さて、今回から新章と予告していましたが、申し訳ございません。区切りの都合で次回からとなります。(話数的にもおそらく都合がいいかと
今回の内容はだいたいタイトル通りとなります。
どんな内容なのかは、本編をご覧になってください。
それでは、本編第69話、どうぞご覧ください。
これ以上ないほど晴天な特地の朝。日が昇って間もない早朝に、踏み均されて間もない森の道を移動する一行の姿があった。
アルヌスの街から少し離れたその森は特地に住む精霊たちにとって理想的な環境が整っており、人にとっても重要な薬草や食料に十分な恵みを与えていた。
そんな場所を進む一行の先頭を行くのは森と深い関わりを持ち、精霊たちとも友好的な契約を結ぶエルフの娘、テュカである。
「――ついた。ここならどう?」
彼女の案内で辿り着いたのは森と絶壁の境目に存在する小さな洞窟だ。テュカが教えてくれた場所に納得できたのか、中の様子をうかがっていた尊は満足げに頷く。
「十分だ。深すぎずそれでいて中は広く、アルヌスからも遠すぎないが人が寄り付かなさそうという条件にもピッタリだ」
「じゃあ、早速始めるんですか?」
クロノの問いに尊はああ、と答える。
彼らが今から行うのは、サテライトゲートを用いたクロノ世界への転移だ。
尊が所持する神様武装サテライトエッジに月の光をあてることでエネルギーを溜め、それが100%まで溜まったときにのみ開くことのできる異世界を渡る扉。前回のチャージした分はラヴォスを倒すための攻撃エネルギーに変換して使用してしまい、改めてゲートを開けるように溜めていたら2ヶ月半という日数を要してしまった。
そしてこれから問題なく特地からクロノ世界に戻れるのかをテストするために、尊が求めた条件の場所をテュカに用意してもらったというわけである。
この世界に来た時と違う点があるとすれば、あの時と比べてクロノ世界に渡るメンバーが増えていることだ。
「それじゃあ三人とも、向こうに渡ったら必ず俺たちの指示に従ってくれよ。何かあって怪我でもしたら、伊丹さんに申し訳が立たないからな」
「大丈夫よぉ。私、死なないしぃ」
「ミコトたちが魔法で治療すれば問題ないのでは?」
「矢除けの加護を受けてるから近づかれない限り大丈夫よ」
「……そうか」
それぞれの反応にどう返そうか一瞬詰まった尊だが、結局言い返せずそのまま流すことにした。
気を取り直して全員が洞窟内に入ったことを確認し、サテライトエッジが中心に来るようにぐるりと囲む。
「先に言っておく。俺が今から向かおうとしているのはクロノたちの家があるA.D1000年、通称現代だ。俺の思い通りならテレポッドの広場が出口になるはずだから、各自転ばないようにだけ注意してくれ」
あらかじめ目的地を告げてから行くぞと声をかけ、尊はハルバード形態でサテライトエッジを召喚し振り上げる。
「クロノたちの世界への扉を開け! サテライトゲート!」
ハルバードが振り下ろされると打ち付けられた地点を中心に六角形の扉を形成する。使用者の連れて行こうとしている人数の多さに応えようとしているのか、尊とサラが見たことのない大きさの扉が形成され、青白い光が溢れ出す。
初めて見る光景にクロノたちが声を漏らし、全てを受け入れようと開かれた扉はその場にいた全員を向こう側へと誘った。
◇
サテライトゲートの出口が開き、俺たちは目的の場所へと踊り出る。
いつかのように落下するようなこともなく降り立った俺は、自分たちのいる場所に確かな手ごたえを感じると同時に予定外の展開に喉を唸らせた。
「ここって……」
「時の最果て?」
誰からともなくそんな声が漏れる。確かにここはクロノトリガーの世界にある時の最果てであり、俺たちは目的の世界への移動に成功した。
しかし俺は時の最果てではなく現代に出ようと思っていたのだが、どういうことだ? 人数が多すぎたとか、この世界の人間ではないロゥリィたちがいるのが原因か?
「おやおや、久しぶりの面々だな」
「ハッシュ。お久しぶりです」
最果てに住む老人、時の賢者ハッシュの言葉にサラが答える。
ひとまず見知った場所に出られたことに安心したのか、クロノたちからホッとした空気が漂う。状況がつかめていないレレイたちはこの特異な空間を眺め、ポツリとつぶやく。
「精霊たちが全くいないわ」
「というよりぃ……時の流れがおかしくなぁい?」
「さっき、ルッカが時の最果てと言っていた。もしかしたらここは、時間の果てにある場所なのかもしれない」
僅かな情報からそこまで推察したのは流石というべきだろうか。しかしクロノ世界に来れたことには変わりないが、マルチエンディングでは最果てのゲートって確かラヴォスを倒したら消滅したような――。
「喜べ、ミコト。まだゲートは健在のようだ。ここから現代に行けるぞ」
「……なんだって?」
ラヴォスを倒した後だからゲートが消滅しているのではと勘ぐっていたところへ、光の柱がある部屋を確認してきたカエルからそんな言葉がかかり思わずその部屋に駆け込む。確かに9本の光の柱が消滅する兆しも見せないまま存在しており、使用すればすぐにでも時代を超えられそうだった。
何故、と思考をを巡らせた瞬間、俺の中で最悪の予想が導き出された。それを確認するべくすぐさま来た道を引き返し、何か知っているかもしれないハッシュに問いかける。
「ハッシュ。一つ確認したいんだが……まさかとは思うが、ラヴォスはまだ生きているか?」
俺の言葉にクロノたちから息を飲むのが感じられ、視線が一気に集中する。
ハッシュは頭の帽子を触りながら、重々しく頷く。
「……可能性は、ある」
「そんな!? 確かにあの時、ミコトさんがとどめを刺したはずなのに!」
「本当にあいつを倒したのなら、ここにゲートは存在しない。倒して間もない時間ならまだゲートが残っていても不思議じゃないが、俺たちが倒したのはもう2か月以上も前だ。もちろん俺たちが特地でそれだけの時間を過ごしても、ここではまだ30分もたっていないのかもしれない。だけど今、ハッシュははっきりと奴が生きている可能性があると答えた。つまり、俺たちがあいつを倒してから同じだけの時間が流れたと考えていい」
「その通り。お前さんたちが黒の夢を沈めてから、それだけの時間が流れておる」
肯定の言葉に俺たちは忌々しい表情を浮かべる。しかし、そうなると今度は別の問題が浮き上がってくる。
まだ生きているというのなら、いま奴はどこにいるのか。またA.D1999年に現れるのか、それとも別の時代に現れるのか。
「ミコト、先ほどからあなたたちが言っているラヴォスとは何なのだろうか?」
「みんなの反応からして、あまりいいものじゃないみたいだけど」
「おいていかれっぱなしじゃつまんないわぁ。教えないさよぉ」
「……そうだな。教えておこう。この世界であった、星の命運をかけた戦いがあったことを」
◇
尊たちから語られた内容は、レレイたちの想像をはるかに超えた物だった。
伊丹からは彼らがある脅威と戦い勝利した末に特地へ流れ着いたと聞いていたが、まさか星の存亡をかけて戦っていたとは思いもしなかった。特に驚きだったのはこの世界そのものが尊にとってゲームの世界であり、しかも彼の恋人であるサラは行方不明になるはずだったというものだ。あまりにも濃い内容だったため何度か休憩を挟んだが、ようやく話が終わり確認するようにテュカが声を上げる。
「――それじゃあ、ミコトたちはそのラヴォスっていうのを倒すためにまた旅をするの?」
「そのつもりよ。あれはこの世界……いいえ、どこの世界にもいていい存在じゃないわ」
「それはいいけどぉ、アテはあるのぉ?」
きっぱりとルッカが答えそれに全員が同調する中、話を聞いていたロゥリィが至極真っ当な質問を投げかけるとクロノたちは気まずそうに言葉に詰まった。
確かにラヴォスをのさばらすことはできないが、現時点であれがどこにいるかなど皆目見当がつかない。
だが、手掛かりがないわけでもなかった。
「奴自身がどこにいるかは知らないが、関わりを持っていそうな場所なら心当たりがある」
「……おい、それはまさか」
尊の言わんとしていることに魔王も思い当たり問いかけると、彼は頷いて答える。
「ここや特地とはまた別の世界で奴の幼生体……プチラヴォスが出現したことがある。そこを調べれば、何かわかるかもしれない」
その言葉にクロノたちは声を上げて思い出す。尊とサラが自分たちと合流した際に何をしていたのか話したとき、別の世界でもプチラヴォスが出現したという話を。
一方、まだ他にも異世界へ行ったことがあると判明するとレレイが興味深そうに尋ねる。
「まだ他に異世界に繋がりがある、と?」
「ああ。B.C12000年でラヴォスがジールを滅ぼしたとき、俺とサラはサテライトゲートの力を使ってその世界に避難したんだ。そこでちょっとした問題があって、それの解決に協力をしていた時に遭遇した」
「じゃあ、もしかしたら……」
「そこにいるかもしれない、ということだな」
マールとカエルの言葉に首肯すると、方針が直ぐに定まった。
「ですが、ミコトさんのゲートはまたエネルギーを溜めないといけませんし、レレイたちを特地に戻すことを考えたら少し時間が開いてしまいますね」
「確かコチラの世界では一週間ほどで済むらしいデスガ、特地では2ヶ月半かかりマシタネ。そう考えると、その世界に行けるのは実質3ヶ月後になる計算デス」
「3ヶ月かぁ……」
直ぐにでも調べに行きたいのに、それだけの時間を待たなければならないと分かり一同はやきもきした。
「出来るかもしれんぞ。直ぐに移動が」
突然上がったその発言に視線が集まる。発言元の人物、ハッシュは手にした杖を尊たちが出てきた場所に存在する光の柱に向けた。
「ミコト君がサラをここに連れてきた時から、その柱から不思議な力を感じての。もしかしたら、お前さんたちの言う別の世界と繋がっているかもしれん」
「その根拠は何だ、じーさん」
「ゲートが繋がるとそこの部屋に通じる…それと同じ理屈だ。ミコト君が開いた異世界のゲートがここのゲートと繋がったと考えれば、後は他のゲートと同じように移動ができるかもしれん。ま、論より証拠という言葉もある。確認してみたらどうかな」
特に案があるわけでもなかったため、尊はハッシュの言葉に従い自分たちが出てきた光の柱に触れてみる。
すると収納されていたサテライトエッジが勝手に召喚され、ひとりでに浮き上がると同時に柱とともに強い光を発した。今までにない現象に身構えて警戒した尊だが、突如として彼の脳裏にカーソルとアイコンが浮かび上がった。
→フロニャルド
特地
キャンセル
――……なんで突然ゲームっぽくなるんだよ。
思わず心の中でツッコミを入れ、とりあえず何もしないためキャンセルを選択。するとサテライトエッジが再び尊の亜空間倉庫に収納され、柱の光もサテライトエッジが無くなるのに合わせてすぐに納まった。
「……どうやら、サテライトエッジを鍵とすることで別の世界にすぐ行けるようになったみたいだな」
「ならばミコトさえいれば、我々は特地だけでなく姉上も行ったという別の世界に行けるということか」
「たぶんな。ただ、戻るときはまた向こうでサテライトエッジのチャージをしないといけないかもしれないから、戻るタイミングを合わせないと時間がかかったりしそうだ」
「てことはぁ、私たちが自分の世界に帰るのはミコトに合わせないといけないってことぉ?」
「おそらくそうなる。ただ私たちはイタミから一週間の猶予をもらっているから、その時には必ず帰れるはず。ミコトもイタミと約束した以上、それを反故するわけにもいかないだろうし」
レレイの言う通り、尊は何があっても一週間以内にはテュカたち3人を特地に戻すつもりでいた。
伊丹との約束もそうだが、もともと今回はクロノ世界に戻れるかどうかを試すために来たのだ。ラヴォスの調査は本命ではない。
「とにかく、別の世界に行けるか試してみよ! ミコトさん、ここに来た時みたいにみんな一緒にパーッといけませんか?」
「ん、やってみる」
マールの提案を受けてサテライトエッジを再び柱の中に浮かべると、青白い光が広場を照らす。大人数を連れていくつもりでサテライトゲートを開いた時のように行き先をフロニャルドに合わせると、光の柱が大きくなり尊たちを取り込む。狙い通りに行ったことに安堵するが、尊は同時に疑問を抱く。
――まとめて移動できるのはいいことかもしれないが、時間の移動じゃないから原作であった3人縛りは適用されないのか?
クロノトリガーをプレイしていた時、初めてここに来た際に違う時間を生きる者が4人以上で時空のゆがみに入ると次元の力場が云々という説明を受けて、物語では時代を移動するのに3人でなければならない理由が発生する。尊はこれを回避するためにゲートホルダーとシルバード、そして自分という3つの要素を使って時空のゆがみに大きく干渉しないように調整しつつ時間の移動を可能にした。
だがいま行っているのは時間の移動ではなく世界の移動で、しかも違う時間を生きる者どころか、違う世界を生きる者を含めているのだ。世界の移動が制約の例外にあるのか、それとも他に原因があるのか。それに尊が気付くのはもう少し先となる。
そして来た時と同じ人数を連れて、ゲートはもう一つの異世界へと繋がるのだった。
本編第69話、いかがでしたでしょうか?
今回判明した主な点は以下の通りです。
・ラヴォス生存
・世界間移動でのゲート制約の緩和
世界間移動でのゲート制約の緩和についてはご都合主義というオリジナル設定です。おかしいと思う点があるかもしれませんが、どうかご容赦を。
さて、今度こそ次回から新章「DOGDAYS'」となります。
尊たちとフロニャルド組とのバトルを予定していますので、どうかお楽しみに。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。