「受けよ! 『ハレーション』!」
開戦と同時にジールがいきなり全員のHPを1にする技ハレーションを使用する。ジールを中心に虹色の波動が放たれ、尊たちの体力は一気に瀕死までなくなった。
だがこれも、尊にとって想定内のことだ。
「サラ!」
「は、はい!」
声をかけながら体に力を込め、同じ魔法を同時に打ち上げる。
『『ケアルガ!』』
二つのケアルガが頭上で衝突し、弾けると共に尊たちの体へ降り注ぐ。
連携技の『ダブルケアルガ』は瀕死の体に絶大な効力を発揮し、死に際から一転して開戦前と同じ状態へと戻す。
「小賢しい! ならばもう一度――」
「前衛総攻撃! 中衛は前衛を、遊撃は後衛を援護! 後衛はハレーションに備えていつでもダブルケアルガを使えるように待機!」
再びハレーションが放たれるのを防ぐべく一気に指示を出し、尊も射撃でジールの動きを牽制する。
前衛4人はジールの前後左右を囲い、中衛の邪魔にならないようヒットアンドアウェイか一歩離れた位置からの攻撃を仕掛ける。中衛も前衛に攻撃を当てないよう注意を払いながら牽制、あるいは直撃を狙っていく。
「ちぃ! 味なマネを……ならば、『アイスガ』!」
前衛のクロノたちをアイスガで蹴散らし、距離をとって再びハレーションを唱えようとする。
「やらせない!」
「いっけえ!」
ルッカとマールが遠距離から狙い撃ちジールの行動を中断させ、前衛が立て直している間にハルバードを手にした尊と絶望の鎌を構えた魔王が距離を詰める。
「『ファイガ』! 『サンダガ』!」
二つの魔法が連続して唱えられ、接近していた二人が弾き飛ばされる。装備している防具のおかげで魔法によるダメージはさほど強くはないが、距離をとられるには十分な威力があった。
――俺が知ってる技以外を使ってきたのは正直予想外だったが、あの二人の親なら別に使ってきてもなんらおかしくはない話だ。
「これは早めに倒したほうがいいな……『勇気』! 喰らえッ!」
他にも知っているものとは違う行動をするのではないかと警戒を高めつつ、尊は体制を整えながら『勇気』で攻撃を強化し、ハルバードからブラスターに変形させてエネルギーを解放する。
必ず命中しどんな強力な障壁も意味を成さず、威力が三倍に強化された一撃がジールに直撃し、お返しのようにその体を弾き飛ばす。
「今だ! 集中砲火!」
尊の号令と共に反応できる全員が一斉に攻撃を開始する。
マールとルッカによる『反作用ボム3』から始まり、サラの『コキュートス』と魔王の『ダークマター』が直撃。追撃にロボの『マシンガンパンチ』とエイラの『三段蹴り』、そしてガイナーたちの連携『三位一体』が炸裂した。
「ぐぅぅ! な、なんだこの手際の良さは!?」
「どうしたどうした! ご自慢の神様が無限の力をくれたんじゃないのか!? クロノ、カエル! 連携行くぞ!」
「はい!」「おう!」
煽りながら『アイスガ』の準備をしている尊の意図を察し、二人が連携を繋げる。
まずクロノがカエルの上に乗りそれをカエルがジャンプ斬りの要領で一気に跳ばし、クロノが全力切りの姿勢に入ったところへ尊の『アイスガ』が彼の持つ『虹』の刀身へと放たれる。
「くらええぇぇぇぇぇ!!」
クロノの雄叫びと共に振り下ろされた刀身がジールを切り裂きながら一瞬凍らせ、同時にカエルのグランドリオンがX字になるように切り抜けられる。
三人技『アークインパルス』。本来なら尊ではなくマールと行われる連携技だが威力に大きな違いはなく、ジールはその攻撃で大きく足元がふらついた。
そこへトドメとばかりに、尊が追撃を仕掛けていた。
「き、貴様!?」
「出来ればこれでもう起きないでくれ……後が楽だからなッ!」
サテライトエッジのツインソードで舞うように切り刻み、切り抜けると同時にハルバードへと切り替え下から切り上げる。
浮いた体にザンバーを突き刺しシールドに変形させて手元へ引き寄せ、さらに形状をブラスターへと変形させて零距離照射。そして離れたところでボウに変形させ狙いを定める。
「とっておきだ! 受け取れぇ!」
射線が重なると同時に最後の一撃が放たれ、光の矢は寸分違わずジールを貫いた。
「ぐああああ!!」
弾き飛ばされたジールはそのまま魔神器の上に落下するが、まだ起き上がるだけの体力は残あるらしくよろよろと立ち上がる。
「く、ここでは力が出せんか……」
「うそ!? あれだけ攻撃されたのにまだ動けるの!?」
「ラヴォスから力をもらったってのは、伊達じゃないってことね」
あれほどの猛攻を受けたにもかかわらず起き上がるジールにマールが信じられないと言った風に声を挙げる。
一方のジールは魔神器に寄りかかり体を支えていると、何かを思いつたかのように笑みを浮かべる。
「ククク……良いことを思いついた。キサマらを魔神器に取り込んでくれる」
「魔神器に取り込むですって?」
ルッカの問いに何も答えず、笑みを浮かべたままジールは腕を掲げる。
「光栄に思うがいい! この船の一部になれることを! この私の一部になれることを!! ラヴォス様の一部になれることを!!!」
魔神器の上に飛び乗るとともに、掲げられた腕が振り下ろされる。魔神器を中心に空間が歪み、小規模なゲートが尊たちを呑みこむと彼らの体は黒の夢とは別の空間へと吐きだされた。
「こ、ここは……」
「位置情報がエラー……どうやら別の次元に落とされたようデスネ」
「! 来る……!」
一番初めに警戒した魔王の言葉に反応するかのように、尊たちの前に銀色の巨体が姿を現した。
魔神器。黒の夢で損傷していたそれとは色こそ違えど、かつての姿と同じものであった。
現れたそれを見て、尊は不敵に笑いながら呟く。
「――さあ、第2ラウンドだ」
◇
今の段階で物理攻撃を与えれば防御力が上昇、魔法攻撃を行えば魔力が上昇。
確実に叩いて行くならエネルギーが放出された後での一斉攻撃だな。一応、グランドリオンが通じるから先に攻撃をしていてもらってもいいんだが、ダメージ効率はそこまで高くないんだよな……技や連携絡めると防御力とか上がるし。
ゲームだったらそんなのもガン無視して魔法とか連打しまくったし、『勇気』があるから上昇した防御力も無視できるだろうけど、反動の威力がどれくらいかわからない以上慎重にいくとしよう。
「まずは体力とMPの回復だ。クロノ、ラストエリクサーはどれくらいある?」
「えっと……5個くらい、ですね」
「俺のと合わせて7か……なら、魔法でHPを回復した後MPをエーテルで回復するとしよう」
サラと連携技の『ダブルケアルガ』を使い全員の体力を回復させ、手持ちのハイエーテルやミドルエーテルでMPも8割ほど回復させる。
「さて。まずこいつの攻略についてだが、今は何もしない」
「む? こちらから攻めぬのですか?」
「今のあいつは何もしてこないし、こっちから攻撃したら物理攻撃だと防御力が上がってダメージが通りにくくなるし、魔法だと受けた魔力を吸収してこちらに放出してくる。ただ一度放出させてしまえばまた放出に必要なエネルギーを変換させるまでポイントフレアと言う火属性の攻撃しかしてこない」
「なるほど。一度放出させてから、またエネルギーを貯めるまでの間に倒してしまおうと言うわけですね?」
「そういうことだ。唯一の例外として、あれと同じ赤い石で造られたグランドリオンなら普通にダメージを与えることができる。が、グランドリオンによる普通の攻撃でしか効果を発揮しない」
俺の説明に何人かが要領を得ないといった表情を浮かべたのを見て、補足を加える。
「つまりだ、ジャンプぎりとかの単体特技や連携技では防御力が上がったり魔力が上昇したりするんだ」
「本当にただ普通の攻撃しか効かんと言うわけか……俺は別にかまわんぞ。少しでもダメージが通るならやるべきだ」
手にしたグランドリオンを持ち上げて見せ名乗りを上げるカエル。確かに早く決着をつけようと言うのなら、少しでも攻撃を加えておいた方が得策だろう。いくらダメージ効率が悪くても、だ。
「なら頼んだ。ただ、エネルギー放出の前兆とかは全くわからないからそこだけ注意してくれ。それと、グランドリオンで攻撃すれば相手のエネルギーを吸収してわずかだが回復することができる」
「了解だ。 では、行ってくる」
そう告げてカエルはグランドリオンを構え、真っ直ぐに魔神器へと斬りかかった。
俺たちはこの後の行動に備え『ヘイスト』と『プロテクト』、『マジックバリア』を全員に付与してその時を待つ。それから一分ほどしたところで、魔神器からキィィンっと甲高い音が響きだす。何の予兆なのかは、すぐにわかった。
「くるぞ! 後退しろカエル!」
沈黙を保っていた魔神器の初めての異変からエネルギー放出の可能性を感じ取り、後退の指示を出す。
甲高い音が徐々に大きくなり、あたりから無数に光の柱がたちのぼり俺たちを包み込む。電撃のような衝撃が体を焼くが、その威力は非常に弱いものだった。
「いてて……やっぱり、何もさせなかったら大したことないな。――みんな」
まだ痛む箇所をパンパンと払い、口角を吊り上げる。
ここから先は、やりたい放題だ。
「スクラップにしてやろうぜ」
そこからは当事者ながら目を覆いたくなるような数の暴力による攻撃の嵐。
その結果ポイントフレアが放たれるより早く、魔神器は崩壊とともに消滅していった。
◇
「なんともまぁ……あっさりと終わったな」
武器を収めながら崩壊していく魔神器を眺めカエルが呟く。ジールが圧倒的な自信を持って行った策も、反則的要因である尊がいたために木偶人形同然の最後を迎えることとなった。
「ところで、どうやってここから出るんですか?」
「魔神器が消滅した今、この空間も自然に消滅するでしょう。出てくる場所は、おそらく先ほど母上と戦った場所でしょう」
「いや、出る場所はそこじゃない」
サラの予想した場所を否定し、尊は知識として把握している場所を思い浮かべる。
「俺たちはこれから黒の夢の頂上、屋外フィールドとも呼べる場所だ」
「――! マ、待ってくだサイ! 黒の夢の頂上はおそらく成層圏界面のギリギリ……人間が活動できるであろう限界の高度に位置していマス! 屋外の戦いとなるとワタシはともかく皆さんが……!」
「……あ」
ロボの指摘を受けて尊は現実的な戦闘条件にようやく気付く。
彼の記憶では次の戦場は宇宙が近く、地球の丸さがよくわかるほど高い場所だ。尊自身詳しい知識を持っている訳ではないが、上空に向かえば向かうほど気温は低くなり、成層圏から中間圏に向かうほど気温は上昇して行くようになっている。
それでも成層圏界面のギリギリは摂氏3度ほどで、生身の人間が軽装で動くには非常によろしくない気温だ。
「……短期決戦でカタをつけよう。ジールの頭を集中攻撃すればそれで終わる――ちっ、厚着をする暇さえ与えてくれなかったか」
最も早く終わると思われる戦い方を決めたのと、空間が再び歪んだのはほとんど同時だった。
この空間に来た時とは違い、落ちるような浮遊感を全身に受けながら体がゲートに呑まれる。
わずかな時間をおいて、彼らの体がどこかに降り立つ。機械の駆動音が響くそこは徐々に明るくなり、尊が知る風景と同じ場所となった。
「……どういう理屈かわからないが、温度は大丈夫そうだな」
懸念していた気温の問題が解消されひとまず安堵すると、当たりの装置から青い光が昇り一点へと集中する。
何事かと全員が構えたところで、憤怒の表情をした傷だらけのジールが姿を現した。