Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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第9話「下準備を始めよう」

 前回のあらすじ。

 

 ・尊、古代に来て早々サラとエンカウント。

 ・尊、全裸マスクを装備してシドと名乗りジールに取り入る。

 ・尊、一瞬にして予言者(魔王)に正体がバレて絶体絶命の大ピンチ←イマココ

 

 ――なんて冷静に状況を振り返ってる場合じゃねぇ!!

 

 現在進行形で魔王に鎌を突きつけられている尊はかろうじて動揺を押し殺し、バレてるなら仕方がないと一思いに開き直ることに。

 同時に脳みそをフル回転させ、予測される質問に対するウソと真実を混ぜた回答をスタンバイさせる。

 

「――まさか初見で正体がバレるとは思わなかったぜ、魔王」

 

「俺に衝撃を与え続けたその声だけは忘れまいと決めていたのでな……。改めて聞くぞ、何故ここにいる?」

 

「お前と同じだ。魔王城で発生したラヴォスのゲートに飲まれ、紆余曲折の末ここにたどり着いた」

 

「……あの時、貴様は自分を元の世界へ戻せといっていたな。どういうことだ?」

 

「そのままの意味だ。俺は元々この世界の住人ではない。ラヴォスのゲートの影響を受け、この世界とは異なる世界の未来から流れてきた人間だ」

 

「パラレルワールドの人間だと言うことか?」

 

「YESだ。ラヴォスのゲートの影響を受けてこちらに来たのなら、逆もまたありえるのではと思い至り元の世界へ帰る可能性を賭けて魔王城へ乗り込んだ」

 

 

 なるほど、と一つ目の疑問が解決した魔王は他の質問へと移行する。

 

 

「俺やラヴォスのことをよく知っているようだが、どこで知った?」

 

「言ったはずだ。この世界とは異なる世界の未来から来たと」

 

 

 口元を緩め、尊は続ける。

 

 

「俺の世界と相違がなければ遠からずこの国はラヴォスによって崩壊しサラ様は行方不明に、地上は空から降ってくるジール王国によって未曾有の大災害に呑まれ地の民も光の民も関係のない世界となる」

 

「……未来からきたからいろいろ知っているとでも言うつもりか?」

 

「未来で知ったからこそ、とも言えるがな。未来でもこの手の話は興味を持たないと知らないことだしな」

 

「……まあいい。貴様の目的はなんだ?」

 

「その前に一つ確認したい。 ――魔王、お前の目的はラヴォスを倒すこと、それに間違いないな?」

 

 

 質問に「そうだ」と答える魔王。それを聞いて尊はよし、と頷く。

 

 

「こちらの優先事項はサラ様を確実にお助けすることと元の世界に帰る方法を確立させること。その過程で可能ならラヴォスを撃破することだ。前半はともかく、後半については目的が一致している。そこでだ、一つ協力関係を結ばないか?」

 

「協力関係だと?」

 

 

 怪訝そうな返答に尊は「ああ」と返し、続ける。

 

 

「さっきも言ったが、ラヴォスをどうにかするという点については共通している。しかも俺たちはジールのおかげで海底神殿への立ち入りが許可されている。魔神器が設置されるであろう場所に罠か兵装を用意しておけば……」

 

「奴を滅ぼすことができる、というのか?」

 

「『かもしれない』、という言葉がつくがな。だが、何も用意しないよりは遥かにマシだ。それにラヴォスを倒すという点においてはあの少年たちも同じだ。うまく引き込めば、それだけで戦力になる」

 

「フム。奴らと共闘という形になるのは癪だが、いいだろう。だが俺の邪魔だけは許さんぞ」

 

「敵の敵は味方……割り切ってもらうさ。優先して倒すべきがどちらなのかは明白なんだからな」

 

「だがいいのか? 貴様は元の世界に戻る手段をなくすかもしれないんだぞ?」

 

「あの時点で可能性の一番高い方法がラヴォスゲートだったというだけだ。他に方法があるならそれを利用するし、可能性が低いのならそれを底上げする方法なりもっと可能性が高い手段を探すさ」

 

「なるほど。……最後に聞かせてもらうが、お前と奴らの関係はなんだ?」

 

 

 その質問に、尊は自身の目的を再確認するようにクロノたちとの関係を明確にする。

 

 

「出会ったら協力してはいるが、仲間になった覚えはないな。俺自身、彼らを利用している節があるし」

 

 

 原作シナリオの大部分を彼らに丸投げし、自分は好きなように動いて利害が一致したら協力しているだけだ。

 当初の最優先が自分の世界に戻ることだったが、現在はそれに加えてサラを助けることが追加された。

 

 ――こう考えると、俺も大概自分勝手だな。だがせっかく巡ってきたサラの生存確立のチャンスだ、クロノには悪いが、シナリオ通りにやられてもらおう。原作との差異を最小限にしてかつ確実に助けられるタイミングがあそこ以外に見当たらないからな。

 

 

「……そうか。話はわかった。せいぜい働いてもらうぞ、シド殿?」

 

「おっ、こちらこそよろしく頼みますよ、予言者殿?」

 

 

 鎌を仕舞うなりあえて偽名のほうで名を呼ぶと、尊もそれに合わせて返す。

 フン、と嘆息を残た魔王が退室してしばらくすると、尊から一気に汗が噴出し同時に盛大なため息が吐き出された。 

 

 

「……なんとか言いくるめれたが、心臓に悪すぎる……」

 

 

 ――話もかなり無茶苦茶なところがあった気がするが、凌げたから問題ない……か?

 

 罠でラヴォスを倒せる? それで終われば苦労はしないと自嘲しベッドにボスンと仰向けに倒れこむ。

 

 

「ガッシュに会おうかと思ったけど、もうそんな気も起きないし、なによりねむい……けど、寝る前にアレだけ試してみるか……」

 

 

 魔王城に突入してから休みなく動いていた代償がここに来て津波のように押し寄せ、尊は意識が落ちるような感覚に身を委ねながらサテライトエッジを窓際に設置してから眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました俺はとりあえずサテライトエッジを回収し部屋に備え付けられた浴室へ足を運び、身なりを整えて部屋を出た。

 既に陽が昇りきっており、結構寝ていたことが窺えた。

 さて、今日こそはガッシュのところに足を運びたいところだが、さてどこにいることやら。

 適当に宮殿内を散策してみるがそれらしい人物は見当たらず、手近な人に尋ねるもわからないと答える人が大勢だ。

 

 

「……こうなったらあまり使いたくないが、一番知っていそうな彼女に尋ねるとするか」

 

 

 目的の人物を変更して再び手近な人に尋ねると、今度はあっさりと場所が割れた。

 情報を元に限られた人しか入ることができないとされる魔神器の間に訪れると、そこに彼女はいた。

 

 

「失礼します、サラ様」

 

「――あら? あなたは……」

 

 

 巨大な黄色い物体の魔神器。それを眺めていたサラに声をかけると、彼女は驚いたような声を上げた。

 

 

「お初にお目にかかります。私はシドと言うもので、この度ジール様にお仕えすることとなりました」

 

「母の? ……いえ、それよりあなたは昨日の方、ですね?」

 

「……やはりわかりますか?」

 

 

 マスクをしているから大丈夫かと思ったんだが、まさか二日続けて正体が看破されるとは……。このマスクはそこまで役に立っていないのだろうか?

 

 

「声の感じと、あとは……なんとなくですね」

 

「そうですか……。この変装には少し自信があったんですけどね」

 

 

 周りに人の目がないことを確認し、マスクを取り外す。

 

 

「改めまして、自分は尊と言います」

 

「ミコトさん、ですね。 単刀直入に尋ねます、旅人であるあなたが母に仕えてどうするつもりですか?」

 

「少し嫌な噂を聞きましてね。あの人……ジールの邪魔をするためですよ」

 

 

 マスクをつけ直しながら昨日の魔王との計画の一部を暴露する。ただし俺一人が発案したかのように調整し、内容も主にラヴォスをどうするかについてだ。しかし話を聞いているサラの表情は険しいもので、説明が終わるとゆっくりと口を開いた。

 

 

「ミコトさん……。あなたは大きな勘違いをしています」

 

「その程度であれは倒せない、と言うことですか? それだったらもう百どころか億も承知ですよ。それで倒せたら苦労はしません」

 

「では何故わかっていてそれをしようとするのですか? 召喚させないだけであれば他に方法はあるでしょうけど、倒すなんて……」

 

「申し訳ありません、これ以上お話しするのは……。ですが、やれることはやらせていただきますよ」

 

 

 まさかラヴォスを倒せるタイミングはいくらでもあるし、ジールに取り込んだのはあなたを救うためのものでしかないとは言えず、俺はそうやって話を濁すしかできなかった。

 

 

「ところでお尋ねしたいのですが、ガッシュ殿がどちらにおられるかご存知ですか?」

 

 

 スイッチを尊からシドに切り替え、本来の目的について尋ねる。

 

 

「ガッシュですか? 今は確か、海底神殿の方へ出向いているはずですが」

 

「海底神殿ですか……。ありがとうございます、早速向かってみます」

 

「いえ。――それよりも、ミコトさん」

 

「おっと、今の私はジール様に仕える男シドです。尊なんてやつじゃありませんよ」

 

「……失礼しました。 シドさん。嘆きの山の賢者様のことはご存知ですか?」

 

 

 嘆きの山の賢者。それを聞いてすぐに頭に浮かんだのは耳みたいな帽子を着けたサングラスの老人だった。確か彼は計画に反対してジールの反感を買ってしまい巨大な魔物ギガガイアの元に封印されたんだよな。

 

 

「把握していますが、残念ながら私では彼を助けることはできません。修行で入ったところで山の魔物に私は大敗してしまったので」

 

 

 もちろんこれもウソではあるが、俺のレベルではそれなりに雑魚を相手に出来ても最深部のギガガイアを相手にするのは不可能だ。なのでこっちは一番やりあえるはずのクロノたちに任せるとしよう。

 謝罪と共に小さくお辞儀をしてその場を後にし、俺はジールに指定された場所の転送装置を使い海底神殿へと向かう。うん、こういう装置が魔神器の裏に設置出来たらいいんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 海底神殿に降り立ち奥へ進むが、途中この神殿の建設に奴隷として集められた地の民の人々が目にとまり非常に不快な気持になってしまった。

 見張りをしている魔物や兵たちが膝をついた人を見つけては痛めつけて無理やり働かせ、中には運悪く殺されてしまう人までいた。

 魔法が使えるか使えないかだけで区別され、魔法が使えなければ奴隷のように扱われる……。胸糞の悪い話だ。

 今すぐにでも神殿の各部を破壊したい衝動に駆られるが、ここで暴れてしまっては全てが無意味となってしまう。

 ……なんとも、ままならないものだな。

 嫌な気分のまま手近な指揮官にガッシュの居所を教えてもらい、作業用エレベーターで一気に最下層まで移動する。エレベーターを出てすぐのところに、彼はいた。

 

 

「ガッシュ殿、少しよろしいですか?」

 

「うん? 誰じゃ?」

 

 

 ヌゥと一緒に作業をしていたボッシュと同じような帽子をかぶった老人、理の賢者ガッシュが俺に気づく。

 原作ではこの姿の時に話しかけると既に精神が病んでいて会話が成り立ってなかったが、やはり未来の世界が原因だったのだろう。このガッシュはしっかりと返事をしてくれた。

 

 

「この度、ジール様に仕えることとなりましたシドと申します。海底神殿の立ち入り許可を得ましたので、責任者であるガッシュ殿にご挨拶に参った次第です」

 

「ほっほっほ。律儀じゃの。ダルトンにも見習わせたいもんじゃ。……で、ジールに仕えるほどの男がそれだけのためにここへ来たわけじゃないんじゃろ?」

 

 

 ひとしきり笑った後、ガッシュがニヤリとした笑みを俺に向けてくる。なんというか、この時代の連中はみんな直感力が高いのか? いや、ジールはチョロかったしダルトンはアホっぽかったし……待てよ、ダルトンに限ってはまだマシだったか?

 変な考察の海に沈みかけたところでガッシュの視線に気づき、目的の内容を伝える。

 

 

「ひとつ提案がありましてね。この神殿のあちこちに非常脱出用の転移装置を設置したいのです」

 

「非常用の脱出装置じゃと? 馬鹿を言うな、ワシの作った神殿は完璧じゃ。そう簡単に壊れるような代物じゃないわい」

 

「もちろんガッシュ殿の神殿を疑っているわけではありません。しかしそれは通常の場合であって、ラヴォス様を呼び出した後はどうなるかわかりません。その時に何かあっては遅いので、今のうちに手を打っておこうと考えたのです」

 

 

 ラヴォスを呼び出した後と聞いて目を丸くしたガッシュがどこか納得したように口髭に手を当てた。

 

 

「ラヴォスが呼び出された後の話か。確かにワシは相当な強度を計算してこの神殿を建設させたが……なるほど。それは確かに先が読めんな」

 

「私も耳にはさんだ仮説なのですが、ラヴォス様が本格的に目覚めて力を振るえばこのジール……いや、この世界すべてが死にいたる程の被害が及ぶとか」

 

「ふむ……。にわかには信じられんが、お主の言うようなことがあればマズイの」

 

「では先ほどの件は……」

 

「よかろう。脱出装置についてはまた話し合おう。お主は黒鳥号のダルトンに一度会ってくるといい。こんな話を信じるような奴ではないと思うが、教えないよりははるかにマシじゃ」

 

「了解しました。では、また」

 

 

 再び来た道を戻りジールへと戻る。戻る途中でまた殺された人を見つけてしまい、胃の奥から吐き気が込み上げてくる。

 ……一度、部屋に戻るか。

 俺は早足で部屋に向かい、すぐさま胃の中を空にしようとするのだった。


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