はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(別格)


兵藤家防衛戦

 ロスヴァイセは泣き疲れたアーシアをソファに寝かせると、ディオドラから聞いた兵藤一誠を取り巻く真実について思考する。なんと愚かなことをしたのだろうか、とは客観的且つ性格な評価だ。

 

「馬鹿ですよ。有能な人材を自ら手放すなんて正気の沙汰とは思えません」

 

 本人達はどう思っているのか知らないが、少なくとも外部から見れば愚行でしかない。現在はメディアを用いた責任転嫁に必死らしいが、自分達の行動が己の立場を削り取ると分からないのだろうか。

 

「悪魔のエゴに振り回されるなんて、一誠さんも可哀想です」

「いや、そうでもないよ。今の彼は幸せそうに暮らしている。ゲオルク曰く、この間もオーフィスとイチャイチャしてたらしいからね」

「あの″無限の龍神″とですか!? 流石は赤龍帝を宿した男ですね!」

「身体をまさぐってたらしいけど」

 

 麦茶を啜りながら雑談に興じるロスヴァイセの頭に、ふと疑問が生じる。

 一体、この銀髪の青年は誰なのか。

 

「失礼ですが、貴方は?」

「おっと、僕としたことが自己紹介を忘れていた」

 

 コップを置き、青年は恭しく一礼する。どこから取り出したのか、禍々しいオーラを放つ魔剣を肩に担ぎ、しかし剣とは正反対の爽やかな笑みで彼は名を明かした。

 

「英雄シグルドの末裔ジークフリートだ。″禍の団″を構成する派閥が一つ、英雄派の幹部を務めさせてもらっているよ。気軽にジークと呼んでくれ」

「″禍の団″!? いつの間に!?」

「曹操に監視を頼まれてね。そうしたらディオドラと、更にはオーディンまで現れたじゃないか。だから気になって直接訪ねたんだ」

 

 ロスヴァイセは最初こそ術式を顕現させようとしたが、やがてその手は止まった。彼に敵意を感じなかったからだ。そもそもジークに戦意があれば麦茶も飲まず雑談もせずに問答無用で斬りかかっているだろう。

 ロスヴァイセは落ち着きを取り戻すと、雑談を再開させた。

 

「そもそも、英雄派とは?」

「英雄達の末裔が集まって結成した派閥さ。僕達の共通点は三つある。神器を所有する者であり、神器に人生を狂わされた者であり、そして──三大勢力を憎悪する者だ」

 

 そう告げた彼の眼差しは強い意志を有している。

 

「僕だって神器が発現してから、親に忌み嫌われ捨てられた。教会では聖剣計画に参加させられ、違法実験を繰り返された。だからこそグラムと契約できたし曹操に誘われたんだけど、それはそれとして自分の半生に納得なんかできるわけないよね」

 

 その辛い過去は言葉だけでは語れない。故に行動で示すのだろう。急に語気を強めたせいで息が乱れている彼にロスヴァイセは何も言えず、ただ黙って見つめていた。

 

「醜いね。こんな僕が英雄だなんて」

「それは……」

 

 咄嗟に言葉を紡ごうとしたロスヴァイセだが、ジークは手で制した。

 

「慰めも同情もいらないよ。僕は今、人生で一番輝いている。英雄派は僕達と同じように神器のせいで路頭に迷っている子供の保護活動を行っているんだ。子供達の笑顔が僕を強くする。だから、僕は戦える」

「ジークさん、貴方は──」

 

 彼女が口を開いたその瞬間、床に巨大な文字が浮かび上がった。更に文字に沿うように幾つもの線が隅々まで広がっていく。これは家を覆う大きさの魔法陣なのだと察して、ロスヴァイセの表情が一変する。

 

「まさか、悪意を持った侵入者……」

「悪意だって?」

「兵藤家には、家全体を覆うように巨大な結界術式を描いています。発動条件は──()()()()()()()()()()()()!!」

 

 気付けば、目の前に人型の獣が立っていた。目鼻は削ぎ落とされ、パックリと顔の中央に開いた口には鋭利な牙が生え揃った、全てがどす黒い影のような異形だ。

 急いでアーシアと一誠の母親を転移させようとするが、術式は現れない。

 

「な、なんで転移できないの……!?」

「原因は一つしかありませんよ」

 

 そう言って、彼はグラムの切っ先を獣に向けた。

 悪意の塊であるそれは、ありとあらゆる呪詛を吐く。

 

『Aaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』

 

 ロスヴァイセも獣を一瞥した後、利き手に魔法剣を滑らせた。もう形振り構ってはいられない。故にそれはごく自然の提案だった。

 

「……どうでしょう、ジークさん。北欧に縁ある者同士として共闘しませんか?」

「ありがたい。貴女なら背中を任せられる。ならば開幕の合図は僕が務めようじゃないか」

 

 そう告げるなり、ジークの背中が醜く盛り上がった。異様に膨れ上がった影は服を引き裂き、まるで産み落とされた赤ん坊のように這い出る。鱗がびっしりと生え揃う銀色のそれは紛れもないドラゴンの腕だ。

 驚きで声も出ないロスヴァイセを尻目に、彼はグラムに加えて更に二振りの魔剣を構えた。

 

「最初は三刀流からだ。ノートゥング、ダインスレイブ、そして魔帝剣グラム! 一太刀目で死んでくれるな!」

 

 その宣言が戦闘開始の合図だった。洗練された動きで、三つの剣を振るう。

 

『Aaaaaaaaaahahahahaha?』

 

 対する獣は動かない。グラムの一撃が目前に迫ろうと瞬きすらしなかった。その代わりに何かを叩きつける音が響いた。その光景を目にした瞬間、二人は戦慄する。見切ることすら難しい攻撃を獣は全て片手で受け止めたからだ。

 咄嗟にジークが剣を戻そうとしても、尖った爪はしっかりと刀身に食い込んでいて離れない。

 

「これは厳しいな! このままではダインスレイブがへし折られる!」

「ジークさん、私に任せてください!」

 

 ロスヴァイセは空き手に術式を描きながら一歩踏み出すと、そのまま即座に詠唱を紡ぎだした。

 

Wir beten(我等が祈りよ),Binden Sie den Feind(敵を封じたまえ)

 

 大量の濁流が獣に襲い掛かる。黒く染められた水はまるで一匹のドラゴンのように滑らかに動き、そして激しい抵抗を意に介さず、獣を包み込んだ。最初こそもがいていた獣も酸素を奪われてはどうすることも叶わないのか、やがて手足が力を失い垂れ下がる。

 馬鹿げた怪力からやっと解放されたジークはグラムを撫でながら呆気ない幕切れに安堵の息を吐いた。疲れたのか、ドラゴンの腕は戻している。

 

「……倒したのかい?」

「ええ、恐らく。後はオーディン様に連絡して、この獣を運んでもらえば一件落着です」

 

 彼女もまた安堵の声を漏らした。

 

 

 あるビルの屋上で二人の男が話していた。彼らの顔は、商談が上手く進んでいるビジネスマンのように朗らかである。

 

 自身が操る悪意とは対照的に。

 

「そろそろ種を明かしてほしいにゃー」

「ヴァルキリーが描いた結界術式を改竄しました。元は侵入者を閉じ込めるためのそれに手を加え、現在は私しか出入りできないようになっています」

 

 銀髪を弄くりながら、彼は言葉を区切った。

 

「解除するにはあの獣を倒すしかありませんが、どうやら彼女と、そしてグラムの所有者は中々に手強いようですね。これでは困るので少し()()()()()()()()

 

 

 突如、獣を拘束していた水牢が崩れ落ち、ただの水に巻き戻されていく。何が起きたのか分からないロスヴァイセは必死に維持しようとするが、無情にも水は床にぶち撒けられた。

 支えを失い落ちていく獣の意識が、覚醒する。

 

「不味い、目覚めるぞ!!!」

 

 急いでグラムを突き刺そうとするも僅かに遅く、解き放たれた獣の豪腕によって弾き飛ばされ、勢いよく壁に激突する。

 

『Guaaaaaaaaaaaaa!!』

「な──」

 

 今度は悪意がロスヴァイセに向けられた。直後、彼女の視界を大顎が覆った。だが寸前で、彼女は横に突き飛ばされる。

 バランスを崩し不規則に転がっていくロスヴァイセの視界に映ったのは、獣の口から放たれた光線に身体を貫かれたジークだった。

 

「ジークさん……?」

 

 放心するロスヴァイセを落ち着かせようと口を抉じ開けるジーク。だが吐き出されるのは言葉ではなく、夥しい量の鮮血だ。ゴボリ、と腹に開けられた大穴から血が流れた。

 停止した彼女の思考は再び動き、次に絶叫した。

 

「あ、あぁぁぁぁぁああ!!」

 

 興味を失ったのか、或いは殺したと思ったのだろうか。獣はロスヴァイセを見た。しかし今の彼女にはジークしか映らない。

 彼の名前を呼びながら駆け寄った。

 

「無事で良かった……女性に怪我は似合わないからね……」

「ジークさんっ!」

 

 意識を朦朧とさせながら、尚も戦闘を続行するべく床に散らばる魔剣を掴もうとするジーク。しかし彼にそのような体力はもう残されていない。

 そんな二人に容赦する筈もなく、獣は腕を振り上げた。

 

 鉄槌が降される寸前で防御術式を展開したロスヴァイセ。一度は拳を受け止めたが、術式を構成する文字列には徐々にヒビが入り始めていた。元々彼女は攻撃魔法が得意であり防御魔法はあまり覚えていない。更に即興で描いたが故の脆さが悪影響を及ぼした形だ。

 二度、三度と立て続けに襲う衝撃に薄っぺらな壁がいつまでも耐えられるわけがなく、限界は確実に近付いていた。

 

『Aaaaaaaaaahahahahaha……Aaaaaaaaaahahahahahahahahahaha!!!!!』

 

 そして業を煮やした獣の巨大な咆哮と共に魔法陣は粉々に砕け散った。遂に二人を守る装甲は剥がされたのである。

 

「不味い……ッ!!」

 

 蟻を踏み潰すかのように獣は全体重を乗せて、鉄拳を振りかぶった。見を守る術の無い二人は無惨にも殺されてしまう、

 

 ──筈だった。

 

 直後、獣の右腕は消失していた。肘から先が虚空に吸い込まれている。何が起きた、どうして腕が無くなっているのだ。そう言いたげに直前まで右腕が存在していた筈の虚空眺める獣は見てしまった。

 

 先程までの傷が綺麗に塞がっている彼を。ロスヴァイセを背に庇い立ち上がる英雄の末裔を。

 禍々しく変貌した剣を構えるジークフリートを。

 

▼兵藤家防衛戦▼

 

 魔帝剣グラム。全ての剣を統べる″帝王の剣″が片割れにして最強と称される魔剣である。伝承では主神オーディンから強健の英雄シグムンドに与えられ、彼に勝利をもたらしたとされる。

 しかしオーディンは次第にシグムンドが戦うことを望まなくなり、シグムンドはグングニルの一撃により剣をへし折られて戦死するという最期を遂げた。

 そしてグラムは子のシグルドに受け継がれたが、彼もまた義兄達に暗殺された。かくして親子二代を死なせてしまったその剣は恐怖と羨望を込めて魔帝剣の称号を送られ、以降は次々と所有者を殺していくこととなる。

 

「祖先の呪いか、或いは祝福なのか。僕はグラムと巡り会った。ノートゥング達にも認められた。ならば──」

 

 まるでドラゴンの頭部を模した形状に変貌したグラムを手に滑らせ、ジークはその紅の刃を眺めた。血に塗れた刃は透き通る水面の如く自分の顔を映し出す。

 戦いの最中にも関わらず、刃の中の英雄は笑っていた。

 

「──斬ろう、グラム。僕の前に立ち塞がる敵。友を脅かす悪意。そして仲間に牙を剥く獣。僕はロスヴァイセさんを守る剣となる!!」

 

 使い手の意思に、グラムもまた輝きを放ち呼応する。それは所有者を殺す光ではなく、悪意ある獣を滅ぼす憤怒だ。

 目映い煌めきに圧されたのか、獣は呻き声を溢しながら後退りする。だが今更になって退いたところで手遅れだ。英雄の怒りは神速を越えて届くのだから。

 

「──魔帝剣グラム、解放」

 

 かつて初代シグルドが所有者であった頃、彼はファーブニルに戦いを挑んだ。三日三晩の激戦の末に勝者は決まらなかったが、その際に使われたグラムはファーブニルの血を浴び過ぎた。

 その結果、魔帝剣グラムは龍殺しの性質を有しながらドラゴンの魔力をも獲得してしまったのである。

 

「歴代所有者の中でグラムを解放した者はいなかった。何故なら解放する前に死んでしまったからさ。だから君がこの姿を初めて見るんだ。冥土の土産ってやつさ」

『Gururu……!!?』

 

 解放されたグラムの能力は″致死″。血の主であるファーブニルから受け継いだ猛毒が刃を形成しており、掠り傷ですら染み渡り敵を必ず抹殺する。

 ただし使い手も例外ではなく、刃に触れれば即死してしまう点はまさに所有者に不運をもたらす魔剣だ。

 解放した瞬間にグラムの能力に関する詳細が脳内に雪崩れ込むが、小難しい説明を彼は一蹴した。

 

「要するに触れなければ問題は無いのさ。僕は今、グラムに試されている。この程度の奴に負けるなら英雄の末裔は名乗れないと!」

 

 獣は戦慄した。彼はジークを上回る体躯を有しており、体格では負ける要素はどこにも無い筈だ。

 しかしどうしたことか。獣の視界には禍々しいオーラで象られた巨大なドラゴンが映っていた。自分の更に上をいく敵意を直視してまった哀れな獣は狂った。

 

『A……Aaaaaaaaaaaaaa!!??』

 

 精一杯威嚇し、無謀にも突っ込んでいく獣の頭頂部にグラムの刃が降り下ろされ、スローモーションのギロチンさながら綺麗に両断されながら獣は倒れた。

 二つに分断されれた獣はしばらく手足を痙攣させていたが、それもすぐに終わった。

 今度こそ獣が死亡したのを確認してから、ジークはグラムの解放を抑え込んだ。特に抵抗する様子もなくグラムは元の形状に戻っていく。

 

「終わりましたよ、ロスヴァイセさん」

「ジークさん、生きててよかった……! もし死んでいたら私は……」

「ふふ、貴女を置いて死ぬわけに……ッ!?」

 

 グラムを解放した場合、所有者の体力は殆ど空になってしまうという代償がある。最悪の場合は寿命すらも容赦なく吸い取っていく。貧血に似た感覚が彼を襲い、ジークは思わずその場に座り込んだ。

 

「魔帝剣グラム。やはり莫大な代償があるのか……」

 

 激闘だったが、お陰で守るべき人は無事だった。そう思うと少しは気が安らぐ。アーシアも一誠の母親も守り通したのだ。そう安堵しながら彼がグラムを異空間に収納した直後だった。

 

 突如、仮面を着けたスーツ姿の男が現れた。

 

「まさか、あれを倒すとは思っていませんでした。今後は更なる研究が必要ですね。それにグラムの解放。実に興味深いです」

「……お前は誰だ? 目的は?」

「目的とは、おかしなことを仰られますね。私の目的は既に手中に収まっていますが?」

 

 男の言葉にジークは首を傾げたが、ロスヴァイセが声を漏らした。彼は一誠の母親を小脇に抱えていたのだ。男の動作に細心の注意を払っていたというのに、二人は気付かなかった。

 

「では、またお会いしましょう。ロスヴァイセ様、ジークフリート様」

 

 ジークが追い掛けようとするが、その前に彼は忽然と姿を消した。兵藤一誠の母親と共に。

 

 

「お疲れさん」

「この仮面は鬱陶しいですね。正体を隠すためには仕方ないですが。後はファンキャットに転送すれば完了です」

「うひゃひゃひゃ♪︎ それにしてもお前さんも大した悪党だぜ!」

「うるさいですよ、少しは黙っていてください」

 

 仮面を外しながら、青年は主の名を口にする。

 

 「──リゼヴィム・リヴァン・ルシファー」

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