さて、今回はイタリカへ向かうフラグとその道中の話となります。
貴腐人殿下の登場は次回となりますので、お待ちの方はもうしばらくお待ちください。
それでは本編第59話、どうぞご覧ください。
アルヌスに滞在し始めて数日。
ロボのおかげでコダ村の人たちとだいぶ意思疎通が取れるようになってきて、どうにか信頼関係も築けるようになってきた。
この数日で俺たちがやった主なことは自衛隊との特地語勉強会と、コダ村の人と一緒に自衛隊が倒した軍隊にいた翼竜の鱗を剥ぎ取る作業だ。
なんでも某狩りゲーばりに翼竜の鱗は高く売れるらしく、コダ村の人たちが俺たちと同じく自分たちの生活費を稼ごうと考えたところ、大量にある翼竜の死体に目を付けた。
自衛隊も必要なサンプルは取り終えたらしく、自立するのに役立つのなら好きなだけ持って行っていいとお墨付きを得た。
カトー先生やレレイによれば状態の良い翼竜の鱗一枚でデナリ銀貨30枚から70枚になるらしく、おまけにその銀貨1枚で5日は普通に暮らせるらしい。
それがこの数日で優に150枚は回収できた。しかもより高価となる爪が数本と、この世界で普通に暮らすには十分すぎる額が入る計算だ。
「――しかし、俺たちもそのお零れにあやかっていいんですかね?」
複雑な表情でクロノが磨き終えた翼竜の鱗を手で弄ぶ。
俺たちは今、剥ぎ取った鱗を洗浄して大まかに状態の良いものと悪いものを選別する作業の真っ最中だった。
「カトー先生や他の人から、炎龍の戦いで命を張ってくれたんだから当然だって言われてるんだ。貰えるものは貰っておこう。それに、貰いっぱなしじゃ悪いと思ってるから俺たちはこういう作業をしてるんだろ?」
「それはそうですけど……」
現在、俺たちのグループで行っていることは大きく分けて4つに分担されている。
まずは翼竜の死体から鱗を剥ぎ取る作業をしているカエルと魔王。
相性が悪いのではと懸念していたが、二人とも黙々と作業をしているため別に剣呑な雰囲気になったという話は聞いていない。
次に自衛隊の方へ赴いて通訳の講師や発明品の売り出しをしているロボとルッカ。
ロボのおかげで自衛隊からの印象はかなり良好なものになりつつあるし、ルッカの催眠音波や火炎放射もそれなりの評価を得ている。流石にナパームやメガトンボムはヤバいということで見送られたらしいが。
続いて持ち前の身体能力を生かして周辺の地形、地質の調査をしているガイナーたちとエイラ。
自衛隊が入りにくかった場所を主に調査していて、こちらも上々の評価をもらっている。
手が空きがちなサラとマールはコダ村の大人たちと一緒に炊事、洗濯、子供の面倒を見ている。
遊び相手としてマールはよく好かれており、サラも女の子を中心にフロニャルドで覚えた歌や物語を聞かせている。
そして俺とクロノがやっているのは主に雑用全般だった。
必要とあらばカエルたちと一緒に剥ぎ取りに向かうし、サラたちと一緒に子供の相手もする。
俺はそれに加えて自衛隊との窓口になっているので、何かあれば直接伊丹さんに連絡しに行く仕事もあった。
最初はまだごたごたして走り回ることも多かったが、最近は少し落ち着いてきている。
「――よし、俺の分は終わりだ。クロノも終わり次第自由にしていいからな」
「わかりました」
周りの人たちにもお疲れさまと声を掛けながらその場を離れ、次はどうするかと考えながら歩いていると別の場所でレレイと鱗の選別をしているカトー先生を発見する。
何故先生と呼んでいるのかは、まあ周りがそう呼んでいるから合わせているだけなんだが。
【お疲れ様です】
【おお、お疲れ様。そっちはどうじゃ?】
【まあまあです。 それにしても、大分集まりましたね】
「そろそろ、200枚集まる。換金も、必要」
「なるほど。 レレイも日本語がうまくなったな」
まだ少し片言ではあるが、意味をくみ取るには十分すぎる。
このまま日本語をマスターしてくれれば、特地側の人間としては初めての日本語通訳者となるだろう。
【しかし、これだけ鱗を換金となると、相当信頼できる相手に、対応を依頼したいですね】
【それなら、イタリカという街にワシの古い友人が店を構えておる。お前さん、ジエイカンたちに運んでもらえないか頼んでくれんか?】
【イタリカ?】
「テッサリア街道と、アッピア街道の交点に位置する、交易都市。ここから少し離れた場所にある」
「コダ村よりか?」
俺の問いにレレイがこくんと頷き、コダ村からここまでの行程を思い返す。
あの時は避難民も一緒だったため相当速度を落としての移動だったが、確かに自衛隊の車を使えばすぐに着くだろう。
しかし、イタリカか。なんかヘビメタバンドのメタリカに似た名前だな。もしくはBASTARD!でそれを元にしたメタ=リカーナ王国とか。
【わかりました。頼んでみます】
【すまんな。お前さんたちやジエイカンたちには頼りになりっぱなしじゃ】
【持ちつ持たれつです。では】
さっそく今の話を持ち掛けるべく、ここ数日の連絡係として使用頻度が最も高い文明の利器を頼るべく自分の部屋に向かう。
まあ文明の利器なんて大層なこと言っているが、要は自衛隊から借り受けた連絡用の通信機だ。
わざわざ連絡の度にベースジャバーや厩舎の馬を借りて基地に向かうのも手間だという理由から、都合をつけて一台借り受けたというわけだ。
現在、周波数のみ割り出してルッカが自作しようとしているが流石に道具がなさ過ぎて難航してるらしい。
出来たら出来たで確かに便利なんだが…なんだろう、自衛隊とルッカを会せたせいで何かとんでもないもの作り出しそうな気がしてならない。
最近ではカトー先生曰く、天才に分類されるレレイとも仲が良いらしいし、もしかしたら混ぜると危険な要素を合わせてしまったかもしれない。
早めに釘を刺すべきか悩むが、とりあえず静観しよう。何か起きてからでは遅いのも確かだが、何もしてないのに注意するのもなんだしな。
自分の部屋についた俺は早速通信機を起動させ、伊丹さんの通信機に繋げる。
僅かなノイズののち、向こうからの応答があった。
『――どうしたの? なにかあった?』
「実はカトー先生から翼竜の鱗を換金するために、イタリカという街まで送ってもらえないかと依頼されまして。車って出せますか?」
『偵察ってことならいけると思うよ。それに便乗する形で乗り込ませれば、特に何も言われないはずだし』
「ありがとうございます。出せる日取りが決まったらまた教えてください」
『はいよ。 ところで、そっちの生活には慣れた?』
「みんなはともかく、俺は前に味噌汁食った瞬間からずっと日本での食事が恋しいです。ハンバーガーとか牛丼とか」
『そりゃ大変だ。じゃ、また連絡するからカトー先生たちによろしく――』
『伊丹ぃ! いつまで油を売ってるつもりだ!』
『げっ、檜垣三佐! い、いや、今キャンプの代表と通信中で……』
『片手に薄い本持ってそんな発言されても説得力がまるでないわ! さっさと仕事に戻れぇ!』
『は、はいぃぃぃぃ!』
ブツッと通信が切れ、俺の耳には伊丹さんの叫びが残響していた。というかあの人、また仕事中に同人誌読んでたのか。
確か以前、特地語勉強会で基地に寄った時に木陰で堂々と読んでいるのを見たが、あの時は栗林さんがキレてたな。
食う寝る遊ぶ、その間にちょっとの人生。そんなモットーを掲げた人が自衛官で一部隊の隊長なんだから、世の中分からないものだ。
「……とりあえず、話がついたことを報告しに行くか」
それにしてもこの世界の街か……ちょっと行ってみたいが、そこは要相談だな。
通信機を片づけながらそんなことを思い、俺はカトー先生の元へ向かった。
◇
自衛隊に依頼を出した翌日、俺とサラは鱗を売りに行くレレイ、テュカ、ロゥリィらとともに高機動車でイタリカという町に向かっていた。
加えて今回は町がどんなものなのかを事前に探るべく、ガイナーたちデナドロ三人集を偵察という名目で先行させている。
いくら現地人であるレレイたちがいるとはいえ、俺たちが乗っているのは異世界の技術の結晶だ。無用な混乱を避けるべく、場合によっては離れた場所で車を止めて徒歩に切り替える必要があるためだ。
俺とサラが同行できたのは不測の事態に備えての回復役と、ロボを除いたメンバーの中では特に特地語を理解しているのが主な理由だ。
ちなみに理解度としてはこんな感じである。
ロボ>>>サラ>俺>ルッカ=魔王>カエル>クロノ=マール>三人集>>>>>エイラ
エイラが一番低いのは、お察しくださいだな。
というか、特地語を全く勉強していないからな。本人曰く、「あたま、火山になる!」とのことだ。
「今走っているのがテッサリア街道で、イタリカがここか」
「異世界でも地球産の
「いや、そういえばちゃんと調べてないな。基地に戻ったらロボ君に北極と磁北極のズレを割り出してもらえないだろうか?」
「保証はできませんが、聞いてみます」
桑原さんとそんな会話をしていると、レレイが興味深そうに地図とコンパスを注視していた
その視線に気づき、桑原さんが解説を始める。俺は入り込む余地がないと判断し、サラの隣に座ってほかの二人に目をやる。
が、何か内緒話でもしているのか車の音もあって会話はよく聞き取れない。テュカの表情が赤く、それを見て楽しそうに話すロゥリィを見る限りなにかからかわれたりでもしたのかね。
「……こうしてみる限りじゃ、本当に子供なんだけどな」
「ロゥリィさんのことですか?」
「ああ。失礼かもしれないが、未だに神様だって実感が沸いてこない」
それは名前登録の時のこと。
見た目に反して900年以上を生きているという彼女は亜神と呼ばれる「人の肉体を持ったまま神としての力を得た存在」らしく、あと半世紀も生きれば肉体を捨てて本物の神へと昇神するとのことだ。
やたら身近な神だなとは思うが、よく考えれば俺は神と呼ばれる存在に遭遇したのはこれで三度目だ。
最も、ラヴォス神と崇められていたアレは俺からしたら邪神でしかない。もう死んだので気に掛けることもないが。
「それにしても、シルバード程ではないにしても車って早いですね」
「まあ、あっちは飛行機だしな。それでも、その気になれば自衛隊の戦闘機の方が早いかもしれないけどな」
「そうなんですか?」
「シルバードの最高速度がどれくらいかわからないが、こっちは分かってるだけで音速を超えるぞ」
ただ、シルバードの突撃でラヴォスの第一形態を撃破できることを考えたら、相当な速度を出せることは間違いない。
もしかしたらシルバードのみでみたら自衛隊にも勝るのか? ダルトンが武器を搭載していたならレーザーも撃てるし。
というか、あれも古代に残したままだったな。クロノ世界に戻ったら回収して現代においておくか?
「尊君、先行していた三人が戻ってきた」
「え、あいつらがですか?」
伊丹さんの呼びかけに反応して前を見てみると、確かにあの三人が砂塵を巻き起こしながら駆けてくるのが見えた。
しかも別の方を注視してみれば、何やら黒い煙が上がっているのも見える。もしかしたら、あれのことについてか?
倉田さんが車を停止させ、俺は荷台の窓から顔を出してガイナーたちを迎える。
「御館様、ただいま戻りました」
「どうした、なにがあった?」
「ハッ、実はイタリカと思しき街で戦闘を確認しました」
「戦闘? じゃあ、あの煙は……」
「伊丹殿のお察しの通り、町民と賊との戦いによるものです。確認した限りでは賊の方は既に撤退をしたようですが、あの様子ではまた攻められる可能性が高いと思われます」
三人の言葉に緊迫した空気が流れ、伊丹さんは少し考える素振りを見せると通信機を手に取り後続の車両に通達する。
「全車、周辺と対空警戒を厳にせよ。ここからイタリカへは慎重に接近する」
各車両から了解と返答がある中、俺の頭には避難民がドラゴンに襲われたときのことが重なった。
平穏な暮らしをしていたはずの人たちが理不尽な暴力によって命を散らし、亡骸すら人として扱われなかったあの光景が脳裏に浮かぶ。
盗賊という外道に人権はないと聞いたことがあるが、同じことがこの先の街で起こっていると思うとあながち間違っていない気がした。しかし、それでも相手は人間だと思うとどうにも腑に落ちない。
――割り切れ、でなければ次はお前が死ぬぞ。
カエルの言葉が脳内でリフレインする。もし盗賊と戦闘になった場合、俺は割り切って命を奪えるだろうか。
「……今後同じことが起きた時どうするか、ここで答えを出す必要があるかもな」
これからの生き方を決める一つのポイントになる予感を感じながら、俺は車内に顔を引っ込め徐々に近くなる煙を眺めた。
本編第59話、いかがでしたでしょうか?
早ければ次回にでも自衛隊による地獄の黙示録が入ります。
大音量コンポとワーグナーのCDをご用意ください(嘘
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。