はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(お気に入り3000越え感謝&後編)



圧倒

 空は深い黒色に戻った。それは時間が再び正常に流れ出したことを意味しており、つまりギャスパーは救出されたのだろう。とはいえ、今や″禍の団″には関係の無い話である。

 何故なら、護衛は既に全滅させたからだ。

 そもそも″停止世界の邪眼″を暴走させるという作戦は大軍且つベテラン揃いの護衛対策と、ギャスパーの有する神器のデータを得る目的に過ぎない。

 彼の捕獲や暴走を担当した魔法使い達はデータが取れたのであれば即時離脱するように命じられてあり、故に時間停止が解かれようと戦況には影響しないのだ。

 

 一誠は空を一瞥し、ギャスパー関連の作戦が成功したことを確信した。そして同時にソフィアを取り巻く状況も察した。その直後、彼は激しい憎悪に囚われた。

 ソフィアとは、同じ組織に属し同じ憎悪を抱える、同志とも呼べる間柄である。そんな彼女が息も絶え絶えの状態で自身の腕の中にいるのだ。しかも悪魔であるグレイフィアが原因となれば憎悪は何倍にも膨れ上がる。

 

 必然的に、怒りの矛先はグレイフィアへと向けられた。

 

 それとは反対に、グレイフィアの表情は困惑に包まれている。今まで自分はA級はぐれ悪魔であるソフィアを正義の名の下に断罪しようとしていた筈だ。それが気付けば、ほんの数メートル先に転移しているではないか。

 それだけでも驚きに値するが、本当の驚愕はソフィアをしかと抱き締めている者が″赤龍帝の鎧″を着込み、そして無限たるオーフィスを肩車している点にあるのだ。

 

 つい数ヵ月前までサーゼクス、そしてリアスの近くにいた存在を見間違えることは有り得ないが、それでも彼女は確認の為に声を絞り出した。

 

「……貴方は、兵藤一誠なのですか?」

 

 やっと絞り出した声は普段とは異なり酷く弱々しいものだった。それだけでなく視界全体が揺れているようにも感じた。時間停止は既に解除されているのに、グレイフィアには長い時間が通り過ぎたように思えた。

 そうして立ち眩みすら覚えたとき、一誠はオーフィスを降ろしながら、さりげない日常会話のように告げた。

 

「久し振りだな。グレイフィア・ルキフグス」

 

 曇ってはいるが一誠の肉声が響いた。そして、その口調も人格も以前とは違うものである事実も、彼女の耳と頭に確かに吸い込まれていった。

 どこまでも冷たい彼の声音に一瞬冷や汗を流したが、流石に現魔王セラフォルーと冥界最強の女性悪魔の座を張り合っただけのことはあった。瞬時に認識を改めると、憮然とした様子で語りかけた。

 

 ──否、語りかけようとした。

 

 亜音速で駆ける一誠を、グレイフィアは見切れなかった。龍の一閃が彼女の顔面を強襲した。

 自分の鼻がへし折れる音を聞きながら、彼女は一時的に身体を地面に預けた。地表と擦れるギリギリの所で翼を広げ、空に飛び上がる。

 

 追撃せんと龍の赫翼を展開する一誠に対して、慌てて魔力弾を放つグレイフィア。それが牽制にならないだろうことは今の攻防で理解できた。であれば、ひたすら時間を稼ごうと彼女は即決した。

 サーゼクスはまだ術式維持の為に参戦は不可能。リアスやソーナ達に任せるには荷が大きすぎる。こうなってしまえば少しでも体力を削るのが定石だろう。

 

 二度の戦争を生き残った歴戦の戦士、かたや偶然にも赤龍帝を宿した少年。どちらに軍配が挙がるのか、様子を遠くから眺めるだけしかできないサーゼクス達は口惜しそうにグレイフィアの勝利を祈るしか無かった。

 しかし現実は無情。いや、ツケが回ってきたとするべきだろう。グレイフィアは兵藤一誠に圧されていた。

 

「ぐ………ッ! 攻撃が通らないッ!?」

「どうした、グレイフィア・ルキフグス。最強の″女王″がこの程度とは笑えてくるな」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

 格闘スタイルは以前と変わらない、剛を重視した徒手空拳だ。しかし数と重みが以前までの比ではない。受ける毎にスピードを上乗せされた重みが飛んでくるのだ。

 近付けば相手のフィールドに飛び込むようなものであり、かといって遠距離戦に持ち込もうにも魔力弾が弾き飛ばされる。天災のように暴れ狂うその姿は、まさに正真正銘の二天龍そのものだ。

 

 そう、これは戦争なのだ。かつての二天龍との戦争が数千もの年月を重ねて、より強大になって戻ってきたのだ。

 三大勢力が一致団結しても神器への封印が精一杯だった化物にグレイフィア一人で勝てるものか。

 

 否、勝てる道理など存在しない。

 

「あ……あァァァァァァァアアア!?」

 

 純粋な恐怖が逃れようと、彼女は目前に迫る一誠に全残存魔力をぶつけた。魔王にも匹敵すると謳われた絶大な魔力弾の群れは真っ直ぐに一誠に向かっていく。

 そして一発残らず、百をも越える数の魔力弾は彼に直撃したのである。

 

「よし、グレイフィアの勝ちだ!」

「流石にあれを喰らえば……!」

 

 サーゼクス達が喜び勇んで騒ぎ、グレイフィアも倒したと思い込んだ。やはり二天龍は三大勢力には勝てないのだと笑いながら、周囲に散らばっている無数の護衛達の死体を目に刻んだ。

 序盤にあれだけの数を割いていた魔法使い達は嘘のように全員が退却していった。しかし幾人かはリアス達が捕縛したらしく、心配は無い。

 

 グレイフィアは安心しきっていた。普段なら絶対に油断しない彼女だったが、今回だけは恐怖から解放されたことで慢心してしまった。

 

『Boost』

 

 戦争時に刻みつけられた、ドライグの声。魔力弾の影響で吹き荒れる煙がぐわんと大きく揺れ、二つの翡翠の眼光がその中で瞬いた。

 煙がゆっくり晴れる。

 見えてくる赤には埃すら付着していない。ガシャンと一歩踏み出す毎に金属音が鳴る。

 

 それが一つ、二つと重なっていき、そして十三回目の足音。

 グレイフィアの前に、一誠は立っていた。

 

「あ、あ………っ!?」

 

 一誠は右手を翳した。グレイフィアの眼前に翳された手の甲にて煌めく宝玉は周期的な妖しさを見せた。魔力を蓄えているのだろう。

 だが発射されることはなかった。横合いから乱入者が飛び込んできて一誠に蹴りを放ったのだ。残った空手で難なく受け止めてみせるものの、代償として蓄えていた魔力は霧散した。

 

 一誠は乱入者を睨んだ。

 

「魔王サーゼクス・ルシファー。俺を棄てた男か」

 

 乱入した張本人、サーゼクスは息を整えながらも悲しげな顔を造り出す。それが無意味であることは充分理解しているが、それでも仏頂面よりかはマシだった。

 サーゼクスを一瞥した彼は鎧のマスク部分のみを収納してみせた。久方ぶりに見る一誠の顔は冷たいナイフのような男という印象であり、そんな彼を見てリアスは泣き崩れた。

 

 サーゼクスを見つめる彼の顔は冷たく、暗い。

 

「……僕はイッセー君に謝りたいんだ」

 

 拳が飛んだ。それをサーゼクスは受け止めようともせずに喰らった。砂煙が舞う中で彼は無言のまま起き上がるが、それでも顔は変えなかった。

 一誠は心底見下した目でサーゼクスを見据えた。一誠にとってサーゼクスは復讐相手、それも一番に復讐するべき相手だ。それが少しばかり申し訳なさそうな顔で、あまつさえ飄々と謝罪を申し立てるなど、質の悪い冗談としか思えない。

 

「言葉はいらない。お前達が死ねば、それが俺にとって最高の謝罪になる」

「残念ながらそれは無理だ。私達の死は世界バランスの崩壊を意味する」

「さぞかし平和になるだろうな」

 

 対峙。

 龍と魔王が、棄てられた者と棄てた者が、一度は義兄弟とまで認識していた二人が睨み合い、ボルテージを上げていき魔力を高ぶらせていく。

 衝突する赤と紅のオーラが周辺の空間を軋ませるものの、彼らに止まる気配は見られない。

 

 このまま永遠に続くかと思われた膠着状態は、突如として現れた三人目により終わった。

 

「ヴァーリか」

 

 少々苛立ちを含んだ一誠の言葉に、純白の鎧を纏ったヴァーリは呆れながら返した。

 

「君は俺達を迎えに来たんだ。目的を忘れるなよ」

 

 ヴァーリの視線の先には、片腕を失い地面に倒れ伏すアザゼルがいた。カテレアに敗北した彼をつまらなさそうに眺めながら、ヴァーリは転移魔法陣をグラウンドに展開した。

 一誠、オーフィス、ソフィア。全員が円の範囲内に収まったことを確認した彼は術式を起動させる。ヴァーリに似て白い色をした魔法陣が、独特の音を立てながら皆を呑み込んでいく。

 

 そして完全に呑み込まれる寸前に、叫んだ者がいた。

 

「イッセー! 私は、私は……ッ!」

 

 返事など存在する筈も無い。一誠はリアスに見向きすらしなかったのだから。

 

▼圧倒▼

 

 西暦二〇XX年七月。

 

 天界代表 天使長ミカエル

 ″神の子を見張る者″ 総督アザゼル

 冥界代表 魔王サーゼクス・ルシファー 

      魔王セラフォルー・レヴィアタン

 

 四名の署名により和平条約が調印された。

 以降、三大勢力の争いは禁止事項とされ、協力体制へと移行した。

 

 舞台になった学園から名を取って駒王同盟と称されることとなったその和平条約は、事実上の破棄状態に陥るその日まで様々な負の歴史に関与することとなる。

 

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