Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんにちわ、なんだかんだと連日投稿が続けられたことに少し安心している作者です。


さて、今年最後の投稿となりました。
今回はゲートでも有名な『鉄の逸物』の話に加え、尊が狭間将軍と会談する話がメインとなります。
また、冒頭の酒場での会話はすべて特地語でやり取りされています。
第55話で特地語は【】で表現すると書きましたが、見栄えが悪かったので◇で区切るまで「」で書いています


最後に、前回の炎龍戦に関する感想について活動報告に捕捉を投稿していますので、そちらも読んでいただければ幸いです。

それでは本編第57話、どうぞご覧ください。


第57話「計略は無意味であった」

「はぁ!? 炎龍を追い払ったぁ!?」

 

 

 とある村の小さな酒場。そこで挙げられた話題に酒を飲んでいた客が情報源の女給に訊ねる。彼女は自衛隊と尊たちに助けられたコダ村の避難民の一人で、酒の入った注文のジョッキを手に胸を張って答える。

 

 

「ああそうさ! このあたしが見たんだ、間違いないさね!」

 

「おいおい、嘘つくんならもう少しマシなヤツにしとけよ」

 

「魔導士どころかエルフだって古代龍を倒すのは無理なんだからな。人間にそんなことできるはずがない」

 

「新生龍か翼竜の見間違いじゃねえのか?」

 

「いや、コダ村から来た連中がこぞって同じ話をしていたらしいぞ。あながち嘘じゃないかもしれん」

 

「仮に本当だったとして、一体どんな奴らなんだ?」

 

 

 いい感じで酒が入って酔っぱらった人たちが奏でる喧騒の中、店の一角で食事をしていた身なりの良い四人の騎士たちが耳に入った内容を話題に話し合う。

 

 

「緑色の斑服を着たヒト種で構成された謎の傭兵団に、エルフと鋼鉄のゴーレムと鳥頭の魔物とカエルの亜人を連れた謎の集団……。騎士ノーマ、どう思います?」

 

 

 話題を振ったのは青いヘアバンドをした茶髪の女性騎士で、ノーマと呼ばれた男性騎士は不味い酒の味に顔を顰めお代わりを注文しながら「そうだな」とつぶやく。

 

 

「少なくとも、コダ村から避難してきた連中が揃いも揃って同じことを口にしているんだ。傭兵団と謎の集団は本当かもしれんが、炎龍に関しては信じられんな。お前は信じるのか? ハミルトン」

 

「私は信じてもいいような気がしてきています。十人が十人とも炎龍と答えている以上、信憑性はあると思います」

 

「本当の話だよ、若い騎士さんたち」

 

 

 彼女たちの話を聞いていたのか、話題の発端となった女給がお代わりの酒を手にやってきた。

 

 

「ハッハッハッ! 他の連中は騙せても、私は騙されんよ」

 

「じゃあ私は信じるから、その人たちの話を教えてもらえる?」

 

 

 ハミルトンがチップを差し出しながら聞くと女給は気を良くしたのか、銅貨を受け取りながら声を弾ませる。

 

 

「ありがと♪ こりゃとっておきの話をしてあげなきゃね」

 

 

 コホン、と咳ばらいを一つすると先ほどまでの喧騒がしんっと止み、誰もが彼女の話に耳を傾け始めた。

 

 

「コダ村から逃げるあたしたちを助けてくれたのは緑の人たちが12人、その人たちと同じ言葉を話す謎の集団が12人の全部で24人の連中さ。

 その中に大人の女が二人に女の子が四人ってところで、明らかにヒト種じゃないのが6人いたよ……え? 女たちがどんな姿かって? ……ハァ、男ってどいつもこいつもそればっかりだね。

 まあいいさ。大人の女は長身で綺麗な黒髪をもつ異国風美女と、栗色の髪をした小柄なかわいい娘だったよ。娘の方は牛みたいな乳をしてたけど、くびれているところはちゃんとくびれてんだ。 ――こらそこ、乳の部分で食いつくんじゃない。みっともないね。

 あとの女の子たちは金髪の活発そうな娘に変な兜をかぶった眼鏡の娘、それから何かの動物の毛皮だけを着た娘に青い髪をした優しそうな娘だったね。

 さっきから女の話題ばっかだけど、謎の集団にはいい男もいたよ。――男の話はいい? 馬鹿言うんじゃないよ、その男の一人がすごいんだから。

 男の一人は集団の頭目らしくてね、見たことのない魔法で怪我をした人をあっという間に治しちまうのさ。女の子の中にも同じ魔法が使えるのがいたみたいだけど、ありゃ名のある賢者に違いないね。

 他にもツンツン頭の男の子と顔色の悪いエルフがいたけど、炎龍に襲われたときにどっちも魔法で戦ってくれたのさ。

 ここですごいのがさっき話した頭目の男。そいつは青白い光と見たことのない紋章を宙に浮かべて"空飛ぶまな板"を作ると他の男を乗せて炎龍に立ち向かったのさ。

 まな板が空を飛ぶわけないって? 確かにそうなんだけど、男のまな板は翼竜なんて目じゃない速さで空を飛んだのさ。

 地上では緑の人たちがものすごい速さで動く荷車にのって、それぞれ魔法の杖で攻撃を始めたんだけど炎龍にはちっとも効かなかった。

 ところが、炎龍の動きが鈍くなると緑の人の頭目はついにアレを使わせたのさ。

 そう、"鉄の逸物"をね。

 "鉄の逸物"には特大の攻撃魔法が封じ込められていてね、「コホウノ、アゼンカクニ」って呪文が唱えられるとすごい音と一緒に炎龍の腕が吹っ飛んじまったのさ。あの時、"空飛ぶまな板"に乗った男が炎龍の注意を引き付けたのも大きな一因だったとあたしは思うね。

 これには炎龍も痛そうな悲鳴を上げてね。ついに尻尾を巻いて逃げちまったってわけさ」

 

 

 女給の話が終わると一瞬の静寂が店に流れ、忘れていたかのように喧騒が戻る。

 ある者は素直に感心し、ある者はやはりデマなのではと疑り、ある者は女性陣の話を蒸し返して品のない話で盛り上がっていた。

 一方、騎士たちでも評価は大きく分かれ、ノーマはやはり信じられないといった風に眉をひそめており、ハミルトンは"鉄の逸物"という単語に頬を赤らめ、最も年を重ねた騎士はまだ判断しかねるのか静かに杯を傾け、最後の一人――赤い髪の女性騎士は一つだけ気になることについて考えていた。

 

 

「女。(わらわ)は兵士が持っていた魔法の杖というものが気になるのだが、それは"鉄の逸物"と同じものなのか?」

 

「あっはっは! あんたは男を知らないみたいだね。逸物はイチモツ……ありゃ男のナニと一緒さね。それも黒くて特大の」

 

 

 女給の言葉に要領を得ない赤髪の騎士とは別に、ハミルトンを含めて意味を理解している者たちは気まずそうに食事を再開した。余談であるが、彼女たちの会話に聞き耳を立てていた客の中には思わず自分の物を押さえて項垂れる者がいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 炎龍と呼称されるドラゴンを撃退した翌日、俺たちはついに伊丹さんたち自衛隊の本拠地となるアルヌスの丘という場所に辿り着いた。

 視界に入る建物や重機、そして上空から警戒をしているヘリが異彩を放ちここだけでもう日本と言われても違和感がなかった。

 元のである程度は見慣れている俺はこれだけの感想で済んでいるが、コダ村の住民はもちろんのこと。海底神殿や廃墟とはいえ未来の建物を見たクロノたちも見たことのない光景にきょろきょろと首を動かし眺めている。

 そんな俺たちが珍しいのか、周囲の自衛官から視線が刺さり、話し声も僅かに耳に届く。

 

 

「これがミコトさんやシンク君の世界の物なんですか?」

 

「かなり特殊なものではあるが、概ね同じものだな。 ――しかし自衛隊の基地に入るなんて、いつ以来だ?」

 

 

 昔何かのイベントで開放されたときに遊びに行った記憶があるし、確かそこで買った名物で辛い食べ物があった気がするな。名前は忘れたが。

 しばらくすると報告のために離れていた伊丹さんが戻り、他の隊員たちに指示を出すと俺のところにやってくる。

 

 

「月崎君、ちょっとこっちに来てもらっていいかな? 特地とは別の異世界の代表として、うちのお偉いさんと会ってもらいたいんだ」

 

「わかりました。 ちなみに、俺の名前って出しました?」

 

「いや、そこはまだだけど」

 

 

 ということは、今ならシドという名前を使っても構わないということだ。

 だがそれはそれでいつかボロが出そうだから、今回は苗字を伏せて名前だけ使うとするか。

 

 

「了解です。今直ぐにですか?」

 

「ああ、ついてきてくれ」

 

 

 伊丹さんに連れられて「特地方面派遣隊本部」という看板を掲げた建物へと足を踏み入れる。中に入ってしまえばここが既に日本だと錯覚してしまいそうで、実はもう元の世界に帰ってきたんじゃないかと思ってしまう。

 導かれるままやってきたのは応接室と掲げられた部屋で、そこにはすでに二人の自衛官が待っていた。

 一人は狭間という名札を付けたいかにも偉いとわかる髭の男性で、もう一人は柳田という名札を付けた眼鏡の男性だ。

 

 

「君かね。この特地とは別の世界から来たという者たちの代表は」

 

「はい。尊と言います、以後お見知りおきを」

 

「私は特地方面派遣部隊指揮官の狭間浩一郎だ。こっちは柳田明二等陸尉」

 

「よろしく」

 

 

 柳田さんの言葉にこちらも「よろしく」と返すと、狭間さんがソファーへ座るよう促したのに便乗して腰を下ろす。

 

 

「早速訊ねさせてもらうが、君たちは何故この特地にやってきたのかね? 伊丹二尉からは別の世界から来たとしか聞いていないのだが」

 

「自分たちは元の世界にいたある脅威と戦っていました。その脅威との戦いに打ち勝ち、それぞれの場所に戻ろうとしたところで謎のゲートに巻き込まれ、気が付けば焼けた村の後にいたのです」

 

「そこで伊丹二尉が率いる第3偵察隊と出会い、ここまで来たというわけか。しかし、我々が真っ当な組織である保証などどこにもなかったはずだ。どうして保護を受け入れようと思ったのかね?」

 

「直感的に感じ取ったのです。この人たちなら大丈夫だと」

 

「直感的に、ねぇ……」

 

 

 柳田さんが胡散臭い物を見るような目で俺を眺めてくる。視線を合わせれば何か言われそうな気がしたので、目線は狭間さんに固定したまま話の続きを待つ。

 

 

「では次の質問だ。君たちのメンバーはどうも不審な点が多すぎる。君のような人間がいれば、カエル人間に鳥人間、果てにはロボットまでいるじゃないか。カエル人間と鳥人間に関してはまだわかるが、君たちの服装から文明レベルはこの特地と大差ないように感じる中であのロボットはあまりにも特異だ。どういった経緯で連れ立っているのかな?」

 

「言ってしまえば簡単な話ですが、ロボとは俺たち王国歴1000年の時代から1300年後の未来で出会いました」

 

「1300年後の未来? 流石に話を盛りすぎじゃないか? 仮に真実だとして、どうやって君らは出会ったんだ?」

 

「少々長くなるので端的にお答えさせていただきますが、きっかけは王国樹立1000年を祝う祭りでの出来事でした」

 

 

 そこから俺は自分がクロノたちと同じA.D1000年のトルース町出身という設定で、クロノトリガーのストーリーをそのまま話した。

 ただの町民だった俺とクロノがルッカの発明したテレポッドで開いたゲートをきっかけに過去へ移動したことから始まり、元の時代で追われる身になってから逃げる手段でゲートを使って文明が発達した廃墟の世界に辿り着いたこと。

 そこでその世界がある脅威によって滅ぼされた後の自分たちの未来だと知り、その未来を変えるために進んだ先で件のロボ、カエル、三人集、エイラ、魔王、そしてサラと出会ったのだと。

 話を終えた時の三人の反応は実に様々だった。

 狭間さんは難しい表情で静かに目を閉じ、柳田さんは疑うような目をこちらに向け、伊丹さんは「それなんてゲーム?」と零していた。

 

 

「――つまり君たちは自分たちの世界が滅びる未来を回避するためにその脅威と戦い、勝利したと同時にこの特地にやってきたというわけか」

 

「そういうことです」

 

「なら君たちは、どうやって元の世界に戻るつもりなんだ? その脅威とやらが繋いだゲートはもうないんだろ?」

 

「地道に手段を探していきますよ。少なくとも、この特地は既に別の世界と繋がっているようですから。前例があるのならば、何かしらの方法で元の世界とつなげられなくはないはずです」

 

 

 こちらの回答に感心したのか、柳田さんは「へぇ」と面白そうに声を漏らす。

 すると、隣にいた狭間さんが難しい表情を崩して口を開く。

 

 

「話は分かった。一先ず君たちを、コダ村の住民たちと同じ扱いで保護させてもらおう。ただその代わりというわけではないが、ロボット君の協力を得ても構わないかな?」

 

「協力、ですか?」

 

「ああ。我々でもまだ四苦八苦している特地の言葉を、ロボット君だけはもうかなり扱えるそうじゃないか。言語の壁は我々も早々に取り払いたいのだが、どうだね?」

 

 

 そういうことか。確かに倉田さんもここに来る途中、同じようなことを言っていたな。

 まあ、それくらいなら問題ないだろう。

 

 

「わかりました、話をつけておきましょう。ただ、特地の言葉を習得する時にこちらのメンバーも混ぜさせてもらえますか? 自分たちもロボなしで会話できるようになっておきたいので」

 

「了解した。では今後、我々とのやり取りをする際は伊丹二尉を頼ってくれ。逆に我々が用のある時は君を窓口にさせてもらうが」

 

「構いません。よろしくお願いします」

 

 

 狭間さんと握手を交わして話が終わり、俺と伊丹さんは揃って建物を後にする。

 

 

「それにしても、月崎君って本当にあんなゲームみたいな体験してきたの?」

 

「途中参加ですけどね。というか、あの世界は俺の中では本当にゲームの世界ですからね」

 

「……それって、言葉通りの意味ってこと?」

 

 

 まさかと言いたそうな顔でこちらを見た伊丹さんに、俺は口元だけ笑みを浮かべて答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「柳田二尉。彼のこと、どう思うかね?」

 

 

 尊と伊丹が去った後、狭間と柳田は場所を変えて先ほどの話を振り返っていた。

 

 

「言っていることのほとんどは本当でしょう。ただし名前と言動の観点から見ても、日本人である可能性が非常に高いと思われます」

 

 

 柳田はまず彼らのメンバーの中で尊だけ名前の毛色が違っていることを挙げる。メンバーの名前を並べてみても、それは実に顕著だった。

 次にただの町民だったと語っていたが、その言葉遣いは実に日本の社会人臭かった。習ったと言われればそれまでだが、それにしてはあまりに完成されすぎていた。

 それらを踏まえて尊が日本人だと仮定すれば、自衛隊が直感的に大丈夫だと感じたからついてきたというのも、自衛隊だから大丈夫だと知っているからついてきたに変わる。

 無論これらは推測の域を出ないが、狭間も概ね同じ判断を下していた。

 

 

「だが仮に日本人だとしても、今度は彼が我々の世界の日本人であるかどうかという問題が出てくるな。既に三つの世界の存在が確認されている以上、別の世界の日本から流れてきたという可能性もあるわけだからな」

 

「本国に調査を依頼しましょう。近年、尊という名の男が行方不明になったりしていないかを調べれば、少なくとも彼が銀座事件の被害者かどうかはわかります。最も、その可能性は限りなく低いかと思いますが」

 

「何故かね?」

 

「彼が本当に銀座事件の被害者であるのなら、間違いなく伊丹が報告を上げています。奴が握りつぶしたのだとしても、明らかに階級が上である陸将とお会いしたのならあの場で告白すれば済むことだった。それがなかったということは……」

 

「銀座事件の被害者ではなく、別の世界の日本人である可能性の方が濃厚だということか。だとすれば、それを話そうとしなかったのは彼なりに余計な混乱を避けようとしたためかもしれんな」

 

「伊丹からこちらの情勢について聞いているでしょうからね。その説は十分に考えられるかと思います」

 

「ともかく、彼らはコダ村避難民と同じく保護として受け入れよう。幸い、意思疎通に関しては彼らの方が双方としても取りやすい」

 

「では、それも含めて担当は伊丹に任せましょう。 次に、第3偵察隊が持ち帰ったドラゴンの腕についてですが――」

 

 

 こんな話があったこともあり、条件に該当する戸籍や行方不明者の記録が存在しないことが後日明らかになると、尊や伊丹があえて伏せようとしていた情報が二人の間で決定的になるのだった。




本編第57話、いかがでしたでしょうか?

せっかく伏せようとした尊の情報も自身の言動と名前が相まってアッサリ割れてしまいました。でも本編に大きな影響は出ないはず……。
また、尊のベースジャバーは『空飛ぶまな板』として今後も語り継がれていくことになります。
さて、次回から2話くらいイタリカまでの日常を描くつもりなので、貴腐人殿下の登場はしばらく先になります。
尊たちがこの特地でどう暮らしていくのかもそこで描写するつもりなので、楽しみにしていただけたら幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。
皆様、よいお年を。

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