はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(Advent→意味:降臨、到来、出現、誕生、降臨節)


戦いの降臨

 シトリー領に集められた三大勢力連合軍。屋敷前の広大な敷地を埋め尽くさんばかりの大軍は理路整然と整列し、たった一人の敵を今か今かと待ち構える。雲霞の如き軍勢を率いるのは、各勢力の誇りし精鋭達だ。

 

 積み上げた連続無敗記録から″皇帝″と称される、レーティングゲームの覇者。

 ″神の雷光″を名の由来に持ち、遥か古の戦争時代から戦い続けてきた堕天使幹部。

 四大熾天使の一角にして、数々の戦場を潜り抜けてきた女天使。

 

 そして全軍を指揮するのは三大勢力を率いる三人の男達。

 

 魔王ファルビウム・アスモデウス。

 堕天使総督アザゼル。

 熾天使ミカエル。

 

 各々もまた、古き神話の時代を駆け抜けてきた猛者であり、まだ見せぬ全力は神々にも届くという。

 

「彼は果たして現れるのでしょうか。この軍勢を察知すれば、普通ならば交戦を避ける筈です」

「兵藤一誠は絶対に現れるだろう。いや、彼は絶対に現れなければならないんだ」

「パフォーマンスは続けることに意味があるんだよ。だから仮に完全包囲されたとしても、あの少年は必ずやって来るのさ」

 

 その規模を見た者はかつての戦争を思い浮かべ、またしても古の戦いを始めるのかと嘆いた。何故なら三つ巴の戦争から数千数万の年月が流れた現在、これほどまでの大軍が動員されたのは今日が最初なのだから。

 故に他神話の神々は戦争に干渉しない旨の緊急声明を発表し、固唾を呑んで戦いの行方を見守っている。領民達は他領への避難指示に従い、あちらこちらに散らばった。

 

 これから始まる戦いは全世界を巻き込み、本人達の意思に関係無く戦争の領域にまで突入していた。或いは参戦する当人達も自覚しているのかもしれない。たかが元人間の転生悪魔、それも年端のいかない少年を相手取るにはあまりにも桁違いな戦力は、戦争と呼称する他は無いのだと。

 

「ったく、前代未聞だぜ。何が嬉しくて赤龍帝との戦争をもう一度せにゃならんのだ」

「嘆いても今更どうしようもないよ。こうなったら総力を挙げて討ち取るしかない」

「ですが、気掛かりな点が一つ。オーフィスがどう動くかです。彼女に攻められれば、仮に数十万の大軍を集めたところで容易に潰されてしまう」

 

 軍の士気は異様に高く、彼らの怒号は空を染め上げる喇叭の如く。衰えぬ威勢を世界中に見せ付けるように彼等は己を鼓舞した。赤龍帝の恐ろしさを知っているが故の、精一杯の威嚇である。

 

 ドラゴンたる者の真髄を忘れるわけがない。

 咆哮は山を砕き、尻尾は地を裂き、翼は一度の羽ばたきで遥か天空を駆ける。戯れで世界をも滅ぼしてしまえるような怪物。

 

 それこそがドラゴン。

 それこそが赤龍帝。

 

「オーフィスは出してこねーだろ。助力を乞うならとっくに頼んでるさ。そうしないのは相応の理由があるのか、もしくは兵藤一誠にとっての誇り(プライド)がそうさせるのか」

「……解せませんね。最高戦力を捨て置くなど」

「僕達にとっては理解できないし、そもそも理解されたくもないだろうね。さて、どうやら開戦の狼煙は上がったみたいだ。フェニックス家が壊滅したとの報告が来たよ」

 

 この連合戦争はあらゆる意味で前代未聞だ、と後世の歴史家かぶれ達は語る。

 

 赤龍帝との二度目の戦争であり、駒王同盟を結んで平和となった筈の時代における戦争であり、皮肉にも三大勢力の結束が強まった戦争であり、世界と時代の行く末を決める戦争であり、

 

「ほう、随分と手厚い歓迎だ。大人気になったみたいで俺は嬉しいよ」

 

 たった一人のドラゴンを相手にした戦争でもあるのだから。

 

▼戦いの降臨▼

 

「やっはろー、三大勢力の諸君。熱烈な歓迎会を開いてくれて感謝するよ」

「よくも一人で顔を出せたもんだ。お前さん、この状況が分かってんのか? 三大勢力連合軍、総勢二十万の兵に囲まれてんだぞ?」

「足りねえよ、ボケ」

 

 悪魔、堕天使、天使。三大勢力の軍勢を中心部から裂くに現れた一誠は既に″赤龍帝の鎧″を身に纏っており、酷く不気味だった。これまでも大胆な策を成功させてきた彼だが、しかし今回は無謀が過ぎる。二十万もの連合軍の中に飛び込むなど正気の沙汰ではない。

 事実として、軍には多少の動揺が見られた。一誠には以前にも超長距離魔力攻撃をやってのけた前科がある。果たして今回はどのような奇策を用意してきたのか、とアリーナでの惨劇を思い出して全員が身構える。

 そして、ファルビウムやアザゼルの額にも僅かながら冷や汗が流れた。実戦には参加させないとしても、一誠は今回もオーフィスを連れてくるだろうと踏んでいたからだ。

 

 それだけに、たった一人で現れた一誠に驚愕を隠せなかった。

 

「言ってくれるじゃねえか、小僧が」

「成長は若者の特権だよ。アザゼル総督殿」

「あまり侮るなよ?」

 

 軍の先頭に立つアザゼルと、空に浮かんで軍を見下ろす一誠。彼らの一挙手一投足に全世界が注目する。テレビ中継を介して見守る悪魔達も、監視網を駆使して状況を見極めんとする他神話勢力も、決して見逃すまいと彼らの次の言葉を待ち構えた。

 

「自慢の嫁さんはどうした? 遂に離婚届でも突きつけられちまったか?」

「まさか。俺一人で充分だってことさ」

「よく言うぜ」

 

 オーフィスの居場所をアザゼルは暗に問い詰めるも、のらりくらりとはぐらかす一誠。この場においては関係の無い質問であるし、そもそも居場所を明かす義理も意味も見当たらない。とはいえ、アザゼル自身も彼が素直に答えてくれるとは考えておらず、それ以上の追及はしなかった。

 ただし、質問した当人や観戦する神々はオーフィスの別行動を即座に理解する。そうでなければ毎度のように侍らせている筈である。

 

 オーフィスの不在。

 

 劣勢を覚悟していた三大勢力にとっては、ようく見えた一筋の光に等しかった。なにせ、これまではオーフィスが常に彼の近くを陣取っていたせいで手出しができなかったのだ。それが今回に限っては別行動だと言う。誰が見ても絶好の機会であることは疑いようがない。

 

「……質問だ。何故、オーフィスを置いてきた? 彼女は作戦行動における生命線だろう?」

 

 唐突なファルビウムの問いは、彼らの会話を眺めていた全員の代弁であった。失踪してから最初に公に姿を見せた首脳会談の襲撃から二人は行動を共にしており、以降の作戦でも必ず同伴させていた。それは完全無欠のボディーガードであり、作戦の実行にあたって必要不可欠である筈なのだ。だからこそ、今日に限って彼女を置いてきた理由がファルビウムには分からなかった。

 

 対して一誠は露骨に顔を歪めた。しかしファルビウムの指摘に苛立ったとか核心を突かれたという理由ではなく、オーフィスを単なる盾役扱いにした彼にどうしようもない怒りを覚えたのだ。

 

「素直に教えると思ったのか?」

「だろうね。ちょっと質問しただけださ」

「……これだから悪魔は嫌いなんだよ。それも虐殺したくなるレベルに」

「世を騒がすSSS級はぐれ悪魔のお褒めに預かるとは光栄だ」

 

 瞬間、魔力を全身から迸らせて対峙する。

 龍帝と魔王。

 高質量の魔力は本人達を包む大渦の柱となり、紫天をも真っ二つに穿つ。それだけに留まらず、魔力は空気中にプラズマを発生させるまでに放たれ、正面衝突の余波が不可視の衝撃と化してシトリー領全域を駆け巡った。集結した連合軍の猛者達は咄嗟にガードするも衝撃の暴風に加えて高密度の魔力までは堪えきれなかったらしく、その内の一部が意識を落とした。難なく持ち堪えてみせた大多数も額には汗が浮かんでいる。

 

 ファルビウムは察する。今の一瞬の唾競り合いで一誠の放った魔力は最上級悪魔クラスを超えて魔王と同等もしくはそれ以上の規模であることを。しかも涼しい顔で彼の牽制を受け流した本人は息切れしていなければ顔色すらも変えていない。つまり本気を出していないのだ。

 これまで兵藤一誠を情報でしか知らなかった天使や堕天使の軍勢は、目の前で繰り広げられた衝突に改めて彼の危険度を感じ取った。

 

「ほう、軽く流されるとは思わなかったよ」

「吐くならマシな嘘を吐け。適当な様子見をぶつけた癖によ」

「バレてたか。うん、それじゃあ今度は」

 

 光の槍、魔力。合図によって一斉に各々の武器を整える軍勢。

 その全員が最上級悪魔も凌ぐ猛者というのに、一誠は落ち着いていた。

 

「──全力といこうか」

「かかってこいよ、三大勢力連合」

 

 冥界を襲撃する兵藤一誠。

 迎え撃つは三大勢力連合軍、総勢約二十万。

 

 戦争の火蓋が、切って落とされた。

 

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