Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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お久しぶりです。少しずつ書いていたため遅れに遅れましたが、やっと本編の続きを更新できました。
非常に更新が不安定で申し訳ありませんが、それでも楽しみにしていただいている読者に多大なる感謝を。

それでは本編第77話、どうぞご覧ください。




第77話「大乱闘!スマッシュフロニャルド! その⑤」

 デナドロ三人集がジェノワーズの追撃を始めるのとほぼ同じ頃。滝エリアでは二人の騎士団長を相手に戦いを繰り広げる魔王の姿があった。

 最初のダークボムで随伴の騎士全員がやられたのが幸か不幸か。ロランたちは周りを気にせず魔王の攻撃に専念することができるものの、撃退したパスティヤージュ飛空術士隊に変わって制空権を取られたのは実に厄介で、上に向けて攻撃するにはどうしても輝力砲に頼らなければならない分普通の戦闘と比べて輝力的にも精神的にも消費は激しかった。

 それでもまだ撃破されないでいるのはロランの防御力とバナードの攻撃力。そして互いに騎士団長という誇りと実力があればこそだろう。

 加えて魔王も魔王で、徐々に上空というアドバンテージが意味を成さなくなりつつあった。

 理由は至極単純明快。魔法の連発による魔力(MP)切れだ。

 今回はエーテルやポーションによる回復でフロニャルド陣営が不利になる可能性があるとして、それに準ずるアイテムは使用禁止のルールが設けられている。回復魔法に関してはアイテムではないので使用が認められているが、現在のところクロノス陣営は誰も使用していない。

 

 

「ちっ、しぶとい。紋章術を考慮してガルディア軍の騎士団長よりマシ程度には思っていたが、認識を改める必要があるな」

 

 

 悪態をついて攻撃手段を魔法から紋章術に切り替えるが、輝力の打ち合いに関しては一日の長がある騎士団長たちが発動の機微を察知して抑え込む。

 接近戦という手段もあるのだが、魔王としてもそれは最後の手段にすべきだろう。

 

 ――紋章術はあくまで自身の周りで発生させた紋章を起点に術を行使する。魔法のように敵の真下や直上で発動させることができないのはこの戦いで理解したが、その分攻撃手段は使い手の技量一つで多岐にわたることも理解できた。なにより、自身のイメージが術の発動における重要なファクターとなっているというのが面白い。

 

 

「改めてまとめるとなかなか興味深い力だ。もう少し研究してみたいところだが……」

 

「せいッ!」

 

「はぁッ!」

 

 

 地上から再び放たれる紋章砲。一発の威力はそうでもないが、威力を落としたことで連射による対空弾幕が形成される。

 これを魔王は比較的弾幕が薄い場所へ移動し、それなりに練った輝力砲で迎え撃つ。

 放たれた青黒い輝力は迫る攻撃を逆に飲み込み、地上にいる二人の騎士団長へと迫る。

 

 

「『障壁陣』!」

 

 

 ロランが盾を構えるとともに発動させた紋章術が上空からの輝力砲を完璧に防ぎ、攻撃をしたことでわずかに硬直を見せる魔王にバナードが仕掛ける。

 

 

「『天光破陣』!」

 

 

 パスティヤージュ飛空術士隊を撃破した時の焼き回しのような光景が広がるが、予測済みだった魔王は軽快なターンで紋章砲をいなす。

 このような攻防が何度も繰り返され、魔王も内心でどうしたものかと嘆息する。

 一方、魔王相手に連携で一進一退の展開を繰り広げている騎士団長たちも同様のことを考えていた。

 

 

「さすがサラ殿の弟、といったところだろうか」

 

「勇者殿たちもそうだが、紋章術を学んで間もないはずなのにこの精度。異世界の人々は皆こうなのかと疑いたくなるな」

 

 

 自軍の騎士たちでもここまでの成果は出せないと零しながら二人は目の前の男のほかに四人の姿を思い浮かべる。

 召喚されたその日に紋章砲を扱うようになった両軍の勇者。そして自身が使う魔法でイメージを固めやすいのか、いまだ顕現させたことのない輝力武装を除けば紋章術でできる大体のことを数日でマスターした魔王の姉。

 尊こそ安定して紋章術が扱えるようになるまで多少の時間を要したが、紋章術者という力を得てからはそれまでの不安定さは何だったのかというほど輝力の扱いが安定した。

 しかも彼らはまだ知らないが、特地という尊やクロノたちとはまた違う世界から来た者まで紋章術の講義を受けたその日にある程度は扱えるようになっている。

 こうしてみればロランの言うように地球人に限らず異世界の人間はかなり――いや、この世界の人間からすれば驚くべき速さで紋章術を会得しているといえるだろう。

 だが、その輝力を行使するためにも何かしらの代価が必要となる。魔法に対するMPのように。

 

 

 ――このまま紋章術で打ち合いをしていては数と術の練度でこちらが不利か……。

 

 

 輝力を使用するたびに少しずつ蓄積される疲労感を受けながら、魔王はこのままでは目の前の二人に敗れる可能性が高いことを直感で感じる。

 様子見を兼ねての襲撃で片方でも撃破に持ち込めれば御の字と思っていたが、こうなってしまっては致し方ない。

 武器を収めると同時にバサッとマントで体を覆う。今までにない行動に未確認の攻撃かとロランたちは身構えるが、直後に魔王から告げられた言葉でその予想は覆る。

 

 

「悪いが、この勝負は預けさせてもらう」

 

「おや、どういう風の吹きまわしかな?」

 

「単に今のルールではお前たちを倒しきれないと判断したまでだ。だがそれを抜きにしてもなかなか興味深いデータが取れた。次は確実に仕留めさせてもらう」

 

 

 それだけ言い残し、魔王は一先ず得られた紋章術の情報を整理すべくエリアから離脱した。

 目下の脅威が去ったことで二人はようやく一息つけ、同時に異世界で魔王と恐れられた彼の実力に肝を冷やした。

 

 

「……バナード。あのまま戦っていれば、我々は彼に勝てただろうか?」

 

「二人とも撃破されず、というのは無理だな。彼を倒すために私たちのどちらかは、確実にやられていただろう。それにルールの縛りがなければ、最悪の場合、こちらが全滅もあり得た」

 

 

 騎士団長二人を同時に相手とるということだけでもこの世界でそれをやってのける者は非常に少ない。それこそレオやダルキアンと同等か、それ以上の実力が必要となる。

 今回、魔王は紋章術を初めて使うことと接近戦よりも魔法による打ち合いのほうが強いため射撃戦を展開した。だがもし彼が制限なく力を奮えたならば、彼の持つ強力な魔法の数々が二人を襲ったことだろう。

 

 

「次に戦うときは、彼も紋章術をもっとうまく使用してくるだろう」

 

「ああ。気を引き締めてかからねばな」

 

 

 その後二人は流石にこのまま第2ラウンドという気持ちにもなれず、各々の陣営へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 滝エリアに劣らず混沌とした試合展開が繰り広げられつつある中央バトルフィールド。

 レオとロゥリィが災害のような攻防を辺りにまき散らしながら去ったところへ現れたマールたちクロノス陣営。強力な一撃を打ち込んでくる異世界の四人に対し、ダルキアンたちフロニャルドの三人は連係においてはそうそう負けないであろうと思っていたマールたちが舌を巻くほど高い連係プレーでその攻撃を打ち破る。

 最初のファイガタックルこそダルキアンたちの度肝を抜いたが、それ以降の攻撃は冷静に対処され決定打を与えられず大陸最強の実力に圧倒されていた。

 

 

「いくでござるよー!」

 

 

 ユキカゼが手にした『閃華烈風』をテュカたちに向けて放ち、仕掛けられた攻撃に対してマールとルッカが前に出る。

 

 

「『アイス』!」

 

「『ファイア』!」

 

 

 二つの魔法を混ぜることで発動する連係技『反作用ボム』がユキカゼの攻撃を打ち消す。

 その際に生じた爆炎を目隠しにロボがロケットパンチを放ち、テュカは紋章術で威力を底上げした一射を合わせて放つ。

 二つの攻撃は煙幕を払いのけて目標に向い飛来するが、彼女は笑みを浮かべ手にした大剣を薙ぎ払う。

 

 

「ナ、ナント!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

 

 決して弱くはないその攻撃をたったひと振りの攻撃で防がれたことにロボたちだけでなくルッカたちも信じられないといった表情を露わにする。

 対して、迫る攻撃を一撃の名のもとに叩き伏せたダルキアンはニコニコと笑いながら感想を述べる。

 

 

「いやぁ。拙者も様々な者たちと戦ってきたでござるが、矢の攻撃はともかく腕を飛ばしてくる者は初めてでござるよ」

 

「まあ、ロボットですからね。構造次第で人間にできないことはいくらでもできますよ」

 

「それに、ロボがすごいのはまだまだこれからですよ!」

 

「ま、まだなにかあるんですか?」

 

 

 表情を少しひきつらせたビオレの言葉にマールたちはにやりと笑い、ルッカがどこぞの高速戦艦姉妹長女のようなポーズをとりながら叫ぶ。

 

 

「レーザーフル稼働!」

 

「ラジャー!」

 

 

 ガシュン!という音とともにロボの装甲が開き、その下に隠されていた砲口が露出する。続けて出力を限界まで落としたレーザーが照射されると、そのままロボの動きに合わせてダルキアンたちへと襲い掛かる。

 これこそ、「魔法ではないのでルールに抵触しない全体攻撃」として尊がロボに使用を許可した回転レーザーだ。威力こそ安全を考慮して最低まで落とされているが、攻撃方法は元のままなので並の兵ならば全滅は必至だろう。

 そう、並の兵ならば。

 

 

「ひゃあ!?」

 

「おっとぉ!?」

 

「よっと」

 

 

 迫るレーザーを驚きながらも持ち前の身軽さで避けるビオレとユキカゼ、そして冷静に逃げ道を見極めて体を滑らせるダルキアン。

 ゲームの仕様で全体攻撃=基本的に命中と考えていた尊が見たなら「ウソォ!?」と驚愕の声を上げていたことだろう。

 しかしこうなる可能性も予想していたのかマールとテュカが回避した隙を狙って再び輝力の矢を放つ。これはまずいと判断したダルキアンが「ふむ」と一歩前に踏み出し、静かに息を吐く。

 

 

「――即技、『裂空連牙』」

 

 

 居合抜きのように構えた刀を一瞬の動作で抜刀から切り返しまで持っていき、たった二振りの攻撃で刃から無数の斬撃を繰り出す。

 斬撃は降り注がんとした攻撃をすべて撃ち落とし、結果的にフロニャルド組は無傷で乗り切ったこととなった。

 一方、今度こそ有効打を与えられたであろうと思っていたクロノス組はもはや何度目かもわからない驚愕に言葉を失っていた。 

 

 

「れ、レーザー回避はともかく…そのあとの迎撃が全く見えなかった……」

 

「ふふ、実戦でこの技を出したのは本当に久しぶりでござるよ。ここ数十年では、レオ様以外いなかったでござるからな」

 

「拙者は御館様の稽古を受けているときに見せていただいて以来でござる。それでもたった二振りであれだけの攻撃を容易く対処できるのは、わかっていても驚きでござるが」

 

 

 味方であるユキカゼも流石にダルキアンの技には「たはは」と苦笑い。

 ここまでされてはこの三人を倒しきれないだろうと判断したのか、ルッカが少し悔し気に決断する。

 

 

「……みんな、ここは退くわよ。ルールの縛りもあるけど、それ以上にダルキアンさんが規格外すぎて私たちの手に余るわ」

 

「そうね。ロゥリィがいてくれたら倒せたかもしれないけど……」

 

「レオさんと大暴れしてるみたいだしね」

 

 

 テュカの言葉にマールが答えるが、その顔は遠くから響く轟音と実況から聞こえる二人の暴れっぷりを受けて冷や汗を流していた。

 

 

「ロボ、煙に巻くから後方警戒を厳にしてちょうだい」

 

「リョウカイ」

 

 

 それだけ告げるとルッカは手のひら大のボールを数個取り出し、思いっきり地面に叩きつける。色とりどりの煙幕が形成され視界が不明瞭になると今度はビオレとユキカゼが紋章術で煙を吹き飛ばす。

 だがその時には既に三人を乗せたロボがマールからの『ヘイスト』を受けて高速で撤退していた。

 

 

「ふむ。仕留められなかったのは残念でござるが、問題ないでござろう」

 

「では御館様、これからいかがしましょう」

 

「うむ。一度陣に戻ってもよいかもしれぬが、せっかくだからこのまま三人で行動してはどうだろうか。もしかすれば、クロノスの別の者たちを叩けるかもしれないでござるよ」

 

「私は構いませんよ。元々レオ様のお供で行動するつもりでしたけど、ご本人が行っちゃいましたからね」

 

 

 ビオレも乗り気で提案に乗ったため、ダルキアンたちは気ままに戦場を移動することにした。

 

 

 

 ――デナドロ三人集と別行動を始めていたカエルとレレイがこの中央フィールドにやってきたのは、それからわずか五分後のことだった。




本編第77話、いかがでしたでしょうか。

今回ダルキアン卿の使った技は作者のオリジナルとなります。
ちなみに他の作品で同じ技名が使われていないか検索したところ真っ先にテイルズの『爪竜連牙斬』が出てきました。

さて、次回は尊たちの状況を書くか、もしかしたら思い切ってこの話をすっ飛ばし戦後の話を書くかもしれません。
どう転ぶかは完全に作者の乗り次第となりますが、ご容赦ください。


それでは、今回はこのあたりで。また次回の投稿でお会いしましょう。

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