。

 

 

「――まあ、こうやってクロノは戻ってきたし、サラさんも助かったからいいんじゃないかな?」

 

「……そうだな。それにこいつからしたら俺たちが架空の人物だったとしても、俺たちは確かに存在している」

 

 

 空気を破ったのはクロノの隣にいたマールだ。屈託のない意見にカエルが同調し、全員が結果オーライを容認してクロノが代表して尊へ向き直る。

 

 

「顔を上げてください、ミコトさん。現に俺はこうして生きてるし、この世界を知り尽くしているというあなたがいればラヴォスの対策も十分出来る。力を貸してくれませんか?」

 

「……ありがとう。俺の知っていることが何処まで通用するかはわからないが、好きなだけ使ってくれ」

 

 

 礼を述べてそう宣言したことで場の空気が幾分か和らぐ。そこへルッカが早速といわんばかりに、先ほどの会話をまとめたメモから看過できない話題を持ち出す。

 

 

「まず確認したいんですけど、ミコトさんはその……フロニャルドでしたっけ? そこにどうしてラヴォスの子供が現れたかわからないんですか?」

 

「こればかりは俺も予想外すぎてな。こっちの問題が解決次第、もう一度調査に向かうつもりだ」

 

「そうですか。じゃあ次に、これについて心当たりはありますか?」

 

 

 手渡されたのは老人から聞いたことがメモされた紙だ。

 内容を流し読み、全て自分が知る物と相違ないことを確認して頷く。

 

 

「……うん、全部知ってる。というか、このうちのひとつは実物がここにある」

 

「ナ、ナント!?」

 

 

 案内されて光の柱のところへ移動すると、ロープで括られた虹色の貝殻が鎮座していた。

 

 

「これは防具に加工するために切り取ったほんの一部だが、もっと大きな本体が中世にある。ただとてつもない重量があるから、俺たちで運ぶのはまず無理だ」

 

「ふむ……。ガルディア城に頼んでみるか? これなら家宝として扱う価値が十分にあると伝えれば騎士団を派遣してくれると思うぞ」

 

 

 カエルの提案が原作と同じだったので尊はそうするように頼み、続いて広場に戻りながらリストの中から効率よく動くための順序を選定する。

 

 

「まず砂漠を蘇らせようとする女性と落ち延びた魔王の配下、そしてさまよう勇者の魂は全て中世の出来事だ。幸い頭数が均等に揃っているから、同時進行で終わらせよう」

 

「頭数? ――貴様! 姉上を戦闘に出すというのか!?」

 

 

 尊の提案からサラが頭数に入っていることに気付き魔王が食って掛かる。しかしそれをとめたのはその彼の姉だった。

 

 

「大丈夫よ。私も戦えるから」

 

「サラの言う通りだ。というか、サラに傷を負わせるつもりは毛頭ない」

 

 

 自信満々に言い切る尊を胡散臭い目で見る魔王だが、姉には逆らえないのかしぶしぶと引き下がる。

 

 

「それで肝心のメンバー分けだが、砂漠にはクロノとマール、エイラで向かってくれ。勇者の魂にはカエル、ロボ、ルッカが。最後の魔王の配下には俺とサラと魔王で片付ける」

 

「このメンバー分けの理由を聞いてもよろしいデスカ?」

 

「まずこの砂漠は魔物の仕業だ。こいつは体のほとんどが砂で出来ているらしく水を吸うと著しく弱くなる。マールがアイスガで防御力を下げたところで、素早く攻撃を繰り出せるクロノとエイラの出番というわけだ。 いけるな?」

 

「任せてください!」

 

「エイラ、負けない!」

 

 

 やる気いっぱいのマールとエイラの返事を受け、尊は満足そうに次の説明に移る。

 

 

「次は勇者の魂についてだが、これはチョラス村の北にある廃墟を指している。ここには魔王に敗れたサイラスが眠っている」

 

「……だから、俺か」

 

「そういうことだ。魔物は俺が以前に駆逐したからもういないと思うが、万が一ということもある。注意してくれ。あと、ここが終わったらガルディア城に虹色の貝殻の説明を頼む」

 

「わかりました」

 

 

 ルッカの返事を最後に二つ目の説明を終え、最後の説明に入る。

 

 

「魔王の配下についてはビネガー、ソイソー、マヨネーを相手にすることになる。ちなみに、魔王がいなくなったからビネガー自ら大魔王を名乗っていて、これを放置していると現代のメディーナ村にビネガーの銅像が建つ」

 

「あいつが大魔王……気に入らんな」

 

 

 魔王の一言にビネガーを知る者全員がうんうんと頷いた。

 

 

「説得は出来ないんですか?」

 

「あいつらは一応魔族のために動いているからな。プライドがそれを許さないだろうな」

 

 

 ――もっとも、大魔王の割には最後が非常にアホくさいが。

 まさか自分の仕掛けをネコに作動させられて終わる最期を遂げるなんて誰が想像出来ようか。

 

 

「残りの機械の故郷と悠久の時を経て光を集める石は未来で、しかもシルバードがないと入手できないから行動できるメンバーは限られてくる。なのでこれはひとまず保留とする」

 

 

 そう締めくくって指定されたメンバーが固まったのを確認し、尊はさらに口を開く。

 

 

「移動方法についてだが、ゲートホルダーはクロノが持っていてくれ」

 

「わかりました」

 

「カエルたちは一番移動距離が多いからシルバードを使って移動を」

 

「了解だ」

 

「……ちょ、ちょっと待って。あと一組はどうやって移動を?」

 

 

 そこまで説明したところで、ルッカが慌てたように待ったをかける。が、尊はそんな彼女を余所にさらっと返す。

 

 

「どうにも俺はゲートホルダーが不要らしくてな。サラと魔王は俺に捕まって移動すれば問題ない」

 

「な、なんてデタラメな……」

 

「俺もそう思う」

 

 

 ははっと笑い、現状で出来る同時進行が他にないことを見直して最後にと通達する。

 

 

「それぞれ目的を達成させたらここに集合。全員が集合したところで次の行動を決める。何か質問はあるか?」

 

 

 全体を見回して誰も問題ないことを確認すると、尊はよしと大きくうなづいた。

 

 

「それじゃあ、行動かい――「あ、やっぱり一つだけいいですか?」――おぉう……」

 

 

 号令をかけようとしたところで唐突にマールが挙手し、調子を崩された尊は思わずずっこける。

 だがまあいいかと思い質問を受け付けようとするが、これが彼にとって最大の失敗となった。

 

 

「――ミコトさんとサラさんって、付き合ってるんですか?」

 

「……はい!」

 

 

 尊に抱きつきながらサラが肯定し、尊も恥ずかしそうに頬を掻く。

 

 

「まあ、付き合い始めたのは昨日からなんだけど……な………………」

 

 

 不意に、背筋が凍りつくような悪寒を走らせる。

 同時に血の気が一気に下がり、尊は唐突に命の危険を感じる。

 

 

「ほう……。貴様が姉上の…………」

 

 

 絶対零度の視線をぶつけていたのは自分の彼女の弟だった。

 それはもう視線だけで射殺しそうなほどのオーラを纏い、怨念が使えるならダメージは軽く一万は超えそうな雰囲気を醸し出していた。

 一方爆弾を投下したマールはサラを連れルッカとエイラを交えてキャーキャーとガールズトークを展開しており、男性陣は空気を察して出来るだけ関わらないようワザと気付かないフリをしつつ、この空間では意味のない天気の話などをしていた。

 

 

「ちょうどそこにいくら魔法を放っても問題ない空間がある。少し訓練に付き合え」

 

「いや、俺は別にいいんだが……」

 

「遠慮するな。あぶれた貴様の相手をして殺るだけだ」

 

「やるの字がなんかおかしくないか!?」

 

「おかしくなどない。さあ、姉上と何があったか洗いざらいぶちまけて――」

 

「えーーーーッ!? そ、そこまでしたんですか!?」

 

「はい♪ 好きな人にされるのは本当に幸せな気持ちになれましたね」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 大きく響いた女性陣の会話が二人の耳に届き、魔王は無言で冥王の鎌を取り出す。

 尊は悟りを開いたような顔になり、おもむろに先ほど魔王が示した扉へ顔を向ける。

 老人が扉を開け、親指を立てていた。

 

 

「グッドラック」

 

 

 その言葉を皮切りに、二人は同時に駆け込んだ。

 

 

「姉上に何をしたキサマアアアァァァ!!」

 

「キスまでしかしてないが)恥ずかしくて言えるかんなことおおおぉぉぉ!!」

 

「言えないようなことをしたのか!? 『ダークミスト』ォ!!」

 

「あぶ!? やめろバカ! 『キャラおかし』いぞお前!? 少し落ち着け!!」

 

「『サラ犯した』だと!? ゆ゛る゛さ゛ん゛!! 『ダークマタァァァァァァ』!!」

 

「そんなことしてないし、ここでそんなもんぶっ放すんじゃねえええぇぇぇ!!」

 

 

 ――結局、尊の命がかかったそれは突然自分の空間で暴れられた部屋の主の堪忍袋の緒が切れるまで続いたそうな。


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