はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(これにて原典六巻は終了)


泥のような決意

 ディオドラとその眷属達は北欧に逃れた。オーディンの誘いに乗り、悪魔勢力から亡命したのだ。対価として家柄や地位を失ったが、彼にとっては別にどうでもよく、愛する眷属さえ隣にいてくれれば構わなかった。

 アスタロト家は次期当主が不在となってしまう形だが、そこは現当主たる父親に骨を折ってもらうことになるだろう。

 

「僕と父さんは次期当主の件でどうにも仲が悪かったからね。僕は家を継ぎたくなかったんだ。のんびりと平穏に暮らしたいだけなのさ」

 

 以前の屋敷には大きさこそ劣るが、自然に囲まれた美しい邸宅をオーディンから与えられた。曰く、情報の対価の一部らしい。今日から新しい生活が始まるのだ。

 と、ディオドラは部屋の隅に座る二人の少女に視線を移した。

 

「あの、ディオドラ様。私達までお世話になって大丈夫なのですか?」

「気にしないでくれ。帰る場所が無いんだろう?」

 

 スノワート、モルプス。元ファンキャットの眷属である姉妹だ。主君が死亡したことによりフリーとなった二人はディオドラの誘いに応じる形で移籍した。

 自分達が邪魔にならないかと心配するスノワートだが、しかし彼は気にする素振りを見せずに優しく迎え入れた。その微笑みに顔を赤らめる二人に、″女王″であるマーガレットはそっと呟く。

 

「ふふ、大丈夫よ。ディオドラ様は優しい人ですから。私も新しい家族が増えて嬉しいわ」

 

 彼女達が落ち着いたのを見計らって、ディオドラは笑いながら続ける。

 

「もう一人、増えるかもしれないよ」

 

 

 一誠は目覚めた。複数のざわめきが聞こえる。どうやら自分は倒れたらしい。

 ここは″禍の団″本部の医務室だ。オーフィスに敗北し、幾度も担ぎ込まれたから覚えている。

 

「やっと気付いたか、兵藤一誠」

「目が覚めたにゃ!」

「すまない、心配をかけた……」

 

 曹操、ヴァーリ、黒歌、白音、ソフィア、フリード。あまり大人数で押し掛けるのも迷惑だと思ったのか、組織の構成人数に反比例して見舞い客は少なかった。

 しかし一番欲している彼女がいない。どうして見えないのだろうか。

 キョロキョロと辺りを見回す一誠に、ヴァーリは呆れながら彼の隣を指す。ヴァーリだけではなく、その場にいるほぼ全員が彼と同じ表情をしていた。

 

「……オーフィス」

「すぅ……」

 

 オーフィスは一誠の隣で眠っていた。決して離すまいと手を握る様子は見ていて愛らしい。

 今回も看病をしてもらったのか。心のどこかでそう楽観視していた一誠だが、対照的に一同の顔はどことなく暗い。

 

「覚えてないか? お前は中途半端に″覇龍″と化したんだ」

 

 神妙な顔でヴァーリが口を開いた。

 

「″覇龍″。それはドラゴンを封じた神器の力を強引に解放する、禁忌の一つだ。発動すれば神をも上回る力を得る」

『ただし、それは一時的なものだ。代償として著しく寿命を縮め、最悪の場合は死に至る。二天龍を宿した者達は例外無く覇を求めて死んだ。その理由は様々だがな』

 

 アルビオンが言葉を続けた直後、一誠の左手に紋章が浮かんだ。ドライグだ。

 

『相棒は寿命の全てを削られてしまう筈だった。しかし実際にはこうして生きている。俺と話をしている。オーフィスの体温を感じている。その理由は、分かるな?』

「……赤龍帝、おはよう」

 

 彼が何かを告げる前に、場の空気に似合わない愛らしい声が響いた。隣を見れば、オーフィスが目を擦りながら上半身を起こしている。

 

 彼女が眠っていた理由は、看病と──。

 

「オーフィス。もしかして……」

「……我は大丈夫」

 

 自信満々に胸を張るオーフィスだが、その途端によろめく。やはり無理をしていたのだろう。一誠が慌てて身体を支えた。

 

「俺達は出ていようか、兵藤一誠」

「……頼む」

 

 一言だけ告げると彼らはそっと部屋から出ていった。そうしてヴァーリ達が去った直後、一誠は彼女の胸に顔を埋めた。

 

「……どうして、何も言わない?」

「泣きたいからさ」

 

 いつかのようにオーフィスは頭を撫でた。あの日よりも一誠が格段に成長していることは彼女が誰よりも知っている。

 ただ同時に、彼の弱さもオーフィスは敏感に感じ取った。

 

「父さんと母さんを救えなかった。オーフィスに負担を強いちまった。俺の寿命は減ったんだろう?」

 

 コクリとオーフィスは頷く。

 

「……″覇龍″の代償、我が肩代わりした。でも完全にはできなかった。赤龍帝の寿命は半分も削られた」

「半分か……」

 

 永遠に近い時間を生きる悪魔の寿命、そしてオーフィスの助力もあったからこそ一誠は死なずに済んだ。どれか一つでも欠けていたら、今頃はもうこの世には存在していなかったのだ。

 そう考えると恐ろしい話だが、しかし一誠にそのようなことを気にする余裕は失われていた。静かにオーフィスに語った。

 

「二人でいられる時間、減ってしまったな……」

 

 これは闇に呑み込まれた自分のミスだ、と一誠は呟いた。悪魔が諸悪の根源であれ、最終的に判断を下したのは他ならぬ自分自身なのだ。

 

 罪の意識に蝕まれながらも、彼は願う。

 

「ずっと、俺の隣にいてくれ。オーフィスだけは俺から離れないで……」

 

 そう呟く彼の瞳は、既に濁りきっていた。

 

▼泥のような決意▼

 

 その頃、リアスとその眷属達、そしてアザゼルを含むオカルト研究部のメンバーは部室に集まっていた。無論、ディオドラとのゲームについての話し合いである。

 

「不可解なことだらけね。アザゼルは気付いたことはあるかしら?」

「まあ、な」

 

 アザゼルが適当に誤魔化した直後、部室に転移術式が展開された。その紋章はアスタロトだ。

 

「こんにちは、リアスさん」

「ディオドラ!? 貴方、どうして!?」

「……理由は一つです」

 

 そう言ってから、ディオドラは真剣な表情でアーシアに視線を移した。

 

「迎えに来たよ、アーシア」

「アーシアを迎えに来たですって!? どういうことなの!」

 

 ディオドラの突然の宣言に、リアスは思わず怒声を放った。しかし彼は怒れるリアスには目もくれずにアーシアに言葉を続ける。

 

「すまない。僕がもっと早くにアーシアさんを見付けていれば、或いは死なずに済んだかもしれないのに。それは僕の責任だ」

「ですが、またこうして再会できました」

 

 深々と頭を下げるディオドラ。駒王町におけるレイナーレの暗躍を耳にしてからというもの、自分のせいで彼女は死んでしまったとディオドラは後悔していた。幸運にもアーシアはリアス達に救出されたものの、そうでなければ彼女は確実に死んでいただろう。シスターと悪魔は敵対関係にあるのだから。

 仲睦まじく思い出を語る二人の間に、リアスが割って入る。

 

「待ちなさい、私の質問に答えていないわ」

「そうでしたね。では、単刀直入に言いましょう」

 

 一拍置いてから、ディオドラは告げる。

 

「アーシアさんのトレードをお願いしたいのです」

 

 トレード。″王″同士で駒となる眷属を交換できる、レーティングゲームのシステムの一つであり、同じ駒且つ同価値の場合のみ交換可能となる。拒否権を持つ者は″王″二人と、トレード対象となる眷属本人である。

 彼らの意見が別れるだろうと察したアザゼルが、途端に険悪な雰囲気となった彼らを宥める。

 

「ちょっと待て。この場は俺が第三者として公正に仕切らせてもらおう。そうでないと後でトラブルとなってしまうからな。リアス、お前は反対だな?」

「当然よ。アーシアは私の大事な眷属だもの」

「二人の意見は別れた。後は、アーシア次第だ」

 

 同時にリアスとアザゼル、そしてディオドラの視線がアーシアに向けられた。対する彼女の表情には驚く程に迷いが無かった。以前なら大いに迷ったことだろう。リアスもディオドラも大切な恩人なのだから。

 しかし真実を知ってしまった今は違う。

 人質を取り、ディオドラを苦しめ、あまつさえ最愛だった命の恩人をSSS級はぐれ悪魔に堕とした政府上層部を信じることなど不可能だ。

 

「──私は、ディオドラさんの眷属になります」

 

 移籍。それが彼女の選択だった。

 アーシアの言葉にリアスは愕然となり、反対にディオドラは安堵する。「決まりだな」とアザゼルが纏めた。

 

「これでアーシアはディオドラの眷属となった。彼女が自分で決めたんだ、反故にはできないぞ」

「わ、分かっているわよ……アーシア、私のどこが気に入らないのかしら?」

「いいえ。リアス部長に文句や不満があるわけではありません。私の命を救ってくださったことに深く感謝をしているぐらいです」

 

 ただ、それ以上に上層部が憎いのだ。

 

「今にきっと、分かりますよ……」

 

 そう呟いたアーシアは、とても寂しそうな顔をしていた。

 

 

 冥界は混乱に包まれていた。リアスとディオドラのレーティングゲームの内容が世間で大きく取り上げられたからだ。上層部やサーゼクスは情報流出を防ごうと奔走したが、それよりも()()()()ゲーム映像がメディアに報道されてしまった。

 これにより、暴走した兵藤一誠がファンキャットを消し飛ばす姿は冥界のみならず各神話勢力にも広く知れ渡った筈である。

 

「やられた! 情報が完全に出回ってしまった!」

「これは問題だぞ。正義気取りの利権屋が大騒ぎするのは目に見えている」

 

 上層部の老人達は今後の対策に頭を抱える。既に一部のジャーナリストが動いているとの報告もある以上、早急に次の一手を考えなければならない。

 今は″禍の団″の襲撃とされているが、政府の発表に疑問を感じている者もいるかもしれない。

 

「──静まれ」

 

 ざわつく彼らを見かねての一喝に、他の上層部は冷水を掛けられたかの如く押し黙る。それだけの力を声の主であるゼクラム・バアルは有していた。

 それもその筈、彼は悪魔創生の時代から生きるバアル家の初代当主にして上層部を取り仕切るトップなのだから。

 

「ですが、これは由々しき問題ですぞ」

「アバドンの若造が勝手に動くからそうなるのだ。同調した貴様らもだ。各メディアの重役に連絡を取れ。我々の息の掛かった者達だ」

 

 他神話に広まったものは仕方ない。会見を開いたところで疑いは避けられない。

 ならば情報操作に全力を注ぐべきだとゼクラムは考えた。ありとあらゆるコネクションを使い、一刻も早く情報を風化させるのだ。

 

「了解しました」

 

 頷くや否や、他のメンバーは次々と転移していき、会議室に残ったのは彼一人となった。考えるのも嫌になる未来にゼクラムは溜め息を吐いた。

 

 やがて訪れる最悪の未来が自分の予想を越えていることなど、まだゼクラムは知らない。

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