はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(Genocide→意味:人種や民族または宗教集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われる行為、大量虐殺、集団殺戮)


Genocide

『さあ、いよいよ開幕となります! リアス選手とサイラオーグ選手のレーティングゲーム! 実況はこのリュディガー・ローゼンクロイツ、解説はディハウザー・ベリアル氏でお送りします!!』

 

 華やかなファンファーレと鳴り止まぬ大歓声に包まれる特設アリーナ。見渡す限り埋め尽くされた観客席を眺めながら、アザゼルとガブリエルは心底から呆れたように溜め息を吐いた。

 昨日の一誠襲撃の報を受けた上層部は、莫大な金が動いているのに今更中止にできない、とゲーム中止の訴えを退けたのだ。

 

「そんなに面子が大事なのかよ、クソッタレ!!」

「……あまりに酷いです」

 

 どこから、誰が、果たしてどのタイミングで攻めてくるのか。

 一つとして手掛かりを掴めていない現状をアザゼル達は嘆いた。来場者には簡易的な身分確認や身体検査を行っているものの、それらは気休めにもならないだろう。アリーナの最大収容数は約六万人を誇り、砂漠から一つの石ころを発見するのと同様に、観客の中に紛れ込まれてしまえば探し出すのは不可能だ。

 しかしアザゼルは、一誠なら必ず元主君であるリアスを最初の標的に選ぶ筈だと踏んでいた。彼女を殺害し、勢いそのままに攻勢に打って出る算段だ。

 リアス側の選手控え室の監視術式を覗いたが、不振な動きは見当たらない。

 

 好転しない事態を前に、それでも「焦るな」と自分を鼓舞するように彼は呟く。

 

「試合は始まってすらないんだ」

 

 戦争の歯車が動き始めたとは知らずに。

 

「──これから始まるんだ」

 

 アガレス領の僻地に存在する小高い丘の頂上に、一誠とオーフィスは並んで立っていた。遠くに見えるゲームアリーナは観客で埋め尽くされており、かなり離れた場所に位置するこの丘にまで歓声が響いてくる。

 同時にスタジアム周辺をグルリと囲む兵士の姿も彼は捉えた。来場者に扮しての侵入を警戒しての対策のつもりだろう。

 

 アザゼルは気付かなかった。

 一誠達がゲームの前日に現れた本当の狙いは、当日に会場を襲撃すると思い込ませるためのフェイクだったことに。

 

 張り巡らせた罠と監視の術式、厳重な身分確認や身体検査、配置した三大勢力の精鋭。

 どれだけ警戒を重ねたとしても、

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

 ″倍加″を利用した超長距離魔力攻撃には、欠片の意味も成さないことに。

 

「狙うは厄介な護衛部隊。連中を壊滅させてから電撃侵攻。その後は作戦通りに頼むぜ」

 

 魔王、堕天使総督、熾天使。市民、兵士、貴族。或いは己の出番を待ち続けるテロリスト達。

 その全員の視界に冥界の空を横切る紅蓮の閃光が映った。合計二十の″倍加″、即ちその威力をおよそ1088000倍にまで膨れさせた魔力の塊だった。

 巨大なプラズマと轟音を発生させながらアリーナへと迫る光はさながら冥界を滅亡に誘う隕石のように落ちていき、警戒も逃走も与えないままで、周辺を警護していた兵士達に直撃した。

 

 焼ける肉片、襲う焔、途切れる断末魔、混乱する観客の悲鳴。

 拡げられた阿鼻叫喚の光景を、一誠は開戦の合図としたのだった。

 

▼Genocide▼

 

「観客の避難を急げ!」

「負傷者を直ぐに搬送するんだ! 次の攻撃が来るかもしれん!」

「駄目です! 逃げようとする観客達でごった返して通れません!」

 

 アリーナ周辺は、外も内も兵士も観客も総じて激しいパニック状態に陥っていた。

 助けてくれと炎の中で叫ぶ夫婦。失った腕を探し続ける男。人の波に踏みつけられてしまい物言わぬ死体と化して転がる子供。

 まさしく地獄だ、とVIP席から一部始終を見せつけられたアザゼルは舌打ちする。今は生き残った兵士達が必死に避難誘導を行っているが、それもほんの一押しで決壊するだろう。

 

 ──恐らくは超長距離からの魔力攻撃、それも″倍加″させまくった馬鹿げた威力の代物だ。

 

 実に合理的な作戦である。魔力を放つだけで悪魔側が勝手に侵攻しやすい舞台を作り上げてくれるのだ。

 兵士達は観客の鎮圧で精一杯、集まった首脳陣も釘付け状態となれば、これ程のカモは他に無い。

 

「……やってくれるぜ」

 

 彼はようやっと、一誠には古の三大勢力戦争のように正面から戦争ごっこをするつもりなど最初から存在しないことに気付いた。

 そして、どのような手段を用いてでも彼は必ず目的を達成するだろうと今更に思い返したのだ。戦時国際法に縛られないテロリストであるが故に。

 

 不意に、アザゼルの脳裏にリアスの顔が浮かぶ。

 これはまだ開幕の花火に過ぎない。目の前の光景に惑わされてはならない。

 

 兵藤一誠の目的はたった一つ、復讐なのだから。

 

「ガブリエルはもう一つのアリーナに向かってソーナ達を保護しろ! 俺はリアスを救出する!」

 

 叫ぶや否や、十二の黒翼を全て解放して、フィールドを駆け抜けていくアザゼル。そんな元同僚の背中を眺めながら、残されたガブリエルはアザゼルの指示に従おうとして、ふとフィールドの監視術式に視線を落とした。

 まだ暴動の渦にある観客達。だが、その端にリアス達が紛れているのを彼女は見逃さなかった。

 あれだけ派手に爆発音や怒号が聞こえれば彼女でなくとも様子を確認するべく外に出るだろう。そうして人波に巻き込まれてしまったのだ。

 

 ともあれ、リアスの無事を確認できたガブリエルが安堵の息を吐いたのも束の間、次には彼女の喜びは消し飛んでしまった。

 

 リアス達に近付く不審な影があるのだから。

 

 

「何が起こってるの!?」

「分かりませんが、この場は危険ですわ! 控え室に戻るべきかと!」

「駄目だ、人が多過ぎるっ!」

 

 爆発音、次いで衝撃。扉の先から聞こえてくる悲鳴。非常事態だと察したリアスは眷属達を伴って控え室から外に出た。

 まず視界に入り込んだのは、アリーナから逃げようとする観客達の塊と、空をつついている幾つもの煙だった。灰色の焦げ臭さが鼻を焼く中で呆然と立ち尽くす。

 襲撃、反乱、暴動。

 さっと頭に嫌な単語が乱立した。詳細は分からずとも、この光景を見せられれば嫌でも察しがついた。そして兵藤一誠の仕業だと全員が悟った。彼が悪魔に復讐するために仕掛けた作戦なのだと気付いた。

 

 ならば、これはまだ序章に過ぎない。きっと第二の攻撃がやって来るのだと彼女は直感した。そうして散々に場を掻き回しておきながら、その隙に乗じて姿を現す計画なのだろう。

 

「恐らくだけど、アザゼル先生もこっちに向かっていると思うの。彼と合流できれば……」

 

 アザゼルとの合流を図り、リアス達は人混みからの離脱を決めた。自分達を見つめる視線には気付かないままで。

 

 

「見ろよ、オーフィス。首都リリスが文字通りに地獄絵図だ」

「……悪魔の反応、次々に消えてる。残ったものも反応が弱くて小さい」

「そりゃ″倍加″しまくったからな」

 

 ケラケラ笑いながら一誠は嬉しそうに呟いた。少しばかり離れたこの丘からでもアリーナから上がるどす黒い煙や焔がしっかりと確認できるのだ。現場はかなり悲惨な状況に陥っている筈だ。

 恐らくVIPや観客は我先に逃げようとするだろう。他人を踏んづけて押し退けてでも助かろうとする。熱気と集団パニックに押し出されるように、スタジアムの最大収容数である約六万人もの悪魔が限られた出入口に殺到するのだ。

 

 先程の魔力弾で混乱している警備係では、抑えきることは至難の技だ。

 

『やるじゃないか。全盛期の俺には及ばんがな』

 

 左手に翡翠の宝玉が出現して、ドライグの嬉しそうな声が流れる。三大勢力を憎悪する者にとって彼らを襲う悲劇は最高の喜劇だ。

 

「せめて及第点は寄越せよ。とはいえ、メインイベントは残ってるけどな」

『安心しろ。相棒の戦いの結末はこの俺がきちんと見届けてやる』

 

 そう告げて宝玉は消え去り、後には上機嫌で口笛を吹く一誠と、そんな彼の傍らに控えるオーフィスだけが残った。肉の焼けるような焦げ臭さが辺りを包んでも二人は冥界の景色を眺め続ける。

 

 ──ああ、晴れてくれて本当によかった。雨に降られでもすればこの絶景が拝めないところだった。

 

 オーフィスをそっと抱き寄せつつ、一誠は冥界の空を見上げる。相変わらずの紫色に、しかし赤と黒のコントラストが混じっている。紫の空を悪魔に例えるなら、それらを呑み込もうとしている炎と煙はさしずめドラゴンのようだった。

 だが足りない。果てしなく拡がる冥界の空を埋め尽くすには足りやしない。

 

 ならば新たに加えればいい。

 ぶちまけてやればいい。

 

「……ほら、来るぜ。更なる地獄への案内人」

 

 黒を、闇を。

 悪を、魔を。

 

「これより戦争は第二段階に移る。さあ、これだけ準備を整えてやったんだ。ヘマすんじゃねーぞ?」

 

 首都リリスの上空に集結しつつある旧魔王派の軍勢を指差して、一誠は銃を撃つ真似をした。

 

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