さて、今回も閑話となります。
正直この閑話を飛ばしていきなり新章に入ろうかとも思いましたが、新章の第1話を目的の場所までスムーズに運ばせるために予定通り投稿することにしました。
前回の予告と微妙に異なる内容となっていますが、ご容赦ください。
それでは、どうぞ。
◇「マンガ肉? いいえ、マ・ヌガ肉です」
とある日の正午。一仕事を終えた尊とクロノはマールとエイラに誘われて昼食を取りにアルヌスの街へと繰り出していた。
元は難民キャンプだったこの場所も自衛隊向けに
「けど、本当にサラさんを呼ばなくてよかったんですか?」
「サラは今、自衛隊の人たちに特地語を教えに基地の方へ行っているからな。呼ぼうにも呼べない」
いつもならサラと一緒に食事をとる尊だが、この日は彼女が特地語の講師としてレレイ、カトーらとともに基地に赴いていたため一人での食事も考えていた。
そこへクロノを誘いに来たマールたちから声がかかり、渡りに船とばかりに同伴することとなった。
「それで、どの店に向かってるんだ?」
「さっき自衛隊の人たちがものすごい勢いでお店に駆け込むのを見たから、そこにしようかなって思ってます」
「前、エイラもいった! 肉、うまい店!」
「お、エイラがそういうならまず当たりだな」
4人でそんな会話をしているうちに目的の店に辿り着くと、確かに店内には自衛官たちと香ばしい肉の香りで溢れていた。しかし、そんな肉を食べる自衛官たちの表情はどこか悔しげである。
「……なんだ、様子が変だぞ?」
「とりあえず、注文しちゃお」
適当に空いてる席に腰を落ち着け、備え付けられたメニューを広げる。日本のファミレスと同じように写真付きのメニューであり、日本語と特地語で料理の一覧が書かれていた。
「それで、エイラのおすすめはどれだ?」
「なんでもうまい。けど一番うまいの、これだ」
指差されたメニューはマ・ヌガ肉と書かれており、写真をよく見ると一枚の長い肉を串代わりの骨に巻き付けて焼いたものだった。
確かにおいしそうなメニューではあるが、これを見て尊はふとある可能性に思い至った。
「もしかして、自衛隊の人たちが悔しそうにしているのってこれが原因じゃないのか?」
「どういうことですか?」
「日本にはマンガ肉って呼ばれるフィクション――架空の作品でよく使われる骨付き肉があってな、こういう肉巻きみたいなのじゃなくて一本の骨を覆った巨大な一枚肉の塊が一般的なんだ」
「え? でもそれって、私たちの世界では普通にありますけど……」
「そっちの世界では、な。さっきも言ったけど、俺たち日本人からすればマンガ肉は架空の食べ物であり、一度は食べてみたいと思うロマン料理なんだ。それと同じ物があると思ってきたのに、実際に出てきたのはただの肉巻きだと知ったのだと考えれば、自衛官たちの沈みようも納得できる」
「なるほど」
尊も同じ日本人として自衛官たちの気持ちには非常に共感できた。あの見るからにジューシーさを感じさせる肉をモンハンのこんがり肉みたいに貪ったり、なかなか切れないから食いちぎろうとぐぃぃっと噛みしめたりしたかったのだろう。
フロニャルドで初めて体験した身としてはその感動を彼らにもぜひ教えてやりたいと思い、尊は次にフロニャルドへ行ったときは可能な限りあの時と同じ肉を買い占めておこうと心に決めるのだった。
◇「サテライトゲート起動前日」
ラヴォスと戦い、特地に流れ着いて早2ヶ月半。
尊の予想よりも早くサテライトエッジのエネルギーが100%に達し、それを確認すると尊は大切な話をすると告げて伊丹、レレイ、テュカ、ロゥリィの4人を集めた。
「それで、話って何かな。尊君」
アルヌス協同生活組合の事務所で向かいの席に座っている尊へ伊丹が問う。
「以前、狭間将軍を交えて俺たちがこの世界に流れ着いた経緯を話したとき、どうやって元の世界に戻るのか話したのを覚えていますか?」
「確か地道に探していくとか言ってたな。もしかして、手段が見つかったの?」
「見つかったというより、条件が揃いました」
そう言って尊はテーブルの上に手をかざし、そこへサテライトエッジを召喚する。サテライトエッジの出し入れ自体は何度も見せているので今更驚かれることはなかったが、伊丹はそれをここで出した理由が掴めなかった。
「実は伊丹さんにも話していませんでしたが、このサテライトエッジは月の光を当ててエネルギーを最大まで溜めると別の世界へ移動するためのゲートが生成出来るようになります。しかも一度訪れたことのある場所なら自分の意思一つで確実に移動できるので、クロノたちを連れて帰るのも問題なく可能な代物です」
「では、条件がそろったというのは」
「レレイの察する通り、エネルギーが最大まで溜まったのでやろうと思えば今すぐにでもあちら側に戻ることができる」
今すぐにでもという言葉に流石の伊丹も驚く。彼はてっきりもっと面倒な手順を踏むと思っていたのだが、まるでコンビニに行くような感覚で行き来できるというのだ。しかも尊の話に間違いがなければ、彼の意思一つで漂流のリスクもなく目的地に辿り着けるという。
「じゃあ、尊君たちは直ぐにここを発つのか?」
「いえ、まずちゃんと向こうに戻れるかテストして、それからまたここに戻ってきます。完全に戻るのは、受け持っていた仕事の引継ぎを済ませてからですね」
もともといなくなることを前提にした組織図であったが、いざその時が来るとなるといろいろ準備が必要になる。特に尊とロボは自衛隊との窓口にもなっていたので、その役職を別の人間に引き継ぐ必要があった。候補としてはレレイとカトー、テュカの3名が挙がっているが、実際やってみてもらわないことには判断できない。
一度戻ってくるという話を聞いて伊丹はどこか安心した風に息を吐き、わかったと頷く。
「それじゃあ、完全に戻るときになったらまた教えてくれ。そのタイミングで、陸将にも話にいこう。それで、テストは尊君だけでやるの?」
「出来れば全員で行きたいところですね。正直、このゲート精製能力を俺自身もしっかり把握していないものでして。全員まとめて移動できるかも、ここで確認しておきたいです」
「うーん……向こうからこっちに戻ってくるまで、どれぐらいかかりそう?」
「あっちではフルチャージに一週間ほどかかりましたから、たぶん同じくらいかかるかと」
「意外と短いな……。まあ、試してみればいいんじゃないかな。陸将たちには元の世界に戻るための手掛かりをつかんだから、調査のため街を離れるとでも言っておくよ」
伊丹の提案に尊たちはそれでいいと頷く。伊丹の言い分もあながち間違いではないし、一週間いなくなっただけで問題が起こる程アルヌスの運用は穴だらけではない。
何より自衛隊も街を利用しつつ協力してくれているし、元コダ村難民の人たちもレレイたちほどではいがそれなりに仕事をこなせるのだ。そんな彼らにこの一週間を、いつか来る尊たちの永久離脱に備えての予行練習として任せてみるのも一つの手段である。
こうして話がまとまったかと思うと、突然レレイが挙手をした。
「ミコト。私もつれて行ってもらえないだろうか? イタミのニホン同様、あなたたちがやってきたという世界にも、私はものすごく興味がある」
「あら、なら私もいいかしらぁ? サラたちのいた世界も面白そうだし」
「私も行きたい。マールが言ってたけど、お祭りやってるんでしょ?」
「……と言っていますが、どうしましょう。伊丹さん」
組合の中枢メンバーとも言える三人がこぞって希望したのを見て、彼女たちの面倒を見ていることになっている伊丹に問う。
少し考え込んだ伊丹だが、すぐに顔を上げて軽く応える。
「まあ、無事に帰ってこれるのならいいんじゃない? 三人ともここんとこ働き詰めだったし、息抜きに行くのもいいと思うぞ」
「決まりねぇ」
かくしてサテライトゲートの起動に立ち会う面子が追加され、尊はひとり何事もなくゲートが開くことを祈るのだった。
サテライトゲート起動の前日談、いかがでしたでしょうか?
早く新章に取り掛かりたいためにかなり話を飛ばしましたが、これでいいのか正直不安です。
ともあれ、いよいよ次回から本編は新章「DOGDAYS'編」となります。
オリジナル要素が多分に含まれる展開となっていきますが、基本的な流れは原作と大きく変わりません。
オリジナルストーリーの導入も検討していますので、楽しんでいただければ幸いです。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。