はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(推しの子)


その左手は翼を千切り

「なあ、ライザー。まずはゲームをやらねえか? あの一騎討ちのリベンジマッチさ」

 

 黒い繭によって仕立て上げられたフィールド。一欠片の音も存在しない静寂な世界の中心で一誠とライザーは対峙する。その光景はまさにかつての一騎討ちの再現だ。ただし、二人が望んでいた女性はもう蚊帳の外である点を除けば、の話だが。

 

「──″禁手化″」

 

 赤龍帝を宿した少年は見捨てられ、裏切られ、その果てに復讐を誓った。SSS級はぐれ悪魔の烙印を押された大犯罪者に身を窶した。全てを奪われた彼は代わりに愛する女性と絶対的な力を手に入れ、冥界に牙を剥いた。そして長い道程の末に、こうして己を陥れた元凶の一人にリベンジを挑んでいる。

 

「……不死鳥の炎を再び見せてやろう」

 

 不死鳥たる男は少年の可能性を恐れた。いつか報復に現れるかもしれないと脅え、上層部やサーゼクスを抱き込んでまで彼を排除した。当時はその選択こそが正しいと信じて疑わなかった。結果として冥界壊滅のトリガーを自ら引いてしまったことにも気付かずに。そして、かつて陥れた赤龍帝に再戦を挑まれている。

 

「懐かしいな。式場に乱入してきたお前は生意気にもリアスを要求してきやがった。あろうことか俺に一騎討ちを挑んできた」

「……」

「あのとき、お前は俺に手も足も出なかった。サンドバッグみてえにボコボコにされたんだ。忘れたわけじゃないよな!! 俺の恐怖を、強さを!!」

 

 少年はかつて、絶対に負けられない勝負で敗北してしまった。愛していた女性を助けると誓ったにも拘わらず、彼女の前で敗北した。忘れられない苦い記憶だ。故に、ライザーが怖くないのかと訊ねられれば、それは嘘になる。

 

「……以前の俺からすれば、お前は遥かに強大な存在だったさ。純血の上級悪魔で何度倒しても立ち上がってくるフェニックスだからな」

 

 眼を閉じれば、今でも鮮明に思い出す。

 小猫、木場、アーシア、朱乃。皆が一人ずつ倒されていって、残るは一誠とリアスだけになった。戦いらしいことをしない内にリアス陣営は壊滅させられた。ライザーに特攻を仕掛けた一誠も呆気なくリタイアとなり、眷属を失い剥き出しの″王″となったリアスは投了。

 伝説の赤龍帝を宿したと騒ぎ、領地に侵入した堕天使達を討伐して調子に乗っていた少年少女は、しかし強くなったつもりで弱いままだった。だから敗北しただけの話である。

 

「そんなカスが復讐なんざできる筈ないからさ。俺は必死に鍛えた。トレーニング室で朝から晩まで血反吐を吐いたし、オーフィスに手伝ってもらって地獄のような特訓もこなした。そのお陰で自信と体力だけは手に入れたたよ」

「それがどうした! お前如きが鍛えたところで俺が負ける理由にはならねえんだ! 俺は何度でも再生する不死身のフェニックスだぞ!」

「いや、お前は絶対に俺が殺す。そうでないと」

 

 一誠は、ライザーを睨んだ。

 

「──俺の復讐が果たされないんだ」

 

 直後、一誠の拳がライザーの顔に突き刺さる。

 瞬きにも等しい一瞬で最高速度にまで加速させたドラゴンの一撃。速度に比例して威力を数十倍にまで膨れさせた拳が油断していたライザーの顔面を容易に抉り取った。衝撃をノーガードで喰らい、あっさりと障壁に身体を叩きつけられるライザー。

 

 何が起きたのか。

 今の数秒間で自分はどうなったのか。

 

 再生の炎を撒き散らしながら立ち上がるライザーの瞳には一誠の攻撃がまるで見えていなかった。

 或いはそれも仕方ないのかもしれない。

 二十回分の″倍加″によって、約1048000倍にまで強化された身体能力を全て一点に集中させただけのストレートパンチ。捉えられるとすれば神や魔王クラスに限られるだろう不可視の攻撃が、ライザー程度の悪魔に受け止められる筈がないのだから。

 

「おい、さっさと立てよ。ギブアップするにはまだ早いだろ。お前は不死身なんだからさ」

「この……クソッタレがぁぁぁぁぁぁあッ!!」

 

 反撃しようと即座に焔を拡げるライザーだが、一誠はその間にも距離を詰め寄り、怒濤のラッシュを展開していく。それは赤龍帝の有する″倍加″能力を活かした超高速戦闘術であり、彼が最も得意とする肉弾戦に特化させた戦法である。強化した脚力でフィールドを縦横無尽に駆け巡り、翻弄された相手をひたすらに殴り続ける。腕、脚、背、腹。それらを骨からへし折り、切り裂き、再生の炎を纏う片っ端から潰していくのだ。

 そして、それこそがフェニックスに属する悪魔の攻略法である。神にも匹敵する一撃で一気に大ダメージを与える或いは精神を再起不能に追い込む。それらは皮肉にもリアスに教えられた知識そのままだった。

 

「神器頼りの分際で調子に乗りやがって……火の鳥、鳳凰! 不死鳥フェニックスと讃えられた我が一族の業火、その身に受けて燃え尽きろ!!」

 

 見下していた相手に圧される焦燥からライザーは遂に爆炎を滾らせ、大技を繰り出そうとする。一気に勝負を決めようという算段だ。それが証拠に、再生した右手に纏う炎は今までの比では無い。怒りと焦りに呼応して飛躍的に火力の高まった、一帯を容易く更地にしてしまえるだろう灼熱で一誠を倒そうというのだ。

 しかし彼はまたしても選択を間違えた。そんな馬鹿げた威力を叩き出す自慢の大技を、高速戦闘を主体とする敵の前で繰り出すべきではなかった。そのような大技の発動時には致命的な隙が生じてしまうからだ。

 

 一誠が、その隙を見逃す筈がないからだ。

 

「死ね、死ね! 死ねぇぇぇぇぇえ!!」

「焼きが回ったな、ライザー。そんなチンケな炎で俺が倒せると本気で思っているのか」

「黙れ、テロリスト風情が!! もう死ねよぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

「……一つだけ、お前に教えてやる」

 

 隕石もしくは羽ばたく強大な不死鳥と化して飛翔する獄炎。一誠の体躯を軽く数十倍は上回るだろう莫大な質量の攻撃は今のライザーに出せる最大火力の一撃であり、火力だけであれば最上級悪魔にも匹敵する規模を誇った。

 

 だが足りないし、届かない。

 地殻変動をも引き起こすドラゴンの戯れには。

 かつて単騎で世界を相手取った二天龍には。

 

「神如きが、魔王如きが」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

 はぐれてしまった少年には。

 かつて陥れた少年には。

 

「不死鳥如きが」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

 そして、今まさに灼熱の檻をものともせずに飛び出し、掻き鳴らされる″倍加″の音声を左手に纏わせ続けている一誠には。

 

「──俺の邪魔をするな」

 

 敵う筈がないのだから。

 

「こんな筈が、この俺がぁぁぁぁぁぁあ!!」

「墜ちろ!!」

 

 執念の一撃がライザーの腹に深くめり込み、それでも意識を飛ばすことを許さないと宣言するように回転を加えながら自身共々に急降下していく。

 先程の攻撃を全身に喰らった反動から″赤龍帝の鎧″は解除されてしまい、一誠は生身のままで戦っている。それでも血塗れになって拳を潰しながら、ライザーの無防備な腹に全身全霊の憎悪を叩きつけたのだった。

 

 

「……赤龍帝」

 

 ただ一人、繭の外にて戦闘を見守っていたオーフィスはふと呟いた。燃え移った炎に焼かれながらも抗う一誠の姿に彼女は赤龍帝──否、ドラゴンという種族の本質を垣間見た。

 

 誰よりも強く、誰よりも誇り高く。

 戯れで世界をも滅せる種族。それがドラゴンだ。そして悪魔はドラゴンの誇り(プライド)を踏みにじった。逆鱗に触れてしまったのである。

 故に彼らは滅ぼされる。それだけの話だ。

 

「……兵藤、一誠」

 

 愛しそうに呟くオーフィスの瞳にライザーは映っていない。決着を告げる激しい衝突音が聞こえてもオーフィスは特に反応を示さなかった。無限を冠するドラゴンであるが故に。

 

「……?」

 

 そして、自分の身体の変化に気付くことも。

 

▼その左手は翼を千切り▼

 

 ライザーは焦っていた。不死鳥たる自分が負ける理由は無いのだと本気で思っていたからで、赤龍帝を一度倒した経験が生まれ持った傲慢さに拍車をかけた。

 自信満々で大胆不敵な襲撃予告も、本当はハッタリに過ぎない。どうせオーフィスを侍らせていなければ何もできやしない。そう思い込むことでしか己を鼓舞することも恐怖を拭うことも叶わなかった。

 

 それが蓋を開ければ彼は一誠に圧倒された。腕と脚と翼は再生が間に合わない速度で集中攻撃を受け続けて使い物にならない。文字通り手も足も出ない状態に追い込まれた。だからこそ最強の炎を持って一誠を倒そうとした。今までで最高火力だろう攻撃は容易く彼を呑み込んで、そのまま焼き尽くす筈だった。

 

「こんな……この俺が──」

 

 されど一誠は爆炎の境界線をも潜り抜けて紅蓮の拳を延ばしてきた。鎧を失いながらも尚、本物のドラゴンの両腕に馬鹿げた数の″倍加″を並べて。そうして墜ちていく不死鳥の視線の先には一つの幻影があった。全身が赤い鱗で包まれた巨大なドラゴンだ。

 ああ、とようやく彼は納得した。あんな化物に勝てるわけがなかったのだ。

 

 悪魔は、選択を間違えた。

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