はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(常識)


強襲

 一般的に、日本の七月後半は学生にとって至福の時間である。夏休みに突入するからだ。それは駒王協定を結んだことにより注目されている駒王学園も例外ではなく、一学期の終業式が閉幕したばかりである。夏休みの予定を自慢気に話す生徒がいれば大量の宿題に嘆く生徒もいた。

 形はどうあれ、興奮冷めやらぬ駒王学園。それは旧校舎に拠点を構えるオカルト研究部も同様であり、リアスが熱のこもった声で夏休みについての予定を発表していた。

 

「──というわけで、夏休みは全員で冥界に行くことになるわ。今のうちに長期旅行の準備をしておいてね」 

「私も、ですか?」

「眷属が主に同伴するのは当然だもの。あなたも一緒に冥界の実家に行くの。そういえば、アーシアとゼノヴィアは初めてなのよね?」

 

 リアスの問いに、アーシアはぼんやりと外の景色を見ながら「嬉しいです」と呟いた。

 そしてゼノヴィアもまた、アーシアと同じく特に反応を示さない。

 彼女は望んで悪魔に転生した類ではない。聖書の神の不在やそれに伴う教会からの追放、と自分の預かり知らぬところで居場所を失い、自暴自棄の形でリアスの眷属悪魔に転生したのだ。気絶していたがために幸運にもコカビエルの言葉を聞くことがなかった相方のイリナは現在も教会戦士として華々しく活躍しているらしい。

 彼女はそれらも含めて、自分を取り巻く現状に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。だから誰にも心を開かず、一人で鍛練に励み、無口で孤独な生き方を貫いているのだ。

 

「了解した」

 

 それ故に、返答もまたぶっきらぼうなものだった。主であるリアスはしばらくゼノヴィアを見つめていたが、やがて諦めたように朱乃達へと顔を向けた。少しだけゼノヴィアの胸が痛んだ。

 

「八月後半までは冥界のグレモリー本邸で夏休みを過ごすわ。修行も冥界の私有地で行うから、そのつもりでお願いね」

 

 今回の里帰りは、彼女なりに計算があっての催しだ。夏休みの里帰り旅行自体は以前から度々行われている企画であり、木場や朱乃、小猫などの古参は既に馴れている。

 しかし今年は新メンバーが二人も眷属になっている他、ギャスパーは例の襲撃事件がトラウマになってしまい、引きこもりが悪化してしまっている。新人であるアーシアもまだ精神不安定で、ゼノヴィアは心を開かない。

 これでは有事の際に適切な連携を取ることなどできない。そこでまずはアーシアやギャスパーの心を落ち着かせよう、というのが今回の合宿の目的である。

 

「おいおい、堕天使総督を忘れるなよ?」

 

 唐突に第三者の声が響いた。驚いて振り返るとアザゼルが部室の壁に背を預けて立っていた。勢力間の交流を深める、と題して夏休み直前に化学教師として駒王学園に赴任してきた彼は、それと同時にオカルト研究部の顧問にも就任していた。

 

「いつの間に入ってきたの?」

「普通に玄関からだ。気配を感じなかったのなら、それは単純にお前達の実力不足だ。ま、俺が言えた義理じゃないけどな」

 

 アザゼルは溜め息を吐きつつ、懐から年季の入った手帳を取り出した。びっしりと書き込まれたそれを捲りながら、今後の予定を並べていく。

 

「冥界でのスケジュールは……リアスの里帰り、サーゼクスとの会議、若手悪魔達の顔合わせ。そしてお前らの修行ときた。ったく、落ち着いて酒も飲めないぜ」

「ではアザゼル先生も同行するのね。列車の手配をしておいても構わないかしら?」

「よろしく頼む。今回は悪魔の正規ルートで顔を出さないとならんのでな」

 

▼強襲▼

 

 月日が少し過ぎて、旅立ちの日。夏休みとあって最寄りの地下鉄の駅構内は旅行客で賑わっているが、その更に地下深くに、一般には知られていない極秘の路線が存在していた。その駅にはグレモリー家専用の列車が停車しており、お抱えの車掌が路線や車両を管理している。

 リアスや古参メンバー、精神を病んだアーシアはそうでもないが、ゼノヴィア、そして引き込もっていたためにこれまで参加していなかったギャスパーは緊張しているようだ。特にやや強引に連れてこられたギャスパーは涙目で、今にも持参した段ボール箱に隠れようとする始末である。

 

 と、出発前からこの調子であったが、一度列車が動き始めるると落ち着いたのか、各々が趣味に興じていた。

 

 アーシアは黙って窓の外を眺め、木場と小猫はチェスで遊び、ギャスパーは段ボール箱の中でゲーム機を弄くり、ゼノヴィアは座禅を組んでいる。

 

「なるほど、そんな経緯があったのか……」

 

 そしてリアスと朱乃は、一誠がSSS級はぐれ悪魔に堕ちた経緯をアザゼルに説明していた。

 どうやらアザゼルは一誠が追われる身となったことに疑問を抱いていたらしく、当事者であるリアスに訊ねたのである。そこで二人は自分達から見た一部始終やそこから推測されるサーゼクス達の裏側を打ち明けた。完全な第三者の意見を聞くことで、自分達が取るべき行動を決めたかったのだ。

 説明を聞き終えたアザゼルは、心底呆れたように溜め息を吐いた。

 

「お前らの上層部やサーゼクスは愚かだな。二天龍を二人も放り出すなんざ正気の沙汰と思えん。そんな仕打ちを受ければ裏切られても文句言えんだろう。これはサーゼクスを問い詰めるべきか……」

「では、やはり一誠は陥れられたのかしら?」

「二人から聞いただけでは詳細は分からん。やはりサーゼクスを問い詰めるしかないだろうな」

 

 そのとき、車掌であるレイモンドの声が列車内に響いた。

 

『間もなく、次元の壁を通過致します』

 

 それが合図となり、黒一色の空間が一変して、冥界特有の紫色の空が窓の外に広がった。眼下には木々や川に恵まれる大自然、そして六角型の街があちこちに建て並んでいた。

 リアスは、その中でも一番大きな街の中央にある豪邸を指差した。

 

「あれが私の実家よ」

 

 視線の先に聳えているのは、西洋の童話に登場しそうな巨大な城である。外壁や屋根にはグレモリーが司る紅蓮の色を多く用い、随所に貴族たる証である紫の薔薇の紋様が施されている。それだけでなく城の正門付近にはリアス達を出迎えるべく音楽隊や馬車までも配置されているではないか。

 余りの豪華絢爛さに、ギャスパーは卒倒しかけた。

 

「あれは家じゃないですよ!」

「ごく普通の家よ。それとアーシア、ゼノヴィアは後で個人の領地をあげるから」

 

 理解できていない二人に、アザゼルが解説する。

 

「お前達はグレモリーの眷属悪魔だからな。領地を分け与えられる権利が許されているんだ。残りのメンバーも自分の領地を持って──」

 

 その後を続けようとしたが、それは叶わなかった。

 何故なら大きな衝撃が列車を襲い、巨大な転移魔法陣が列車ごとリアス達を包み、そしてどこかへと転移させてしまったからだ。

 

 その場の全員が目を覚ましたとき、周辺に広がる光景は酷く殺風景な岩山に変わっていた。雑草すらも生えていない僻地を前にしても冷静に分析を開始する朱乃だったが、その途中で異変に気付いた。

 

「そういえば、リアスとアザゼル先生の姿が見えませんわね。どこか別の場所に転移させられたのでしょうか」

 

 不安になりながらもメンバーを見回す。幸いにも重傷を負った者はいないらしく、全員が周囲を警戒していた。

 それにしても、と木場は思考する。

 この強制転移は誰の仕業だろうか。ピンポイントで列車に魔法陣を展開したということは、悪意を持った第三者の犯行である証拠に他ならない。やはり考えられる最大の可能性は″禍の団″だろう。

 

 ──彼が自分達を狙って出撃したのであれば。

 

 あの日、駒王同盟を結ぶべく行われた会談の場に現れた一誠を、木場は遠目からしか見ることができなかった。近付いただけでドラゴンのオーラに焼かれて死ぬとサーゼクスに制止されたからだ。

 事実、その通りだった。

 凶悪な魔力を纏い、グレイフィアを圧倒するまでに成長を遂げた一誠に対して、″禁手″に至ったばかりの自分では絶対に勝てないのだと悟ってしまった。

 

 結局、彼がソフィアやヴァーリ、そしてオーフィスと共に退却していくまで、主君を守る筈の″騎士″は呆然と見ているだけだった。

 

 彼はしばらく回想に沈んでいたが、ふと違和感に気付き顔を上げた。

 

「──地鳴り! 何か来る!?」

 

 岩をも崩す地響きは、巨大な存在の襲撃を示していた。そして襲撃者は遂に岩影からその姿を現したのである。

 

 それはドラゴンだった。紫色に白が合わさった体躯をした、木場達と比べることすら馬鹿馬鹿しい程の巨体を誇るドラゴンだ。傷だらけの角を翳し、赤黒い眼が全員を捉えた。

 瞬間、解き放たれる業火を必死に回避し、彼らは反撃に転じる。

 

「……やはりテロリストの差し金ですのね」

 

 即座に巫女装束を翻し、早々と上空に陣取る朱乃。

 

「部長が不在ですので私が指揮を執ります。ゼノヴィアちゃんと小猫ちゃんはドラゴンの注意を逸らしてください! 祐斗くんが前衛を! アーシアちゃんとギャスパーくん、私は援護に回ります!」

 

 一斉に全員が広がり、迎え撃つ体勢は整った。

 

 再度繰り出される火炎が囮であるゼノヴィアと小猫に向かうも、ゼノヴィアは″騎士″の速度を、小猫は猫系妖怪特有の身軽さを駆使して回避した。ドラゴンの炎の威力は岩をも容易く溶かしてみせた点からも明白。もしまともに受ければ致命傷は免れないだろう。

 隙を見て攻撃を加えるが、しかし彼女達の攻撃は少しも通用せずにいる。頼みの綱のデュランダルすらもドラゴンの鱗に弾き返された瞬間、ゼノヴィアは驚愕に眼を見開いた。

 

「デュランダルが弾かれ──」

 

 咄嗟に体勢を整えようと着地した隙を、突き刺すような焔の追撃に狙われた。直撃こそ免れたものの、ゼノヴィアはまだフィールドに残る熱気を間近に感じていた。

 教会戦士だった時代に、彼女はドラゴンの討伐に成功した経験があった。それだけに腕っぷしにはそれなりの自信を有していたのだが、しかし討伐したのは若いドラゴンだ。目前に迫るあのドラゴンは自分が相対した個体とは段違いの猛者である。

 かつてのコカビエル以上の威圧感を放つドラゴンを、今の彼女はただ睨むしかなかった。

 

 今度は黄金の雷がドラゴンを襲う。朱乃の援護である眩い雷は一瞬ながら相手の視界を奪い去った。その間にアーシアが淡々と負傷した二人を回復させていく。考えられる戦闘パターンの中では一番マシな──各員の長所を活かした戦法だ。そこにギャスパーが加われば力及ばずとも抗うことは可能だっただろう。

 しかし本人は怖がってしまい一歩も動けなくなってしまっていた。この場から逃げていないのは純粋に恐怖で動けなくなっているだけだ。

 

「時間を停止させてくださいっ!」

「頼む、ギャスパーくん!」

 

 司令塔を務める朱乃のみならず、二番手のポジションである木場までもがギャスパーに視線を移した。

 移してしまった。

 その二人に、ドラゴンは狙いを定める。

 

「オオォォォォォォォォォォ!!!!!!!」

 

 ドラゴンは双翼を展開すると飛翔し、朱乃よりも更に上空から拳を繰り出す。ギャスパーにばかり意識を向けていた二人は咄嗟の事態に反応できず、勢いよく絶壁に身体をめり込ませた。着地点から放射線状にヒビが入り、次には朱乃と木場は糸が切れた人形のように動かないまま、アーシアの目と鼻の先に倒れた。

 

「もういいぞ、タンニーン」

 

 そうして遂に彼らが壊滅に追い込まれた直後、アザゼルとリアスが崖上から姿を現した。

 

 

「彼の名はタンニーン。″魔龍聖″の異名を持つ元龍王にして最上級悪魔だ。わざわざドラゴンから悪魔に転生した物好きさ」

 

 悪びれぬ顔で解説するアザゼルに、タンニーンが釘を刺す。

 

「俺が来たのは魔王サーゼクスに頼まれたからだ。それを忘れるな、アザゼル」

「騙すような真似して、ごめんなさいね」

 

 種明かしからしばらくの時間が経過した。ドラゴンの襲撃が茶番劇であったことに胸を撫で下ろす一同だったが、しかしアザゼルの顔付きは険しい。

 

「今のは敵が唐突に出現した場合を想定したシミュレーションだ。指揮官であるリアスが不在という状況下で、お前らがどこまで戦えるかを調べたかったのさ。お陰でグレモリー眷属の弱点や改善点がハッキリと見えたぜ」

 

 その前に厄介なイベントが横たわってるがな、とアザゼルは呟いた。

 

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