シルバードに乗り込んだクロノたちのおかげでティラン城跡地のゲートと古代の小さな洞窟にあったゲートが時の最果てとつながり、最果てで待機していた尊たちはそれを使って古代へと移動。
そして残された村で使われている船を一隻借り受け洞窟のある孤島から移り、黒の夢に突入するための足を確保するべくダルトンがいる広場にやってきていた。
「――つまり、あの女王をぶっ飛ばしに行くのに黒鳥号を使いたいってことだな?」
「ああ。シルバードでは運ぶ人数に限界があるし、確実に乗り入れるのならあれが確実だ」
魔王の言葉を聞いて納得したのか、ダルトンは空に浮かぶ黒の夢を一瞥する。
「事情はわかった。俺たちとしてもあんなのが一生頭の上にあるってのは気に入らないんでな。足代わりくらいなら協力させてもらうぜ」
「ありがとうございます、ダルトン」
「しかし、良いんですかい? お二人は実の母親を……」
「母が世界の滅亡を促そうと言うのなら、それを阻止するのは子の役目だと思いませんか? それに暴走した母を野放しにさせては、先立った父も悲しみます」
サラの言い分に複雑な心境を抱くダルトンだが、止められないと悟ったのか両手を挙げて降参の意を示す。
「わかりました。俺たちは精いっぱいのサポートをさせていただきますよ……おい!」
「ハッ!」
「聞いての通りだ。黒鳥号を動かせるように調整しとけ!」
「ハッ、直ちに!」
控えていた兵士たちが敬礼とともにその場を去り、ダルトンの視線が尊に向けられる。
「で、突っ込むからには間違いなく勝算はあるんだろうな?」
「もちろんです。俺の情報に間違いなければ女王を相手にするまで苦戦するような敵はいませんし、魔神器に対するカウンターもこちらの手にあります」
「なら、俺からはもう何も言わねえ。頼んだぜ、お前ら」
自信満々に帰ってきた言葉に満足したのか、ダルトンも作業に加わるべくその場を後にした。
「これであとは準備が整うのを待つだけだが、俺は最後の戦力を呼ぶため一度中世に向かう。誰か一人、シルバードを操縦できる奴がついてきてくれ」
「最後の戦力?」
頭に疑問符を浮かべるクロノだが、すぐに尊が呼ぼうとしている人物にたどり着く。他のメンバーも同じ結論に至るのだが、同時に気がかりな部分もあった。
「あいつらを呼ぶのは別にいいが、向こうは大丈夫なのか?」
「俺が知ってる本来の内容だったら、元々あいつらはいなかったんだ。それにこれが最後の戦いなら、手札はあるだけだした方がいい」
尊の言い分に納得し、クロノがシルバードの操縦を担当することになり二人は一路中世へと向かった。
「ナルホド。あの時ミコトさんが来たのはこのためでシタカ」
一人、別の理由に合点がいったロボはそうつぶやくのだった。
◇
「――全員、準備はいいか?」
空を飛ぶ黒鳥号の翼の上で俺はこの場にいる全員に声をかける。
今この場には最初からいたクロノたちに加え、先ほど中世から連れてきたガイナーたちもいた。
こいつらには魔法を中心とする後衛メンバーの直掩に当たってもらうだけでなく、いざという時は前線に出て敵を叩く遊撃の役割を担ってもらうつもりだ。
必要なのかと疑問に感じるかもしれないが、ゲームと違って何が起こるかわからないので対応させる時の手段は多く用意しておきたかった。
結果として原作の4倍の戦力で攻めることになった今回の黒の夢攻略。負ける気はしないが、油断せずに行こう。
『カウントダウン、始めるぞ!』
黒鳥号の外部スピーカーからダルトンの声が響き、俺たちは目の前に近づく桟橋に意識を集中させる。
『5!』
クロノ、カエル、エイラ、ロボがいつでも動けるように身構える。
『4!』
ルッカと魔王が得物を握り、俺はすぐにサンダガを撃てる準備をしてタイミングを待つ。
『3!』
ガイナーたちがサラたちを守るように展開する。
『2!』
ガイナーたちに守られるサラ、マールが装備を確認し、飛び乗る準備をする。
『1!』
桟橋が近づき、黒鳥号の翼が真横に着く。
『ゼロ!』
「総員、飛び移れ!」
俺の声を合図に全員が一斉に桟橋へと飛び移る。同時に侵入者を迎撃するレーザーサイトが起動し、こちらに照準を合わせる。
「『サンダガ』!」
撃たれる前にあらかじめ準備しておいたサンダガを放ち、レーザーサイトを一掃する。他に砲門がないことを確認すると、続いて全員の無事を確認する。
問題なく跳び移れたことを確認し、最終確認をする。
「最後の確認だ。まず全員が共通して全状態異常の耐性を徹底すること。これのあるなしで優位性が圧倒的に違うからな。次に陣形。前衛のクロノ、カエル、エイラ、ロボは物理攻撃を中心に頼む。状況に応じて魔法を使う必要があればその都度指示を出すが、基本的には前で自由に戦ってくれ」
「わかりました」
「中衛の俺と魔王とルッカは攻撃魔法を中心にした援護攻撃を行う。ただ俺は武器の特性上、必要になったら前に出る」
この面子においてそんなことはそうそうないと思うが、精神コマンドの恩恵がある以上、ここぞと言う時に前に出て戦うのは決して間違いじゃないはずだ。
「ガイナーたちは後衛の護衛をしつつ臨機応変に動く遊撃として行動。後衛のサラとマールは回復や補助魔法で全員のサポートを頼む」
「「「承知」」」
「お任せください」
「最後に黒鳥号の中で決まった通り、戦闘の指揮は僭越ながら俺が取らせてもらう。なお、不測の事態に陥った場合はクロノに譲渡する」
この攻撃の指揮と言うのは移動中に陣形を決めている際、クロノが提案したものだ。
敵の情報を知り尽くしている俺が指揮をしてくれるならやりやすいと推薦し、それに全員が同調したことで決定した。
推薦されたときこそ戸惑いはしたが、たしかにこれだけ人数がいるのに全員が必要以上に動くのはかえって危険だと判断しその任を引き受けた。
「よし。立ち塞がる敵は突き破り、襲ってくる敵は弾き飛ばす。狙うはラヴォスを狂信するジール唯一人だ。奴を下せばあとはラヴォスしかいない! 行くぞ!」
『おおっ!』
唯一の扉を開き、黒の夢に突入する。どことなく海底神殿に似た作りの内部は見上げれば上層へと続く吹き抜けが存在し、多くの通路が区画をつないでいた。
突入して数分、少し広い場所に出るとともにそれは聞こえた。
「虫けらどもが! またも、わらわに逆らうつもりか!」
「っ! こ、この声は!?」
目の前で一条の光がたちのぼり、一人の女性が姿を現す。
「――ジール!」
憎しみをこめて魔王がその名を告げる。ジールは魔王を一瞥すると、視線を俺に合わせた。
「予言者といいお主といい……。わらわに刃向えば無駄に寿命を縮めると言うことを理解せんとはな」
「自分の子供を容易に切り捨てる人間の考えなんて理解したくもないがな」
「当たり前だ。ラヴォス神の偉大さを理解しないものなどゴミ同然なのだからな」
「母上! ラヴォスは危険なものです! もうこれ以上は……!」
「サラ……ラヴォス神に刃向かうならばお主もわらわの敵。もう娘でも何でもない、何処へなりと失せるがよい」
娘ではない。
こういう展開も予想はしていた言葉だがやはり直に言われては堪えるらしく、その言葉にサラは動揺して僅かに体を震わす。そんなこともお構いなしにジールは高々と言葉を紡ぐ。
「わらわは永遠の命を手に入れた! ラヴォス神とともに永遠に生き続けるのだ! ラヴォス神は地中でゆっくりと星を喰らい力を蓄え、14000年後に星を滅ぼし世界の王となられるのじゃ!」
「そんなことはさせない! そのために俺たちはここまで来た!」
「滅ぼした世界の王……なんとも滑稽な王だな、ジールよ」
クロノが啖呵を切り、カエルがラヴォスを滑稽な王と揶揄するが彼女の笑みは収まらない。
「フォフォフォ……ラヴォス様に嫉妬する弱者の戯言よの。この黒の夢はラヴォス神へとつながる道……わらわに無限の力を与えてくれる神殿じゃ。お主たちの求める未来なぞこの奥におわすラヴォス神があられる限り望むべくもないわ!」
「さっきからラヴォス、ラヴォス、ラヴォス……。そんなものに頼らなければ、お前は何もできないただの人間でしかないんだがな」
「……なに?」
何もできないただの人間という言葉が気に障ったのか、ジールは睨むようにこちらを見た。
「実際そうだろ? ラヴォスという信仰対象がいて初めてお前は自分を保てるんだ。狂信的な奴ほど崇めるべき存在を無くしたときの姿は醜いものだ」
「面白いことを言うのぉ……。お主ごときががわらわやラヴォス神を倒せるなどと、本気で思っているのか?」
「俺がラヴォスを倒す? お前の方が面白いことを言うな」
不敵に笑い、俺は震えているサラを支えながらサテライトエッジを突きつける。
「俺たちはラヴォスという星に取りついた病原菌を殺しに来たんだ! 腰ぎんちゃくのおばはんなんてただのオマケにすぎないんだよ!」
ビキィッ!!
俺のおばはん発言にジールの額に青筋が走る。おぉ~、年増の顔がさらにひどくなってもうコワイコワイ。
「よかろう……最早貴様らを生かしてなどおくものか! 貴様ら全員、ラヴォス神への生贄となるが良い!」
ジールが腕を払うとともに奴の背後の空間から巨大な何かがにじむように現れる。
黒の夢第一のボス、メガミュータントだ。
「フォフォフォ! 貴様らごときこのメガミュータントの前では――」
「クロノ! 魔王! ルッカ! 最大火力発射!」
「『シャイニング』!」「『ダークマター』!」「『フレア』!」
俺の声を合図に三人が自分の持ちえる最強魔法を叩きこむ!
メガミュータントは出現と同時に放たれた攻撃を何もできないまま一身にくらい、そのままあとかたもなく消滅することとなった。
「――こいつの前では、なんだって?」
神経を逆なでするような問いかけにジールは醜く表情を歪め、射殺さんとばかりに俺を睨みつける。
「……フン、少しはやるようだが、あれはわらわの手駒の中でも最弱のものじゃ。それを倒したくらいでいい気になるでないぞ」
「はっ、似たり寄ったりの力しかない手駒をいくら嗾けようと結果は同じだ。 それと、これは個人的な話になるんだが……」
すっかり震えが収まったサラに一度目をやり、しっかりと抱きよせる。
「お前がサラをいらないというのなら、遠慮なく頂いてもかまわないな?」
「ほう……情でも移ったか?」
「いや、いくらさっき親子の縁を切ったとはいえ、未来の旦那として彼女を貰っていいかの最終確認だ」
「……なに?」
あまりにも場違いな言葉に一瞬呆けるジールだが、その言葉の意味を汲むとジールは心底おかしそうに笑いだす。
「フォフォフォフォ! お主たちはそういう仲なのか! つまりお主はサラを嫁として迎えると言ってるのだな!?」
「ああ。サラは俺のものになる……かまわないな?」
「良いだろう! だがどうあがこうとこの黒の夢でラヴォス神の生贄になると言うことを忘れるでないぞ!」
そう言い残してフェードアウトして行くジール。さっきのやり取りでサラの装備――アウルさんのローブを纏っているにもかかわらず何の反応も見せなかった様子から、やはりもうあの人のことは頭の中から綺麗になくなっている可能性が非常に高い。
次に相対するのは最深部に辿り着いてからだから、今度はそこで確かめるとするか。
サテライトエッジを格納しもう一度サラへと向き直ると、彼女は頬を染めてこちらを見上げていた。……うん、どう考えても最後の啖呵が原因だよな。勢いでいったとはいえ、正直俺も恥ずかしかったのが本音だったりする。
「……まあ、そういうことだから。必ず生きて帰るぞ」
「……はい」
自分でこんな空気を作っておいてなんだが、改めて負けられない理由ができた。
周りを見れば一人を除いて全員が温かい目でこちらを見ていたが、この際無視しよう。
「流石御館様。このような時でもサラ様のことをお考えになられていたとは」
「愛する人のためなら何でもできると聞いたことがあるが、まさかその一端を垣間見ることが叶うとは」
「これこそ
「貴様が姉上の嫁だなどと、俺は絶対に認めんからな!」
……なんかいろいろ聞こえる上に混乱しているのかおかしなことを口走ってる奴がいるが、それについてはもう終わった後考えるとしよう。