「――つまり、ここにいる恐竜人はみんな魔物におびえて暮らしていて、出来るだけ表に出ないようにしていたところへ俺たちが魔物を一網打尽にしたと」
あれからぞろぞろと出てきた恐竜人のみなさんに話を聞いたところ、要約すればそういうことだったらしい。
しかもここの恐竜人たちはクロノたちが戦っていた恐竜人とはまた別の一族らしく、クロノたちが倒したアザーラを知らなければラヴォスも知らないときた。
やはりここはサラが言ったように、クロノたちがいた世界とは別の世界と解釈していいだろう。もしかしたら恐竜人が勝利したマルチエンディング――ディノ・エイジから派生した世界なのかもしれないな。
通れるようになった理由は海底神殿が浮上してからだと聞いたから、かなり高い確率でラヴォスが絡んでいるとみるべきか。
頭の隅でそんな考察をしている中、最初に出会った関西弁の恐竜人が代表して答える。
「せや。あんたらのおかげでこの竜の里に平和が戻った。あんたらはワイらの恩人や」
「助けたって言うのは本当に偶然なんだけどな。まあ、平和が戻ったのなら喜ばしいことだ」
「で、これはそのささやかなお礼や。受け取ってくれ」
懐から取り出されたのは小さな紅い玉の中に竜の頭が封じ込められたピアスだった。
「これはドラゴンピアスゆうてな、相手の急所にダメージを与えやすくする力があるんや」
「なるほど、クリティカル率アップと言うことか」
どれくらいの補正があるかはわからないが、いいアイテムであることに変わりはない。
「で、あんたらの腕を見込んでちと頼みがあんねんけど」
「なんでしょう?」
「ほんまに時々でええ。ワイらの頼みを聞いてくれんか? もちろんタダとは言わんで。十分な報酬は用意させてもらうし、そっちとしても悪い話やないと思うんやけど……どうやろ?」
「そうですね……」
サラがどうしましょうと言った視線をこちらに向ける。
長年培ったRPGの経験上、こういった依頼は受けておいて損することはまずない。クリティカル率を上げるアクセサリーがささやかなものなら、これ以上にいいものをくれる可能性は十分にある。
だが今の俺たちはあくまでここの調査が目的だ。依頼を受けるとなるとまた話が変わってくる。
「今回俺たちがここに来たのは調査のためだけだったからな。依頼については他の仲間と相談させてもらう。ま、前向きに検討させてもらうから期待してくれてかまわない」
「ほんまか! 頼むで!」
いい返事をもらえてうれしいのか、恐竜人は嬉しそうに俺の手を取って握手をする。
俺たちとしても得られる報酬は魅力的だからな。それにまだ湿原地帯が未開拓だから他の魔物が出てくる可能性もある。それを考えるとここは黒の夢を攻略する前にできる最後の修行場になるかもしれない。
だったら存分に使わせてもらうとしよう。
俺はサラとエイラを連れてここに来るとき通ってきた光の柱を使い元いた場所に戻ると、プテランを使って時の最果てへと戻った。
◇
時の最果てへと戻ってきた俺たちは全員が揃っているのを確認すると、さっそく恒例となりつつある報告会を開いた。
まず未来へ行っていたロボチームの報告。
「ジェノサイドームは人間を滅ぼすためのロボットを作る工場でした。今は中枢のマザーブレインが破壊されたので二度と稼動することはないです」
「それと、これが太陽神殿で回収した暗黒石だ」
ルッカの報告に続いて魔王がサッカーボールほどもある真っ黒な丸い石を取り出す。俺はそれを受け取り、一つ頷く。
「こいつは原始から未来まで存在する光の祠って場所に安置すれば力を取り戻す。そしてそれは現代で作る新しい武器に必要不可欠な素材となる」
新しい武器と聞いて現代組の3人が目をキラキラと輝かせる。おそらく自分たちの武器になるのではと期待しているのだろう。
その光景に苦笑しながら、続いて現代で活動していたクロノチームの報告を聞く。
「虹色の貝殻は無事に回収されて、ガルディア城の家宝として奉られていました」
「あと虹色の貝殻を利用して父上を陥れようと大臣に変装してたヤクラ13世を倒しましたよ」
変装って、あれは普通に化けてたって言うべきじゃないのか?
まあマールも父親と仲直りしたしヤクラも倒されたしよしとするか。
「ところで本物の大臣が宝箱に押し込められてたと思うんだが、助けてやったか?」
「助けることには助けたが、しばらく宝箱の山は見たくないな」
カエル曰く、大量の空の宝箱が置かれた部屋の一番奥の鍵つき宝箱に押し込まれていたとのことだ。
木を隠すなら森、宝箱を隠すなら宝箱の山ということか。しかし中身は空ばかりで唯一の当たりが爺さんだけとは、虚しさしか残らないな。
「さて。最後に俺たちが向かった先についてだが、こちらに友好的な恐竜人がいた」
俺の発言にサラとエイラ以外が怪訝な顔をし、俺はあそこでの出来事を順に説明してそこでの有用性を説く。
「なるほど。黒の夢を攻略する前にそこでの依頼をこなしつつ修行をするということか」
「しかも強くなれる上に強力なアイテムがもらえる……おいしいわね」
魔王が目的を要約し、ルッカが利点を上げて全員が納得する。
「じゃあ中世のゲートも同じものなのかな?」
「位置情報に大きな誤差はありマセン。可能性は高いデショウ」
「なら二手に分かれて調べに行く……で、どうでしょう? ミコトさん」
話を振られて俺は思考する。
中世の調査に向かうこと自体は全然構わないんだが、俺としては暗黒石を手に入れた今、先に回収できる装備を揃えておきたい。虹とか虹のメガネとか……ああ、そのとき一緒に俺たちが確保した虹色の貝殻で防具を作ってもらうのもいいだろう。
となると、俺がついて行った方が後々効率がいいか? 竜の里は残り二組ローテーションで動けば一組は休めるし、暗黒石を太陽石に戻したあとはまた3組で行動できる……これで行ってみるか。
「先に暗黒石を太陽石に戻したい。俺が案内を買って出たいんだが、この作業にはシルバードが必須になってくる。そうするとゲートホルダーの都合上、活動できる組が一つになってしまうわけだが、残った二組はローテーションで原始の竜の里の依頼を受けて欲しい」
「ローテーションにする理由は何だ?」
「交代で回れば一組は休めるだろ? 太陽石にさえ戻せればシルバードはフリーになるから、それ以上俺が乗る理由もない」
「ミコトさんがシルバードに乗るのはこの一回だけってことですね」
「そういうことだ。それで組み合わせだが、まず俺と同行してもらうのがクロノとルッカ。サラと魔王、ロボは休んでもらって残りはエイラを案内役として竜の里へ――――」
「ミコトさん」
「ん? どうした、サラ」
発表中に突然呼ばれたかと思うと、サラが寂しそうな目でこちらを見ていた。
「私を置いて、行くのですか?」
ズギュゥゥゥゥゥン!
そんな彼女の仕草が、俺のハートにクリティカルヒットした。
胸を抑え込み、バクバクと脈動する心臓を必死に抑え込もうとする。
なんだ、なんだこの罪悪感と寂しそうな表情の破壊力は!? あまりの威力に心の中で即死しかけたぞ!?
ヤバい! この状態で何かお願いとかされたら俺はもう――!
「お願いです、私も連れてってください」
「同行者はサラとルッカだ。クロノは休んでくれ」
即答するしかないじゃないか。
あまりの手の平返しに一瞬呆然とした魔王が、その言葉を理解した瞬間抗議の声を上げる。
「――き、貴様! そんなあっさりと姉上に同行を認めていいのか!? 休ませるために残ってもらおうとしたのではないのか!?」
「うるせぇ! 俺だって連れていきたいの我慢して休ませたかったけどな、彼女にこんな顔でお願いされたら断れるわけねーだろ!」
「おお、開き直った」
「黙れ両生類! 姉上! あなたも少しは自分を労わって――「ジャキ?」――……ミコト、くれぐれも姉上に無理をさせるなよ?」
サラの一言と邪魔をするなと言いたそうな視線に屈した魔王が納得いかない様子で俺に釘をさす。
うん、言いたいことはなんとなくわかるが、従った時点でお前の負けだ。
こうしてシルバードの操縦をルッカに頼み、俺たちは太陽石を手に入れるべく原始へと向かった。
◇
「――それなりに時間がかかったはずなのに、もう終わった感じがするのはなんでだろうな」
きっと世界の意思か何かでまたキングクリムゾンが発動したのだろう。まあ特に大きな問題もなかったからいいけど。
ただ中世で買って保管していたと思ったハイパーほしにくがなかったことに若干焦った。
今にして思えば、初めてチョラスからパレポリに戻るとき何らかの理由で食べ損ねていた気がする。
結局、原作通り現代のまきがい亭でハイパーほしにくを購入し事無きを得たからよしとしよう。
さて、現在俺たちはと言うとルッカの家で暗黒石から元のエネルギー溢れる状態に戻った太陽石を使って武器を作ろうとするルッカの姿を見学していた。
「太陽石のエネルギーを扱いやすいパワーに制御して…………真空カートリッジにパッケージング……」
何やら聞いたことのあるセリフを呟きながら俺たちにはよくわからない装置をいじくりまわすルッカ。
すると突然、装置から光の柱がエネルギーと共に漏れ出した。あまりにも異様な光景に思わずサラを後ろにし固唾をのんで見守るが、やがて光が収まるとルッカは満面の笑みで装置から一つの銃を取り出した。
「完成したわ! これぞ太陽石の高エネルギーによって誕生した『ミラクルショット』よ!」
高々と宣言しクルクルと回りながらポージングを取ると、最後にビシッと決めて心底幸せそうな顔になる。
「ん~~~~、シビれるぅ……」
「……楽しそうでなによりだ」
しかし良く自分にとって未知のエネルギーであるはずの太陽石を扱えるな。原作やってる間は流石と思っていたが、実際に目の当たりにするとルッカは本当にチートスペックをもらってこの世界に来た転生者じゃないのかと思いたくなる。
などと思っているといつの間にかタバンがやってきて、太陽石を元に何やら装置を動かしていた。
「見ろルッカ! わしも負けずに太陽石を拝借して作ったぞ!」
そう言って高々と太陽のメガネと思しき物を掲げるタバン。うん、原作と同じなんだからこれ以上考えるのはよそう。
「お二人ともすごいですね……。ジールと比べて劣る環境であれほど的確に太陽石を制御させられるなんて……」
「リコッタと会せたらどうなるか見てみたい気もするが、とんでもないことを成し遂げそうな気がしてならないな」
あの子もチート転生者と言われてもおかしくないほどの才女だからな。そこへルッカを掛け合わせたら一体どんなトンデモメカを作り出すのだろう……。
ともかく、これで太陽石のイベントはボッシュに加工してもらうのを残すのみだ。
一先ず時の最果てに戻って切り取った虹色の貝殻を回収して、それからガルディア城にいるボッシュのところへ持っていくか。
そう予定を立てて一度シルバードで時の最果てへと戻り、ちょうど残っていたクロノ、マール、カエルの三人に同行と運搬の協力を頼む。
ちなみにクロノは竜の里に行っていると思っていたが、なんでもあれからいくつかの依頼をこなし、その間メンバーを組みかえていたら今の状態に落ち着いたとのことだ。
まず俺とクロノとカエルでグループを組み、虹色の貝殻をリーネ広場の外まで運ぶ。無論、そのまま持ち出したらあまりに目立つため布をかぶせてルッカの発明品を運んでいるという事にする。
外に運び出したらシルバードで待機していたルッカ、マール、サラとメンバーを入れ替え虹色の貝殻をそのままシルバードに括りつけて城の前まで運ぶ。
貝殻だけでも相当な重さがあるので、重量オーバーを考慮してクロノとマールに城の方へ先行してもらう。残ったメンバーは徒歩で移動。
それだけの行程を経てようやくガルディア城にたどり着き、俺たちは男のメンバーで貝殻を担いでボッシュのいる宝物庫へ足を向かう。
道中に恐竜人の依頼で黄金のハンマーと虹の原石というものを手に入れたと報告を聞いていると、やがて大きな扉の前に来た。
マールが押し開いた先に、以前見たときと変わらぬ姿のボッシュがそこにいた。
「ボッシュ! ちょっとお願いがあるんだけど!」
「ん? おお、マールのお嬢ちゃんか。なんだか大人数じゃっ!?」
突然、ボッシュは言葉を切って信じられないものを見たとばかりにわなわなと震えだした。
その視線の先にいたのは――彼からすれば――海底神殿以降行方不明となっていたサラだった。
「息災でなによりです、ボッシュ」
「さ、サラ……。お、お主、生きとったのか……」
「はい。ミコトさんのおかげで、うまく海底神殿から抜け出せました」
「そ、そうか……。本当に……うっ、良かった……」
涙声でサラの手を取り、感触を確かめるように何度も握る。
サラの無事を喜ぶボッシュを一同が見守っていたその時、
「――ムッ!? グランドリオンが!?」
今度はカエルが携えていたグランドリオンが輝きだし、剣に宿っていたグランとリオンが姿を現す。
「あー、やっと姿を出せたね。兄ちゃん」
「ああ。最初の時はタイミングが悪かったからな」
「グラン! リオン! あなたたちも無事だったのですね!」
唐突に現れた二人の顔なじみにサラは驚きながら声をかける。
二人は本来、俺と一緒に最果てに現れたときに実体化して喜びを分かち合おうとしたのだが、先にサラが魔王と抱きしめ合い、続いて俺の身の上話が入ったため出るタイミングを見失っていたそうだ。
もしこの場がなかったらこいつらはいつ姿を見せたんだろうか……。
そんなことを考えているとグランとリオンがこちらに歩み寄り、満足そうな笑みを湛えていた。
「約束を守ってくれたね、シド」
「守れなかった罰として報復を受けるのが怖かったからな」
「そういうことにしておくよ。これからも頼むよ」
それだけ言い残し、二人は再びグランドリオンとなってカエルの手に収まる。
言われずとも、と心の中で返しておき、俺は貝殻の布を取り払い太陽石を取り出しながらここに来た本来の目的をボッシュに伝える。
「ボッシュ。あなたの腕を見込んで頼みがあります」
「皆まで言わんでいい。持ち込んだそれらを見たらわかるわい。――で、お主はその持ち込んだ貝殻で何を作って欲しいんじゃ?」
「話が早くて助かります。これだけの素材で、状態異常を無効化にする防具かアクセサリーを作ってください。ただし、太陽石は先にそっちの大きい貝殻と掛け合わせてください」
「ふむ。これだけの素材でか……。ならば先に太陽石を使わせてもらうぞい」
キンキンキン! ガガガガガガガガガッ! プシューッ……。
俺から太陽石を受け取ったボッシュは目にもとまらぬ速さで巨大な虹色の貝殻を加工し、太陽石と掛け合わせて二つのアイテムを生み出す。
「出来たぞい! 攻撃力を超強化する『虹のメガネ』と、ワシが作った中でも最強クラスの武器『虹』じゃ! クロノ、持っていくとええ」
「サンキュー、ボッシュ!」
嬉々としてクロノが『虹』と『虹のメガネ』を受け取ると、ボッシュは俺が持ってきた素材の状態と大きさを確認し、何度か頷いて顔を上げる。
「それでミコトや。これならば今お前さんが装備しているプラチナベストより強力な『プリズムベスト』と、魔法の威力の底上げと状態異常を無効化にする『虹のリング』が二つ作れるぞい」
「十分すぎます。それでお願いします」
「まかされた。ならば早速……」
キンキンキン! ガガガガガガガガガッ! プシューッ……。
さっきと同じような勢いで見る見るうちに虹色の貝殻を加工して行くボッシュ。最後に残ったのは一着のベストと二つの指輪だった。
「出来たぞい! 特にこのリングは自信作じゃ! さあ、持っていけ!」
「ありがとうございます。 まずはサラ、この指輪を持っていてくれ。効果はさっきボッシュが説明してくれた通りだ」
「わかりました」
ベストと指輪を受け取り、まず指輪の一つをサラに渡す。
俺は今装備しているプラチナベストを脱いて倉庫にしまい、受け取ったベストを身につける。ステータスで確認してみればプラチナベストの時より防御力が10も高く、魔法のダメージを軽減するオートバリアが付与されていた。
残った指輪は……俺が装備するか。状態異常の耐性も欲しいし。
そう考えて指にはめようとしたところで、ふと気付く。
――これは、サラとペアルックになるのか?
見ればサラは嬉しそうに左の薬指にぴったりのリングをはめており、マールやルッカが羨ましそうにそれを眺めていた。
……薬指に、ぴったり?
「まさか……」
ゆっくりと虹のリングを自分の左の薬指にはめると、見事にぴったりと収まった。
……ボッシュの爺さん、もしかしてここまで見越してリングを二つ用意したのか? そんなことを思うと、親指を立てたボッシュが脳裏をかすめた。
だが、このままつけて行けば魔王に見つかった時が恐ろしすぎる……。一先ず指輪を倉庫にしまい、必要な時に装備するとしよう。
しかしそんな浅知恵も数分後にはサラとマールたちの視線によって屈することになるなど、この時俺は知る由もなかった。