はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(お気に入り4000超え感謝)


招かれざる者

「私はシーグヴァイラ・アガレス、アガレス家の次期当主です。皆様、よろしくお願いします」

 

 先程の騒動からしばらく経過した後、改めて若手メンバーが集まり互いに自己紹介を交わしていた。

 

「私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主です」

「ソーナ・シトリーと申します。シトリー家の次期当主です。どうぞよろしくお願いします」

 

 まずは普段から面識のあるリアスとソーナの二人が続けて挨拶した。それに続いて、優しげな少年も口を開く。

 

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さん、よろしく」

 

 そして医務室に運ばれていったゼファードルを除けば、残っているのはただ一人。当然ながら各々の眷属達も含めた全員の視線が彼に集中する。

 しかし、そんな状況であろうともサイラオーグは余裕を崩さない。

 

「俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ。同じ若手悪魔として、これから互いに切磋琢磨していこうじゃないか」

 

 こうして次の時代を担う五名が集まったわけだが、一同の注目はやはり、同じ若手であるゼファードルを圧倒してみせたサイラオーグに集中していた。

 とはいえ、他のメンバーも若手というカテゴリの中では充分優れているし、相応の実力と才覚にも恵まれている。また、ゼファードルにしても決して彼が弱かったのではない。彼も普段の見た目や言動で侮られているが、グラシャラボラス家の出自とあって弱くはない。

 単純に、サイラオーグはその程度の実力では越えられないというだけの話だ。

 

 本人を除いた全員がサイラオーグの実力について考察していると不意に会場が暗くなり、舞台上に設置された王座にスポットライトが当てられる。座していたサーゼクスは立ち上がると、会場内を見渡しながら演説を開始した。

 

「諸君、よく集まってくれた。この会合は次世代を担う悪魔の実力を見定め、また我々の結束を深める目的で行われる。この場に集まってくれている若手悪魔達は家柄、実力共に申し分のない次世代達だ。だからこそ、デビュー前に力を高めてもらおうと考えている」

 

 彼の言葉に呼応するかのように、彼の一段下に座っている部下らしき男が威厳のある声で告げる。

 

「世間を騒がせている″禍の団″。不安もあるかと思うが、君達は我々が全力で守ろう。ただ……自分達も充分に戦えると思っている者もいるかと思う」

 

 そこで敢えて話を区切り、サイラオーグに視線を移した。確かに不満そうな表情ではあったが表立って口にすることはできず、彼は黙って堪えていた。サーゼクスはそれを察したのだろう、部下の続きを語った。

 

「だが、それはあまりに無謀が過ぎる。我々は徒に若者を失いたくないのだ」

「……分かりました」

 

 彼も一応の納得を示し、サーゼクスは安心したような息を吐いた。その後は若手悪魔同士で行うレーティングゲームについての説明が行われ、やがてそれも終えるとサーゼクスは最後に彼らへ訊ねた。

 

 曰く、将来の目標。

 

 普通なら答えに迷う質問だ。問われた張本人であるソーナ達は自身の未来予想図をぼんやりと思い浮かべ、質問を聞いていた周囲の貴族達も思わず考える素振りを見せた。誰もが悩む問いである。

 

「──俺は、魔王になるのが夢です」

 

 だからこそ、それを迷うことなく言いきったサイラオーグにサーゼクスは驚きの声を漏らした。普段は嫌味しか言わない上層部の老人達もこのときばかりは称賛し、バアル家と仲の悪い貴族達でさえ息を呑んだ。

 そしてサイラオーグが更に続けようとした瞬間、異変は現れた。

 

 突如として宙に描かれた、紅蓮の転移術式。

 やがて魔法陣は二つの人影を吐き出した。

 

「久し振り、だな。悪魔共」

 

 一転して戦慄に包み込まれた会場内。その中に塔城小猫の姿は見えない。

 

▼招かれざる者▼

 

「さて、どうしようか。俺としては適当に暴れれば今回の目的が達成されるんだけどな」

「……我、傍観する」

「悪いが今回は見学に徹してくれ。これは俺の戦いだからさ」

 

 一誠は、赤いオーラを放出しながら周囲を見渡す。視界に入る悪魔の全員が戦闘準備を行っている様子が見えた。また護衛達も即座に剣を抜き、既に一誠とオーフィスに向かって突きつけていた。それが無意味であることは彼らにも分かっているが、少なくとも指を咥えて眺めているよりかは心の安定を図れた。

 

 鋼鉄越しに相手が小刻みに震えているのが、一誠にもダイレクトに伝わってくる。この場に待機していた護衛達は、恐らく三大勢力の会談への襲撃映像を見ていたのだろう。

 身体能力、保有魔力量、戦闘経験。自分達と比べることすら馬鹿らしい強さを誇るグレイフィア。そんな彼女を一方的に打ち負かした存在が目の前に降り立ったら、彼らが恐怖を覚えても仕方ないだろう。

 

「……どうして会合に姿を見せたのかな。SSS級はぐれ悪魔の兵藤一誠」

 

 護衛の動揺を察したサーゼクスは彼らを手で制すと、迫力をぶつけながら一誠に訊ねる。会場内をピリピリと緊張が駆け巡るが、一誠は特に気にした様子を見せない。

 

 それもその筈、一誠はこの場では彼が本気を出せないということを既に知っているからだ。

 

 悪魔に転生して日が浅かった当初は三大勢力の事情に疎かったが、サーゼクスは滅びの魔力を用いるというのは裏世界では有名な話であり、当然ながらヴァーリ達は既に詳細を把握していた。そして会談襲撃に向けての会議にてそれを教えてもらった一誠は今回の強襲劇への利用を思い付いたのだ。

 

 かつて主君だったリアスの魔力運用を端で見ていたから分かるが、滅びの魔力は触れた物体を跡形もなく消滅させる性質を持っている。

 ならばサーゼクスの魔力は妹であるリアスのそれよりも強力だと予想できる。そうでなければ魔王の座は務まらない。

 

「ただのパフォーマンスだよ、魔王サーゼクス」

「パフォーマンス?」

「三大勢力に恨みを持っている奴は大勢いるんだ。これはそんな彼らに向けての挨拶さ。三大勢力は俺が潰すって意味だ」

 

 だからこそ、一誠は余裕を含んで彼に接している。戦場ならばともかく、貴族達が集まっている会場で魔力を放てば彼らに当たってしまう可能性も充分に考えられるからだ。

 故にサーゼクスは絶対に滅びの魔力を出せないだろうと一誠は確信していた。肉弾戦という選択肢もあるので油断はできないが、少なくとも即死だけは回避した。

 対して、策に気付いたサーゼクスは苦虫を噛み潰した。強みである滅びの魔力を完全に封じられてしまい、彼は酷く苛ついていた。

 

 そのとき、一つの影が会場内を横切った。

 一誠の元仲間である木場が憤怒の表情を浮かべて、創り出した聖魔剣を片手に一誠へと突っ込んでいく。

 

 オーフィスへ後退を指示した一誠は、冷めた眼で見つめながら左腕を伸ばした。

 左手に装着された″赤龍帝の籠手″に意識を集中させ、一気に解き放つ。翡翠の光が会場を包んだ。

 

「──″禁手化″」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!!!』

 

 様子を見ていた貴族達が爆風に耐えきれず、次々に吹っ飛ばされていく。何が起きたのかと確認するために彼らが眼を開ければ、そこに立っていたのは少年ではなく、人の姿を象ったドライグだった。

 古の赤いドラゴンが自身に向かって突撃してくる敵を認識し、軽く左腕を振るった。

 すると左手の甲に納まる宝玉から小さな魔力弾が飛び出した。悪魔でも注視してやっと存在が分かるサイズの、豆粒にも似た魔力だ。

 

 頼りなく飛来するそれを、木場は気にもしていなかった。小細工があるのかと瞬時に探ってみたものの、しかし本当に単純な魔力の粒で、例え身体に命中したところで霧散するのがオチだろう。

 

 そして数秒という時間が過ぎ去り、魔力弾が目前に迫った瞬間。

 翡翠の宝玉が能力の行使を宣言する。

 

『……Boost』

 

 直後、ピンポン玉サイズにまで跳ね上がる魔力弾。この段階で木場はようやっと彼の目的を理解した。

 だが既に斬り掛かる体勢に移行した彼の身体はコントロールを受け付けず、最初に華奢な身体に衝突し、骨が音を立てて軋み、それでも止まることをせずに一直線に壁へと向かっていく。

 

 数秒後、木場の全身を衝撃が襲った。

 

 傷だらけになりながら墜ちていく木場を救うべく、リアス達が慌てて駆け寄った。アーシアが手を翳し治療を開始する中で、リアスは一誠を睨んだ。しかしそれだけで他に抵抗の術はない。

 対する一誠はじっとリアスを見つめていた。自分に恐れを抱いた愚かな主君であり、視界に入る時間に比例して怒りが沸き上がってくるのを実感した。

 

 怒りに任せて、一誠は鱗に塗れた翼を拡げた。

 そして魔力を発射すべく掌を翳すが、

 

「なんだ、これは……?」

 

 一瞬の隙を突いて、彼の手に黒いラインが巻きつけられる。一定のリズムでラインは妖しく鼓動を繰り返し、それと同時に一誠は力が抜けていく感覚に襲われた。ゆっくりとラインを追っていくと、その先には駒王学園の制服を着用した少年が憤怒の表情で立っていた。

 その少年の顔に一誠は見覚えがあった。まだ駒王学園第二学年の所属であった頃、朝会にて生徒会として説明を行っていた男だ。

 

 ──そういえば、あいつは会議にも名前が挙がっていたな。ソーナ・シトリーの″兵士″の匙元士郎か。

 

「捕縛する! ラインよっ!」

 

 匙の左手に備えられたドラゴン系と思しき神器が叫びに応じてラインの本数を増殖させる。

 翡翠の宝玉が輝き、ドライグが忠告を発した。

 

『相棒、気を付けろ。このラインは恐らくヴリトラ系統の神器だ。急激に力を吸収されているぞ』

「……面倒だな。対処法は?」

『素早く宿主を倒した後に、オーフィスに解呪してもらうのが最善だと思う。ヴリトラの神器はどれも呪いに長けていてな。一度でも受けてしまえば回復に時間が必要という代物だ。ここは慎重になるべきだろう』

 

 ドライグからの的確な指示に一誠は短く頷き、眼だけを動かして匙を見た。恐怖に心を折られながらも進もうとする男の表情だった。また、遠くでは匙の主君であるソーナが必死になって何かしら喚いているのが見えた。彼では絶対に勝てないと既に悟っているが故の撤退命令だ。

 それは正しい選択である。匙と一誠、両者の間に横たわる差はあまりにも大きく、仮に千回戦っても一誠の勝利は揺るがないだろう。

 

 それでも、一誠から見て匙は強かった。

 一誠は深い息を吐く。

 

「匙元士郎だったか。お前、強いな」

「馬鹿にしてるのかよ……! お前の方が俺の何倍も強いだろうが! ラインよ、あいつを縛れ!」

 

 匙は、激情からラインを更に展開した。一誠の右腕がラインに覆われ見えなくなるが、それに比例して匙の体力も減っていく。

 彼が所有する″黒い龍脈″は膨大な集中力とテクニックを要求される技術型の手本のような神器であり、ラインが増えるに従って疲労は何十倍にも拡大され、使用者の体力を蝕むのだ。

 ソーナの下で日夜訓練を行っているとはいえ、匙はまだ充分に神器を扱えていない。その為に今こうして疲弊し、血を吐くまでに消耗している。

 

 一誠から体力を吸収しているが追い付かず、そして遂に″黒い龍脈″が姿を消した。

 床に両手を突き、それでも匙は一誠を睨むことは忘れない。

 

「匙っ!」

 

 対峙する二人の間に、ソーナが割って入った。暴風に転がされズタボロにされながらもしっかりと床を踏み締め、匙を庇う。

 

「ソーナ様……逃げてください……。守られる筈の主が眷属を庇うなんて、本末転倒ですよ……」

「私は絶対にこの場を離れません! 眷属を守るのは主君たる私の努めです!」

 

 普段は冷静なソーナが、取り乱しながらも、一眷属に過ぎない匙を庇う。主君と眷属の関係という点で考えた場合、これは決して誉められた行動ではない。

 

 ただし、これもまた″王″に必要な素質であることに疑いの余地はない。

 

「私達も匙を守ります!」

「元ちゃんは私達を何度も助けてくれたからね!」

「シトリー眷属、全員集合! 匙君を助けるわよ!」

 

 足音、次いで慌ただしい動きで、幾人かの少女達がソーナの隣に集結した。全員、覚悟を決めた顔だった。眷属達の思いもよらない行動に、ソーナは珍しく驚愕を隠せないでいた。

 

「みんな……」

 

 動揺する彼女に、″女王″にして親友の椿姫が叫んだ。

 

「ソーナ様、命令を! 赤龍帝にたった一人で立ち向かった勇者を守れと、そう命じてください!」

 

 良い眷属を持った、とソーナは深く椿姫達に感謝した。

 

 彼女は冥界の闇をある程度、姉であり魔王でもあるセラフォルーから聞かされていた。眷属を馬車馬のように扱う非情な貴族が存在することも知っていた。

 それを反面教師に、自身が将来持つであろう眷属達には誰よりも優しさを注ごうと決意した。いつか姉の後を継ぎ魔王となり冥界を変えるという壮大な目標を描いていた。

 

 ソーナの描いた冥界。誰かが誰かを思いやる理想郷。その縮図が目の前にあった。だからだろう、絶望的な状況だというのに、彼女達には自然と微笑みが溢れた。

 

 勝てる気はしない。

 しかし無様に負けるとも思えない。

 

 彼女は決意した。

 

「──シトリー家次期当主、ソーナ・シトリーの命令です! 私達全員で匙を守りますよ!! 誰一人として欠けることなく!!」

 

 なんと凛々しく初々しい宣言だろうか。だが、それだけではドラゴンの余裕は崩れない。

 一誠は連続して放たれるドライグの音声を聞きながら黒い笑みを浮かべる。目的の達成を示す術式が耳元に出現したからだ。それは作戦が第二段階に突入した合図だ。

 

 ″倍加″により膨れ上がった身体能力を確かめながら、一誠はじっとソーナを見つめた。

 

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