Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんにちわ、最近iPodが壊れて新しい曲を入れられなくなってしまった作者です。

さて、今回はかなりダイジェスト風味が強い展開になっております。
なかなかネタが出なかったのと原作と比べ政治パートがないことで執筆に手間取ったのが割と大きな要因ですが、改めて自分の未熟さを痛感しました。

それはさておき、早速本編第68話、どうぞご覧ください。



第68話「旅行の終幕」

 風光明美な旅館の庭が一夜にして凄惨な戦場へと変貌した。

 石庭は無残に破壊され、池は血に染まり死体と薬莢が散乱した光景は見る者の背筋に恐怖という寒気を走らせる。

 幸いにも流れ弾にかすりもしなかった尊や伊丹たちは、日本という国において異常といって差し支えない光景を目の当たりにし言葉を失う。しかしそれも束の間。いち早く我に返った伊丹がこれからどうすべきか指示を下す。

 

 

「ここにいたら間違いなく面倒なことになる! 後始末は公安に任せて、直ぐに荷物をまとめてここからずらかるぞ! 富田と栗林は使える武器を回収! 予備弾倉も忘れるなよ!」

 

「「了解!」」

 

 

 伊丹が指示を出しながら返り血まみれのロゥリィを連れて部屋の浴室に向かい、富田たちは物言わぬ屍となった兵士たちに手を合わせてから武器の回収を始めた。

 それを見て尊もはっとなり、今自分ができることを成すために動き出す。

 

 

「梨紗さん、サラの着替えを頼みます! 彼女、酒が入るとなかなか起きないんで! あと、変なことはしないでくださいよ!」

 

「こんな状況でしないから!」

 

 

 ――……こんな状況でなければやるのか?

 

 一抹の不安を抱くが、一番早く着替えさせられそうなのが彼女以外にいないのでそのまま任せ、他の四人に声をかける。

 

 

「レレイ、テュカ! 荷物を全部、一か所に集めてくれ! 俺がまとめて預かる!」

 

「預かるって、結構あるわよ。どうするの?」

 

「説明は後でする! 【ピニャ殿下とボーゼスさんも、手持ちの荷物があれば俺がお預かりします!】」

 

【しょ、承知した!】

 

 

 返事を受けるや否や、尊は元の部屋に戻って手早く服を着替えるとレレイたちの元に移動し、荷物がまとめられていることを確認する。

 買い物の袋や着替えなどの鞄に触れ、片っ端から亜空間倉庫に収納していく。目の前で荷物が消えたことに事情を知らない面々は驚愕し、尊は収納しながらざっくりと説明する。

 

 

「俺やサラは亜空間倉庫って道具入れを持っていて、大きすぎないものであればいくらでも収納することができる。門についたら改めて取り出すから、安心してくれ」

 

「それも魔法?」

 

「魔法というより、固有能力だな。クロノたちの世界の人間なら誰でも使えるぞ」

 

「けどミコトって、別の世界のニホンジンよね? だったらどうして使えるの?」

 

「それはまた今度教える――よし、これでひとまずOKだ」

 

 

 二人の疑問に対して尊は簡潔に答え、荷物の収納を終える。そこへロゥリィの血を流し終えた伊丹や銃を回収した栗林たち、そして動きやすい服に着替えたレレイたちが揃い、まだ着替えていない伊丹たちが手早く身支度を済ませ一行は旅館を後にする。直前に伊丹が狭間陸将より預かった観光の軍資金(ほぼ手付かず)の扱いに頭を悩ませたが、最終的に旅館へのお詫び金という形で残すこととなった。

 街灯で照らされた道路を進み、伊丹、富田、栗林が服の下に銃を隠しながら他の敵がいないか警戒しつつ尊たちを護衛する。

 そんな中、先頭を歩く伊丹がため息交じりに愚痴をこぼした。

 

 

「なんか、最近こんなことばっかだな」

 

「ですね。 それにしても、あの旅館には悪いことをしましたね」

 

「まだいいほうよ。あそこ、防衛省共済組合の旅館だから、あたしたち以外に客はいなかったし。それよりあの旅館をやめて、飛び入りで入った一般の旅館であの騒ぎがあったらと思うと……」

 

「うへぇ……考えたくないわね、それ」

 

 勘弁してと言いたげに梨紗が漏らし、尊も苦い顔で同意する。

 あらかじめ用意されたことで騒ぎの惨状をもみ消せる旅館だったからいいものの、予定調和もない普通の旅館で同じことが起これば一般市民に被害が及んだ可能性が非常に高かった。

 しかも尊が荷物を取りに男部屋に戻る際、一部の流れ弾が壁を貫通して廊下まで抜けているのを確認していた。もし乱戦の際、その弾が何も知らないで眠っている客の命を奪っていたらと思うと、一同の背に冷たいものが走った。

 

 

「……で、襲ってきたのはどこの連中ですか? 聞こえてきた言葉から、なんとなく察しはつきますけど」

 

「英語、ロシア語、中国語の時点で月崎君の思ってる通りだと思うわよ」

 

 

 酒の力で静かな寝息を立てるサラをおぶっている尊が問うと、栗林から彼の想像通りの答えが返ってきた。

 英語を使う国はいくらでもあるが、ロシア語、中国語の時点でまずふたつが確定。そこへ日本と強いつながりがあり、かつ確定している二つの勢力が利益を得ることを良しとしない勢力を考えれば、もうひとつも自然と浮かび上がる。

 

 ――どの世界でも、日本を取り巻く情勢は変わらないんだな。

 

 そこぐらいは自分の世界と違っててもいいのではと思ったが、特地という手つかずの地下資源(宝の山)が眠る世界と繋がっていることを考えれば、自分の世界よりひどい状況かもしれないと尊は嘆息した。

 しばらく歩くと富田が不審な車両を発見し、伊丹たちが運転手を引きずり出す。

 明らかに日本人ではない風貌と最新のPDW(パーソナルディフェンスウェポン。短機関銃とアサルトライフルの中間に位置する銃)を所持していたことから状況的にクロと判断し、レレイの睡眠魔法で無力化して足を手に入れる。しかも車内が一般の乗用車と比べ広く、11人という大所帯にも拘らず、すんなりと乗ることができた。

 

 

「直接銀座に行くのはやめよう。待ち伏せられたらキツい」

 

「ですが隊長、下手にこっちにいるより、門の向こうの方が安全じゃないですか?」

 

「戦闘地域の方が安全って、皮肉ね……」

 

 

 富田の言葉に複雑そうな表情を浮かべる栗林。しかし、門の向こうの方が安全ではということについては尊も同意見だった。

 日本にいることで工作員からちょっかいをかけられるのであれば、手の届くことのない向こう側に行けばそれから逃れることができる。しかもスケジュールでは今日にも特地に戻る予定だ。そう考えれば、ここで切り上げるという判断も間違いではない。

 

 

【――イタミ殿、一つ尋ねたいのだが】

 

 

 行動予定が特地への帰還で固まりつつある中、どこか緊張した面持ちでピニャが口を開く。

 

 

【そもそもなぜ妾たちは逃げ隠れしなくてはならぬのだ? 妾たちの周りで、いったい何が起こっているのだ】

 

 

 参考人招致という正規の手続きで日本に来た尊たちならともかく、講和交渉のため秘密裏にやってきた自分たちまでそうしなければならないということは、非公式にやってきたことがばれていることに他ならない。伊丹の立場上、言えないことがあるのは分かっているが、尋ねずにはいられなかった。

 特地語が分からない梨紗のためにレレイが通訳し、ピニャの言葉を改めて伝えると伊丹の表情が重苦しいものに変わる。

 

 

「……隊長、何か知ってるんですか?」

 

 

 何時にない真剣な表情を目の当たりにし、栗林の言葉にも緊張がこもる。

 

 

「実はな……」

 

 

 次の言葉を聞き逃すまいと、一同が固唾を飲んで続きを待つ。

 そして一拍置いたのち、伊丹ははっきりと告げる。

 

 

 

 

「――――俺にもよくわからんッ!!」

 

 

 

 

 

「なんでやねん!」

 

「キメ顔で言うことかぁ!」

 

「うおっ!? ま、まてクリ! 話せばわかる!」

 

 

 梨紗からツッコミが入り、栗林が切れ気味に銃口を伊丹に押し付ける。流石にこれは洒落にならない伊丹は両手を上げ必死に説得すると、栗林の後ろから助けの声が上がった。

 

 

【待たれよ、クリバヤシ殿。先にいくつか確認したいことがある。 イタミ殿、妾たちは売り渡されたのではないのか?】

 

【い、いえ、それはあり得ません。絶対に】

 

【だが一日二日の間に度重なる乗り物と予定の変更が続けて起き、極め付けには先程の旅亭での襲撃だ。妾はニホンと帝国との交渉の仲介、つまり講和のために来た。察するに、それを快く思わない勢力と進めたい勢力がありせめぎ合っているのではなかろうか?】

 

 

 ――……なるほど。確かに日本と帝国が講和を結べば、日本はこの世界のどの国より先んじて特地の資源を得ることができる。今回襲ってきた連中のことを考えると、日本の妨害をするには十分な材料だ。

 

 

 膝の上で眠るサラの頭をなでながら、尊はピニャの推測が的を射ていると実感する。

 特に半島を挟んだ先の国はその国民の数故に、資源は喉から手が出るほどに欲している。日本から特地のつながりを奪い、自分たちのものにしようとする確実性の高い理由がある以上、今回の件とは無関係だと断じることはできないだろう。

 

 ――特地に戻るまで安心できないな……。最悪、魔法を使ってかく乱することも視野に入れておくか。

 

 無駄になってくれればと願いながら尊もシートに体を預け、その時に備え英気を養うのだった。

 

 

 

 

 

 

 明け方のパーキングエリアで休憩を取ることになり、そこで伊丹は梨紗に頼んで一つの仕込みを行った。

 

 

「――よし、食いついた!」

 

「いけそうか?」

 

「うまくいけば、千人くらいの『お友達』が献花の様子を見るために詰めかけてくるわね」

 

「よし。一般人がいれば、それだけ連中も動きにくくなる。その調子でどんどん頼む」

 

「はいは~い」

 

 

 スマホの画面をいじる梨紗を最後尾の列で眺めつつ、尊は先ほど買ってきた缶コーヒーをすすりながら銀座についた時の状況を予想する。

 

 ――昨日の国会の様子からして、絶対に千人じゃすまないだろうな。下手をすると万単位で押しかけてくるかも。

 

 梨紗の言う『お友達』の行動力は並ではないだろうと思いながらサラに視線を向ける。相変わらず規則的な寝息を繰り返し、添えられた手を放すまいとぎゅっと握っていた。クロノ世界で腕にしがみついていた時と比べればなんともかわいいものだと思っていると、前の席から不意に声をかけられる。

 

 

【ミコト殿。少しいいだろうか】

 

「ん? 【何でしょう、殿下】」

 

 

 レレイたちの席を挟んだ先の列にいるピニャから声がかかり、特地語で応対する。

 

 

【ミコト殿はイタミ殿たちとは違う世界のニホンジンだと聞いた。そなたの世界でも、やはり帝国はニホンに攻め込んだのか?】

 

【いえ、俺のいた世界とこの世界は全くの別物です。技術レベルこそ俺のいた世界より数年遅れていますが、同じ年代に特地とは繋がっていませんし、どこかの世界と繋がったということもありません】

 

【そうか】

 

 

 どこかホッとした様子のピニャを見て、その世界の帝国は日本に攻め込んでなくてよかったと思っているのだろうと尊は推察する。

 イタリカでその力を見せつけられ、日本に来たことで相手にしている国の技術力と国力に度肝を抜かれたのだ。せめて他の世界の帝国は、そんな馬鹿な真似はしないでほしいとピニャは願った。

 

 

【俺からも一ついいですか? 殿下】

 

【むっ、妾の答えられることで良ければ構わぬが】

 

【ありがとうございます。 伝承でもなんでもいいのですが、昔に空から赤い星、もしくは大きな火の玉が降ってきたという話を聞いたことはありますか?】

 

【? いや、すまぬが聞いたことはない。それが何かあるのか?】

 

【知らなければ構いません。むしろ、そういったことがなかった事の方がいいので】

 

 

 話を無理やり打ち切って、尊は残ったコーヒーを一気に飲み干す。

 

 ――情報がないだけならそれでいい。けど、もしこの手の情報があるのなら……。

 

 

「……その時は、やっぱり調査をしてみる必要があるよな」

 

 

 もしかしたら一生帰れないことをやろうとしているかもしれないが、せめて気づいた分は対応したいと尊は密かに思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 夜明けとともにパーキングエリアを出発し、昼ちょっと過ぎぐらいに銀座につくように向かっていたのだが、あと少しのところで大量の人垣が道路を塞いで完全に立ち往生してしまった。

 元を辿ればパーキングエリアで梨紗さんの仕込みが発端なのだが、工作員の身動きを封じる策が自分たちの動きまで封じてしまうとはなんという皮肉か。

 

 

「まいったなぁ……大きいお友達ナメてた。まさかこんなに集まるなんて」

 

「ここまで動かないと、いっそ清々しいですね……」

 

 

 道にあふれる人、人、人。まるでニュースで見た海外のデモか暴動のワンシーンだ。

 

 

【て、帝国に攻め入る軍勢でしょうか……】

 

【これだけの群衆をリサ殿一人で招集したというのか?】

 

「ガレットに凱旋した時と同じ……いえ、それ以上ですね」

 

「閣下には失礼かもしれないけど、帝国同様国力が違い過ぎるからな。たぶんシンクも納得するぞ」

 

 

 日が昇ってようやく目が覚めたサラの言葉に同意しながら、道をふさいでいる群衆に目を向ける。明らかに県外からも押し寄せてきてるはずだ、下手をすれば国外からもあり得る。

 このままでは微動だにしないのは明白だが、これを解消するには、騒ぎの中心である俺たちが直接向かうしかない。

 

 

「歩いていくしかないな」

 

「それしかないのは分かりますけど、大丈夫ですかね?」

 

「大丈夫よぉ」

 

 

 伊丹さんに返した俺の言葉を、なぜかロゥリィが答える。そして献花の花束と神意の証たるハルバードを手に車を降り――おぉい! むき出しはダメだろ!

 こっちの心配も何のその、窮屈な車内から解放されたロゥリィは大きく伸びをすると近くでスマホをいじっている男性に話しかける。

 

 

「ねぇ、ギンザはどっちぃ?」

 

「へ? ――ふぉお!?」

 

 

 世間を騒がす有名人が自分に話しかけたことか、はたまた自分よりでかい武器を持った少女が話しかけたことに驚いたのかは不明だが、男性は手にしたスマホを落として後ずさりした。

 それが引き金となり群衆がロゥリィの姿を認めると、全員が同時に左右に割れて彼女に道を譲った。

 

 

「おぉー……モーゼみたいだ」

 

「感心してる場合じゃないと思うんですが、どうします。伊丹さん」

 

 

 こちらの問いに伊丹さんは難しい表情を浮かべると、やがてこれしかないと腹を括ったのか一度顔を叩くと部下の二人に命令する。

 

 

「富田二曹、栗林二曹。賓客に害をなそうとする者がいたら、構わず撃て」

 

「「了解」」

 

 

 方針は強行突破で固まったらしい。ならばと俺もプラチナベストとマントを取り出し、最後に公の場で活動するのに欠かせなくなったマスクを装着する。サラには……マントの予備を纏ってもらうか。

 倉庫に押し込んでいた予備のマントをサラに渡し、全ての準備を終えて伊丹さんたちと一緒に外に出る。乗ってきた車については梨紗さんに乗り捨てるよう言っていたが、ペーパードライバーにこのサイズの、しかも左ハンドルの車を任せるとか事故る未来しか見えない。まあ、うまくやってもらうしかないだろう。

 さて、俺たちも花束を手に門の慰霊碑に向かっているのだが、周りからの歓声がとにかくすごい。中には飛び出して写真を撮ろうとした人もいたが、ロゥリィがハルバードを突き立ててるとその音と力強さに気圧されたのか尻餅をつき、そのまま近くの警官に連れていかれた。さらに少し離れた場所では栗林さんによく似た女性(二人の口ぶりから姉妹のようだ)が栗林さんと親しげに話しており、俺たちにインタビューできないか交渉しているのが見える。

 そんなこともあった中、何事もなく献花台に到着すると俺たちは手にした花束を添えて祈りを捧げる。つい癖で手を合わしそうになったが、直ぐにピニャ殿下たちのポーズを真似ることで事なきを得た。

 

 

「――たくさんの犠牲者のために、鎮魂の鐘が必要ね。 誰かぁ、鐘を鳴らしてちょうだぁい」

 

「鐘?」

 

 

 たぶんベル的なもののことを言っているんだろうが、こんな場所にそんなもの――

 

キーンコーンカーンコーン……

 

 突然、学校のチャイムのようなものが鳴り響き、誰もが反射的に音の方へ眼をやる。

 絶妙のタイミングで建物に掲げられた時計が時報のチャイムを鳴らしていたが、それでいいのかロゥリィが満足げに頷く。

 

 

「うん、ありがとぉ」

 

 

 これで献花のスケジュールも終了し、最早ここに留まる理由もなくなった。

 封鎖されたゲートが開くと誰もが終わるのを感じたのか、誰からともなく群衆から大きな歓声が上がり、俺たちはその迫力と声援を受けながら門の方へと進む。

 

 

「……疲れたぁー」

 

 

 人目が無くなると同時に零れたテュカの言葉に誰もが同意し、壁にもたれかかりながら大きく息を吐いた。

 狙われる心配がなくなったこともあり、緊張の糸はプツリと切れて疲労が一気に襲い掛かる。

 サラもあまり注目を浴びなかったとはいえ、今回の旅は相当疲れたようだ。

 

 

「大変でしたね……」

 

「ああ……。けど、来てよかった」

 

 

 お世辞にもゆっくりできたとは言えないが、それだけは間違いなく言えることだった。

 

 

「それじゃ、ちゃっちゃと検査を済ませて帰りますか」

 

「ミコト、昨夜のことを改めて教えてほしい」

 

「あー、それはまた向こうに戻ってからな。今説明するとちょっと長い話になる」

 

 

 マスクを外しながら亜空間倉庫について尋ねに来たレレイへそう返し、収納していたお土産や買い物袋を取り出していく。

 最後のひとつを取り出したところで俺は一つの箱を取り、サラの元へ向かう。

 

 

「サラ、俺からのプレゼントだ。受け取ってくれ」

 

「私にですか?」

 

「ああ。開けてみてくれ」

 

 

 促され開封すると、サラは出てきたそれを手に感嘆の声を上げる。

 中身は昨日のデートの時に購入した宝石のペンダントで、銀の装飾の先端にドロップタイプのサファイアがついているものだ。

 

 

「安物だけど、初デートの記念ってことでな。出来れば、大切にしてくれ」

 

「…出来ればなんて、言わないでください。私、ずっと大切にしますね」

 

 

 ペンダントを割れ物を扱うように大切に抱きしめ笑顔を浮かべるサラ。それがたまらなく嬉しく、改めて彼女のことを守りたいと思えた。

 こうして波乱に満ちた参考人招致の旅は終了し、俺は異世界の故郷に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 ――そして月日は流れ、ついにサテライトエッジにエネルギーが溜まった。

 

 

 

◇おまけ

 

 

 

 封鎖されたゲートが開くと誰もが終わるのを感じたのか、誰からともなく群衆から大きな歓声が上がった。

 

 

――テューカ! テューカ! テューカ!

 

――レ・レ・イ! レ・レ・イ! レ・レ・イ!

 

――ロゥリィ! ロゥリィ! ロゥリィ!

 

 

 アイドルのコールの如く腹の底から響く歓声に、俺たちは苦笑いを浮かべる。

 たった一日姿を見せただけでこの人気ぶりだ。もし本当にアイドルみたいにコンサートなんか開いたらどうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ジーク、ジオン! ジーク、ジオン! ジーク、ジオン!

 

 

「……うん、予想はしていたけどな」

 

 

 俺に向けられたのはテュカたちのように名指しのコールではなく、ジオニストたちの熱い叫びだった。




本編第68話、いかがでしたでしょうか?

次回に閑話をはさみ、その次から新章となります。
閑話を一話にまとめようとしていますが、長くなりそうなのでもしかすると2話に分割するかもしれません。
また、新章は『DOGDAYS'』を予定しております。
ここからオリジナル展開の幅を広げていくつもりなので、最後までお付き合いいただければ幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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