はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(伸縮自在の愛)


誘い

 リアス・グレモリーは無能だ、と大衆は口を揃えて罵倒する。

 眷属を集める才能はあっても眷属を従える才能に欠けている、と上層部は嗤う。

 

 即ち、王たる器ではあらず、ということだ。

 

 実際に過去の事例を挙げてみれば、死にかけていたところを拾った赤龍帝はSSS級はぐれ悪魔として逃走中の身であるし、処刑寸前であるところを保護した猫又はテロリストに拉致され、悪魔を癒す元シスターは恩人である元アスタロト家の次期当主と共に北欧神話に亡命してしまった。時間を停止させる吸血鬼やデュランダル使いの元教会戦士も心に壁を作ったままである。

 

「新聞から拝借した説明文だが、悪意こそあれど間違ってはないのだろうね。兵藤一誠に同情するよ」

 

 淡々と、どうでもいいことのように銀髪の青年は述べた。生来の戦闘狂を自覚する彼は周囲の悲惨な光景など視界に入っていないかのように、普段の雰囲気のままで平然と欠伸をした。

 例えば、焼け爛れた男が助けを乞うても無視するし、片足の無い女が腕に抱いた子供の応急措置を頼んでも手を払い除けている。

 

「ヴァーリ・ルシファー! どうしてっ!?」

「久し振りだな」

 

 突如として現れたヴァーリに、一斉に武器や魔力を構えるリアス達。しかし彼女達の手は酷く震えていて、額には大量の汗を流していた。相手との実力差があまりにも大きいからだ。

 自分達が束になっても傷一つ与えられなかったコカビエルを、彼はまるで虫を潰すかのように一方的に叩き潰してみせた。しかもその際の言動から察するに本気を出してすらいない。

 アザゼル考案の修業をこなしたとはいえ、リアス達の実力は並の上級悪魔に毛が生えた程度に過ぎない。挑んだところで皆殺しにされるだろう。

 

 自分達の末路を思い浮かべて顔を蒼白にする彼女達と対称的に、ヴァーリはただにこやかなスマイルを浮かべるだけだった。

 血と肉と焔に囲まれるアリーナの中心でも余裕を保っていられるのも、彼が確かな実力を持つ強者であるが故だ。

 

「俺が頼まれた任務は人探しだ。リアス・グレモリーとその眷属は対象に含まれていない」

 

 両手を挙げて降参のポーズを取るヴァーリ。暗に見逃すことを告げる言葉に、魔力を手に纏わせたままで警戒を続けるリアス。無能だと周囲に陰口を叩かれる身だが、流石にテロリストの言葉を鵜呑みにはしなかった。

 背後に控える木場、朱乃、ゼノヴィアを手で制して、リアスは一歩前に踏み出した。

 

「……信じて、いいのね?」

「やるならとっくに殺してるさ。君達が今も生きて喋っている事実がその証明にならないか?」

「……分かったわ」

 

 彼の言葉に、リアス達は納得して矛を収めた。しかし視線だけはヴァーリから離さずに、彼の一挙手一投足に神経を集中させた。

 そんな彼女達の無駄な努力に、ヴァーリは笑みを浮かべる。憐れむような生暖かい眼差しだった。

 

 リアス・グレモリー。赤龍帝の元主君であり、情愛に厚い事で有名な名門グレモリー家の次期当主。

 かつては″紅髪の滅殺姫″と讃えられた才女は、赤龍帝に反逆された愚かな無能姫であると上層部や領民から嫌われている。もう魔王を務める兄サーゼクスですら周囲の不満を抑えきれない。

 

 ──果たして彼女は気付いているだろうか。仮にこの場を乗り切ったとして、自分の末路が確定してしまったことに。政府や大衆が今回の戦争の責任を誰に求めるのかを、兵藤一誠の()()()であるリアスは考えているのだろうか。

 

 ──今、自分が()()()()()()()()()を理解できているだろうか。 

 

「さようなら、リアス・グレモリー。俺は自分の任務に戻ろう」

 

 余裕の態度を崩さないまま、ヴァーリは電脳的な白翼をバサリと拡げた。第一の目的を既に果たしたからであり、こちらに向かってくる反応を感知したからでもあった。恐らくは話に聞いたバアル家次期当主のサイラオーグだ。どうやらリアスと合流するつもりらしい。

 若手悪魔で最強という噂の彼とも手合わせしてみたいが任務を最優先で達成すべきだ、とヴァーリは撤退を即決した。

 

「俺のことより、赤龍帝を気にしたらどうだ?」

 

 ヴァーリは去り際に一言だけ呟いた。それはかつてリアスに投げた台詞と全く同じだった。

 リアスは悔しげに唇を噛むも言い返せずに、冥界の空に消えていくヴァーリを呆然と眺める事しかできなかった。彼女がサイラオーグと合流したのはその直後だ。

 

▼誘い▼

 

「かつて、戦争に拘った男を知っている」

 

 冥界の辺境に到着したヴァーリは目的の人物と合流するや否や、彼が言葉を発するよりも先に、どこか遠い過去を見透かすような眼差しで口を開いた。今回の話を始めるにあたり真っ先に名前を挙げたのは、かつて堕天使幹部を務めていた男だった。

 聖書にも名を刻んだその男は勇猛果敢な武人であり、数多もの戦場を潜り抜けた一騎当千の猛者であったという。

 背には十枚の黒き翼を、両手には赤く塗れた光の槍を。強力な神器には目もくれず、特別な能力を付与していない純粋な堕天使の力だけで古の三大勢力戦争の最前線を駆け抜けたらしい。

 

「アザゼル曰く、彼は失わないために戦った。戦友を、部下を、愛した女を守りたかった」

「……」

 

 黙って話を聞く男。しかし内心ではヴァーリの話に疑いを持っていた。

 

 名前こそ出していないが、彼の話している堕天使幹部とは三つ巴の戦争を再び引き起こそうとしたコカビエルだ。その名前は男も知っていたし、だからこそ解せなかった。何故なら、コカビエルは聖剣エクスカリバーを強奪し、人間界という無関係な世界まで巻き込んだ大罪人だからだ。故にヴァーリが語る、守り抜くために戦った話とどうにも噛み合わない。

 そんな彼の疑念を感じ取っても、ヴァーリは構わずに話を続けた。淡々粛々とつまらない本を読み聞かせるように語る横顔は悲しげだ。

 

「男は守れなかった。戦友、部下、愛した女。それら全てを目の前で失った。そして男は勇猛果敢な武人から冷酷な復讐者に成り果てた」

 

 彼はどうしても悪魔や天使を許すことができなかった。戦争だから仕方ないといえばそれまでだし、本人も今まで通りに戦おうと決めた筈だった。しかし理性と感情は隣人であり兄弟ではない。

 悪魔達と戦う度に怒りが沸き上がる。天使を捕らえる度に憎しみがこみ上げる。

 故にコカビエルは憑かれたように殺し続けた。最前線でひたすらに戦い、殺し、その毎日を繰り返した。

 

 当然、コカビエルは一時休戦を取り決めたアザゼルに最後まで反発した。死んでいった同胞達の無念はどうするのかと叫んだ。

 彼にとっての不運は、当時の堕天使陣営は戦争で疲弊しきっており、戦う気力がどこにも残されていなかった点だろう。頑なに戦争続行を主張する男は過激思想の戦争狂と見なされ、やがて日陰の道を歩まされたのだ。

 

「そして積年の憎悪が暴走して、彼は再び戦争を起こそうとしたんだ。それも失敗したけどね」

 

 皮肉なことに、コカビエルの主張は今になって認められつつあるらしい。

 仮に堕天使が悪魔と和平していなければ、少なくとも今回の冥界への襲撃は対岸の火事で済ませられたかもしれなかった。悪魔が多大な被害を被ったところで警備を派遣する必要など無かったのだ。もしくは秘密裏に一誠と密約を交わすなりして解決可能だったのかもしれない。

 

 駒王同盟という名のあまりにも馬鹿げた協定を結んでいなければ、の話だが。

 

 今回のゲームで警備の派遣を約束したのも、コカビエルの反対を無視して悪魔や天使と和平したのもアザゼルを筆頭とする上層部である。

 果たして彼らはこの一連の襲撃事件が終わった後も、上層部のままでいることを許されるだろうか。

 

「彼を愚かな男だと思うか? 復讐心に狂った哀れな堕天使だと嗤うのか? そんなことを言える者は世界のどこを探したっていないのさ」

「……」

 

 ヴァーリの眼にも炎が渦巻いていた。まるでかつてのコカビエルや今の一誠にも似て、恐ろしくどす黒い瞳をしていた。話を聞いていた男は顔を背けたが、それは彼が怖くなったのではない。

 ()()()()()にも、確かな復讐心が宿っているからだ。

 故に男はヴァーリの誘いに乗り、こんな冥界の辺境にまで訪れているのだ。本来ならば首都で起きている騒動を鎮圧しなければならない立場だというのに。

 

「身に覚えがあるんだろう? 復讐を願ったことがあるだろう?」

「……何が言いたいのです」

「──クレーリア・ベリアル」

 

 そっと耳打ちされた言葉に、男は眼を見開いた。

 どうして目の前の少年がクレーリアの名前を知っているのか。それを自分に告げるのか。

 驚愕する男にヴァーリは微笑む。それはとても美しく神秘的で、そして残酷な笑みでもあった。未だに驚いて動けない彼を惑わすように、話を続ける。

 

「彼女は実に優秀だった。君の汚名を晴らそうと情報を集め、やがて上層部とレーティングゲームの闇にただ一人で辿り着いた。だから、殺されてしまったんだ」

「……」

「奴らへの復讐を、ずっと望んでいただろう?」

 

 ヴァーリの文字通り悪魔のような提案を受け入れる以外の選択肢など、その男──ディハウザー・ベリアルには無かった。

 

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