比企谷八幡がイチャイチャするのはまちがっている。   作:暁英琉

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死んだ目男子が人気になっても比企谷八幡に春は・・・

 土曜日とは一週間で最高の日だ。スーパーヒーロータイムのある日曜日も素晴らしいが、次の日も休みという安心感が八幡的にポイント高い。目覚ましをかけずに昼ごろまでのんびりと寝て、もそもそと飯を食ってから読書やゲームをだらだらとして無為な時間を過ごす。なんて至福な時間だろうか。

 そして土曜日である今日も、十時ごろに目が覚めた俺は遅めの朝食でも取ろうかとリビングにやってきた。

 

「あ、お兄ちゃんおはよー。相変わらず土曜日は遅いお目覚めですなあ」

 

「おはよ。いいだろ、土曜くらい」

 

 ソファでだらだらしていた小町が声をかけてくる。受験が終わり、無事に総武高校への合格を果たした小町は入学までのモラトリアムを満喫している。なんだかんだ受験勉強も頑張っていたし、だらだらしたい気持ちも分かるので特に何か言うつもりはないのだが、その相変わらず偏差値25くらいしかなさそうな雑誌読んでいるのはお兄ちゃん的にポイント低い。変なファンタジー知識を持たないことを祈るのん。

 台所を漁って、適当な菓子パンを引っ張り出す。雑誌を見ながら「ほうほう」と唸っている小町を横目に席について、パンの袋を開けた。っていうか、こいつは何に対して感心しているんだ? 本当に変な知識すりこまれたりしてないよね? まあ、どこぞの由比ヶ浜と違って常識のある子だから、そんなに心配しなくても大丈夫だろう。

 そう思ってパンに齧り付こうとすると――

 

「お兄ちゃん!」

 

 トテテと小町が傍に寄ってきた。その手にはさっきまで読んでいた低偏差値雑誌。

 

「小町ちゃん、お兄ちゃんは今食事中だから、後で相手してあげるからね」

 

「そんな事は知りません! それよりもお兄ちゃんはこれを見るべきなのです!」

 

 そんな事って……朝食は大事でしょ小町ちゃん! あなたはお兄ちゃんの健康が心配じゃないの?

 まあ、単に今は目の前のことが重要なだけなんだろうな。諦めて小町が開いたページに目を落とすと、でかでかと目立つタイトルが飛び込んできた。

 

「……死んだ目男子?」

 

 どうやら巷では、死んだ目男子、非目力系男子というものがトレンドらしい。なんで女子って、何でもかんでも造語にしてしまうのだろうか。挙句の果てにネットスラングをギャル語とか言いだすし、その言葉、君たちが気味悪がっているオタクが作った言葉ですよって言ってあげたい、超言ってあげたい。やだ、俺って親切すぎ!

 そんな俺の感想は置いておいて、これがどうしたと顔を上げると、小町が瞳をキラキラさせて身を乗り出していた。かわいい。

 

「死んだ目男子ってつまりお兄ちゃんのことじゃん! ついにお兄ちゃんの時代が来たんだよ!」

 

「は?」

 

 この子は何を言っているんですかね? 確かに俺の目は死んでいるが、記事に掲載されている有名俳優たちの名前を見ると、明らかに俺とは別の人種の人間たちだ。確かに彼らに目力はなさそうだが、俺の目には女心をくすぐるような魅力は存在しない。

 

「あのね小町ちゃん、こういう○○系男子っていうのは基本頭に“イケメン”ってのがつくんだよ。そうじゃなくてもぼっちの俺の時代なんて一生来ないまである」

 

 やばい、自分で言ってて泣きそう。しかし、悲しいけどこれって現実なのよね……。

 だが、俺の反論を聞いた小町はついさっきまでキラキラと輝かせていた瞳をどんよりと腐らせて、じとっと睨んできた。やべえ、かわいくない。さいかわな存在である小町ですらかわいくなくなってしまうのだから、やっぱり俺の時代が来るなんてありえないな、うん。

 

「お兄ちゃんがぼっち? ……はあ?」

 

 事実を言っただけのに、なんでそんな呆れた顔されなきゃいけないのん? 腰に手を当てて大きくため息をついた小町は再びじとっとした目を向けてきた。

 

「この一年でぼっちからリア充ハーレム野郎にワープ進化したお兄ちゃんが何言ってんの?」

 

「小町ちゃん、ちょっと口が悪いわよ?」

 

 口以前に、ワープ進化って俺はどっかのデジタルなモンスターかよ。確かに奉仕部に入ってから一年弱、昔に比べるとまわりとの接点を持つようにはなったが、リア充になった記憶はトンとない。

 首をかしげる俺に小町はもう一度大きく息を吐いた。あまりため息をつきすぎると小町の幸せが逃げていかないかお兄ちゃん心配になってしまうんだが……。ため息をついていいのは俺みたいにお先真っ暗な人だけだぞ! 俺の人生が暗黒面過ぎる件について。

 

「じゃあ聞くけど、お兄ちゃん先週雪乃さんがうちに来た時、帰る時に送ってったよね」

 

「ああ、結構遅い時間になったからな」

 

 マンション住まいでペットの飼えない雪ノ下が猫成分が足りないと言っていたので、渋々うちのカマクラを提供した。うちに来て早々無言でカマクラをモフモフしだして、ひょっとして猫好きというものは病気なのではないだろうかと背筋が凍ったのをよく覚えている。

 雪ノ下が飽きるまでそっとしておこうと思いソファで本を読んでいて、気がついたときにはだいぶ辺りも暗くなってしまっていた。さすがにこんな時間に女の子を一人で帰すわけにもいかず、一緒に夕食を食べた後に送ったわけだ。こうして文章にしても、極々普通の理由。小町の教育の賜物と言えよう。

 

「いや、確かに遅い時間になったら女の子を送るようにって言ったのは小町だけどさ。……それと“手を繋いで送る”っていう行動は別物じゃない?」

 

「ふむ……」

 

 確かに小町の言うとおり、ただ女の子を送るだけなら隣を歩くだけでいいわけで、手を繋ぐ必要はまったくない。さらに周りから見たら「あいつら付き合ってんの?」と勘違いされかねないので、誰も得をしないのも厄介な点だ。

 しかし小町よ、考えてみてほしい。相手はあの雪ノ下雪乃なのだ。

 

「あの超方向音痴のくせにズンズン前に行こうとする雪ノ下だぞ? 放っておいたら勝手に迷子になりかねん。そこを指摘したら、『そんなに心配なら手でも繋いでおくことね』とか言ってきやがった。だから手を繋いだだけで、つまりは必要に迫られたからだ」

 

 オクラホマミキサーでも仕方ないから手を繋いだりするだろ? 俺は繋いでもらえずに一人オクラホマミキサーだったけれど……。そもそも思春期の男女に手を繋ぐダンスを踊らせる学校側に問題があると思うね。プリキュアを踊らせれば皆幸せになれる。え、なれない?

 ……話が逸れた。つまり何が言いたいかと言うと、雪ノ下と手を繋ぐという行為は仕方のないことであり、雪ノ下雪乃と手を繋いだ事実と俺がリア充という項目はイコールにならないということだ。

 

「……なんか騙されている気がするけど、確かに筋は通ってる気がする」

 

「だろ?」

 

「じゃあ先々週のは?」

 

 先々週……何かあっただろうか。平日は普通に学校や奉仕部があって、土曜日は悠々自適な至福のぼっちライフを過ごし、日曜はスーパーヒーロータイムを見た後……。

 

「ああ、由比ヶ浜か」

 

「そうっ! 先々週の日曜日、お兄ちゃんは結衣さんとデートしたじゃない! ぼっちがデートなんてありえないよね! 完・全・論・破!」

 

 君はいつからブロンティストになったのかな? 小町に余計な知識与えた奴、ハイスラでぼこるわ。あ、俺かもしれない。じゃあ仕方ないな!

 それに小町よ、全く論破できていないということをお兄ちゃんは証明できてしまうのだよ。

 

「あの時は由比ヶ浜とハニトー食べに行ったんだよ」

 

「やっぱりデートじゃん!」

 

「待て。あれはそもそも、文化祭の時にあいつにハニトーを奢られたからその礼だ。修学旅行とか一色の生徒会選挙とか色々あって先延ばしになってたからな」

 

 文化祭で出された一斤ハニトー――あれを本当にハニトーと呼んでいいのかは別として――の礼。自分からすると言いながら、壊れそうになったり、離れてしまったり、自分たちのことを考えなおしたり。それがようやく落ち着いた今、ずいぶん遅くなった礼を果たしたのだ。

 

「人に何かをしてもらったらお礼をする。当然のことだろ? ぼっちでもそれくらいはするんだよ。つまり、先々週由比ヶ浜と出かけたのは俺がリア充になったという証明にはならない。はい論破」

 

 ドヤ顔で返すと、小町の目の腐りが一段階増した。ほんとその目かわいくないからやめてほしい。またひとつ幸せを逃がすと、小町は「じゃあさ」と腐った目のまま次のカードを切ってきた。

 

「一昨日の夜」

 

「小町の合格祝いパーティがあったな」

 

 小町が総武高校に合格したことを雪ノ下達に伝えると、合格パーティをしたいと言われたので、うちでやることになったのだ。参加者は雪ノ下と由比ヶ浜、そしてなぜか一色。……いや、一色さん小町と面識なかったよね? あざとシスターズの結成を遅らせるためにできる限り遠ざけていたというのに、まさか一色の方から我が家に乱入してくるとは思わなかった。

 

「そう、私が言いたいのはそのいろはさんだよ!」

 

「お前らもう名前で呼び合う仲になってたのか……」

 

 さすがのコミュ力というか、あざとシスターズの同一性というか。これは本当にあざとシスターズが結成してしまうかもしれない。これは八幡ピンチの可能性がある。今から既に小町が入学する四月が怖い。

 

「で、その一色がどうしたんだよ」

 

「お兄ちゃん、パーティではなにをしましたか?」

 

「何って、普通に飯食っただろ」

 

 雪ノ下と一色お手製の料理だ。既に実力を知っている雪ノ下は当然として、お菓子作りが得意と豪語していた一色の料理の腕も相当なもので、学生の手作りパーティとは思えないほど豪華な食事がテーブルに並んだ。ちなみに、由比ヶ浜は四人で必死に説得して、飾り付けを担当してもらった。パーティを火サス会場にするわけにはいかないからな!

 

「小町達は普通に食べたけど、お兄ちゃんはなんでか一色さんにあーんされてたよね。あれがリア充の行動と言わずに何だって言うのさ」

 

 あー、あれな。俺が口にするものは全て一色にあーんをされたのだ。うん、あれは俺としても恥ずかしくて仕方がなかったのだが、決して俺と一色がそういう関係という訳ではない。

 

「あれはな……罰ゲームだ」

 

「罰ゲーム……?」

 

「三日前の放課後なんだが、一色と雪ノ下達がゲームをしだしてな。その罰ゲームが『勝った二人の前で俺にあーんをする』だったんだ」

 

 俺は読書に耽っていて外部情報をシャットダウンしていたのでどんなゲームをしていたのかは知らないが、気がついたら既に決着がついていたようで、負けたらしい一色から罰ゲームの内容を言い渡された。だから当日に雪ノ下の罵倒なんかもなかったんだけどな。ところで、終始二人が「ぐぬぬ」という表情をしていたのはなんだったのだろうか。

 

「……その罰ゲームにお兄ちゃんが従ってる時点でおかしいじゃん」

 

「いや、俺だって断固拒否したからね?」

 

 当然である。なぜ俺の知らないところで俺を使った罰ゲームをされなきゃいかんのだ。いや、中学の時までは割とよくされていたけれど、あいつらにそれをされるのはなんかあれであれであれなわけで……とにかく聞いた瞬間に抗議した。徹底抗戦した。

 しかしだ小町、相手はあのあざと生徒会長一色いろはなのである。おそらく対八幡兵器を一番持っている彼女には、いかな論理武装で固めた俺でも全くの無力なのだ。正確には“責任”の一言であえなくノックアウトしてしまったわけなのだが。今回の責任はどの責任だったんですかね……既にどれかを考えること自体放棄しちゃっててよく覚えてない。

 

「つまりあの時、俺は『罰ゲームのアイテム』でしかなく、これも俺がリア充という証明には繋がらないわけだ。オーケー?」

 

「……おーけー」

 

 あれ? なんで小町ちゃんの目が俺以上に腐っちゃってんのかな? そこまでいったら俺と同じ運命をたどることになってしまうから帰ってくるんだ妹よ!

 しかし、俺がリア充とかハーレムとか、本当に荒唐無稽すぎる。それが事実ならきっと俺の目は今頃キラッキラに輝いていることだろう。……なんか想像したらそれはそれでキモい気がしてきた。

 

「……ん?」

 

 自爆して目じりに涙を浮かべているとポケットに入れていたスマホが震えた。明るくなった液晶に表示された名前は――

 

「ゲッ……」

 

 一色いろはだった。いやだなぁ、怖いなぁ。けれど、ここで出ないで無視するともっと怖いんだよなぁ。なんか俺、一色に対してはやけに逃げ場がないこと多くないですか? いろはす、恐ろしい子!

 仕方なく、通話ボタンをタップする。

 

「もしも……」

 

『せんぱ~い、おはようございま~す!』

 

 朝から元気にあざといなこいつ。正直こいつと電話するの苦手なんだよ。ほら、なんか耳元で囁かれているみたいでディスティニーの帰りのあれとか思い出すから。

 

『せんぱいって明日暇ですか? 暇ですよね!』

 

 俺が暇なのを確定事項にしないでいただきたい。大体、明日は日曜日だ。

 

「明日用事あんだけど……」

 

『スーパーヒーロータイムは朝だから、その後なら問題ないですね!』

 

「え、あ、はい」

 

 はっ、なんかナチュラルにニチアサ用事をニチアサだと理解されたせいで、混乱して肯定してしまった! 俺の馬鹿!

 

『明日映画見に行きましょうよ~。ほら、この間せんぱいが見たいって言ってた映画あるじゃないですか~』

 

「……あー」

 

 そういえば、前に奉仕部で話していた映画が最近上映されたんだったか。一色も興味持ってたもんな。

 けどなー、映画なんて上映中は話さないんだし、一人で見た方が気楽なんじゃないかなーと八幡思うな。

 

『二人で見れば、見た後に気兼ねなく感想言えるじゃないですか~』

 

「むっ、確かに……」

 

 映画を見た後に苦労するのは「話さないこと」だ。まだ見ていない人間に映画のネタバレをするのはマナー違反と言えるし、SNSでもそれは同様である。自分が見たから皆も見たなんて考えてはいけない。ぼっちはそもそも話す相手がいないだろって? 確かにそうだが、当然、内容を話したい欲はないわけではないのだ。その点、二人で見てから話せばネタバレにはならない。

 

『それに、これってアクション映画じゃないですか~。気軽にこういうの一緒に見ようって言えるのせんぱいくらいなんですよ~』

 

「いやしかし、お前かわいいんだから俺とは行かない方が……」

 

『せんぱいが私にこういう系勧めて、私をせんぱい色に染めてきたんですから、せんぱいには一緒に見る責任が……』

 

「分かった! 分かりました! 是非一緒に見させていただきます!」

 

 だからそういういい方やめて! 確かにアクション物とかSF物とかファンタジー物のどちらかと言うと男子向けな作品を勧めたのは俺だが、“せんぱい色”とか言う表現はやめてほしい。くっそ恥ずかしくてアホ毛が破裂しそうだから。

 

『じゃあ、明日の十時にいつもの駅集合ですからね~。遅れないでくださいね~』

 

「はい……」

 

 そうして電話が切れた。さようなら、俺の日曜日。

 そのままスマホを閉じようと思ったのだが、どうやら通話中にメールが来ていたらしい。はて、密林に何か頼んだかしらとメールアプリを開くとスパムメールだった。邪魔だし削除しておくか。

 と思ってもう一回見たら由比ヶ浜からだった。マジでスパムだと思ってしまうから、そろそろ本気で名前変えることを考えよう。

 

『やっはろー! 明日暇? 美味しいハニトーのお店姫菜に教えてもらったから、一緒に行かない?』

 

 という内容がゴッテゴテの絵文字を交えて書いてあった。相変わらず超絶読みにくい。読めなくはないのが逆に腹立つ。

 しかし、残念だったな由比ヶ浜。明日は既に先約があるのだ。こればかりは正当な理由を用意してくれた一色に感謝だな。……あれ、そもそも俺の貴重な日曜日が潰れるのは変わらなくね? やっぱ感謝なんてしねー。

 

『明日は用事があって出かけるから無理』

 

 簡潔に要点だけを記載するメール、仕事って感じがするぜ。事務的とも言う。

 

「メール誰から?」

 

「由比ヶ浜から」

 

 兄妹の短い会話の間にまたスマホがメールが来たことを知らせてきた。相変わらず返信はええな。女子高生の神秘だわ。

 

『じゃあ、来週は? ダメ?』

 

 うぐっ……想像できる。しょぼんとした顔で耳としっぽを情けなく垂らした犬ガハマさんが容易に想像できてしまう。そんな姿を脳裏に思い描いてしまうと、拒否するのも気が引けるというか、気が起きないというか……。

 

『別に、用事はない』

 

 速攻返信が来る。

 

『やった! じゃあ、土曜日に行こうね!』

 

 うわぁ、今度の犬ガハマさんはブンブン楽しそうに尻尾振っているのが想像できてしまうぞぉ。楽しそうですねこの子。用事がないと言った手前断るわけにもいかず、『了解』と短い内容で返した。

 まだ土曜日なのに、来週の土曜日の平穏すら崩されてしまった……辛い。

 

「小町、お兄ちゃん明日と来週の土曜日出かけてくるから」

 

「分かったよリア充」

 

 そのリア充ってマジでお兄ちゃんの事を指しているのかい? ハハハ、冗談は時々露呈する頭の悪さだけにして欲しいぞ?

 

 

 ――ピンポーン。

 

 

 反論をしようと口を開いた辺りで玄関のチャイムが鳴り、声を発するタイミングを失ってしまった。ただ間抜け面を晒すという失態にいたたまれなくなり、一言断りを入れて玄関へと向かった。

 

「どちら様……都築さん?」

 

「おはようございます、比企谷様」

 

 扉を開けると、ピシリと身なりを整えた老人紳士が立っていた。雪ノ下家の使用人である彼は好感の持てる笑みを浮かべながら「突然のご訪問、申し訳ありません」と恭しく頭を下げてきた。俺、そんな対応されるような人間じゃないんですけれど……。

 

「唐突な質問で申し訳ないのですが、比企谷様は直近の休日でお暇な日はございますでしょうか?」

 

「暇な日……ですか」

 

 なんか嫌な予感がする。俺の一色に爆破されかけたアホ毛が必死に訴えかけてくるが、下手な嘘は雪ノ下家以前にこの人にすら見破られてしまいそうで怖い。とりあえず、明日と土曜は無理。となると……。

 

「来週の日曜日なら、空いてますね」

 

 それを聞いた老紳士は「なるほど」と小さく呟くとさらさらとメモを取った。

 

「雪乃お嬢様と陽乃お嬢様が比企谷様と食事をなさりたいようですので、来週日曜日の午後五時に雪乃お嬢様のマンションに向かって下さい」

 

「は……?」

 

「では、私はこれで」

 

「え、あの……え?」

 

 なんか言うだけ言って都築さんは姿を消した。あの人忍者かよ。いや、それ以前にその連絡のためだけに来たの? 御老体を伝書鳩のように使うのはやめてあげてほしい。電話とかメールで……雪ノ下とはアドレス交換していないな。陽乃さんは……相変わらず着信拒否に設定したままだったわ。

 しかし、誠に不幸なことに来週の日曜までの予定がびっしり埋まってしまった。埋まってしまったものは仕方がない。この比企谷八幡、一度予定が決まってしまえばちゃんと待ち合わせには遅刻せずに行く男だ。まあ、それも小町の教育の賜物なんだけれどね。

 とりあえず、これ以上都築さんに無理をさせるわけにもいかないから、今度雪ノ下のアドレスとか聞いておくかと頭を掻きながら振り返ると――もう身体全体が腐ってんじゃねえのレベルの目の腐りを見せる小町が仁王立ちしていた。

 

「で、リア充ハーレム野郎。何か言い訳は?」

 

「は? 何が?」

 

「何がじゃないよ、この鈍感ジゴロ草食系リア充ハーレム野郎!」

 

「長い! 超長い! つうか痛い! すねを蹴るなすねを!」

 

 結局、なぜかその日一日「リア充ハーレム野郎」と呼ばれ続け、最終的に平日の放課後に毎日小町とデートをすることになってしまった。

 俺のぼっちライフは最近ちょっと騒がしい気がする……。




あけましておめでとうございます。
と言うわけで新年一発目のお話。
まあ、大晦日のお昼に書きあがってたんですけどね。

この前ニコニコで見つけた記事を見て、「これは書くしかねえ!」と思って書きました。割と勢い。
死んだ目見たら庇護欲そそられるってちょっと怖い。後怖い。

小町の口をちょっと悪くしたのは初めてだけど、それでも小町は可愛いなぁ。欲を言えば、雪結衣一色の三人との絡みももうちょっと書きたかったんですが、予想以上に長くなったので泣く泣く圧縮。

のんびりペースですが、今年もよろしくお願いします。
ではでは。

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