Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

4 / 84
前作でも好評だったあの三人です。


第4話「新たな仲間!? デナドロ三人集」

 サンドリノの宿・酒場の大決戦(仮)から一夜。『加速』に加えて無駄にブーストアップの補正までかけたオラオララッシュもどきでトマに勝利したものの、激しいラッシュの衝撃で店の中がえらいことになってしまい修理代で財布が無一文寸前になってしまった。

 俺はこの資金難を打開すべく、宿屋を去ってすぐにデナドロ山へと向かうことにした。というのも、現状で最も経験値と資金を手に入れられる場所がここしかないためだ。

 ちなみに勝利したときは確かにいたのだが、修理代の話になった瞬間にトマは行方をくらましていた。ただ1000Gほどの金が入った財布が置いてあったので、おそらくこれがあいつの今払える精いっぱいの額だったのだろう。

 さて、今向かっているデナドロ山にはオウガンという魔物がいるのだが、木槌を持ったヤツは武器で攻撃を受け止めているのか、防御力が大きく向上し少々面倒くさい仕様になっている。

 火炎放射やファイアなどの火炎系の攻撃があれば木槌を燃やして他のオウガンと同じスペックにまで落とせるのだが、現時点で俺が扱える魔法は雷と氷だ。

 ゲームではサンダーを撃ち込んでも木槌は燃えなかったはずだが、正直な話、雷が落ちればただの木槌なんて消し炭になるよな? 今回はその検証もついでにやってしまおうと思っている。

 あと警戒すべき魔物と言えば忍者みたいな格好をしたフリーランサーという魔物だが、こいつは攻撃すると反撃してくるちょっと鬱陶しいヤツだ。

 だがこれもサテライトエッジがゼナンの橋で思った通り攻撃力の高い武装なら、おそらく一撃で倒せるだろう。

 そんな考察をしつつサンドリノから離れて数時間、フィオナの小屋を素通りして砂漠を越え、途中で見つけた川を上流に沿って進んでいくと目的地であるデナドロ山に到着する。

 原作では回想を含むイベントシーンが多く存在しており、作中でも間違いなく高い人気を誇るであろう魔王の初登場も――カエルの回想内だが――この山だ。

 あと忘れてはいけないのが折れたグランドリオンの回収と直前であるグランとリオンの存在だ。あいつら古代には既にいたから……実質12600年以上生きてる計算になるんだよな。

 しかし、今回俺はあいつらに接触する気は毛頭ない。だって竜巻エネルギーを溜めて繰り出される強力な技の『真空波』はクロノが使う『かまいたち』の技がないと掻き消せないからな。無論、俺はゲームで一度も使わせたことのない技だが相当エグい技だと言うのは容易に想像できる。それにあいつらだってグランドリオンに用がなければ特に何もしてこないだろう。 

 さて、クロノたちには悪いが先に欲しい宝箱の回収をさせてもらおうか。なに、貰っていくのは消費MPを半分にするシルバーピアスと金の入った宝箱だけだ。カプセルやポーション系は残しておくさ。

 ……金の入った宝箱しか開けないとか、ただ金に汚いやつにしか見えないな。

 自分で決めておきながらそう感じてしまったことに自己嫌悪しながらサテライトエッジを展開し、頭を切り替えてデナドロ山へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

「――『サンダー』!」

 

 

 木槌を持ったオウガンに向けて腕を振るい、雷を落とす。

 入山する前の予想通り、木槌は雷を受けて発火して燃え尽きた。まあ、普通なら驚くことのない当然の結果なんだがな。

 木槌を失い防御力が弱体化したオウガンにいつものハルバードモードのサテライトエッジを構え、踏み込むと同時に一気に切り捨てる。

 切り裂かれたオウガンは断末魔の叫びを残し、霧となって消滅した。今までもそうだが、魔物を倒したときに死体が残らないというのは本当にありがたい。今みたいに切り捨てたら間違いなく精神的ストレスがたまりまくって元の世界に戻るどころじゃなくなっていただろう。

 そそくさとGをかき集めサテライトエッジと共に亜空間倉庫に保管しステータスを確認する。前回のジャンクドラガー戦に使用した『努力』のおかげで山に入ってから数回の戦闘でレベルが20に達し、新たに精神コマンド『熱血』を獲得できた。

 この『熱血』はサテライトエッジによる攻撃や攻撃魔法と組み合わせて使用するもので、これを使用した際に与えるダメージが2倍となるそうだ。ただ消費MPが6と現状では少し高く、魔法の場合はさらに消費MPが追加されるので使用の際には注意が必要となる。

 こうなればますますシルバーピアスが欲しくなるが、肝心の物が入った宝箱はまだまだ先だ。その間にあと何体の魔物と遭遇することやら。

 

 

「まあ、ゆっくりいくか。どうせクロノたちはサンドリノやパレポリで情報収集をするだろうし、カエルに会って話もするだろうからここに来るのはまだまだ先になるはずだ」

 

 

 帰りにバッタリ遭遇しなければ問題ないだろうし、ここのイベントを終えたら原始と現代を行ったり来たりになるから中世に戻ってくるのはかなり後のはずだ。その間に俺はレベルを上げつつゲームでは行けなかったチョラス村に向かってみるか、隙を見て原始に跳んで火属性のダメージを半減させるルビーベストを入手してもいいだろう。

 ただ原始に行くなら恐竜人にも注意しないといけないのだが、個人的にはゲート抜けてすぐ崖から真っ逆さまの方が怖すぎる。予備知識でそうなることを知っていながらもヒモ無しバンジーを敢行しなければならないのだから、あまり進んでいこうという気にはならないな。

 ともかく、まずはここで経験値と金を巻き上げながら目的の物を取りに行くとしますか。

 

 

 

 

 

 

「…………どうしてこうなった」

 

 

 その呆然としたつぶやきに答えてくれる人はいない。しかし、それでも俺は呟きたかった。だからもう一度あえて言おう。

 

 

「どうしてこうなった」

 

「さっきからどうされたのですか、御館様!」

 

「何故呆然とつぶやかれておられるのかはわかりませぬが、心配事などなにもありませぬ!」

 

「いかにも! 我らデナドロ三人集のガイナー、マシュー、オルティー。この命に代えましても御館様のお命をお守り致しますぞ!」

 

 

 目の前で片膝をつき俺を『御館様』と呼ぶ3人(?)の魔物は入山前に警戒が必要だろうと思っていたフリーランサーたちだ。

 しかし先ほどの様子から察してもらえると思うが敵対しているわけではなく、むしろ主として敬われているという状況だ。

 そもそもこいつらと遭遇したのはついさっきで、その時は間違いなく敵対していたと言えるだろう。

 ではどうしてこいつらが俺を御館様などと仰ぐようになったのか、一から説明するのも疲れるので三行にまとめてみよう。

 

 ・奇声を上げながらチャンバラをしていたこいつらと遭遇。

 ・俺、サテライトエッジのザンバーとブラスターで撃破する。

 ・俺の強さに感銘を受けたといい仕えると言い出す。←イマココ

 

 ……うん、まとめてみてたが自分でもまだ信じられない超展開だな。

 正直あまり関わりたくなかったからザンバーでまとめて切ったのだが、それで倒しきれなかったからブラスターを撃ち込んだというのにこいつらはそれにも耐え切ったのだ。

 ちなみにガルディアの森でまるまじライダーを犠牲にしてわかったのだが、ボウが単発で連射可能なのに対してブラスターは連射できないが強力な照射ビームをぶっ放す。難点なのはチャージに時間がかかりすぎるくらいだが、敵が大群であったりボスクラスでない限りはホイホイ使うことはないだろう。

 さて、そんな面倒なフリーランサーたちは得物を前に差し出し微動だにせず俺に跪いているのだが、連れて行く気はもちろん御館様と呼ばれることも是とするつもりはない。

 ならば倒してしまえばいいのではと思うのだが、どうにも毒気を抜かれてそんな気にもなれない。

 どうしたものかと腕を組んで空を仰いでいると、ふとあることを思いついた。

 

 

「お前たち。海を渡る術を持っているか?」

 

「海を、でありますか?」

 

「ああ。船でも魔法のゲートでもいい。別の大陸――特に東のチョラスへ渡る手段を持ち合わせていないか?」

 

「申し訳ございませぬ。流石にそのようなものは……」

 

「しかし御館様。何故そのようなものを所望されるのですか?」

 

 

 オルティーと名乗ったフリーランサーの質問に、俺はチョラス村へ渡ろうとしていることを伝えた。

 あの村の北には勇者サイラスの墓があるのだが、今はただの廃墟で魔物まで住み着いてしまっている。原作では終盤シルバードに飛行機能が付いてからでないと行くことが出来ないので、ここで無視してもまったく問題ない。

 俺の目的はどうにかして海を越え――今のレベルで通用するかわからないが――クロノたちが来るより先に廃墟の魔物を一掃し、自分の経験値にしてしまおうというものだ。あそこの敵はここの奴らより高い経験値をくれるからな。

 だがこの様子では、やはり計画を頓挫させるほかないか?

 

 

「――なるほど。自らを高みへ押しやるために必要だと言うことですな」

 

「そうだ。用意するのが無理ならそれで良いんだが――ガイナーといったな? この地方で強いやつがいる場所はあるか?」

 

「猛者をお求めになられますか。ならば、この先に我らでも歯が立たないような猛者がおります。その者に挑んではいかがでしょう?」

 

「……この先にいる猛者?」

 

 

 なんだ? ものすっごく嫌な予感がするんだが……。

 

 

「ちなみに聞くが、その猛者とやらの名前は?」

 

「ハッ、双子の兄弟でグランとリオンと申します。普段は人の子の姿をしておりますが、それは仮の姿。そしてその強さは間違いなくこのデナドロ山一にございます」

 

「……oh」

 

 

 なんてこった……。ドンピシャじゃないか。

 

 

「すまないが、そいつらは無しだ。理由はいくらかあるが、俺はそいつらと戦う理由がない」

 

「左様にございますか。となれば……残念ながらこの大陸には他に猛者が住まう場所は――――」

 

「待て、ガイナー。 御館様。海を越えさえすればよろしいのでしょうか?」

 

「ん? まあぶっちゃければその通りなんだが」

 

「……マシューよ、まさかとは思うがお主」

 

 

 オルティーの問いにマシューはフッと口元を緩め、それを口にする。

 

 

「船がなければ、作ればよいのです」

 

 

 

 

 

 

「まさかとは思ったが、本当に一から作ろうとするとは……」

 

 

 いや、手段としては確かに有りだとは思うが……本当に大丈夫なのか?

 マシューの提案は自分たちが船を作り漕いでいくので、俺は何もせずにいれば良いとのことなのだが、彼らは船作りの経験はゼロといっていた。

 もしかしたら少し大きなイカダを作る気なのかもしれないが、どちらにせよ不安はぬぐえない。

 

 

「というか、パレポリなら船が出てる可能性があったか?」

 

 

 無論ゲームにはそんなものなかったが、現代ではボッシュが自分の小屋から西の港でトルースを結ぶ定期便が出ているといったのだ。ならこの世界でもパレポリとチョラスを結ぶ船があってもおかしくはないはずだ。

 あくまで推論にしか過ぎないが、かといって無視できるものでもない。

 

 

「……とりあえず、回収するもの回収してから確認しに行くか。あいつらに頼るのは……最後の手段にしよう」

 

 

 出来れば頼りなくないなと思いつつ俺は再び山の奥地へと足を進め、ようやく目的の滝壺にて目当てのアクセサリを発見する。

 シルバーピアス。

 技や魔法の消費MPを半分にしてくれる優秀な装飾品だ。これの上位互換でゴールドピアスというものがあり、そちらは消費MPを25%にまで減らしてくれる非常に優秀なアクセサリなのだが、そっちは残念ながら未来の封印された扉の奥にあるので現在の俺では入手できない代物だ。

 

 

「封印といえば、昔はよくシルバードを回収する前に現代の北の森の遺跡にある『燕』を回収しに行ったな。……このことをそれとなくクロノたちに教えて、海底神殿に行く前に回収させるか? 間違いなく戦力増強の一手にはなるし」

 

 

 あれはすごくいい武器だった。少なくとも海底神殿終了までは主力で使えるし、最強の武器である『虹』を入手するまで使い続けることも出来るんだからな。

 古代の海底神殿で入手できる天王剣より強い上にすばやさが+3という破格性能のおかげで楽に進められたのはいい思い出だ。

 そんな思い出を省みながら下山した俺は再び砂漠を越え、また数時間かけてパレポリ村に到着すると早速チョラスへ向かう船がないかを確認する。

 行動して十数分、それほど労せず船の存在やチョラス村への定期便が出ていたことを確認できた。

 出ていた、というのは現在魔王軍の動向を気にして定期便や漁船が出ないそうだ。

 思わず「ちくしょうめぇ!」と某総統閣下の空耳のような発言が出てしまったが、とりあえず気を取り直して船を出してくれないか各船長に交渉を持ちかける。

 しかしみんな魔物を恐れて船を出そうとせず、結局残された手段はあのフリーランサーたちが作っている船を頼ることだけになってしまった。

 せめてまともな船が出来ることを祈りつつ、今日の疲れを癒すために俺は宿の確保に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 …………一方、尊が下山した後のデナドロ山では。

 

 

「……ねえ、あれどうしようか」

 

「……ドウいたしまショウカ」

 

「いや、まあ……。こっちに何もしてこないなら、無視で良いんじゃないかな」

 

 

 尊の予想より早くにパレポリ村を訪れ、お化け蛙の森で戦友のカエルと再会し、尊と入れ違いでデナドロ山に入山したクロノたち。

 伝説の剣がこの山にあると聞きやってきたのだが、そんな彼らの視線の先には――――

 

 

「キエェェェェェェッ!!」

 

「ホワァァァァァァッ!!」

 

「ヘヤァァァァァァッ!!」

 

 

 ――――山の木を切り倒し、この世のものとは思えない奇声を上げながら一心不乱に大きなイカダを作っている三体のフリーランサーがいた。

 

 

「御館様のためならぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「全力全開なりぃぃぃぃぃぃぃ!!」」

 

「……うん、無視しよっか」

 

「ソウしまショウ」

 

「急ごう。もうすぐ山の最深部のはずだ」

 

 

 反対する意見がなかったので、クロノたちは謎のフリーランサーたちを無視して再び山の奥へと進んでいった。

 




3話まで連投する予定が結局4話まで連投という形になりましたが、いかがでしたでしょうか?
現在第10話までストックがたまっていますので、ストックがあるうちは一日一話のペースで投稿して行こうと思います。

前作以上に皆さんに楽しんでいただけるよう努力しますので、これからも宜しくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。