Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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遅ばせながら新年あけましておめでとうございます。

さて、年明け最初の投稿となりました。
今回は原作から見れば全然進んでいませんが、次回はイタリカ行きまで話を進めたいと思います。

それではさっそく本編第58話、どうぞご覧ください。


第58話「アルヌス難民キャンプにて」

 自衛隊の指揮官である狭間さん――後で伊丹さんから陸将と聞いて驚いた――との話が終わり、俺たちは自衛隊基地から少し離れた場所に作られた難民キャンプで一夜を過ごした。

 コダ村の人たち――特に子供たちが物珍しそうに近くを覗いてきたのを除けば特に何かあったわけでもなく、俺たちはそれぞれのテントで目を覚ました。

 簡単に用意された洗面台で顔を洗っていると自衛隊基地の方からバタバタとヘリのやかましい音が鳴り響き、さらに重機やトラックが大挙して向かってくるのが見えた。

 ほとんどの人が何事かと慌ててテントから出てくる中、俺は平然とした顔で自分たちのテントへと戻る。

 すると案の定、コダ村の人よりは落ち着いているが何事かとクロノが寄ってきた。

 

 

「ミコトさん。今の音なんですか?」

 

「大丈夫だ、自衛隊のヘリとかトラックが来ただけだ。たぶん昨日伊丹さんが言っていた、俺たちの家を作るためだろう」

 

 

 昨日の別れ際にテント生活もユニットハウス――いわゆるプレハブ――ができるまでの辛抱と言っていたが、あれって実際どれくらいで出来るのだろうか。

 クロノに答えながら他のメンバーに説明するべく、一つ一つのテントに声をかけて説明する。

 ついでに全員を集め、朝食ができるまでに今日の予定とこれからの方針を簡単に決めておく。

 

 

「今日は自衛隊が避難民の名前登録をするらしいから、全員それに参加だ。といっても、名前を答えるだけだから難しいことは何もない。むしろ問題なのは、すぐにガルディア王国のある世界に戻れないということだ」

 

「お前が世界を渡るゲートが開けないからか?」

 

 

 魔王の言葉を肯定し、原因の説明をする。

 

 

「ラヴォスの決戦の際、必要なエネルギーを全て攻撃に向けたからゲートを開くための力を出し切ってしまった。しかも改めてそれが使えるようになるまで、少なく見ても3ヶ月近くかかることが分かった。だからどうしてもしばらくはこの世界で生活することになるんだが、自衛隊に保護してらえるのもそう長くはないはずだ」

 

「じゃあどうするんですか? 働くの?」

 

「いや、そもそも働くにしても俺たちはこの世界じゃ自衛隊の人たちとしか話せないぞ」

 

 

 マールやカエルの意見も最もだが、運がいいことに俺たちにはそれなりにやりようがある。

 

 

「まずはコダ村の人たちと意思疎通を図れるようにするべきだ。そこでこの世界の情報を集めつつ、自衛隊の人たちに対する通訳や別の町への稼ぎ口の手掛かりを探る。今のところ、俺はこのあたりが無難かと思うんだが」

 

「そうですね。幸いロボがもうかなりこの世界の言葉を扱えるみたいですし、私の発明も自衛隊の人たちが興味を持ってくれれば多少の資金源にはなるはず。ただ、自衛隊の人たちを見る限りじゃミコトさんの世界の技術って相当進んでますよね?」

 

「総合テキにはワタシがいたA.D2300ほどではアリマセンガ、一部の技術にオイテハそれを凌駕していると思われマス」

 

「あながち間違っちゃいないな。とりあえず発明に関しては後回しにして、しばらくは特地語を覚えるのに専念しよう。それとロボ、自衛隊の人もお前の力を借りたいと言っていたから、できれば簡単な言語マニュアルを作ってくれるか? 紙や端末が必要なら伊丹さんに頼んでみる」

 

「了解シマシタ」

 

「他のメンバーはとにかく言葉を覚えることを最優先。ロボが自衛隊の人に言語の教育をする際に俺たちも混ぜてもらえるように頼んでおいたから、話せるようになるまでは積極的に参加してくれ」

 

 

 勉強と聞いてクロノとマールがあからさまにいやそうな顔をし、何もわかっていないエイラはずっと寝ている。

 エイラの場合勉強させるより、積極的に会話させて感覚で覚えさせた方がいいかもしれないな。覚えるかどうかは別にして。

 続きを食後にすることにして一度話を切り、昨日分けてもらったレーションを開けて朝食にする。

 コダ村の人たちで手間取っているのを見て手を貸したところ、何人か同じ言葉を使ってきた。たぶん、ニュアンス的にありがとうと言っているのだろう。

 そんな朝食を終えて間もなく高機動車がやってくると、伊丹さんたち第3偵察隊の面々が現れた。

 

 

「やっ、昨日は眠れたかな?」

 

「おかげさまで。 ノートとポラロイドカメラってことは、名前登録ですか」

 

「ああ。と言っても、君らはすぐ終わりそうだけど」

 

 

 笑いながら伊丹さんは指示を出し、俺たちもそれに従って順番を待つ。

 その間ロボの通訳を通して、他の人たちの名前を覚えておくことにする。これから近所付き合いになるであろう相手の名前を知るというのは大切だからな。

 

 

【儂は賢者カトー・エル・アルテスタン。こっちは弟子の――】

 

【レレイ・ラ・レレーナ】

 

【私はコアンの森、ホドリューの娘、テュカ・ルナ・マルソーよ】

 

【ロゥリィ・マーキュリー。暗黒の神、エムロイの使徒よ】

 

 

 杖を持った老人と水色の髪の少女に続き焼けた村で助けたエルフの女の子、それからここに来る途中でついてきたハルバードの少女が順に答える。

 エルフ――テュカと名乗った子は最初に着ていた服が諸事情で使い物にならなくなったため、今はTシャツにジーンズという非常にラフな格好に。

 ロゥリィと名乗った少女は例のデカいハルバードを軽々持ち上げながら自己紹介するが、暗黒の神の使徒とかマジで邪教の信者か何かか?

 などと考えているとついに俺たちの番に回り、クロノたちが順に自己紹介をする。

 

 

「俺はクロノ。トルース町の住民です」

 

「私はマールっていいます!」

 

「ルッカです。トルース町の外れで発明家をしています」

 

 

 現代組が終わると、別の時代組がそれに続く。

 

 

「クロノたちの時代カラ1300年先の未来よりキマシタ。ロボといいマス」

 

「カエルだ。クロノたちの時代から400年前の時代の者だ」

 

「フリーランサーのガイナーと申します。出身はカエル殿と同じで、今はミコト殿を主として仕えております」

 

「同じくマシュー」

 

「同じくオルティー」

 

「エイラだ! お前強いか?」

 

「彼女はクロノたちの時代からおよそ6500万年前の原始時代で、イオカ村という村の酋長をしていました」

 

 

 俺が補足を加えると黒川さんや栗林さんが驚きの声を上げるのが見えた。

 そしておそらくこのメンバーで一番の問題児へと続く。

 

 

「えっと……、尖った耳からして、君もエルフでいいのかな?」

 

 

 自信なさ気に伊丹さんが尋ねると、魔王は腕を組んだまま口を開く。

 

 

「魔王とでも呼べ」

 

「……は?」

 

 

 予想通りというかなんというか、魔王の回答に伊丹さんだけでなく他の自衛官たちも「何言ってんだコイツ」といった視線を魔王に注いでいた。

 

 

「あー、伊丹さん。こいつの名前はジャキって言って、誇張でもなんでもなくカエルの時代で猛威を振るった本物の魔王でもあります。耳は……何で尖ったんだ?」

 

「知らん。勝手にこうなった」

 

「あ、そうなの。えー…魔王っと。通じるかな、これ」

 

 

 名前にジャキと記入され備考欄に魔王と追加されたらしいが、傍から見ればどういうことなのと混乱を招きそうだな。

 

 

「ジャキの姉のサラです。クロノの時代からおよそ12000年前の時代の人間です」

 

「え、お姉さんなの!?」

 

 

 流石にこれは予想外だったのか、今度は倉田さんが驚愕する。確かにパッと見で兄弟と結びつけるにはあまりにも要素がなさすぎるし、ましてや時代を超え成長して古代に戻ったため年齢で見れば弟の魔王の方がサラより年上という奇妙な構図になっている。

 具体的に言えば、二十歳になったジャイ子が小学生のジャイアンといるようなものだ。……なんか余計にわかりにくくなった気がするが、図式としては間違っていないはず。

 

 

「で、最後に尊君っと。 そういえばあのベースジャバーって、いったい何なの?」

 

 

 俺のことを記入しながら向けられた質問に俺は一瞬考え、これくらいならまだ大丈夫だろうと公開することにした。

 

 

「あれは俺の紋章術者としての力の一端です。魔力を輝力というエネルギーに変換し、明確なイメージでもって形にする輝力武装というもので作り上げました」

 

「イメージで形にする?」

 

 

 いまいちピンとこなかったのだろう、伊丹さんが少し首をかしげる動作をするのを見てならばと実践してみせるために紋章を発動させ、右腕に一振りの剣を顕現させる。

 そのフォルムに真っ先に反応したのは、やはり伊丹さんだった。

 

 

「じ、GNソード!?」

 

「ベースジャバーが分かる伊丹さんなら知っていると思ってましたよ。 これと同じ要領でベースジャバーを作り出し、魔力を燃料に空を飛んでいたというわけです。ただ、なんでもありそうに思えるこの力にも欠点がありましてね」

 

 

 ソードの刀身を展開して平らな部分を思いっきり殴りつけると、GNソードは光の粒子になって消滅した。

 たった一発の拳で消滅したのを見て、伊丹さんはなるほどと納得する。

 

 

「明確なイメージがあれば何でもその形に作り出せるけど、攻撃を受けたらすぐに消滅するってわけか」

 

「そういうことです。そういうこともあって、俺も専ら移動用にしか使っていませんが」

 

 

 ただし、フロニャルドに戻ったら思いっきりはっちゃけようと思っていたりする。

 あそこなら攻撃を受けても消滅しないし、その気になれば武器を作りまくって王の財宝の真似事もできるし。

 一先ず俺たちの登録が終了し、今度は登録した人の年齢や種族、成人しているかどうかの整理が行われた。

 クロノたちの世界では20歳から大人扱いされ、それに当てはめれば現代組以外は全員大人扱いらしい。

 ちなみに確認したところ、クロノが17歳。マールが16歳。ルッカが19歳。カエルが28歳。ロボが稼働時間400年越え。エイラが24歳。魔王が24歳。そしてサラが20歳で三人集はいつ生まれたのか覚えてないそうだ。

 これを聞いて先ほど上げたサラと魔王の奇妙な構図が合っていたのを再確認でき、カエルが魔王が年下だと聞いて驚いていたのがなんとも印象的だった。

 

 

「えーっと、わかっているだけで老人が三人に中年が三人。大人が八人で、子供が22人か。尊君たちのグループはこれで全員OKとして……あとはコダ村の方か。黒川、そっち分かった?」

 

「はい。どうやらこの世界では15歳から大人扱いされるらしく、避難民のうち3人が大人扱いだそうです」

 

 

 黒川さんと会話していた少女――レレイと名乗っていた子によれば、なんと片手で69まで数えられるらしい。手話もびっくりである。

 

 

【テュカは165歳】

 

「うへぇ……本当にエルフだな」

 

「え、そんなに年上なんですか?」

 

「165歳ダそうデス」

 

「「「うそぉ!?」」」

 

 

 ロボの解説にクロノ、マール、ルッカが驚いて振り向き、テュカは突然向けられた視線に戸惑っていた。まあ、どっちの気持ちもわかるんだが。

 

 

「それで、最後の一人は?」

 

「あの神官少女らしいです」

 

「……あの子ですか?」

 

 

 示された方向にいたのは、例の暗黒の神に仕えているという少女ロゥリィだった。視線の先にいる彼女は子供たちと遊んでおり、15歳というにはまだちょっと幼い気がする。

 

 

【子供じゃない。年上の年上。それより年上】

 

【じゃあ何歳なの?】

 

 

 伊丹さんが聞き返すとレレイはぷるぷると首を振り、気まずそうに視線を離す。

 

 

【怖くて聞けない……】

 

「……怖くて聞けないとか、何歳なの?」

 

 

 伊丹さんのつぶやき耳に届き、思わずロゥリィに目が行く。

 え、あのナリでテュカより年上だとでもいうのか? だとすれば最低でも165歳以上ということになるぞ。

 怖いもの見たさ、というわけではないが、正直かなり気になる。

 

 

「……ロボ、聞いてきてもらっていいか?」

 

「ワタシはまだスクラップになりたくないのデスガ……」

 

「……いや、俺が聞こう」

 

 

 そう答えた伊丹さんは神妙な面持ちでロゥリィに近づき、声をかける。

 

 

【少し、話し、いい?】

 

【あらぁ? 何かしらぁ?】

 

「えー……【みんなの、歳、調べてる。君、歳、いくつ?】」

 

 

 隣でロボの通訳を受けながら話を聞いているが、伊丹さんドストレートにいったな。まあ、変にはぐらかそうとして言葉がおかしくなるよりはいいか。

 で、肝心の年齢は……。

 

 

【961歳よぉ?】

 

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 

「「ファッ!?」」

 

 

 この時、伊丹さんと一緒に変な声を出した俺は悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 

 無事に名前登録を済ませ、昼食ができるまで自由行動となったため尊はサラとともになんとなく自衛隊の作業風景を眺めていた。

 尊の予想以上にユニットハウスの組み立てが進んでおり、もう数時間もあれば寝泊まりするくらいは十分に可能な状態になるだろう。

 

 

「すごいですね……家があっという間に」

 

「ここまで速いのは俺も予想外だったけどな。まあプレハブなんて、土地さえ慣らしてしまえばあとは組むだけだからな――おっと」

 

 

 視線に入ったものに気づき、尊は早足でそこへ向かう。サラもあと追っていくと、その先には興味本位で重機に近づこうとする子供たちの姿があった。

 

 

「はいストップだ。ここから先は危ないから、立ち入り禁止」

 

 

 先頭にいた女の子を抱き上げ注意をするが、子供は首をかしげるだけで理解していないようであった。

 

 

「あー……この先、危ない。入っちゃ、ダメ。OK?」

 

 

 身振り手振りで危険を伝えようとするが、イマイチ話が伝わらず子供たちはさらに首をかしげる。

 

 

「……やっぱりダメか。サラ、ロボってまだ伊丹さんたちと一緒だよな?」

 

「はい。まだ少しかかるみたいですが」

 

 

 ロボは現在、自衛隊がこれまで集めた特地語を取り入れ、自身の翻訳精度の向上を行っている。

 同時に自衛隊の翻訳ミスも修正しているため、終了はまだまだ先になる。

 

 

「となると、別の方法で興味を引くしかないな。 それなら」

 

 

 子供たちの前で右手を掲げると尊は紋章を発動させ、指先に小さな球体を作り出すと線香花火のような光を放たせた。

 

 

【うわぁー!】

 

【すっげぇー!】

 

【きれー!】

 

 

 子供たちの興味を引くには十分すぎたらしく、尊はうまくいったのを確信するとそのまま誘蛾灯のように子供たちをキャンプへと導く。

 

 

「さあ、あっちは危ないから向こうで遊ぼうな。サラ、悪いが付き合ってくれるか?」

 

「いいですよ」

 

 

 言葉が通じないなりにやり方があるものだと独り言ちながら、尊とサラはロボの手が空くまで子供の相手に励むのだった。




本編第58話、いかがでしたでしょうか?

カエルと魔王、サラの年齢やロボの稼働時間は作者が勝手につけたもので公式設定ではありません。
最後のところで尊が子供たちに見せたのはDOGDAYSでミルヒがシンクに見せたものと同じです。
正直あそこの部分は抜こうかと思いましたが、字数が少し少ない気がしたのでなんとなく足してみました。
さて、冒頭でもお話ししましたが、次回はイタリカまで話を進めるつもりです。
早ければ特地版地獄の黙示録はその次辺りで投下できると思います。
それまで飽きずに楽しんでいただければ幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
本年もよろしくお願いします。

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