比企谷八幡がイチャイチャするのはまちがっている。   作:暁英琉

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俺と彼女の距離

 放課後、いつものように奉仕部で過ごす日常。無理やり入部させられた当初は嫌々行っていて、雪ノ下からドMなのとか言われていたが、決してMではない。むしろこれは毎日行きたくもない仕事に行く会社員と同じで、慣れなのだ。もはや義務だから仕方ないのだ。あれ? 社畜であること認めちゃった? 働きたくないというのに。

 まああれだ、奉仕部って基本は何もやることなくて自由だし、家で本読むのも学校で本読むのも変わらんよなってのはある。メールでの相談も週一で見れば十分だし、基本的には俺と雪ノ下が読書をしていて、由比ヶ浜が携帯を弄りながら話を振って、一色がそれに混じって――

 

「……なんでお前ここにいんの?」

 

「なんですか藪から棒に~」

 

 あまりにもナチュラルに居すぎてツッコミするのに一時間近くかかったけど、お前ここの部員じゃないよね? 生徒会の人間だよね?

 

「いや、お前生徒会はどうしたよ」

 

 この時期って来年の予算とか卒業式の準備とかいろいろ忙しいんじゃねえの?

 俺の疑念の視線をものともせず「んん~」と口元に指を当ててあざとく考えていた一色は、パッと表情を輝かせて胸の前で手を打つ。……あ、嫌な予感する。

 

「今生徒会やばいんですよ~、だから手伝って下さい!」

 

「いや、生徒会でがんばれよ。もしくは葉山頼れよ」

 

 本当にこいつはあの時提示した一年生徒会長の利点をほとんど利用していない。生徒会関係で葉山が関わったのもクリスマスの時のディスティニーランドだけだし、そもそもあれは手伝いではないだろう。そう考えていると一色はまるでゴミを見る主婦みたいな視線を向けてため息なんぞついてきた。やめて、俺そっちの趣味ないから。ゴミ扱いしていいのは小町だけだから。あれ? 小町に対してはそっちの趣味あるのん?

 

「いいじゃないですか~。せんぱいには私を会長にした責任があるんですから~」

 

「いや、しかしだな……」

 

「本物……」

 

 おい、その技は卑怯だからやめて差し上げろ。PP無限のクソ技でゲーム崩壊不可避だから。

 

「……はあ、わかったよ……」

 

 どうせ奉仕部に居ても読書するだけだし、テストはもう少し先だから今急いで勉強する必要もないから手伝う分には構わないか。それに最近は本当に忙しい時以外は生徒会だけで頑張っているみたいだし、頼んでくるということは本当に忙しいんだろう。

 

「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

 

「待ちなさい、比企谷君」

 

 しかし、どうやらうちの部長様はお気に召さなかったらしい。俺のこと備品とか言っていたし、あんまり監視外に出したくないのだろう。

 

「奉仕部としては部活中にあまり他のとこで行くのはよしと出来ないのだけれど」

 

「別に依頼は来てないわけだし、来た時はメールででも連絡してくれればいいだろ?」

 

「それは……そうだけれど……」

 

 なんだろうか。どこか雪ノ下の歯切れが悪い。クリスマスや初詣、マラソン大会を経て雪ノ下の態度に多少の緩和が見られることには気付いていたが、この反応は俺の記憶にはあまりなかった。

 

「せんぱ~い、早くして下さいよ~」

 

「うぉっ!? こら! 引っ張るなよ!」

 

「先輩が遅いからですよ~」

 

 しかし、一色に引っ張られ、俺の思考は中断されてしまった。とりあえず今はこいつの手伝いをさっさと済ませるとするか。だから、そんなに引っ張らないでくれない。掴まれた腕に柔らかい手の感触とか体温とか伝わってきてドキドキするから。

 

「ぁ……」

 

 勘違いしないように努めていたせいか、ふと耳に入ってきたか細い声が誰のものか、俺には分からなかった。

 

 

     ***

 

 

 翌日、昼休みになるといつものように購買に向かう。生徒数の多い総武高の昼の購買は戦争である。しかし、幻のシックスマン並の影の薄さというパッシブスキルを持っている俺ならば、人気の焼きそばパンなんかも確実に手に入れることができるのだ。

 

「ヒッキー!」

 

「ん?」

 

 無事今日の昼食を手に入れて購買戦争の集団から抜け出すと、呼ばれて恥ずかしい渾名トップファイブに入りそうな名前を聞いた。プークスクス、誰だよヒッキーって。引きこもりかよ。……俺だわ。

 テンション低めに声のした方を見ると、俺にトラウマ級の渾名をつけた張本人、由比ヶ浜が駆け寄ってきた。やめろよ、こんな人の多いところで呼ばれたらさすがのステルスヒッキーも効果がなくなっちゃうんだから。超恥ずかしいし。

 

「飲み物買ってたのか」

 

「うん、ヒッキーは……うわっ、あの人ごみの中、パン買ってきたの?」

 

 うわってお前、あの程度の人ごみ、ラッシュ時の京浜東北線と比べればなんてことはないだろ。乗ったことないけど。ラッシュ時に乗るとか馬鹿じゃねえの?

 

「まあ、俺にかかればあの程度なんてことはない。水流に身を任せる川魚みたいなもんだな」

 

「ヒッキーなに言ってるの? 意味わかんないし」

 

 いや、分かれよ。人の流れに身を任せればいつの間にか購買前まで行けるでしょ? え、行けない? ひょっとして俺がおかしい?

 衝撃の事実に戦慄していると、視界の端に見覚えのある黒髪が見えた。由比ヶ浜と同じく飲み物を買いに来たらしい雪ノ下は目が合うと居心地悪そうに目線をそらした。あぁ、由比ヶ浜を見つけたけど俺もいるから声をかけづらいのか。ただでさえ人目を引く雪ノ下だ。部室以外で俺と会って変な噂が立つのを良しとはしないだろう。

 

「じゃあ、俺行くから。雪ノ下、待ってるぞ」

 

「え? あ、ほんとだ。じゃあねヒッキー!」

 

 胸の前で小さく手を振った由比ヶ浜は「ゆきのーん!」と声を上げながら雪ノ下の方へ駆けていく。なにあれ、くっそ恥ずかしいから他人のフリしたい。そして、雪ノ下は……。

 

「ぁ……」

 

「っ……?」

 

 何か言いたそうに、少しだけ眉尻を下げて、由比ヶ浜ではなく、俺を見ていた。

 なんでこっち見てんだよ。ステルスヒッキー再起動させたから大丈夫だろうが、誰かが気付いたら変な噂になりかねんだろう。いや、きっとこっちを見ているという事自体が俺の勘違いだ。さっさといつもの定位置に飯を食いに行こう。

 軽く頭を振って雑念を振り払い、踵を返した。

 背中には、ずっと視線を感じたまま。

 

 

     ***

 

 

 放課後、いつものように部室に向かう。教室を出る段階で由比ヶ浜から今日は部活を休む旨を聞いていた。一色は昨日仕事をだいぶ片付けたので、残りは自分たちで頑張ると言っていたので今日は来ないだろう。

 そうなると、今日は雪ノ下と二人だけか。

 なんだか久しぶりな気がする。生徒会選挙以降、由比ヶ浜が休みの時でも一色がよく来ていたから基本的に三人以上部室にはいたし。いや、本当になんで一色はうちに入り浸ってんだよ。ていうか、あいつマネージャー業はやってるのん?

 

「うーっす」

 

「こんにちは、比企谷君」

 

 いつもの席に座って鞄から文庫を取り出す。栞を抜いてページを開く。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに会話は存在しない。ただ時々、ページをめくる音だけが室内に小さく響く。由比ヶ浜や一色のいない奉仕部とはこんなに静かだったのかと少し驚きこそすれ、この静けさが俺は決して嫌いではなかった。

 ふと。

 長机を挟んだ雪ノ下に視線を向ける。

 

「…………」

 

 やはり、綺麗だ。そう思う。

 およそ高校生とは思えないような大人びた綺麗さ。まるで絵画の一部が飛び出してきたかのように様になっていた。

 俺はこの少女の事を知っている。成績優秀で何をやらせてもそつなくこなす。体力が少なく、それでいて大の負けず嫌い。どこまでもまっすぐで強く、そして弱い女の子。

 

「…………っ」

 

 ずっと眺めてしまっていたせいか。

 雪ノ下と目が合ってしまった。

 思わずバッと目をそらす。そして、次に来るであろう彼女からの罵倒に備える。

 …………。

 ………………。

 ……来ない。

 恐る恐る目線を戻すと、頬をほんのりと赤らめた雪ノ下がいた。顔をこっちに向けたまま、DVDの停止中画面のように固まっている。その表情は、いつも見る彼女よりも子供じみていて、かわいらしかった。

 俺は彼女のことを知っている。知っているが知らない。こんな表情は知らないし、このタイミングで嫌味の一つも飛ばしてこないことも今までなかった。教室でいつもどう過ごしているのかも知らないし、読書以外の趣味も知らない。知っているようで、何も知らない。

 思えば、雪ノ下と俺の関係はこの部室にのみ存在しているように思う。校外で会う時もそのほとんどが奉仕部に関係していて、校内では部室くらいでしか会わない。由比ヶ浜のように同じクラスでもなければ、一色のように休み時間に会ったり、しょっちゅう連れ回されたりすることもない。

 一番長い付き合いだというのに、ひょっとしたら彼女のことを俺は一番知らないのかもしれない。

 今までの俺ならば、余計なことには首を突っ込まなかっただろう。めんどうくさいと切り捨てていただろう。しかし、俺はもっと奉仕部のことを、雪ノ下雪乃のことを知りたいと思ったのだ。“本物”が欲しいと、あの時願ったのだから。

 

「なあ……」

 

「……なにかしら?」

 

 どこか期待を感じさせる声。彼女も知りたいと思ってくれているのだろうか。分かりたいと思ってくれているのだろうか。もしそうなら、それはとても素敵なことで、幸福なことなのかもしれない。なぜかその思考を、俺の捻くれ脳は勘違いとは認めなかった。

 だから、この言葉はきっとまっすぐで、シンプルな方がいい。

 

「俺は、もっとお前を知りたい」

 

 まっすぐと雪ノ下を見つめる。雪ノ下は小さく息を飲んで……小さくほほ笑んだ。

 

「私を知りたいなら、もっと私を見て、私の声を聞いて、私と接することね」

 

「……あぁ、善処する」

 

 きっとこれから、俺と雪ノ下はお互いをよく知ろうとし、知られようとするのだろう。それが、俺の求める“本物”に繋がるのかは今は分からない。

 けれど、これは前進だ。たとえ小さくても、その一歩には意味がある。だから、歩みだそう。ゆっくりとでも、俺たちの速度で。

 

 

     ***

 

 

「じゃあ、とりあえずよく知る第一歩としてアドレスの交換をするか」

 

「それはいいのだけれど、私あまり携帯を使わないからアドレス交換のやり方が分からないわ。由比ヶ浜さんの時は彼女にやってもらったし」

 

「……お前もか」

 

「……後で由比ヶ浜さんにメールでお互い教えてもらいましょうか」

 

 由比ヶ浜、なんかいつも馬鹿にしてすまん。ちょっと頼らせて……。

 やはり、俺たちの第一歩は前途多難すぎる。

[newpage]

 あとがき的な何か

 

 八雪って難しい(´・ω・`)

 

 八雪って一番早くに知り合ったのに交流のほとんどが奉仕部ですよね

 というわけで、「仮に八雪がいちゃつくならまずはお互いがお互いを知ろうとしないとだめだろ!」と思って書いてみました。

 

 もっとこう、原作チックな感じにしたかったんですが、超難しくてそれどころじゃねえな?

 けど、ゆきのんの控えめな感情表現って一色や小町にはないものなので、そういうところをかわいく書ければなー次はもっとうまく書きたいなーと思ったり

 もう次書くとか言っちゃってた

 ネタ思い浮かばないんで次があるのかは分かりません

 

 ではでは




なんか八色とか八小とか八色小とかばっかだな?
練習として八雪に挑戦してみるやで


で、書いてみた


ゆきのんと八幡って関係がほぼ「奉仕部」に帰属してて、お互いの距離あんまり縮まってる感じしないよなー
じゃあ、まずはお互いを知ろうとするところからだな

と思ってこういう話にしてみました


さっぱりしたラブコメというか、そういうものを目指した感じ
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