はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(尊死)


Juggernaut
新たな一歩


「お久し振りっすねぇ! 身体は元気でやんすか?」

「まあ、な。匙のラインもオーフィスに解呪してもらったし。それにしても、まさかお前と再会するとは思わなかったぜ」

「俺だって予想してなかったんすわ。腐れアザゼルにリストラされて路頭に迷ってたら昔の同僚に拾われるなんてさぁ!!」

 

 初めて出会ったときと変わらない、ふざけた口調でフリード・セルゼンは話した。簀巻きにされて少しは大人しくするかと思ったが、どうやらここでも平常運転を貫くらしい。

 一誠は彼を拾ってきたジークに視線を向けた。フリードの話によれば昔の同僚ということだが、果たして彼らはどのような関係性なのだろう。

 ジークは少し迷った素振りを見せたが、やがてポツポツと話を始めた。

 

 明かされたのは、天使陣営の闇の一端だった。

 

 聖剣計画。かつて教会で行われた非人道的な実験の一つであり、身寄りの無い孤児達を集め、薬物実験の果てに聖剣に適応した戦士を造り出すという狂気の計画である。

 結果として、死すらも恐れない戦士は誕生した。問題はその先──聖剣が扱えるかどうかだった。

 

 実は集められた孤児達の中に、聖剣を扱える者は一人として存在しなかったのだ。

 

 聖剣を扱うには因子というものが必要になる。それは人間ならば誰しもが有しているが、その内包量には個人差があり、因子の数を表す値が高くなければ聖剣を扱うことはできない。

 

 ならば逆転の発想だ。

 因子の値が低いのであれば、他から移植してしまえばいい。

 それがエクスカリバー強奪事件の首謀者が一人、バルパー・ガリレイの企てた計画だった。

 

 ある冬の日に、バルパーは部隊に命じて作戦を決行した。施設に毒ガスを散布し、因子を抜き終えた子供達の口封じを目論んだのだ。

 出入口を封鎖された施設は巨大な密閉空間であり、少年少女は逃げることすら叶わず、防護服を着込んだ神父が闊歩する床には苦しみ抜いた子供達がゴミのように転がされていた。

 

 幸運にも施設から逃げ出せた一部の生き残りは、施設ごと焼却される仲間達を眺めることしかできなかった。

 

「その後で僕はデュリオに拾われ、フリードは堕天使に身を寄せた。昔の仲間を見捨てる真似もできなくてね」

「……古傷を抉る真似をしてしまった。すまない」

 

 話を聞いただけの一誠でさえ腸が煮え繰り返っているのだ。実際に関わった彼らの胸中は穏やかではないだろう。今は二人きりにして思い出話をさせてやろう、と一誠達は部屋を後にした。

 

 面識があるからなのか、一誠はフリードには死んでほしくなかった。あの男は当分死にそうにないが、仮にジークの元仲間である彼に何かあれば寝覚めが悪い。

 いっそ自分の部下として貰い受けるか、と考えながら一誠は食堂へ足を進めようとして、今度は黒歌と鉢合わせした。

 

「あ、赤龍帝! タイミングがバッチリにゃ!」

「また頼みごとでもするのか?」

 

 そう言う一誠の視界に、黒歌の背中から白色の髪がはみ出ているのが見えた。髪の持ち主である少女の顔を忘れるわけが無い。「小猫か」と一誠は名前を口にした。ピクッと白髪が揺れたが、ゆっくりと少女は姉の隣に並んだ。

 

 塔城小猫。

 リアスの元″戦車″にして黒歌の妹であり、若手悪魔の会合を襲撃した目的の一つだ。

 

 雑談の内に、表向きには拉致されたことになっている小猫は、実は望んで″禍の団″に身を寄せたことを一誠は教えられた。どうやら彼女は一誠がSSS級はぐれ悪魔に認定されたことを疑問に思い、独自に調査していたらしい。

 だから予想していたより説得はスムーズに進んだ、と黒歌は得意気に胸を揺らした。姉の巨乳を羨望の眼で睨みながらも小猫は一誠を見た。以前とは異なり、氷のような雰囲気を放つ彼がそこにいる。

 

 もう記憶の中にある兵藤一誠は死んだ。

 直感的に感じ取った彼女はその事実にやや戸惑いながらも、新メンバーとして頭を下げる。

 

「ヴァーリチームに加入しました、白音です。よろしくお願いします」

 

 白音。一度は捨てた名前だが、折角の新たな門出にリアスからもらった名前を使うのも縁起が悪い、と黒歌と話し合って決めたのだ。

 ちなみに彼女は世間的には誘拐された存在だが、黒歌によればヴァーリチームに預けられた食客のような扱いらしい。とはいえ、いつまでも食客に甘んじるのも迷惑なだけなので、こうして姉と同じチームに所属したとのことだった。

 

「そうか。まあ、派閥は違えど協力して任務に挑むこともあるだろう。そのときは頼むぞ、白音」

「……はいっ!!」

 

 彼女は華やかな笑みと共に、新たな一歩を踏み出した。

 

▼新たな一歩▼

 

 黒歌達と別れた一誠は″赤龍帝の籠手″の中に潜り込んでいた。激化する戦いに備えての特訓の一つだ。

 

 確かに彼は強くなったが、実戦ではドライグに肩代わりしてもらっている場面も多い。例えば一誠は悪魔の翼を用いての飛行が苦手だ。飛ぶ概念が存在しない元人間故に仕方ないことだが、飛べないので戦えません、では話にならない。それにドライグへの負担もある。

 戦闘時には神器を通じてドライグのサポートを受けることで飛翔しているが、自力で飛行する特訓をしても損は無いだろう。悪魔の翼を拡げる一誠に、ドライグが助言する。

 

『力を入れ過ぎるな。少し楽になれ』

「……と言われても、そもそも落ち着かないんだよ」

『悪魔との相性が悪いのか……?』

 

 二人揃ってガジガジと頭を掻く。長年相手を見ている内にどうやら癖が移ったようだ。

 一誠は溜め息を吐きながらその場に寝転がった。特訓開始から長い時間が経過したが、まだコツを掴めていないのは不味い。外で待ってくれているオーフィスにどんな顔をして会えばいいのだろうか。

 再び溜め息を吐く彼の隣に、金髪を靡かせる温厚そうな美女が現れた。柔らかな笑みを浮かべる彼女の登場にドライグは珍しく驚く素振りを見せた。

 

『ほう、エルシャか。ずっと奥に引っ込んでいるとばかり思っていたが』

『確かにそうだったけど、新人くんが潜ったのを感知してねー。それで特訓の手伝いをしようと思って来たのよ』

 

 ドライグは、事態を把握できていない一誠に彼女を紹介する。

 

『彼女の名はエルシャ。歴代赤龍帝の中でも一、二を争う実力者だ。今の相棒ではどうやっても勝てないレベルのな』

『はーい、私がエルシャです! 誰かを守ろうとする決意に応じて一肌脱ぎまーす!』

「……よろしく頼む」

 

 一誠は差し出された手を取り、エルシャとの特訓を開始した。ドライグから一目置かれるだけあって、一誠にとって彼女はこれまで戦ったどの相手よりも強かった。オーフィスとの修行で彼も相応に鍛えられたが、エルシャは更に高みにいたのだ。

 それが証拠に、互いに神器抜きで戦ってみたところ、しなやかな身体を活かした体術に翻弄され、一誠はライザーとの一騎討ち以来の惨敗を喫した。

 一誠だけが神器を使用してようやく互角に立てる相手なのだ。生前のエルシャは果たしてどれだけの力を誇っていたのだろうか。一誠は自分の弱さが恥ずかしくなった。

 

『うん、初日より動きがマシになったね! 無駄な動きは無くなったかな。でもでも、まだ神器を完全に扱えてないよ!』

『そうだな。相棒は神器の使い方がまだまだ荒い。しかしそれは裏を返せば、更に強くなれるという証拠だ。エルシャを師匠として神器を用いた戦闘を本格的に学ぶといい』

「簡単に言ってくれるな。やらなければ死ぬ、と考えれば努力は惜しまないが」

 

 エルシャに教わった戦術は、一誠からしてみれば驚きの連続だった。

 そもそも″赤龍帝の籠手″の所有者は、どうしても自身の能力を倍にする″倍加″を使っての戦法に頼りがちだ。初代から延々と続いてきたある種の暗黙の了解でもあったし、エルシャも当初はそうして戦っていた。

 だが″倍加″させた力を他に受け渡す″譲渡″に目覚めてから、彼女の選択肢は一気に弾けた。

 

『剣に″譲渡″して刃の長さを瞬間的に倍にしたり、敵の頭に触れて脳の水分を一気に数十倍にして破裂させたりさ。″譲渡″も合わせて運用すれば、力押しだけじゃなくて、もっと柔軟に戦えるようになるよ』

「成程、その発想は思い付かなかったな。それなら敵の魔力を倍にしてわざと暴発させたりも有効だな。参考にさせてもらう」

 

 休憩を終え、特訓を再び始めようとした直前、一誠とエルシャの間にオーフィスが降りてきた。その顔はどことなく不機嫌だ。

 

「……赤龍帝、遅い」

『ありゃー、そんなにいたのね。ここは気分転換も兼ねて戻ってみたら?』

『訓練もいいが実戦も積むべきだしな。そろそろ外に戻ろうか、相棒』

 

 直後、一誠は自室に立っていた。神器の中に長くいたために気付かなかったが、彼はしばらく飯を食べていなかった。意識がハッキリすると同時に空腹が襲った。知らぬ間に一誠はオーフィスを肩車しており、細い足がぷらぷら揺れる。

 と、徐々に足に力が込められていく。

 

「質問だ。どうして力を入れてるんだ?」

「……遅かったから、お仕置き」

「ちょっと待て、誰に吹き込まれた?」

 

 太股の体温と甘い香りと柔らかさを頬に感じつつ、一誠は訊ねた。対してオーフィスは可愛らしい笑顔でそれに応じ、力を更に強めていく。

 

「……フリード」

「やっぱり仲間にするのやめようかな」

 

 口ではそう言いつつ、この状況を生み出してくれた彼に一誠は深く感謝した。もう手遅れだった。

 

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