Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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第38話「知らないゲートの先」

 俺は混乱した。

 この世界の重要なことについては知り尽くしていると自負していただけに、魔王からもたらされた情報はまさに寝耳に水だった。

 

 

「同じ反応が原始にも確認されたのだが……その様子では、これについては知らないようだな」

 

「……すまない。だが俺が知らないことが起きているという時点で、看過できるものでもないな。とりあえず今は最果てに戻って次の策を練ろう。ガイナーたちはその間、ビネガーたちに手を貸してやってくれ。ある程度の目処がついたらトルースの裏山で待機していてくれ」

 

「承知いたしました」

 

 

 来た時と同様に数時間かけて時の最果てに戻り、メンバーが全員揃っていることを確認するとクロノが訊ねてきた。

 

 

「ミコトさん、そっちはどうでしたか?」

 

「まずビネガーはサラの説得で改心し人間と共存することを宣言した。これだけでも俺の知ってる歴史から外れているが、まあ特に問題はないだろう」

 

「奴が改心? 信じられんな……」

 

「俺も信じられなかったが、事実姉上の説得に応じた。認めるしかないだろ」

 

 

 半信半疑といった面々だが、魔王が冗談を言うことはないというのを理解しているのかそれ以上追及することはなかった。

 

 

「俺たちの方は無事に砂漠の魔物、メルフィックを倒せました。ただフィオナさんが言うには何百年も働ける存在がいなければ森の再生は難しいそうです」

 

「そこでワタシが中世に残ってお手伝いをしようかと考えていマス」

 

「そうしてくれ。ただし手伝いに向かうのはほかの問題を片づけてからの方がいい。特に未来にあるジェノサイドームという場所にはロボがいないと入れないようになっている」

 

 

 砂漠の開拓をガイナーたちに任せてもいいかもしれないが、いくら規格外のあいつらでも寿命と言うものがある。残念だがそう長くは手伝えないだろう。

 

 

「こちらはガルディア城に頼んで虹色の貝殻の回収を依頼した。回収完了がいつになるかはわからないが、問題はないだろう」

 

「了解した。それじゃあ次に向かってもらう場所だが、まずクロノ、マール、カエルは現代のガルディア城へ向かって虹色の貝殻がちゃんと受け継がれているか確認してくれ」

 

「わかりました」

 

 

 返事をするクロノの後ろでマールが浮かない顔をしているが、彼女には何が何でも行ってもらう必要がある。

 ガルディア王の裁判やヤクラ13世のことをあえて教えないのも下手に情報を与えて話がややこしくなるのを防ぐためだし、何より和解させるチャンスをここ以外に俺が知らないからな。

 

 

「次に未来へ向かってもらうメンバーはロボを筆頭に太陽神殿と先ほど説明したジェノサイドームへ向かってくれ。太陽神殿にはサン・オブ・サンという魔物がいて、火属性の攻撃を仕掛けてくる。あと厄介なことに本体の周りにある炎のいずれかを攻撃して当たりを引き当てないとダメージが通らない」

 

「くだらん。全体魔法で消し飛ばせばいいだろう」

 

「周りの炎は全ての属性魔法を吸収するぞ。しかも当たり以外の炎は攻撃を受けると反撃してくるから、反撃の炎に晒されてもいいならそれでも構わない。ちなみに、その際に反撃してこない炎があればそれが当たりだ」

 

「ということは、囮として全体魔法を使うってのもアリなわけですね」

 

「そういうことだ。そして本体は強力な炎魔法を使ってくるから回復は怠らないことだ。可能ならばレッドプレートやレッドベストを装備して行くといい。この装備は火属性を吸収するからほぼ完勝できる」

 

 

 ただレッドプレートは中世のガルディア城でエネルギーを注入した後現代で回収なんだよな。色仕掛けでもらえるのが確かルストティラノだけだったはずだし。

 まあ魔法防御が高い魔王を連れていかせて、全体回復の手段を持つロボがいれば問題ないだろう。

 

 

「そして俺と一緒に来てもらうメンバーは原始と中世に現れたという謎の反応を確かめに行くため、まずは原始へ向かう。どのあたりに発生したか教えてくれないか?」

 

「ワタシのデータではプテランの巣より東へ進んだところの高い山の麓となっていマス」

 

 

 ……なるほど。これも知らない位置情報だな。おそらく徒歩で向かうことは無理だろうから、必然的にプテランを使用することになるな。

 

 

「未来へ行くメンバーはロボ、ルッカ、魔王の三人。原始へ行くのは俺とサラとエイラで――」

 

「待て! 何故俺が姉上と違うのだ!? 魔物の雑魚ごときならその女に任せてもいいはずだ!」

 

「いや、普通にバランスの問題もあるし、原始ではおそらくプテランを使わないといけないはずだから現地出身者に案内を頼むのはおかしくないだろ?」

 

「それでも姉上が貴様と行くには理由が薄い! 別にこのメガネの女でもかまわんだろ!」

 

「ちょっと! 私だって未知の技術がいっぱいありそうなジェノサイドームって場所に行きたいのよ!? 勝手に決めないでよ!」

 

「ならばカエルでもかまわんだろ! おい両生類! 姉上のために代われ!」

 

「お前、ミコトとサラ嬢を一緒にしたくないだけだろ……」

 

「なんか、サラさんが無事だってわかってから性格変わったよね?」

 

 

 マールの率直な意見に誰もがうんうんと頷く中、件のサラは仕方ないと言った風に嘆息する。

 

 

「ジャキ」

 

「姉上! 姉上も何か言って――――」

 

「我が侭を言うんじゃありません」

 

 

 やんわりと諭すような優しい口調で語りかけるサラだが、その目は彼女らしからぬほど笑ってなかった。

 

 

「……ミコト、今回だけだぞ」

 

 

 バツが悪そうに姉の言葉を受け入れた魔王は渋々とシルバードのある場所へと移動した。

 と言うか、サラもあんな顔するんだな……。

 意外な一面を見れたことは素直に喜ぶべきかもしれないが、ああいったプレッシャーを感じる一面はちょっと遠慮したいところだ。

 その後、グループごとに行動を開始した際に俺たちも不思議山のゲートを選択したものの、落下することをうっかり忘れて俺は某未来少年の真似事をする羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 プテランに騎乗しロボが教えてくれたデータを頼りに移動すること十数分。俺たちは問題となった謎のゲートへとたどり着いた。

 今までのゲートが青っぽいものだったのに対し、これは緑っぽいものだ。記憶を掘り返してもこんな物は見たことがなく、どこに通じているのかも検討がつかない。

 

 

「どうした? わからないなら行く。違うか?」

 

「……そうだな。わからないから調べに来たんだもんな」

 

 

 エイラの言葉に頷き、先陣を切ってゲートに触れる。今までのゲートと似たような浮遊感を感じるが、これはどちらかと言えばジールにいたころのものに近いか?

 やがて体がどこか洞窟のような場所に降り立つと、サラが何かを感じ取ったように声を上げる。

 

 

「ここは……どうやら私たちがいた場所とは違う空間のようですね」

 

「どういうことだ?」

 

「次元が違うとでも言いましょうか……別世界、別空間と言っていいかもしれません」

 

「別世界……フロニャルドみたいなものか」

 

「! 何かニオイする! きっと生き物いる!」

 

 

 エイラが発した言葉に俺とサラは顔を見合わせ、とりあえず奥へと進む。

 すると大きく開けた空間に出たのだが、いくつもの横穴とあちこちに設置されたテーブルでまるで村のように形成されていた。

 

 

「地の民の村に近いものを感じますが……なんだか不自然です」

 

「確かに。誰か住んでいてもおかしくないはずだな」

 

「でも人いない。この近く、探すか?」

 

 

 その提案に反論する要素などなく、とりあえず手近な光が差し込んでいる穴を選んで覗きこむ。

 するとそこには広大さを感じさせる湿原が広がっており、とてもじゃないが誰かいるようには見えなかった。

 

 

「ここ、なにもない。別の場所、行くか?」

 

「……本来なら調べに行きたいところだが、まあまだ調べていないところもあるからいいか」

 

 

 来た道を引き返し横穴を片っ端から調べていくが、どこもかしこも生活できるような空間があるにもかかわらず誰もいなかった。

 そんな中、一番奥の光が差し込んでいる二つ目の穴を発見し覗いてみると、今度はガルディアの森のような場所に出た。しかも魔物つきで。

 

 

「もしかして、誰もいないのはあの魔物たちのせいなのでは?」

 

「可能性はないとは言い切れないな。というか、どうにも友好的じゃないみたいだ」

 

 

 こちらに気づいたオウガンらしき魔物の三体のうち一体が茂みに手を突っ込む。取り出したのは――鉄のハンマー!?

 ハンマーを持ったオウガンはデナドロ山のオウガンとは比べ物にならない速さでこちらに突進し、得物を振り上げる!

 

 

「ちぃ!」

 

 

 俺はサテライトエッジをシールドモードで取り出しハンマーを受け流す。その開いた隙を逃さずエイラが殴りかかって弾き飛ばすがのそのそと起き上がるあたりまだ余裕があるようだ。

 

 

「『サンダガ』!」

 

「『ファイガ』!」

 

 

 間髪いれずに俺とサラの魔法が炸裂し、オウガンたちは強力な魔法に抗うこともできず今までの敵同様に霧となって消滅した。

 ふむ。鉄のハンマーは予想外だったが、ガ系魔法二発で無傷だったハンマーなしのオウガンが消し飛んだあたりあまり強くはないみたいだ。

 

 

「ミコトさん。大丈夫ですか?」

 

「ああ。どうやらここの敵はそこまで苦戦することはないみたいだが、とりあえず油断せずに行こう」

 

 

 その後も森の奥へ奥へと進んでいき、その過程でやはり見たことのない敵と遭遇する。

 ジャリ系の魔物にさらに新しいタイプのオウガン。いずれも少しタフではあったが、そこまで苦戦するような敵でもなかった。

 そして森の一番奥と思しき場所で2種4体のオウガンを撃破したところで辺りを見回していたエイラがようやく警戒を解く。

 

 

「魔物、全部やっつけた!」

 

「そうか。だが結局それだけだったな」

 

「とりあえず、さっきの村に戻りませんか?」

 

 

 サラの提案に俺たちは頷き、一応他に何かないか調べながら来た道を引き返す。だが結局何も得ることはなく、普通に最初の村に戻ったのだった。

 一先ず休憩がてら近くに設置されたテーブル席に腰を落ち着け、情報をまとめる。

 

 

「結局、ここにいたのは少しタフな魔物だけだったな」

 

「最初にエイラさんが言っていた生き物の臭いと言うのも、あの魔物のことだったんでしょうか」

 

「まだニオイある。けどよくわからない。どうする? 帰るか?」

 

「そうだな……」

 

 

 まだ調べていないところはあるが、さっきの魔物以上に強いのが出てきたらちょっと心許ないな。

 それに俺たちはここへ偵察に来たようなものだ。無事に戻って情報を伝えるという重要な役目もある。ならばここで一度切り上げて、それからまた来るという手もあるか。

 考えが一時帰還と言う方向へ流れ出し、それを提案しようとしたところで予想外の事態が発生する。

 

 

「誰や! 外で騒いどんのは! 魔物に食われても知らんぞ!?」

 

「なっ!? なんだ!?」

 

 

 突然響いた声に驚きながら席を立ち、発信源を探す。すると一番近くの横穴から足音が聞こえ、そこから緑色の鱗をした人と恐竜を足して割ったような生き物が現れた。と言うか、こいつって……。

 

 

「恐竜人、なのか?」

 

 

 確認するように尋ねると、今度は向こうがこちらを見たまま固まった。

 

 

「? お前、どうした?」

 

「……さ」

 

 

 さ?

 

 

「サルが立ってしゃべっとるぅぅぅぅぅぅう!? なんでや!? 何があったんや!?」

 

 

 恐竜人はあり得ないものを見たようなリアクションを取り、大げさに後ずさった。

 ……とりあえず、俺からはこれだけ言わせてもらおう。

 

 

「なんで関西弁やねん……」


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