Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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第7話「決着!そして……」

「『ヘルガイザー』! 『アイスガ』!」

 

 

 開戦と同時に魔王は相手の体力を減らす『ヘルガイザー』を使用し、続いて全体魔法である『アイスガ』を唱えた。

 得体の知れない倦怠感と巨大な氷の塊が尊たちを襲い、確かなダメージを与える。

 

 

「チッ! 流石上級のガ系魔法。使用者が魔王と言うのもあって強力だな! 『ケアル』からの『アイス』!」

 

 

 尊は『ケアル』でダメージを回復しつつ現在のマジックバリアを突破することが出来る『アイス』を唱え魔王の腕に直撃させる。

 

 

「なに?」

 

 

 まさか初見でバリアを突破してくるとは思わなかったのだろう、怪訝そうに『アイス』が当たった場所を一瞥し、今度は火属性の『ファイガ』を放つ。

 最近縁がなかったと思った火の攻撃にしかめっ面をし、尊はサテライトエッジをシールドモードに変えて迫る爆炎をやり過ごそうとする。しかし大した効果は得られず、かなりの体力を削り取られる結果となった。

 

 

「くそぉ! 『サンダー』!」

 

 

 ファイガを喰らってすぐカエルの『ヒール』で回復したクロノが反撃のように『サンダー』を唱えるが、撃ち込まれた雷は魔王のバリアに吸収されエネルギーへと変換される。

 

 

「天属性の魔法とは、こういうものだ! 『サンダガ』!」

 

 

ズガガガガガガガガッ!!

 

 お手本とでも言うように魔王の手から尊やクロノの魔法が可愛く見えるほどの電撃が放たれる。

 幸い4人とも立ち上がって見せるが、受けたダメージは決して無視できるものではない。

 

 

「くっ、ロボ! ラピスを頼む!」

 

「カエルの剣士は魔王に攻撃を! 聖剣グランドリオンならあのバリアを突破できるはずだ!」

 

「わかりマシタ!」

 

「命令される理由はないが、了解した!」

 

 

 クロノの指示に応えたロボが全員の傷を癒すアイテムを使用し、尊の指示を受けたカエルがグランドリオンを構えて魔王の懐に飛び込む!

 

 

「せぇや!!」

 

「ッ! ちぃ!」

 

 

 物理にも発動するはずのバリアが発動しなかったことを察し一瞬遅れて縦に振られたグランドリオンを鎌で受け流そうとするが、勢いを完全に殺しきれず切っ先が魔王の左腕を掠める。

 

 

「クロノ!」

 

「ああ!」

 

 

 後ろへ飛びながら名を呼ぶカエル。それに応えるように現れたクロノがソイソー刀を構えて切りかかる。

 しかし魔王のバリアがその勢いを殺し、的確なダメージを与えるには至らなかった。

 

 

「消えろ! 『ダークボム』!」

 

 

ドドドドォン!!

 

 

「ぐぅ!」

 

 

 闇の爆炎が弾け近くにいたクロノを吹き飛ばす。直撃を受けたクロノはすぐさまロボの『ケアルビーム』で治療を受け立ち上がるが、魔王の名に恥じないその戦闘能力に押され戦況はどうにも芳しかった。

 

 

「どうした? まさか本当にこの程度だとは言わせんぞ。俺はまだ全力の半分も出して――むっ!?」

 

 

 余裕に満ちた声でクロノたちを挑発しようとした魔王を一条の光が襲う。

 バリアに阻まれそこまで強いダメージを与えたわけではないが、予想外の攻撃に自然と発生元へ視線が集まる。

 

 

「余裕でいられるのも今のうちだ。俺がこっちについた時点で、お前の勝利する可能性は大きく減っているんだからな。『集中』、『加速』!」

 

 

 一定時間命中と回避を上昇させる『集中』と一度だけ素早く移動が出来る『加速』を使用しながらサテライトエッジのブラスターを変形させ、ハルバードを構えた尊が魔王へと切りかかる。対する魔王もバリアを展開し、直撃を防ぐ。

 

 

「貴様、やはり最初の攻撃は……どこまで気づいている?」

 

「質問するのは全然かまわないが――後ろががら空きだぜ?」

 

 

 ニヤリとした笑みとともに投げかけられた言葉にはっとなり、魔王はとっさに右へと飛ぶ。

 先ほどまで自分がいた位置をグランドリオンが通り抜け、さらに追撃するようにロボのレーザーが飛んでくる。冥属性のレーザーがバリアを突破し魔王の体にダメージを与える。

 そして動きが止まったところへ放たれる――――クロノの全力切り。

 

 

「はあぁぁぁぁあああ!!」

 

「なめるなぁ!」

 

 

 刃が触れる直前にバリアが展開され直撃をかわされる。しかし直接的なダメージはなくとも勢いによる衝撃は伝わり魔王の表情が一瞬だけ歪む。

 

 

「この程度で俺が――ッ!? 『サンダガ』!」

 

 

 グランドリオンを構えたカエルとサテライトエッジのザンバーを構えた尊の姿を視界に入れた瞬間、魔王は魔法で攻撃が届く前に弾き飛ばす。 

 しかしダメージを受けた尊の顔に浮かんだのは、確かな笑みだった。

 

 

「それを待っていた! 『サンダー』!」

 

「! 『サンダー』!」

 

 

ズガガァン!!

 

 

「ぐぅぅ!!」

 

 

 尊の言葉を聴いてとっさにクロノも『サンダー』を放つ。

 魔王のマジックバリアの特性を知り尽くしていた尊からすればこのクロノの『サンダー』はうれしい誤算だった。

 魔王のマジックバリアはどれか1つの属性以外はすべて吸収する特性があり、それを見極めるのが彼の使用する魔法にあった。

 火の属性を使用してくれば火以外を。水の属性を使用してくれば水以外を。そのパターンに従えば天の属性である『サンダガ』を使用した後は天の属性以外を吸収するということになる。

 これをゲームで散々戦ってきた尊は細胞レベルで把握しており、天か水の属性を使ってくることを今か今かと待ち構えていた。

 そしてお待ちかねの展開にすかさず通用する魔法を選択し使用、さらに運がいいことに同じ属性を扱うクロノも同調してほぼ同時に同じ魔法を使用した。

 結果、マジックバリアは発動せず魔王は二つのサンダーに堪らず呻き声を上げる。

 

 

「もらったぞ! 魔王!!」

 

「カエル風情が粋がるな! 『ファイガ』!」

 

 

 サンダーの直撃をもらった後だが魔王の動きを止めるには力不足だったらしく、素早く鎌で受け止めカエルを蹴り飛ばとさらに追撃とばかりにファイガを放つ。

 先ほどサンダガを受けたばかりにも関わらずさらにファイガをもらったことで尊は一瞬死んだと思ったが、辛うじて体が動くことを認識するとまだ生きていると実感する。

 

 

「くそ! 直撃させただけじゃダメか!」

 

「嘗めるなよ雑魚ども! 魔法で俺を跪かせたければその10倍はもってこい!」

 

「……10倍か。流石にそれはちょっとキツイな」

 

 

 『ケアル』で自分を含めたクロノたち4人の傷を癒しつつ、立ち上がって魔王の言葉を確認する尊。確かに今の自分たちではさっきの10倍の威力を持つ魔法は習得していない。

 しかしと彼は心の中でつぶやき、口角を吊り上げる。

 

 

「10倍は無理だが、3倍くらいなら『勇気』で補える!!」

 

 

 そう宣言し、サテライトエッジをボウモードにして素早く射ち放つ。

 

 

「そんなもので俺のバリアは――!」

 

 

 余裕そうにバリアを展開する魔王。しかし――――

 

 

バギィン!!

 

 

「なっ!? ――ぐあああっ!?」

 

 

 光の矢はバリアを容易く突破し魔王のわき腹を掠める。

 だが掠めただけだというのに、魔王はまるで腹部に直撃したかのような激痛を感じた。

 

 

「抜けた!?」

 

「魔王のバリアが弱ってマス! 今なら――――!」

 

「ぐっ、やらせると思うか!? 『ファイガ』!」

 

 

 激痛に耐えながらも魔王は再び魔法を唱える。

 灼熱の炎が爆裂し、迫っていたクロノたちが吹き飛ばされる。だがその威力に誰もが膝を着きそうになる中、一人だけすぐ起き上がった者がいた。

 

 

「……貴様、化け物か?」

 

「違うといいたいところだが、この瞬間だけはそうと言えるかも知れないな」

 

 

 そう言いながらも内心で冷や汗をかいているのは、流れを一気に変えた尊だった。

 北の廃墟での修行で得られた新しい力――精神コマンド『勇気』。

 その中に含まれる『直撃』が魔王のバリアを無視し、『必中』が――掠ったとはいえ――攻撃を命中させ、『不屈』の一度だけダメージを10%に抑える効果が『ファイガ』から身を守った。

 さらに宣言した通り、10倍のダメージは無理だったが『熱血』と『気合』の相乗効果がダメージを押し上げ、確かに3倍のダメージを与えることが出来た。

 

 

「……よかろう。貴様が化け物だというのなら、最早力を抑えることはせん。俺の魔力全てを使い、一思いに葬ってやろう!」

 

 

 その言葉と共に魔王の足元から紫色の光と、巨大な魔法陣が出現した。

 何事かと全員が構えると、ロボのセンサーがその現象をとらえる。

 

 

「キョ、強大な魔力反応を感知! まだ増大してイマス!」

 

「まさか……不味い!?」

 

 

 ある可能性に思い至った尊はそれが繰り出される前に攻め立てようと考えた。

 しかしクロノたちのダメージが回復しておらず、中途半端な体力でそれを喰らえばただではすまないことを――直感ではあるが――感じ取っていた。

 

 

「でかいのが来るぞ! 回復して衝撃に備えろ!!」

 

 

 とっさにそう指示しながら回復できる手段全てを用いてクロノたちを過剰とも取れる勢いで回復させる。

 

 

「ダグ・ダラズ・ラーダイル、光を呑み込む深き闇よ、冥府の扉を解き放ち、暗黒の魔光をもって全てを滅せよ!」

 

 

 聴いたことのない言葉。しかし尊はそれが何の前兆であるかを明確に理解した。

 

 

「――総員、防御体勢!」

 

 

 回復は完了したが追撃が間に合わないと悟るや否や――意味があるかわからないが――防御の指示を出し、自分もサテライトエッジをシールドモードに変形させソレに備える。

 

 

「さあ、冥府の果てへと消し飛ぶがいい!」

 

 

 完成した魔王の持つ最強の魔法が、放たれる。

 

 

 

「『ダークマター』!!」

 

 

 

ゴォォォォォォオオオ!!!!

 

 宙を舞う二つの三角形が交錯する度に闇のように黒い光が迸り、尊やクロノたちに降り注ぐ。

 その一撃一撃が凄まじい衝撃を持っており、一瞬でも気を抜けばすぐさま意識どころか魂まで刈り取られそうだった。

 

カッ!!

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 

 一際強い衝撃が全身を襲い、直後に尊は床に膝を、手を突いて荒い呼吸を繰り返す。

 

 ――わ、わかってはいたが、まさかこんなに強いとは……。

 

 魔法防御の高さはレベル30にしては結構低いほうだが、今のクロノたちからすれば十分に高いものだ。しかしそれに対し、レベル30にしてはHPが異常なまでに低かった。

 同レベルなら一番低いマールでも450以上あるのに対し、現時点の尊は400にも届いていない。むしろこの場にいるクロノたちと同じくらいか、それ以下しかないのだ。

 そんな状態で魔王の最強魔法である『ダークマター』を喰らい、自分でもまだ動けそうなのが不思議なくらいだった。

 

 

「ちっ、思った以上に魔力が練れなかったか。ならばもう一度――」

 

「やらせると……思うか!」

 

 

 ロボの『ケアルビーム』を受けていち早く復帰したカエルがグランドリオンを手に飛び掛り、魔王へ息をつく暇もない連撃を繰り出す。

 この隙を逃すまいと尊もまず自分に『ケアル』を使用し、続いてクロノとロボへ同じ魔法を使う。

 

 

「ありがとうございマス」

 

「礼なら後だ。 さっきの魔法のために魔王はバリアを解除しているはずだ、防御力が落ちている今のうちに畳み掛ける! いくぞ、少年!」

 

「はい!」

 

 

 クロノに声をかけ、魔王を攻め立てているカエルへと加勢する。

 

 

「ええい、鬱陶しい! 『ファイガ』!」

 

 

 大きく後退した魔王が再び『ファイガ』を唱え攻めようとした3人を吹き飛ばす。少なくないダメージが全身に伝わるが、それを無視して尊は残りのMPを確認し回復よりも攻撃を優先させることにした。

 ボロボロなのに体の底から沸き上がるようなこの力、よくわからないがこれを利用しなければおそらく勝利は見えない!

 

 

「まだまだまだぁ! 『加速』! 『集中』! 『熱血』!!」

 

 

 ツインソードの形態で精神コマンドを付与し、一気に接近すると同時に振り下ろされた魔王の刃を半分に切り飛ばす!

 切り飛ばしたことで『熱血』の効果は消滅してしまったが、もう片方の手にある剣でさらに一度大きなダメージを与えたわき腹へさらに切りつける。

 手に伝わる肉を切る感触に少なからず嫌悪感を抱くが、生に対する執着がそれを押さえ込む。

 

 

「ぐぅぅっ! 何故だ! 何故仕留められん!? 何故まだ立ち上がる!?」

 

「さあな! 気合とか根性とか『勇気』とかいろいろ甘く見てんじゃないのか!? あとついでに言わせてもらうなら――――!」

 

 

 ツインソードをザンバーに変形させさりげなく『勇気』を使用して使い物にならなくなった魔王の鎌を弾き飛ばし、がら空きになった懐へ飛び込み腕を掴んで一気に引き寄せ担ぎ上げる!

 

 

「人間の底力を、なめんじゃねえぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 放たれたそれは知る人が見れば一本背負いに見えただろう。しかし尊は担ぎ上げてから叩きつけるのではなく、そのまま後方へと投げ飛ばした。そしてその先には――――

 

 

「な!? き、貴様らぁ!?」

 

「おおおおおおおおッ!!」

 

「はあああああああッ!!」

 

「ゴオオオオオオオッ!!」

 

 

 クロノとカエルによるエックス切り、そしてロボのタックルによって構成される三人技『トリプルアタック』が待ち構えていた。

 

ザシュッ! ドゴォォォン!!

 

 

「がはあ゛っ!?」

 

 

 身動きの取れない状態で聖剣と刀によるエックス切りを受け、トドメに超重量のロボによる体当たり。

 全てをまともに喰らった魔王はそのまま祭壇へと叩き付けられ、やがてその場に倒れ込んだ。

 

 

「や、やったか!?」

 

「カエル、それはフラグだ。ヘタに呟かない方がいい」

 

「フラグ? なんデスかそれは」

 

 

 思わずカエルから出た言葉に突っ込みを入れる尊。それが引き金になったのか、倒したと思われた魔王が起き上がろうとしていた。

 

 

「ぐっ……貴様、グランドリオンの力をここまで高めていたとは……」

 

「……終わりだ、魔王。サイラスの仇、今ここで――ッ!?」

 

 

 グランドリオンを構えなおそうとしたカエルだが、祭壇から沸き出る異様な気配にその動作を遮られた。

 

 

「センサーに強大なエネルギー反応デス!」

 

「まさか、ラヴォス!?」

 

「まずい! 今、眠りから覚められては……!」

 

 

 ロボの言葉を聞いてまさかと口にするクロノだが、直後に告げられた魔王の言葉が彼らに疑問を植え付けた。

 

 

「眠り? 記録によれば、ちょうどこの時ラヴォスは誕生したとありますが……」

 

「違うな。魔王はラヴォスを呼び出したに過ぎない。 あれは……ラヴォスは遥か昔から地中の奥深くに存在し、この大地の力を吸収しながらゆっくりと成長を続けているんだ。1999年に目覚め、星を滅ぼすために」

 

「な、なんだって!?」

 

 

 尊からもたらされた情報にクロノたちだけでなく、魔王まで度肝を抜かれた。

 

 

「貴様は……! 本当にどこまで知っているのだ……!」

 

「言ったはずだ、知っていることしか知らないと。それよりも……」

 

 

 尊の言葉を待っていたかのように、ロボのセンサーが新たな反応をキャッチする。

 

 

「これは……ありえマセン! あり得ないサイズのゲートの反応デス!」

 

「おのれ、貴様たちさえ現れなければ……俺は、奴を……!」

 

 

 その言葉を皮切りに、巨大なゲートがその姿を現し始めた。

 

 

「の、飲まれる……!」

 

「うおおーッ!!」

 

「クロノ! カエル! ワタシの手を!」

 

 

 ロボから伸びた腕がクロノたちを捕まえ、はぐれないように確保する。

 そして――――

 

 

「さあ、帰れるなら俺を帰してくれ! あの世界へ……俺の元いた場所へ……!!」

 

 

 極小の可能性に賭けた一人の男が、そのゲートを受け入れるように手を広げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはどこだ?

 あたり一面が白い世界。なにもない空間を俺は漂っていた。

 立っているのか、宙に浮いているのか、それすらもあいまいな空間に体を委ねていた。

 魔王と戦い、ラヴォスのゲートに飲み込まれたところまでは覚えているが、そこから先がどうも思い出せない。

 まさか、次元の間かあの世なんてオチはないだろうな。

 だが可能性としてはなくはないだろう。さまざまな時代に干渉する時の最果てなんて場所があるんだ、さまざまな次元に干渉する場所があっても不思議じゃない。

 まあ、仮に次元の間だとしたところでこれからどうしたものか――――

 

 

「やっと、見つけた」

 

 

 その声を耳にして、体を振り向かせる。

 そこには少し気が強そうな美人の女性が俺と同じように立っていた。

 

 

「あなたは?」

 

「私は君が元々いた世界を管理していた神の一人……。今回の事故の責任を取るべく、君を探し続けていた」

 

「俺が元々いた世界の、神様?」

 

「そうだ。簡潔に説明させてもらうと、君はこちらの怠慢によって別の世界へ飛ばされてしまったんだ」

 

 

 話を聞くと、俺はこの神様の元部下のせいでサテライトエッジやUG細胞改、精神コマンドやピンチになると強くなる底力なんてものを入手したらしい。魔王との戦いの時、ボロボロの時の方が強く感じられたのはこの底力のおかげか。

 本当ならギリギリのところで別の世界への移動を止められたはずだったが、世界を移動するためのエネルギーが暴走したり別の次元から干渉してきた強大な力に巻き込まれて別の世界へ飛ばされてしまったとのことだ。

 それ以降、俺の足取りをつかむためさまざまな反応の調査をしてきたらしいが、どういうわけかなかなか察知できなかったようだ。

 

 

「じゃあ俺が発見されたのは……」

 

「この空間――次元の間とも言うべき場所が発生したおかげだな。しかし、今の君を連れて帰ることはできないようだ」

 

「どういうことで――ん?」

 

 

 質問しようと足を踏み出すと、伸ばした腕がコツンと見えない壁にぶつかった。

 

 

「連れて帰れない理由がそれだ。見つけることは出来たが、強力な壁が邪魔をして手出しができなくなっている。それを取り除けば連れ帰るのも可能だと思うのだが、力の出所がまだ分かっていないのだ」

 

 

 つまり、異常な力を持った何かを取り除けば帰れるというわけか。こんなことをできそうな存在と言えば今のところ一つしかないわけで――――

 

 

「……今、俺がいる世界にラヴォスと言う化け物がいます。そいつは時間に干渉するほど強力な力を持っているので、もしかしたらそいつのせいかもしれません」

 

「……なるほど。ではその化け物を退治することができれば……」

 

「可能性はあります」

 

「了解した。君には済まないと思うが、そのラヴォスと言うものの相手を任せてもいいだろうか?」

 

「帰るために必要なら、やりますよ」

 

 

 こうなったら本格的にクロノたちと合流することを考えた方がいいな。ただ魔王城でいろいろ情報を漏らしてしまったから、せめて死の山が攻略された後に合流したいな。 

 ……合流と言えば、ガイナーたちはどうしただろうか? ラヴォスのゲートに巻き込まれて別の時代に飛ばされてなければいいが。

 

 

「感謝する。あともうひとつ、君に説明しなければならないことがある」

 

「なんですか?」

 

「君が持たされたサテライトエッジを使用することで発動する、君のもう一つの力だ」

 

「サテライトエッジを使うことで発動する力?」

 

 

 俺の問いに女神様はそうだと答え、説明する。

 

 

「私が聞きだした話によれば、サテライトエッジは月の光を浴びせ続けることで力を蓄え、その力が最大まで溜まると別の世界へ移動するためのゲートが生成されるとのことだ。ただこれは一度訪れたことのある場所なら自分の意思一つで確実に移動できるが、知識だけであったり行ったことのない場所への移動は保証できない力だそうだ」

 

「ということは、ラヴォスを倒した後にそのゲートの力を使えば……」

 

「確実に元の世界に帰れるということだ。ただ、人間には過ぎた力だから元の世界に戻り次第、その力は取り除かせてもらう」

 

 

 この処置は十分に納得できるな。下手をすれば別世界の問題を自分の世界に持ち込むこともできるんだ、それだけでも異常な問題に発展しかねないことは容易に想像できる。

 

 

「他に聞いたのはゲート精製能力の効果で君はこの世界で使われているゲートを使えると言うのと、蓄えた月の光は攻撃のエネルギーに転用もできるということだ」

 

 

 なるほど。今までゲートが使えたのはその力のおかげということか。それにサテライトエッジに溜めたエネルギーはいざという時の切り札に使えということか。

 

 

「だいたいはわかりました。とりあえず今後の目的は、ラヴォスを倒して干渉している力を取り除くことでいいですね?」

 

「ああ。神だと言うのに神らしいことが出来なくて済まないが、頼む」

 

「了解です――っと、そろそろ時間切れか?」

 

 

 なんだか体が後ろの方へ引っ張られる感覚がある。なんとなくだが、これはこの空間から引きずり出そうとしているようだ。

 

 

「なにも出来なくて本当にすまないが、せめて君の無事を祈らせてもらうよ」

 

「ありがとうございます。――では、また」

 

 

 その言葉を最後に、俺の意識は急激に薄れていった。

 

 

 

 

 

 

「……ん、ここは……」

 

 

 瞼に差し込む光で目を覚まし、体を動かそうとする――が、

 

びきぃ!

 

 

「あが!? か、体中がいてぇ!?」

 

 

 よくよく考えれば、魔王の『ファイガ』を喰らってから一度も回復していなかったな……。

 一先ず体の傷を癒すべく『ケアル』を唱えようとする。そこで俺は、今自分がどこにいるのか気付いた。

 

 

「……陸が、宙に浮いてる」

 

 

 すごいぞ、ラ○ュタは本当にあった……じゃなくて、あの陸についているでかい飛行機は、確か黒鳥号じゃないのか? と言うことは――――

 

 

「あら? 誰かそこにいるの?」

 

 

 不意に聞こえた声に振り向くと、茂みの奥からローブを纏った青い髪の女性が現れた。

 おいおい、この人ってまさか……。

 

 

「……サラ、王女ですか?」

 

「ええ、そうですけど――まあ、あなた傷だらけじゃありませんか」

 

 

 ――古代のキーパーソン、魔王の実の姉サラであるとわかると同時に俺は自分が古代のジール王国にいることに気付いた。


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