ヌゥの部屋でアイテムの補充と束の間の休息を取り攻略を再開した俺たちだが、目の前の敵に少し気が滅入っていた。
「確かにファットビーストが出てくるポイントだけどさ、なんでダイゴローが随伴してるんだよ……」
通路を塞ぐ三つの巨体。特に鋼鉄のボディーを持つ二体はエレベーターで戦ったのと同様とりわけでかく、相手をするのが面倒臭くなること請け合いだ。
しかもさらに小型の敵もそれなりにいるので鬱陶しさはさらに2割増しである。
「……まあいいや。 全員、少し下がってくれ。新しい力を試す」
当初の予定とは若干違う形になったが、ここまで敵がいるのならむしろ好都合かもしれない。
新しく得た精神コマンドの効果を確かめるべく、全員の前に出てそれを発動させる。
「――『覚醒』!」
体の奥が急に熱くなり、視界がスローモーションになる。なるほど、使った瞬間はクロックアップしたようになるのか。続けて敵を一掃すべく、全体魔法を唱える。
「『サンダガ』<サンダガ>!!」
サンダガを唱えた瞬間――どういう理屈かは不明だが――俺の声が二重に重なる。おそらくこれが魔法を唱えた場合の連続実行の現象なのだろう。
4倍の威力を持った二つのサンダガが同時に放たれ、エレクトリッガーを放ったような轟音が響く。
サンダガなのにクロノのシャイニングのように空間が閃光で包まれ、光が収まった後には何も残ってはいなかった。
「……ミコトさん、今のは一体……」
「俺の新しい力の効果だ。MPをバカみたいに食うけど、ダメージを4倍に押し上げるうえにそれを2回連続で実行するってものだ」
その回答に質問したクロノだけでなく、一部を除いた他の面々も信じられないといった様子だった。
まあ、本来の『覚醒』の効果を知ってる俺からしてもこんな力は信じられなんだけどな。
ちなみに、その一部を除いた面々はというと――――
「さすが御館様。新たな高みへとまた一歩進まれましたか」
「これは我らも負けてはいられんな」
「うむ、予てより訓練してきた連携をお見せする時が来たようだ」
「フン、あの程度なら俺と姉上の連携をもってすれば……」
「ジャキ、素直にミコトさんの力を認めなさい。私たちでもあそこまでは無理ですよ」
家臣たちは新しい技のお披露目を計画し、魔王は対抗意識を持っているようだがサラに現実を突きつけられてどこか悔しそうにしていた。というか、また新しい連携を身につけたってのか俺の家臣たちは。
気を取り直して攻略を再開すると本来ダイゴローが出てくるはずだった場所ではその姿はなく、エィユーの盾と今までの区画と比べたら比較的小数の敵が詰めているだけだった。
無論こんなところで苦戦などするはずもなく、道を塞ぐ敵のみを排除してどんどん奥へと突き進む。
さまようものとたゆとうものが多数いる部屋ではデイブやプチアーリマンもいたが、魔法や技、アイテムが使えない状況では面倒以外の何者でもないので強行突破。
ブラックサイトとプチアーリマン、そしてファットビーストとダイゴローが出現するエリアも問題なく突破しついにたどり着いたのは――――ゲテモノ出現エリアだ。
「うわぁ……確かに気持ち悪い」
マールの一言に全員が同意し、改めてターゲットを見据える。
竜の里の洞窟に出てきた紫の奴の色違い――あれがノヘだろう――に加えて、形容しがたい容姿のカズー。
ビジュアル的にも嫌悪感を抱かざるを得ない敵が広いフロアに散在していた。
「最短距離で突っ切るぞ。道を塞ぐは容赦なく蹴散らしてくれ」
中衛と後衛で『反作用ボム』や『ミックスデルタ』などの連携魔法を多用して雑魚を一掃し、討ちもらしを前衛と遊撃が確実に殲滅する。
さまようものとたゆとうものについてはオールロックを受けるのが面倒なのでスルーし、カズーとプチアーリマンの群れを新しく考えた四つのアイスガによる連携魔法『アイスエイジ』で始末したところでラストエリクサー(エリクサーと比べ青い光を放っている)の宝箱を発見し回収。
そうしてゲテモノエリアを突破すると、急に何もない空間へと抜けた。
確かここは、と思う間もなく空間が歪み、メガミュータントの色違いが出現し通路の先を塞ぐ。ということは、こいつがギガミュータントか。
「『勇気』。サラ、クロノ、魔王、連携だ」
最早お馴染みとなりつつダメージ増加&防御無視の『勇気』を付与しながら指示を出し、作業の如くダメージを強化した『エレクトリッガー』をお見舞いしてやる。
別に最強魔法で圧殺してもいいが、メガミュータントのときのようにジールに火力を見せ付ける意味もないし、無駄にMPを使うので連携のダメージを強化することで消費量をセーブしておく。
直撃を受けたギガミュータントは奇声を発したのを最後に霧となって消滅し、塞いだ道を明けた。
「ものすごいあっさりと倒しましたけど、あれ絶対普通とは違う出来ですよね?」
「まあな。あのギガミュータントは物理に対して異様に強く、こちらを一瞬で瀕死の状態に持っていく技を持っていた」
「ならばそれを喰らう前にあの一撃で葬れたのは僥倖だった、ということですな」
ライフシェイバーを恐れていたわけではないのでマシューの言うように僥倖というわけではないが、一撃で倒せたのは本当に偶然だろう。
俺の見立てでは――精神コマンドで強化していたとはいえ――あの一発のほかにもう一撃くらいいるだろうと踏んでいた。
だからあの後マール辺りに魔法を使ってもらおうとしたのだが、結果はあの通り。
補正が強かったのかあれが本当に弱かったのかはともかく、残る中ボス強雑魚はあと2体だ。距離も近いし、さくさく殺ってしまおう。
移動しながらHPとMPの回復を図り、ふたつ目のエレベーターの連戦をこなしていく。
もはや襲ってくる敵で苦戦することなどなく、最後の雑魚ラッシュも連携で難なく突破。
そして最後のミュータントであるテラミュータントの元へたどり着いたわけなんだが――――
「お前たちはドラクエ8のトリプルブルーメタルかよ……」
目の前でテラミュータントの上半身を滅多切りにしているガイナーたちを見て、思わずキラーマシンのジェットキラーアタックを彷彿していた。
動きを簡潔に説明するなら三人が同時にクロノのようなみだれぎりを使用し、その動きの速さはまるでヘイストをかけているかのように早い。これでさらにヘイストがかかったらもうトランザムかNT-Dみたいな動きになりそうだ。
それはそれで見てみたい気もするが、何故か越えてはいけない一線のように感じるので自重しよう。
ともかく、どうしてこんな状況になったのかといえばテラミュータントの特性を説明したことに起因する。
下半身は物理も魔法も効き目がないが両方ダメージが通じる上半身さえ仕留めれば問題ないと説明したところ、ガイナーたちがどうしても俺に見せたい技があるということで注意点を把握してもらい、残りは回復などのバックアップへ回ることに。
攻撃が始まるとまずガイナーが今のような圧倒的疾さで斬撃を繰り出し、彼が終わればマシュー、オルティーと続き最後に今の三人同時攻撃の状況へとなった。
しかも攻撃を仕掛ける前に彼らの武器の性能が白銀剣くらいしかないとことが判明し、クロノが使っていない自分の刀(朱雀、鬼丸、燕)を提供。これにより一撃が今までとは段違いなものとなり、水を得た魚どころか大海を得た鮫のようにテラミュータントへと喰らいついた。
「「「――極技・風神ノ舞!!」」」
連携の締めなのか、技の名を叫びながらひときわ高く飛び上がると三人が同時に弧を描くかまいたちを放つ。
テラミュータントは猛攻に耐え切れなかった上半身が消滅し、下半身もそれに釣られるように消滅する。
「またつまらぬものを斬ってしまった……」
鞘に朱雀を収めながらガイナーが以前ネタで教えた某斬鉄剣所有者の言葉を口にする。
いや、確かに今の俺たちからしたらちょっと強い雑魚と言ってもいいやつだが、仮にもミュータント系最強の敵だったはずだぞ?
それを一度の連携で撃破……三柱神の異名を垣間見た気がするぞ。
「クロノ殿。これはすばらしい業物ですな」
「こちらの燕など所有しているだけで自身の素早さを底上げしているので非常に行動が楽でした」
「あ、ああ。気に入ったならそのまま持ってて構わない。ここでわざわざ武器のグレードを落とす必要もないだろうし……あのかまいたち、俺の知ってるかまいたちと違う……」
口の端を引きつらせながら使わなくなった武器を譲ったクロノだが、目の当たりにした技が信じられないらしくレイプ目になっていた。うん、その気持ちはすっごいわかるぞ。
「……と、ところでミコトさん。母上の元まであとどのくらいですか?」
「あー、あとプチラヴォスを強化した個体とウォールを倒せばすぐだ。プチラヴォスの倒し方は殻を無視してひたすら口を叩くだけだが、殻へダメージを与えるのを避けるため出来るだけ物理攻撃で攻める」
プチラヴォスの対策については実際に戦ったことのある魔王やマールたちからすれば今更のようだが、初めて対峙するクロノはレイプ目から復帰してうんうんと頷いていた。
一方。プチラヴォスと聞いてサラの表情が若干険しいものとなった。おそらく、フロニャルドの出来事を思い出したのだろう。
「まあ強化してある個体といっても、俺が知っている状況と比べればはるかに戦力が充実しているんだ。負ける要素がない……一気呵成でケリをつけるぞ」
「そうなればいよいよ、ということか……」
ジールが近いことを想像しているのだろうか、魔王は口に手を当ててなにか考えるような仕草をする。それに釣られたのか、サラもなにかを考えるような表情をしていた。
「ミコト。ジールが目と鼻の先というのなら、先に奴の情報を教えてくれないか?」
「了解だ」
カエルの提案を受け入れ、ジール戦における注意点と対策を記憶から掘り返す。
「まずジールとは2回戦うだろう。その一回目では敵を一瞬にして瀕死に追い込むハレーションという技を使い、MPを吸収するデスキッスとエネルギーボールによる物理攻撃しかやってこない」
「え? たったそれだけなんですか?」
「この時点で奴はまだ本気を出していないからな。手抜きであることを考えればむしろ妥当だ。で、魔神器との戦いをはさんだ二回戦では本気モードとして顔と手だけになって襲ってくる」
「顔と手だけ……想像できまセンネ」
ロボがシミュレートを試みたようだが、うまく反映できなかったようだ。
まあ、あれは実際に見てみないと状況がわからんな。
「第2形態も両手を無視して顔を集中攻撃すれば問題ない。注意する技については移動しながら説明するとして、まずはプチラヴォスを狩りに行くか」
一先ず目先のボスを倒すという目標を掲げ、俺たちは先へと進むことにした。
黒の夢の残敵もあとわずか……ここが正念場だ。
◇
「うおおおおおおっ!!」
クロノのみだれぎりが炸裂し、プチラヴォスRは断末魔の叫びを上げると霧となって消滅する。
普通の個体と比べて大幅に強化されているとはいえ、やはり殻を無視すれば苦戦するような相手ではなく、結果大きなダメージをもらうこともなく勝利した。
原作だと色仕掛けでプロテクトメットやヘイストメットが手に入ったんだが、ダブル色仕掛けを使っても何も得ることはなかったところを見るとやはり色仕掛けは万能ではないみたいだ。
「まあ、手に入らないのならそれでいいか。 さて、俺の知っている通りならこの先にいるウォール5体を倒せばすぐにジールが待っている」
「女王を守る最後の壁があれとは……。あのプチラヴォスで仕留められると思っていたのか?」
ここまで散々破壊してきた壁が最後の障害と聞き、カエルが呆れた風につぶやく。まあ、わからんでもないがな。それこそこのプチラヴォスが最後の壁としては適役だったはずだし。
しかも原作ではセーブポイントを出すウォールだが、そんなシステムが存在しないこの世界では余計に存在価値がない。そう考えると、なんかものすごい哀れだ……。
そんな考察をしながら件のウォールを破壊し、一本道の回廊を抜けて最後の扉を開ける。
「こ、これは……」
誰からともなく声が上がり、全員が部屋に浮かぶそれを見渡す。
シリンダーのような光に浮かべられて眠る俺たち。いずれも悲しそうな表情をし、中には苦悶の表情を浮かべているものもあった。
「ククク……。そこに眠っているのは、お前たちの未来だ」
声がする方へ目をやると、全壊とも言えるほど損傷した魔神器の元にジールが姿を現す。
ジールは祭壇の上からこちらを見下ろし、愉悦の表情で続ける。
「これからかなうかもしれぬ夢、得られるかもしれぬ喜び悲しみ……お前たちの明日そのものなのだ!」
「これが、私たちの未来ですって!?」
「そうだ。この黒の夢はあらゆる時間、次元を越えてラヴォス様が目覚めるその時を待ちながらゆっくりと時の針を進め、いつか必ずここにたどり着く。そう、お前たちに未来などないのだ!」
「……で、話はそれだけか?」
高らかに告げられた言葉に魔王がそう返すと、クロノが一歩前に出る。
「こんなのが俺たちの未来だって言うなら、お前とラヴォスを倒して変えてやる!」
「ククク……。一度ラヴォス神に敗れた者共に、そのようなことが出来るとでも?」
侮蔑を含んだ嘲笑。確かに海底神殿でラヴォスには大敗を喫した……しかし、この場の誰もがそれを笑い飛ばすかのように声を上げる。
「出来る! エイラたち、もう負けない!」
「あのときの私たちと同じだと思ったら、痛い目見るんだから!」
「そうそう、あんたの妄想に付き合ってあげるほど暇じゃないのよ!」
「敗北は成長のための糧だ。あの敗北があったからこそ、俺たちはさらに強くなれた!」
「人の可能性ハコンピューターでも予測できマセン。アナタが示した未来を回避する可能性も十分にあるのデス!」
「然り! ただの魔物であった我らがここまで強くなれたのも御館様たちに出会ったからこそ!」
「絶望的な未来が待つというのであれば、この出会いという奇跡で変えてみせよう!」
「願いは想いとなり、想いは力となる! そしてここにいる者全員が、それを具現化する力を持っている!」
「必ずとめてみせます! 母上もラヴォスも、この星と未来のために!」
「さあ行くぜジール! お前が相手にするのは、星の運命を背負った最強の戦士たちだ!」
「よかろう! 来い、人の子よ! わらわがいざなってやろう……ラヴォス様の眠りの中へ、永遠の黒き夢に!!」
星の未来を決める決戦の戦端が、ここに開かれた。