奥に進むにつれて脈動する壁が多くなり、同時にとてつもない力の気配も近くなる。
移動する間は誰も口を開かず、警戒体制を厳として各々武器を手に進む。
そんな沈黙の均衡が破れたのは、最深部に到達した時だった。
中央に陣取る巨大な姿。脈動する壁の終着点にして、人の上半身を思わせる姿。
それを認識した瞬間、誰もが奴だと理解した。
「これが……ラヴォスの本体!」
刀を構えなおしたクロノに続き、ロボから驚愕の声が上がる。
「シ! 信じられマセン……! この星に生命が誕生して以来のあらゆる生物の遺伝子を持っていマス!」
「そうだ。こいつの目的は――「くるぞ!」――っちぃ! 言わせてくれてもいいだろ!」
魔王の叫びと共にラヴォスの胸部が開き、全体にダメージを与える『光破』が放たれる。
さきほど倒した外殻の天からの攻撃に引けを取らない衝撃が俺たちを襲い、回復したばかりの体力がまたごっそりと持っていかれる。
しかし、ボスラッシュと思わせて最強外殻と戦うことになった状況と比べれば、これが来るとわかっているだけまだ許容範囲内だ。――最も、今の一撃で500近く喰らったことについては想定の範囲外だがな。
どうやらこの形態も最強外殻ほどではないが、攻撃力がかなり強化されているらしい。ということは、全体的にHPも上がっているとみていいだろう。あとの問題は、知らない攻撃があるかどうかだ。
「それでも最初にやることに変更はない……まずは両腕を始末する! 後衛は『ダブルケアルガ』をつかったあと全員に『ヘイスト』! クロノとエイラは連携して『はやぶさぎり』! ルッカとカエルは『ラインボム』! 魔王は『ダークマター』! で、それが止んだらロボとガイナーたちは左腕を集中攻撃! 俺は右腕をやる!」
全員に指示を飛ばし、俺も『覚醒』を付与してタイミングを計る。予定通り魔王の『ダークマター』が決まったのを見届け、一気に駆け出してサテライトエッジのコンボを叩きこむ。
ジールの時と違いザンバーを突き刺した後はこちらから接近して零距離射撃、離脱しつつボウで狙撃する。『覚醒』の効果で二回連続で行われたことによりMPの減り方があまりにもおかしい、シルバーピアスの恩恵をもってしても半分以上消えたぞ。
しかしそれに見合うだけの戦果をあげたのか、右腕はとどめの一撃を受けると崩壊を始めた。左腕は……クロノたちも攻撃に加わっているから時間の問題だな。なら俺は本体を叩くとしよう。幸い、防御を突き破る方法もあることだし。
「『勇気』! ぶち抜け!」
『直撃』が付与されたボウを本体の顔面に打ち込み、接近しながらもう一度『勇気』を使いクロノが全力切りをするようにザンバーを掲げて一気に叩き下ろす。
「グオオオオォォォオオォォォォオ!」
本体から雄叫びが上がったかと思うと、外殻が使った『カオティックゾーン』のような攻撃が放たれ俺たちを包む。
これは……全員を混乱させる『邪気』か。左腕がまだ残っているが、もう本体始動を始めたか。左腕もステータス異常防止を無効にさせる『守封』を使ってくるから先にそっちを潰そう。
「今なら本体にダメージが通る! 腕は俺が潰すから後衛以外は本体に集中してくれ!」
「はい! うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
指示に答えたクロノが本体に斬りかかるのを目じりに、俺はもう一度『勇気』を使いハルバードで斬りかかる。
「サラ! マール! 連携頼む!」
「わかりました! マール、やりますよ!」
「はい!」
サラがファイガを、マールがアイスガを放ち『反作用ボム2』が左腕に直撃する……が、まだ健在か。右腕より体力低いくせにしぶとい。
ハイエーテルを2本まとめて飲み干し、『加速』を使って今度はツインソードによる乱舞を仕掛ける。
「援護しマス!」
さらに本体を攻撃していたロボからマシンガンパンチが放たれ、ダメージが許容値を超えたのか左腕も右腕同様崩壊を始めた。
「よし! これで少しは楽に――――」
そう口にした瞬間、なんと崩壊したはずの腕が本体から勢い良く生え出した!
「さ、再生した!?」
「ふざけんな! テメェ顔だけじゃなくやることもセルと同じかよ!」
「セルってなんですか!?」
思わず罵った内容にクロノが食い付いたが、再びラヴォスの胸部が開いて『光破』が放たれる。しかもありがたくないことにダメージはそのままときた。セルやナメック星人だって再生したらパワーが落ちると言うのに!
『ダブルケアルガ』で回復してもらいつつ、戦う前提を見直して指示を飛ばす。
「後衛以外は連携や魔法で全体攻撃だ! 本体を叩きつつ、ついでに両腕も持っていくようにするぞ!」
「クロ! また飛ばすぞ!」
「わかった!」
「カエル! こっちもやるわよ!」
「了解だ!」
クロノたちが『はやぶさぎり』を、ルッカたちが『ラインボム』で腕と本体に同時攻撃を仕掛ける。さらに魔王も『ダークマター』で攻撃を仕掛け、ガイナーたちも本体へ斬りかかっていく。
「ロボ! 俺たちも行くぞ!」
「ワカリマシタ!」
精神コマンド『勇気』で火力を上げつつ、ロボの『エレキアタック』が発動するのと同時に『サンダガ』を使うことで連携技『スーパーエレキ』を発動させる。
『エレクトリッガー』と比べれば若干威力は劣るが、『勇気』で補正をかけている分、普通に使用した場合と比べれば十分だろう。
しかしそれでも両腕を破壊するには至らず、反撃とばかりに円月殺法が飛来し俺の体を切り裂く。『光破』より弱いものの、それでも単発で300オーバーか……両腕で攻めてきたらちょっと厳しいな。
すぐに後衛から回復魔法が掛けられ全快になると、もう一度『勇気』を使用し今度は本体へブラスターを放つ。
かなりダメージを与えたはずだと言うのに、本体は何事もなかったかのように体のあちこちから毒々しい煙を放出する。おそらくこれが全員を毒にする『影殺』だろう……と言うことは、あと『闘炎』が来ればすぐにアレが来ると言うわけだ。
「出来れば喰らわずに終わりたいが、難しいだろうな……」
などと呟いているうちに、本体の口から炎が放たれ俺に向かってくる。咄嗟にシールドで受け止めるが、この攻撃が何なのかすぐに理解して指示を飛ばす。
「後衛、全体回復! それが済んだら全員防御態勢を取れ! ヤバいのが来るぞ!」
指示を出しながらせめてのあがきとして『覚醒』を使い、『サンダガ』を連発する。これでどうにか両腕を破壊することに成功するが、本命の阻止はできなかった。
「コォォォオオォォオオオオォォォォオ!!」
ラヴォスの口から光が放たれ俺たちの足元を一閃。瞬間、
カッ!!
凄まじい閃光と爆発が起こり、衝撃によって抉られた地面により俺たちは勢いよく弾き飛ばされる。
この巨神兵のような一撃がラヴォス本体の使用する最強の技、『邪影闘気殺炎』だと言うのは考えるまでもなかった。
そして最も恐ろしいことに、この一撃で持っていかれたダメージはなんと700を超えそうだった。しかもこいつはこの攻撃の後『魔放』という能力によってさらに攻撃力が上がるのだから
俺が持つ最後のラストエリクサーを惜しげもなく使い、全員のHPとMPを全快にする。叩くなら、今をおいて他にないだろう。
「とにかく本体にダメージを与えるぞ! クロノは『みだれぎり』! ロボは『マシンガンパンチ』! 魔王とサラは最強魔法! ルッカとマールは『反作用ボム3』! カエルとエイラは『あぐら落ち斬り』! ガイナーたちは連携だ!」
矢継ぎ早に指示を出し、俺も『覚醒』でダメージを底上げした状態でサテライトエッジのコンボを叩きこむ。しかしこれでも終わらないのか、腕を再生させたラヴォスは『光破』を放ちながら両手から円月殺法を放ってくる。一緒に撃ってくる攻撃が『邪影闘気殺炎』じゃないだけまだマシか。
『集中』を使い殺到してくる円月殺法をツインソードで叩き落とし、迎撃に成功するとすぐさまエリクサーをのどに流し込む。
「ミコトさん! 大丈夫ですか!?」
「今のところはな! けど、これ以上はキツイ!」
サラにそう返しながら何度目かもわからない『覚醒』を使用し、ボウモードの矢を番える。
――その時、ふと脳裏にルストティラノと戦った時の光景が頭をよぎった。
あれが通用するかはわからないが……やれることはやっておくか。
さらに『集中』とブーストアップを重ね掛けし、あの時のようにタイミングを計る。本体の口がスライドし、奥から炎が見えた。
「こいつを喰らっとけ!」
連射して放たれた矢はうまい具合に口の中に突き刺さり、何かに誘爆したかのように激しく炸裂する。
これが予想以上にダメージを与えたのか、ラヴォスの動きが若干鈍くなる。無論、ずっと攻め立てていたクロノたちがそれを見過ごすはずもなかった。
「『コキュートス』!」「『ダークマター』!」「『フレア』!」
サラと魔王、ルッカの最強魔法が直撃し、ロボの『マシンガンパンチ』とエイラの『三段蹴り』が追撃。
「「「極技・風神ノ舞!!」」」
ガイナーたちのとっておきが続き、最後にクロノ、マール、カエルの連携が発動する。
「はあああぁぁぁぁぁぁ!!」
高く跳んだクロノの刀に向けてマールがアイスガを放ち、冷気を纏った刀身を全力切りでラヴォスに放つ。そして最後にカエルが切り抜けることで本家アークインパルスが完成となった。
この一撃でラヴォスが一瞬硬直したかと思うと、何かが切れたかのように両腕が崩壊を始めた。
「や、やった! 倒したぞ!」
崩れていくラヴォスを見てクロノが歓喜の声を上げ、つられるように全員が声を上げた。
確かに倒したな……第2形態を。
◇
崩壊していくラヴォスを見て尊以外の面々がやり遂げたと実感していた時に、それは起こった。
両腕を失った本体がまばゆい光を放ち、徐々に小さくなっていくとまるで宇宙服を着た人のような姿へと変貌していった。
全員がまだ終わっていないと認識するとともに、何人かがラヴォスの目的について悟る。
「も、もしかしてこいつ、この星の生き物たちが持っている力を全部備えているのか……?」
わなわなと震えだしたクロノに、尊が答える。
「そうだ。原始でこの星に寄生してから気の遠くなるような時間をかけ、星に住む
「……そして自分が満足すれば用済みとなった星を滅ぼし、同じ遺伝子を備えた幼生体を残してまた新しい進化を求めて別の星に移動すると言うことですか」
「なるほど……いわばラヴォスのためのエサにすぎなかったというわけか。我々人間……いや、この星の生命すべてが……」
その身勝手な手段に魔王の鎌を握る手が怒りに震える。
「じゃあ、私たちはこいつのために生きてきたっていうの!?」
「冗談じゃねえ……。テメェの糧になるために、みんな生きてるわけじゃねえんだぞ!」
「他人の力を貪るだけで自身が進化したなどと……我らは認めはせぬ!」
マシューの言葉に続き、クロノが刀を抜く。
「自分の都合で俺たちを……星を食い物にしようだなんて……ふざけるなよッ!」
クロノに続き、みんなも一斉に武器を構え出す。
「ここは、クロノや私たち……リーネやドンやみんなの……みんなの星なんだからッ!!」
「そんなふざけた進化なんて……私は絶対に認めないわッ!」
「テメェなんぞのために……俺たちは生きちゃいないッ!!」
「ワタシは人間によって作られた命……しかし命は命デス! ルッカや、他のみなさんと同じ……この星の多くの命の一つデスッ!!」
「エイラ、負けない! エイラたち、この大地の命! お前、この大地の命…ちがう!!」
「……今度こそ貴様を倒し、我が長き闘いに決着をつけてやる!」
「貴様に教えてやろう!」
「他人任せで得られた力など!」
「自力で得られた力には遠く及ばぬということを!」
「あらゆるものに死を運ぶ……そのような存在は、ここで消滅させます!」
「これですべて終わらせる! お前を倒すことで、俺たちは明日への道を切り開く!!」
その言葉に対し、ラヴォスは大量のビットを召喚することで応える。
最終決戦の火蓋が、切って落とされた。