Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんばんわ、デレステやガンプラに勤しんでいたら筆が進まなくなっていた作者です。

さて、今回は短めな上少し時間が飛びます。と言ってもそこまでぶっ飛ぶわけではありません。
アニメ7話の前半くらいまで話が進みますが、日本に行くのは早くて次回となります。

それでは本編第62話、どうぞご覧ください


第62話「協定破り」

 日が落ちて数刻ほど過ぎたか。尊たちと自衛隊はイタリカが見える丘で街の様子を探っていた。

 

 

「隊長、もう死んでたりして」

 

「縁起でもないこと言わないで下さいよ」

 

「無理やりとはいえ自分の足で走っていたみたいですし、まだ大丈夫じゃないですか?」

 

 

 顔に迷彩ペイントを施した栗林の発言に同じようなペイントを塗っている倉田と尊から反応が返ってくる。

 今、この場に第3偵察隊の隊長である伊丹の姿はない。

 というのも、イタリカでの用事が済んだ後の帰還中にトラブルが発生したことが原因であった。

 時の針は、数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 伊丹さんと援軍でやってきた健軍さんがピニャ殿下とフォルマル伯爵領の当主ミュイ嬢といくつか協定を結び、本来の目的であった鱗の売却も済んで俺たちは一路アルヌスに向かっていた。

 徹夜は久しぶりだったが、体が慣れているのか俺はまだ余裕があるものの隣にいるサラや対面のレレイ、ロゥリィにテュカは静かに寝息を立てている。

 三人集は今回のことをクロノたちに教えるべく、一足先にアルヌスへと帰還した。

 

 

「ふぁぁ……ねみぃよ、倉田」

 

 

 右目の周りに痣がある伊丹さんが助手席で大きなあくびをかまし、愚痴を零す。

 なんでも盗賊との戦いのとき、ヘリの警告を受けてロゥリィを抱えて下がった後に殴られたそうだ。

 理由を聞いてもロゥリィはつーんとそっぽを向き、伊丹さんは言いずらそうに苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

「俺だって眠いですよ。やっぱり、一休みしてから帰った方がよかったんじゃないですか?」

 

「参考人招致の準備があるのに、そんな悠長なことしてらんないって」

 

「参考人招致? なんですか、それ」

 

 

 聞き慣れないキーワードを拾い訊ねると、伊丹さんが「ああ」と言いながら教えてくれる。

 

 

「前に炎龍と戦った時の状況を知りたいって本国から言われてね、国会で現地人を交えて説明することになったんだ」

 

「へぇ……ん? じゃあ直接戦闘に関わった俺たちも、そこに行かなきゃいけないんですか?」

 

「んー、そうだね。今のところ特地の事情を説明できるレレイと、明らかに異世界人だとわかるテュカを呼ぶのは決めてる。後は戦闘に参加した尊君も来れば、十分かな?」

 

「なるほど」

 

 

 ということは、別の世界ながらも日本に帰れるということか。……たった数ヶ月なのに、もう何年も戻ってないような気がするな。

 これから先も、そう簡単に日本へ来れるとも限らない。ならこの機会に――

 

 

キキィッ!

 

 

「おわ!?」

 

「きゃ!?」

 

 

 唐突な急ブレーキによって生じた慣性により、横向きに座っていた俺たちの体は大きく滑るように傾く。

 どうにか手をついて倒れるのを阻止するとともにサラの体を受け止めることに成功したが、向かいに座っていた三人は大きく体勢を崩し、レレイに至っては滑り落ちて足元に顔をぶつけてしまっていた。

 

 

「隊長、前方より煙が見えます!」

 

「また煙かよ!?」

 

 

 前の方からそんな会話が聞こえ、また厄介ごとかと思いながら俺も視線を向ける。

 遠めなのでよく見えないが、確かに砂埃が巻き上がってこっちに向かっているようだった。

 

 

「煙が邪魔でよく見えないな……」

 

「――あっ、見えました!」

 

「何が見える?」

 

「ティアラです!」

 

「ああ、ティアラね――ってティアラ!?」

 

「金髪です!」

 

「金髪ッ!?」

 

「縦ロールです!」

 

「縦ロールぅ!?」

 

「目標、金髪縦ロール1。男装の麗人1。後方に美人多数!」

 

 

 …………。

 

 

「薔薇だなッ!!」

 

「薔薇ですッ!!」

 

「……アホか、あんたら」

 

 

 前の二人に冷ややかな視線が向けられる中、話題の元となった集団が直ぐ近くまでやってくる。

 馬を駆り赤、黄、白の薔薇が描かれた旗を掲げた女性ばかりの一団から金髪縦ロールさんと男装の麗人さん(仮称)が見え思わず「縦ロールすげぇ」と零してしまったが、冷静に考えるとこれは少しマズいかもしれない。

 彼女たちからすれば、自衛隊は異世界から攻めてきた敵国の軍勢だ。先ほどピニャ・コ・ラーダ殿下から滞在と往来を認めてもらう協定を結んだとはいえ、この世界の技術レベルではその情報が伝わっている可能性は非常に低い。となれば、面倒なことになるのは容易に想像できる。

 

 

<<総員、警戒態勢>>

 

 

 俺と同じ予想に行きついたのか、桑原さんが武器を準備しながら告げる。

 しかし、その指示に伊丹さんが待ったをかけた。

 

 

「おやっさん待って。総員敵対行動は避けろ、協定違反になりかねない」

 

 

 隊長の指示を受けて自衛官たちが武器を下ろすが、体勢的に何かあれば即座に構えられるようにしているのがわかる。

 そうこうしているうちに薔薇の騎士団が進行方向に立ちふさがり、男装の麗人さんが前の車両で運転している富田さんに問いかける。

 

 

【貴様たち、どこから来た?】

 

「えっと……【我々、イタリカから来た】」

 

【どこへ向かうつもりだ?】

 

【――アルヌス・ウルゥへ】

 

【なんだと!? 貴様ら、異世界の敵か!?】

 

 

 富田さんの答えを聞いた瞬間、後ろに控えていた騎士たちが一斉に武器の矛先をこちらへと向けた。

 一人馬から降りた縦ロールさんは富田さんの胸倉をつかみ、再度問う。

 

 

【もう一度、言ってごらんなさい?】

 

【い、イタリカから来て、アルヌス・ウルゥに向かう……】

 

 

 威圧するような問いに気圧されながらも富田さんははっきりと答える。

 しかしこのままじゃまずいことに変わりない。かといって、協定の話をして信じてもらえるかどうか……。

 

 

「手を出すな。いいか、絶対に手を出すなよ」

 

 

 ここにいる全員にそう向け、伊丹さんは装備を外すと手を上げながら縦ロールさんたちに近づく。

 

 

【あのー、部下が何か致しました…か……」

 

 

 無手であることをアピールして話しかけたが、喉元に剣を向けられて思わず言葉が日本語へ戻ってしまったようだ。

 剣を突き付けた男装の麗人さんは警戒を緩める素振りも見せないまま鋭い視線を伊丹さんに合わせ、命令するように告げる。

 

 

【抵抗は無意味だ、降伏なさい!】

 

 

 いや、こっちが抵抗したらそっちに甚大な被害が出るから。もちろんそんなことしないけど。

 当然こんな命令を受け入れられるわけもなく、伊丹さんもタジタジしながら言葉を返す。

 

 

【あ、あのー、とにかく落ち着いて話を――】

 

【おだまりなさい!】

 

 

 パシンと乾いた音が響く。聞く耳持たんと言わんばかりに、縦ロールさんが伊丹さんの顔を叩いたのだ。

 これを敵対行動ととったのか、銃座に座っていた自衛官がガシャっと次弾を装填させる音が上がるものの、即座に桑原さんから待ての命令が上がる。

 

 

「逃げろ! とにかく今は逃げるんだ!」

 

 

 このままでは不味いと判断した伊丹さんの命令を受け、各車両が急バックをしてすぐに来た道を引き返す。ただ来た時と違うのは、伊丹さんをあの場に置き去りにしてきたということだ。

 

 

 

 

 

 

 そして話は冒頭へと回帰する。

 

 

「――あの騎士団がピニャ殿下の直属の部隊なら今回のことは間違いなくあの方の耳に入るでしょうし、お屋敷ならイタミさんも手厚く看護されるのでは?」

 

「協定を結んでいる以上、彼女たちの行いは看過できない。何より帝国としても、ニホンに付け入る隙を与えるのを良しとしないはず」

 

「確かに。そう考えると最悪の事態はなさそうだな」

 

「まあ、それを除いても隊長なら大丈夫だと思いますよ。一応、レンジャー持ちですし」

 

 

 サラ、レレイ、尊の話を傍で聞いていた富田が何気なくこぼす。

 富田の一言に理解が及ばない三人はピンと来なかったが、逆によく理解したうえで見過ごせない人物が声を上げた。

 

 

「富田ちゃん、隊長がレンジャーってマジ!?」

 

「え、ああ」

 

 

 嘘だと言ってほしかった言葉が肯定で返され、問いかけた栗林はぷるぷると体を震わせのたうち回る。

 

 

「あ、ありえないぃぃぃ! 勘弁してよぉぉぉ!」

 

「イタミさんがそのレンジャーというものを持っていてはいけないのですか?」

 

「だってキャラじゃないのよぉ! 地獄のような訓練課程をくぐり抜け、鋼のように強靭な肉体と精神でどんな過酷な任務でも遂行する精強な戦士! それがレンジャー! あんな人には似合わないものなのよぉ!」

 

「……え、てことは伊丹さんって、実は凄い人なんですか?」

 

「まあ、わかりやすく言えばエリートに分類されますね」

 

 

 倉田の解説に普段目にする伊丹の姿を思い浮かべ特地の三人娘はそのギャップに大笑いし、尊とサラは見かけによらずすごいと純粋に感心した。

 程なくして救出のために行動することとなり、自衛隊の半数に加えあの騎士団から目をつけられにくいであろう尊たち5人を加え、一行は昼間に出発したイタリカへと向かう。

 その頃、レンジャー持ちということが発覚し周囲からの評価に変化が見られた伊丹自身はというと――。

 

 

【イタミ殿! お気を確かに! イタミ殿!】

 

【おいハミルトン! あまり揺らすな! 意識が朦朧としているのにそんなことをしていると――】

 

 

ぱたり

 

 

【【イタミ殿ぉぉぉぉぉぉ!?】】

 

 

 ノーマとハミルトンの悲鳴が屋敷に響き、彼をこんな目に合わせた部下を前にしてピニャは頭を抱えた。

 何せ結んだその日に協定破りをしたのだ。相手が帝国ならこれを口実に戦争の一つや二つ容易に吹っかける。しかもピニャたち4人は自衛隊の力をすぐ近くで見ているため、彼らが同じ手口を使えばただでは済まないことが手に取るように分かった。

 

 

【――貴様らぁ、イタミ殿になにをした?】

 

 

 一先ず伊丹を屋敷のメイド長に任せ、ピニャはドスを聞かせて今回の問題を引き起こした金髪縦ロールことボーゼス・コ・パレスティーと、男装の麗人ことパナシュ・フレ・カルギーに問い詰める。

 しかし彼女らは何故ここまで怒られているのかわからなかった。

 いつも通り捕虜となった者の首に縄をかけ、いたぶりながらここまで連行したことを告げるとピニャは盛大にため息をついた。昨日までの自分ならそれでもよかっただろう。

 だが彼らは自らが往来を許可し、捕虜には人道的な扱いをするとも協定で結んだ。

 前者だけならまだやりようがあったかもしれないが、後者は言い逃れができない。

 

 

【姫様、ここは素直に謝罪されてはいかがでしょう? 幸い、今回は死人も出ておらぬことですし】

 

【妾に頭を下げろというのかグレイ!? 帝国の弱みを見せることになるのだぞ!】

 

【ならば戦いますか? あれほどの力を振るったジエイタイと、彼らに与するロゥリィ・マーキュリー。そして見たことのない魔法と紋章を掲げる男を相手に】

 

 

 その言葉にピニャはぬぐっと声を漏らす。

 自衛隊は言わずもがな、ロゥリィの力も噂に違わぬ化け物レベル。そしていつか酒場で聞いた、謎の集団の頭目と思われる男が見せた雷撃の魔法と紋章の力。

 前の二つと比べれば見劣りするが、男の力も普通の人間では相手にならないものだというのは遠目からでもわかった。しかし殺しはまだ経験していなかったのか、話によれば戦いが終わってすぐ吐いたそうだ。

 

 

【小官は御免被りますな。まあ、どうなるかはイタミ殿の御機嫌次第かと思われますが】

 

 

 最後にそう締めくくり、グレイはピニャの後ろに控える。

 何度目かのため息をつき、ピニャはボーゼスたちを下がらせ今回の処理を考えるべく当てがわれた部屋へと向かう。

 

 ――どうすれば協定違反をなかったことにできるか……いかん、考えただけで胃が痛くなってきたぞ。

 

 胃のあたりを押さえながら、ピニャは部屋の扉を押し開けるのだった。




本編第62話、いかがでしたでしょうか?

前書きにもありましたが、早ければ次回にでも日本の土を踏みます。
作者がペース配分を間違えなければおそらく10話以内には新章へと移行します。
そこでいろいろ伏線を回収していけたらと思いますので、それまでは原作に沿った展開をお楽しみください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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