Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんにちわ、積んでいたガンプラを消費していたら執筆が滞ってしまった作者です。

さて、今回は有名な自衛隊はっちゃけ回となります。
推奨BGMとして「ワルキューレの騎行」をご用意ください。

それでは本編第61話、どうぞご覧ください。


第61話「イタリカの攻防 戦女神の鉄槌編」

 イタリカの街でデナドロ三人集が行動を開始した頃、アルヌスでは支援要請を受けた自衛隊の部隊が出動準備を進めていた。

 

 

「我が第四戦闘団四〇一中隊の攻撃目標は『盗賊団』! 数はおよそ800! 既に被害は甚大であり、我々が征かねば陥落も時間の問題でだろう! そしてこの出動は我が隊の初陣でもある! 気合を入れていけ!」

 

『『『おうっ!!』』』

 

「よし! 全員、搭乗!」

 

 

 健軍俊也一等陸佐の言葉に力強く応えた隊員たちがそれぞれのヘリに乗り込む。

 

 

「では陸将、行ってまいります」

 

「うむ、十分気を付けてな」

 

 

 特地における最高責任者である狭間に敬礼し、健軍は側に待機していた部下に声をかける。

 

 

「例の物は準備できてるか?」

 

「大音量スピーカーにコンポ、ワーグナーのCDはワルシャワ・フィルで用意してますよ」

 

「パーフェクトだ、用賀二佐!」

 

「感謝の極み!」

 

 

 某機関の吸血鬼と執事のやり取りを彷彿させる会話と先に聞こえてきた内容に狭間は眉間を抑え、この後起きるであろうことにため息をつく。

 

 ――こいつら、キルゴア中佐の霊にでも取り付かれたか? どうなるか容易に想像できる……。

 

 そしてついにヘリ部隊が出動し、力強い音を響かせて飛び立つ。

 地球でも大きな音を響かせるローター音がいくつも同時に鳴り響けば当然周囲にも容赦なく轟くわけで、難民キャンプでは爆音のような音に叩き起こされた住民が夜明け前の空を突き進むヘリを見上げ呆然としていた。

 ただ、例外もいた。

 

 

「なにあれ何あれナニアレ!! この前飛んでたのとは微妙に違うけど全部ミコトさんがいってたヘリコプターってやつ!?」

 

「だと思うけど……元気だな、ルッカ」

 

 

 夜明け前だというのにテンションが吹っ切れた幼馴染にそう零し、クロノは大きなあくびをかますのだった。

 

 

 

 

 

 

 デナドロ三人集の介入により思った以上に被害が抑えられているイタリカだが、最前線である東門とは別の場所で新たな問題が発生していた。

 

 

【はっ……あぁん! だめぇ…なんで、こっちにぃ……こない、の…くはぁっ!】

 

 

 艶めかしい喘ぎ声が南門に響き、その場にいた男の何人かはしばらくすると思わず前かがみになった。

 

 

「お、おい、大丈夫か――っ?」

 

 

 小刻みに体を痙攣させるロゥリィに伊丹が何事かと近づこうとすると、テュカとレレイがそれを止めさせる。

 同じく声をかけようとしていた尊がそれに気づき、レレイに問う。

 

 

「なんで近づいたらダメなんだ?」

 

「危険だから」

 

 

 なんで、と伊丹が問う前に悶えるロゥリィがハルバードで後ろに積んでおいた土嚢を足場ごと粉砕する。

 その光景を見て危険という意味を理解し、誰もが気持ち数歩ほど彼女から距離を取る。

 安全圏まで下がったのを見てレレイは頷き、今のロゥリィについて説明をする。

 

 

「戦場で倒れた兵士の魂魄が彼女の肉体を通してエムロイのもとへ召される際、使徒である彼女に媚薬のような作用をもたらしている。戦いに身を任せればいいらしいけど、詳しくは分からない」

 

「……いろんな意味でヤバいな、それ」

 

【だめぇ! おかしくなっちゃうぅぅ!】

 

 

 なおも響く嬌声にテュカとサラは思わず顔を赤くし、男性陣から前かがみになる者がまた二人ほど増える。

 

 

「どうします隊長? このままだとまずいと思うですけど」

 

 

 少し気まずそうに栗林が尋ね、伊丹はロゥリィの声を耳に入れないようにしながらどうすべきか思案する。

 

 ――敵が来る気配もなさそうだし、援軍の誘導もしなくちゃな……。

 

 

「栗林、ロゥリィについてやってくれ。それから富田と俺、この四人で東門の援護に向かう。残りはここで待機を――「俺も行きます」」

 

 

 伊丹の言葉を遮って志願の声が上がり、視線がそこに集中する。

 

 

「……どういうことだ、尊君」

 

「俺も行かせて欲しい、と言ったんです」

 

「俺たちが今から行くのは戦場だ、人を殺すことになるし、殺されるかもしれないんだぞ?」

 

「わかっています。けど、炎龍からコダ村の難民を守るために戦った時の気持ちに決着をつけるためにも、自分が駆けつけられる範囲にいる人くらいは助けたいんです。それに――」

 

 

 言葉を区切って一度サラに視線を送ると、尊は改めて誓うように口を開く。

 

 

「――俺はサラを残して死ぬ気は微塵もありません。彼女の父から託された願いを果たすためにも、絶対に」

 

 

 はっきりと告げられた言葉に一瞬悩む伊丹だが、何かを耐えるように体を震わすロゥリィと白み始めた空を見て決断を下す。

 

 

「わかった。けど、俺の指示には必ず従うと約束してくれ」

 

「了解です」

 

「よし! 残りはここで待機だ! 急ぐぞ!」

 

「ロゥリィいくよ! もう少しの辛抱だから――あっ!」

 

 

 栗林が声をかけてすぐにロゥリィは城壁から飛び降り、常人離れした速度で東門へと向かう。

 桑原が思わず「早っ」と零した隣で遅れまいと伊丹たちもすぐに車両に乗り込み、後を追う。

 

 

「ミコトさん! 気を付けて!」

 

「おう!」

 

 

 最後に届いたサラの言葉にしっかりと応え、移動する車内で尊は装備を整える。

 プリズムベストを着こむほどではないと判断しプラチナベストを着こんでシルバーピアスを装着し、最後に虹のリングを指にはめる。

 MPの最大値は黒の夢に乗り込んだころから変わらず99のまま。シルバーピアスの恩恵で魔法や精神コマンド、紋章術まで消費MPが半分になるとはいえ、これからのことを考えると少し心許ない。

 

 ――紋章術が特にMP喰うんだよな……クロノたちに相談してゴールドピアスを回してもらうか? そうすれば計算上、今までの倍は使えるようになる。一番いいのはUG細胞改の自己進化が燃費の改善をしてくれるなりMPの総量を増量させてくれることなんだが、これは当てにできないだろうなぁ。

 

 

「……ねえ、月崎君。そのベストとかどこから出したの? 今なにもないところから出てきたように見えたんだけど」

 

 

 紋章術の燃費の悪さについて対策を考えていると、隣の栗林から何か信じられないものを見たような声で聞かれ、そういえば伊丹にも教えていなかったかと思い説明する。

 

 

「クロノたちの世界の人間はみんな亜空間倉庫というものを持っているんです。収納できるものの種類は明確には分かっていませんが、小物のアイテムからちょっとした鎧の装備までほぼ無制限に収納することができます」

 

「あれ、でも月崎さんは別の世界の地球人では?」

 

「何故かあの世界に渡ったら身に着けていましてね。便利ですよ? 着替えもこの中に詰められるし、食料品は鮮度を保ったまま保管されるし」

 

「……羨ましいねぇ。弾薬の持ち運びに重宝しそうだ」

 

「隊長の場合は同人誌運ぶために重宝するのでは?」

 

「甘いな、栗林。戦利品は手に持ってこそありがたみがあるんだ」

 

「……理解できないわ。ていうかしたくもない」

 

 

 ――伊丹さんの言う戦利品がどんなものか容易に想像つくけど、発想は共感できるな。

 

 栗林が頭を抱え、富田がため息をこぼす中、尊だけは考え方のみ心の中で同意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 さっきまでまだ暗いと思っていた空が一気に明るくなり、朝日が街の屋根を照らし出す。

 それは、尊が自分の家臣に与えた指示が終わることを示していた。

 

 

「伊丹さん、ガイナーたちの援護が終わります。ベースジャバーで上から先行して、足止めに向かってもいいですか?」

 

「……俺たちよりロゥリィが着く方が早いだろうから、援護してやってくれるか?」

 

「わかりました」

 

「よし、なら次の直線で後ろから出てくれ! もうすぐ自衛隊(ウチ)の援軍も来るはずだから、あまり前に出すぎないように! でないと巻き添えを喰らうぞ!」

 

「了解!」

 

 

 下された指示にはっきりと答え、予告された通りの直線に出ると同時に尊は荷台の扉を開放して飛び出すと同時ベースジャバーを形成。すぐさま上昇して東門へと進路を取る。

 先行していたロゥリィがその存在に気づくとそちらの方が走るより早いと判断したのか、ベースジャバーが隣に来ると同時に尊の後ろに飛び乗った。

 

 

「ロゥリィ、援護するから前で思いっきり鬱憤とかいろいろ晴らして来い!」

 

「言われなくてもぉ!」

 

 

 精神コマンドの『加速』を使い一気に東門の上空に来るとまずロゥリィが敵陣のど真ん中に飛び降り、尊は柵の中を一望できる家の屋根に降り立つ。

 ロゥリィは辿り着くなり妖艶な笑みを浮かべ、自分に攻撃してきた大きな体躯の男にハルバードを振るい一撃で倒すと、目の前の敵めがけ狂ったように笑いながら突っ込む。

 一方の尊もやられた人たちの姿が目につき、腹の底から怒りが込みあがるのを実感しながらサテライトエッジをツインソードで召喚し、紋章を顕現させてロゥリィが仕掛けているものとは別の敵陣に向けて紋章剣を放つ。

 

 

「『裂空――十文字』!」

 

 

 青白い十字の斬撃が地面ごと敵を吹き飛ばし、そこへ追い打ちをかけるように突如として城門が爆発する。

 これには流石に驚いた尊だが、遠くから聞こえる音楽とヘリの音を聞いて伊丹の言っていたアルヌスからの援軍が来たことを理解した。

 

 ――けど流してる曲が『ワルキューレの騎行』って……爆竜大佐や地獄の黙示録じゃあるまいし遊びすぎだろ、この自衛隊。

 

 ともあれ、気を取り直して尊は紋章を顕現しながら特地語で声を張り上げる。

 

 

【賊ども! これ以上の抵抗は無意味だ! 今の攻撃は威嚇だが、まだ抵抗するのなら――】

 

【ふ、ふざけんな小僧ぉ!】

 

【ぶっ殺せぇ!】

 

 

 最後まで話を聞こうとしないで柵を破壊し攻め入ろうとする賊をみて勧告は無駄だと判断すると、今度は切っ先から輝力砲を放ち盗賊たちを薙ぎ払う。

 砲撃がやんだところでMPに目を向けてみると既に半分近く無くなっていることに気づき、今の攻撃を受けてもまだ攻め込もうとしている敵を見て紋章術から魔法に切り替える。

 

 

「『サンダー』!」

 

 

 威嚇するように先頭にいた盗賊の前に雷を落とす。

 見たことのない魔法に一瞬たじろぐ敵だが、それがどうしたとばかりに雄たけびを上げて突っ込む。

 一瞬、自分がやろうとすることを思いためらった尊だが、直ぐに力強く魔法を唱える。

 

 

「――『サンダガ』!」

 

 

ズガガガガガガガガッ!!

 

 

【ぐああああああ!?】

 

【おごおおおおお!?】

 

 

 尊の眼下にいた盗賊に先ほど落とされた雷以上の電撃が降り注ぎ、多くは瀕死だが息があるものの、中には耐えきれずに命を落とした者もいた。

 自分の攻撃で人が死んだという事実が不快な感情となって突きつけられるが、それを押し殺して目の前の状況に集中する。

 

 ――伊丹さんがくるまで抑えればいい…それに前は前でロゥリィが無双してるんだ。しかも別のグループも今の一撃(サンダガ)で浮足立ってる…ならここからは無理に魔法で攻撃する必要もない!

 

 

「輝力武装! 『88ミリ高射砲(アハトアハト)』!」

 

 

 作り出したのはかつてフロニャルドにいた際、輝力武装の検証の際に調子に乗って作り出した大砲と同じ物だ。

 青白い紋章とともに溢れた光が大きな砲に変化したのを見て、流石の盗賊たちも分かりやすい脅威から泡を食って逃れようとするが、門の外はミサイルと銃弾の雨が降り注いでおり姿を見せようものなら一瞬にしてミンチになりかねない。

 かといって門の中で避けようにも楽しそうに笑いながら大の大人を5、6人まとめて始末する死神の少女が猛威を振るっている。

 絶望的なこの状況で助かる道を余裕のない頭で必死に考えるが、尊は容赦なく宣言する。

 

 

「吹っ飛べ!」

 

 

ドォン!

 

 輝力の弾丸が放たれ、盗賊たちに直撃する。

 命を奪う力はないが意識を刈り取るぐらいの力を持つ輝力をまともに受け、射線上にいた盗賊たちは軒並み意識を失った。

 しかし輝力武装や紋章砲を多用したためMPの残量は88ミリ砲を2、3回撃てば尽きてしまう程度まで落ち込んでおり、尊は貴重なエーテルの使用を視野に入れる。

 

 

「はああああああ!」

 

 

 そこへ勇ましい掛け声とともに栗林が柵の内側へ躍り出ると、小銃の先端に装着した剣でロゥリィに仕掛けようとした敵を突き刺し発砲。さらにそのままロゥリィと絶妙なコンビネーションを発揮し、敵の掃討に移行する。

 二人ながら十分に足りている戦力とMPの残量から、自分の出番はもうないと判断して尊は輝力武装を消滅させて家の屋根から飛び降り、丁度下にいた伊丹と合流した。

 

 

「尊君お疲れ! あとは俺たちでやる!」

 

「お願いします」

 

 

 念のために一番弱いが、燃費の良い魔法だけでもすぐ撃てるように成り行きを見守る。

 そこへ一機のヘリが門内上空へと現れ、伊丹の通信機に警告が届く。

 

 

<<こちらハンター1 これよりカウント10で門内を掃討する。至急退避されたし! 繰り返す、直ちに退避されたし!>>

 

 

 伊丹と富田は顔を合わせるとすぐさま前方で戦っているロゥリィと栗林を回収し、射線から逃れるべく全速力で尊がいる場所まで後退する。

 そして、その時は訪れた。

 

 

<<――3、2、1>>

 

 

ヴゥイィィィィィィィィィィッ!!

 

 

 カウントダウンが終了すると同時に20ミリ機関砲が火を噴く。

 圧倒的な火力に門内の敵はなすすべもなく蹂躙され、銃弾の雨が止むころには屍の山が築かれていた。

 

 

「……ば、化け物」

 

「あれは…悪魔の使いか……?」

 

 

 ハミルトンとノーマが呆然と呟き、ピニャは響く音楽から別のものを連想した。

 

 ――これは…鋼鉄の天馬を従えた女神の蔑みなのか?

 

 彼女たちがそんな畏怖を抱いている間にも四〇一の隊員はヘリからラペリング降下で投降者の確保と生存者の救出に乗り出していた。

 尊もあまり実感が湧かないながらも終わったのだと理解すると、近くの壁にもたれかかりながらため息とともに腰を下ろす。

 

 

「……俺、魔法でとはいえ人を殺したんだよな」

 

 

 襲われた人を助けるために人を殺した。

 改めて思い返すと魔法を受けた盗賊たちの断末魔が蘇り、胃袋の奥から急に熱いものがこみ上げる。

 

 

「ぅ――げぇ!」

 

 

 人目もはばからず地面に手をつき、胃の中のものを吐き出す。

 幸か不幸か、胃液しか出なかったため吐瀉物はそれほど大したものではなったが、周りの住民は突然吐き出した尊に驚いた。

 

 

【き、君。大丈夫かね?】

 

「ゲホッ――【だ、大丈夫です。皆さんの方こそ、大丈夫ですか?】」

 

【あ、ああ。緑の人や使徒様、それに君のおかげで街は救われた――ありがとう】

 

 

 『ありがとう』。

 それだけの言葉で尊の心は幾分か楽になり、口元を拭うと自分が殺した盗賊たちの屍に向かって手を合わせた。

 

 ――今の俺にはああするしかなかった。許してくれとは言わないが、来世があるならもっとマシな人生を送ってくれ。

 

 

「……さて、伊丹さんと合流してからサラに無事を知らせるか」

 

 

 気持ちに区切りをつけて立ち上がったその直後、打撃音とともに伊丹の情けない悲鳴が響いたのだった。

 




本編第61話、いかがでしたでしょうか?

少々あっさり終わりすぎな気がする上に尊に対する描写が少ない気がしますが、今後このあたりも改善できたらと思っています。
というか、終わりの方が手抜き過ぎた感じが否めません。

さて、次回はベルばら軍団と栗林の衝撃、ピニャの胃にGATEのテーマで進めようかと思います。
そろそろサラといちゃいちゃした展開を書きたいなぁ……。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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