はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(オーフィス鬼かわええ! このまま逆らうやつら全員虜にしていこうぜ!)


Alternative
Wild Hunt


 吸血鬼勢力の本拠地であるルーマニアが″禍の団″の強襲を受け、複数の都市が壊滅。犠牲者はおよそ数千人にも及ぶ──。

 

 身に覚えのない襲撃が大規模な破壊活動の証拠とされる映像付きで全世界に出回った。そしてその映像にはルフェイ以外のチームメンバーと謎の漆黒のドラゴンを率いるヴァーリの姿が捉えられていた。フリードからの報告を受けた一誠の表情はこれまでになく驚愕と焦燥に包まれた。そして即座にテレビで流れている吸血鬼勢力の緊急速報を自ら確認し、その顔が更に苦しそうに歪む。

 

「……これは不味いっすよ、大将」

「最悪だ」

 

 思わずテレビを破壊したくなる程に一誠は激昂した。打たれた先手はあまりにも痛い。ヴァーリが″禍の団″所属であることは三大勢力のみならず各神話勢力も既に把握済みだ。その彼が三大勢力とは無関係なルーマニアを襲撃した。これが果たして何を意味するのか。

 これまで事態を静観していた他勢力や秘密裏に″禍の団″を支援していた日本・ギリシャ・北欧・須弥山の四神話は、様々な思惑はあれどその根底にはある種の楽観があった。一誠の標的は恨みのある三大勢力のみ。そう考えていたからこそ彼らの戦争には介入してこなかったのだ。しかしヴァーリ達がルーマニアを壊滅させたことで各神話勢力の間には少なからず不安が過った筈である。

 

 次は自分達が襲撃されるのではないか──。

 

「これで支援も打ち切り、それどころか下手すりゃ今度は神話連合と戦争に突入。第三勢力もまた面倒な手を使ってくるでザマスね」

「ふざけている場合ではありませんわよ?」

 

 軽口を叩くフリードに、レイヴェルが釘を刺した。

 

「オーディン、ゼウス、帝釈天、天照。世界でも指折りの強者たる主神が各神話の猛者を率いて……しかも徒党を組んで攻め寄せてくるかもしれないのです。その規模は先の連合戦争とは比べ物になりませんわ。オーフィス様や一誠様は別として私達では」

「十秒も生き残れりゃノーベル賞っすわ」

「後で四神話には連絡するが、弁明を信じてくれるか怪しいな。戦争か、そうでなくとも」

 

 ″禍の団″によるルーマニア襲撃という事実が存在する以上、仮に弁明を聞き届けてもらえたとしてもそれを口実に新たな対価を要求されるかもしれない。その対象は一誠とオーフィスの身柄だ。保護の名目で彼らは終戦後に配下に降るように要求されるだろう。拒否すれば今度こそ神々との戦争である。三大勢力と神話勢力、二つの戦局を同時に抱える人的余裕は既に奪われた後だ。

 

「どこの誰だかは知らないが、随分と大層な挨拶をしてくれるじゃないか。クソッタレめ」

「まずは状況を整理しましょう」

 

 そう宥めつつ、レイヴェルは用意したホワイトボードに要点を書き込んでいく。

 

「ヴァーリ様率いるチームが吸血鬼勢力圏のルーマニアを壊滅させた。それにより″禍の団″──より厳密には一誠様が掲げていた、三大勢力への報復という大義名分も意味を成さなくなりましたわ」

「で、襲撃される可能性を恐れる神々が戦争を仕掛けてくるかもしれず、そうなったら″禍の団″はボスを除いて死屍累々。わーお、見事に詰みっすね」

「打つ手は、ある」

 

 数秒の瞑目の後に、一誠は告げた。

 

「その前に幾つか調べたいことがある。ドライグ、ヴァーリと行動を共にしていた黒いドラゴンは誰だ?」

『奴の名は″大罪の暴龍″グレンデル。かつて英雄ベオウルフに討伐された邪龍にして、自分か相手が死ぬまで嬉々として戦い続ける生粋の戦闘狂だ』

「討伐済み、ね。自力で蘇生できるのか?」

『いや、奴は特別な能力を有していない。その代わりに純粋な身体能力と耐久力は邪龍の中でも群を抜いている。肉弾戦に特化したドラゴンだ』

 

 即ち、グレンデルは何者かの力で蘇生されたということである。その者の正体は別にして手段については既に心当たりがあった。

 

「″幽世の聖杯″だろうな」

『ヴァーリ達も殺害された後に蘇生を経て支配下に置かれたんだろうよ。さて、この盤面をどう引っくり返すつもりだ?』

「聖杯所有者を潰す」

 

 所有者も協力しているのか或いは本来の所有者から強奪したのかは不明だが、″幽世の聖杯″が第三勢力の手中にある限り、殺害と蘇生を繰り返すだけで相手の戦力はねずみ算式に増えていく。そうでなくともグレンデルのように強大な戦力を復活させてしまえばそれだけでも一誠達にとって不利だ。所有者を殺害してこれ以上の戦力拡大を防ぐことが最優先の目標となる。

 

「第二はどうなさいますの?」

「次はヴァーリ達だ。″禍の団″の旗を掲げたまま無作為に暴れられても困る。楽にしてやるさ」

「でもよ、あいつらが次にどの勢力を襲うか、俺ちゃんらは知る術がないじゃん? どーやって対処するん?」

「考え方が逆だ、フリード。俺達の仕業に見せかける都合上、あいつらは必ず襲撃を続けなければならないんだ。だったら、ヴァーリが姿を現した場所に俺達も出撃するだけだ」

 

 締め括る一誠だが、あくまで即興で考えた策の為に穴は多い。特に第二の策は、ヴァーリに加えて一誠までも出てくれば他神話勢力への襲撃の可能性に説得力を持たせてしまう。第一の策も所有者の居場所をどうやって割り出すか目処が立っていない。

 

『珍しく後手に回らされているな』

 

 ドライグの言葉は紛れもない本心だ。SSS級はぐれ悪魔に堕ちてからというもの、一誠は三大勢力を相手に幾度も襲撃を仕掛け、常に秘めた計画を成功させてきた。それが今回は窮地に陥っている。三大勢力の不甲斐なさも一因だが、こうまで先手を取られる姿は初めてだ。

 

「そうでもないぞ? 敵も隙を見せているからな。どうやら完全な一枚岩でもなさそうだ」

『……ほう?』

「最大の失敗は、この段階でグレンデルを出撃させた点だな。黒幕は奴を抑えきれなかったんだ」

 

 本当に″禍の団″の仕業に見せかけるならヴァーリ達だけで充分過ぎる程に効果がある。しかし映像の中では既に討伐された筈のグレンデルまで暴れ回っていた。もしくは兵藤一誠が″幽世の聖杯″をも手に入れたと神話勢力に思わせ、彼の危険度を引き上げる作戦かもしれない。

 

「ですが、この緊急発表を一誠様もチェックすることは容易に想像できます」

 

 レイヴェルは、その可能性を否定する。

 

「逆に一誠様へのヒントになりかねません。わざわざそのような下策を取る意味がない」

『そもそもグレンデル討伐は記録にも残されているし神々も知っている。今になって復活したところで違和感しか与えんさ』

「相手にとってはデメリットしかねえってわけだ。まともな奴ならそんなことは指示しねーから、戦闘狂の我が儘に付き合わされたってところかね?」

「完全な支配も素直に恭順させることすらもできなかったんだろうよ。そして根っからの戦闘狂のドラゴンだというのなら」

 

 一誠は、笑みを浮かべる。

 

「満足するまで叩き潰してから情報を吐かせるさ」

 

 それはまるで古の赤龍帝に似て、獰猛なものだった。

 

▼Wild Hunt▼

 

「赤龍帝へのサプライズも成功したし、次はいよいよ三大勢力を襲っちゃおうか!! その役目はグレンデル君に任せるよ!! うひゃひゃひゃひゃ♪」

『グハハハハッ!! オレ様に任せとけ! 赤龍帝と戦う前の準備運動がてら更地にしてやるから!』

「ルーマニアのように、ですか?」

 

 深い深い霧に包まれた古城の最奥で複数の心底楽しそうな声が響く。リゼヴィム、グレンデル、ユーグリット。世界の裏で暗躍を重ねる第三勢力の主要メンバー達だ。その誰もが古の大戦を生き残ったもしくは伝承に名を刻んだ猛者であり、そこらの弱小勢力ならこの三人だけで滅ぼせてしまえるだろう。その内の一人であるユーグリットが、わざとらしく溜め息を吐きながら窓の外を見下ろす。

 窓の外の光景は更地である。かつて鬱蒼と生い茂っていただろう家々の森も、そこで細々と暮らしていただろう吸血鬼達の死体すらも無く、彼の眼下には焼け野原だけが広がっていた。

 

『あん? 別にぶっ殺しても構わねえカス連中だったんだろ?』

 

 グレンデルの問いに、リゼヴィムはワインを煽りながら上機嫌で答える。

 

「そりゃー勿論だとも! スラム街に暮らしていたのは混血や最下級ばかりの、使い捨ての戦力にもならないゴミ吸血鬼ばっかりでさ。強化するのも面倒だから汚物は消毒してもらったぜ~! 吸血鬼のお偉いさんも喜んでたから無問題っしょ? うひゃひゃひゃひゃ♪」

「ゴミは指定区域に集めた方が管理しやすい、と提案したのはリゼヴィム様でしょうに」

「出荷用に幾らか残してやっただけ温情だ。雑談はこのぐらいにして」

 

 リゼヴィムは宙に浮かべた映像術式を片手で器用に切り替えていく。そして操作を終えた直後、三分割された画面に三人の男の顔が映し出された。

 

 熾天使ミカエル。

 堕天使総督アザゼル。

 魔王ファルビウム。

 

「遠慮も捕虜も必要無い。存分に暴れろ」

 

 

「ファルビウム様、緊急通信です!」

 

 慌てて駆け込んできた部下の姿を一瞥するや、ファルビウムは書類作業を即座に打ち切ると真剣な表情で訊ねる。

 

「誰からだい?」

「″神の子を見張る者″総督のアザゼル様です」

「また厄介事でも起きたか」

 

 溜め息を吐く彼の脳裏には兵藤一誠の顔が鮮明に浮かんでいた。一誠と三大勢力連合軍が激突した連合戦争から約一週間が経過した現在も冥界には戦争の傷が今も痛々しく残されており、復興作業も遅々として進んでいない。特に戦場となったシトリー領の美しい自然は見る影もなく、まるで大災害が通り過ぎたかのような荒れ地と化している。

 

 仮に一誠絡みの事件なら、今度こそ三大勢力は滅ぼされる。戦々恐々としながらも通信術式を開いたファルビウムの耳に飛び込んできたのは怒号と悲鳴が混じり合った叫びだった。

 

『──ファルビウム! 無事だったか!?』

「アザゼル……?」

 

 やや遅れる形で聞こえる総督の声音が堕天使勢力の状況を鮮明に語っていた。故に、まどろっこしい質問を省いて単刀直入に訊ねる。

 

「兵藤一誠の襲撃か?」

『分からねえ! 分かりたくもねえ!!』

「なに? どういうことだ?」

 

 半ば確信を得ていたが為に、ファルビウムは思わず驚愕を漏らした。その間も術式の向こう側から響く叫び声の数々が″神の子を見張る者″本部に襲撃があったであろうことを伝えている。一誠が仕掛けてきたと推測するのも当然の流れだが、意外なことにアザゼルは肯定も否定もしなかったのだ。

 

「なら、相手は誰なんだ?」

『漆黒の鱗を持った巨大なドラゴンだ。俺の記憶が正しけりゃ″大罪の暴龍″グレンデルに間違いない。この間の吸血鬼共の発表にもあっただろ?』

「あの胡散臭い動画かい?」

『俺も自国の反乱分子の粛清を隠す為のフェイクニュースだと思ってた。彼の復讐対象はあくまでも三大勢力だ。ルーマニアなんざ襲撃する筈がない。それで連中の茶番を大笑いしてたらこの有り様だ』

 

 ″神の子を見張る者″は壊滅状態だ、とアザゼルは続ける。

 

『つい先程、グレンデル達のせいで本部施設が瓦礫の山、部下達は大半がミンチにされちまった。それに迎撃したアルマロスとバラキエルが、死んだ。俺とシェムハザの二人がかりでようやっと撤退まで追い込んだが今回はあまりにも被害が大きい。組織の再建にどれだけの年月が必要なんだろうな……』

「待ってくれ。あの映像が正しかったのなら、もしや襲撃犯は」

『……ヴァーリは、もう俺の息子じゃない』

 

 しばらくの沈黙の後に術式から溢れた呟きは憎悪に満ち溢れていた。

 

戦友(バラキエル)を殺しやがった仇だ』

「……そうか」

 

 それ以上の言葉を紡げずにファルビウムは押し黙った。しかしその間も高速で思考を巡らせているのは彼がまだ辛うじて悪魔を率いる魔王の座にあるが故だ。

 

 今回の一件は奇妙な点が多い。″神の子を見張る者″襲撃をグレンデル達に指示したのが兵藤一誠だと仮定した場合、その前にわざわざルーマニアまでも強襲した理由が分からない。吸血鬼達を襲う目的があったとして敢えてグレンデルを復活させた理由も不明である。オーフィスだけで過剰戦力なのに兵力補充を狙う意味が無い。

 そして恨みのある悪魔ではなく堕天使を標的に選んだ理由も見えてこない。手間隙かけてグレンデルを甦らせたのだ。冥界に差し向ければ半日足らずで壊滅するというのに、実際に壊滅したのは堕天使だった。

 

 ──おかしい。奴にとって、あまりにもメリットが無さすぎる。

 

 瞑目し、これまでに掴んだ点と点を線で繋いでいくファルビウム。このような場合は物事を逆から考えると真実への糸口が見付けやすいことを彼は充分に理解していた。

 

 ──兵藤一誠は必ず自分の目的が達成されるように策略を練ってきた。逆説的にそれは、目的と無関係な作戦は行わない、とも取れる。当然だね。

 

 ──次に今回の件を整理すると、吸血鬼も堕天使も邪龍も、彼らに拘らずとも復讐はできる。そればかりか今回の一件は明らかな悪手だ。

 

 ──ありとあらゆる部分が復讐に繋がらない。そして兵藤一誠は目的と無関係な作戦を行わない。

 

 ──兵藤一誠()、無関係?

 

『──おい、ファルビウム!? 返事しろ!!』

「……少しばかり僕の仮説を聞いてくれないか?」

『なんだよ、驚かせんな。ずっと黙りこくってたからお前も襲われたのかと思ったぜ。で、その仮説ってのは?』

「これは僕の予想なんだけど、今回の一件の首謀者は恐らく──」

 

 その先を、ファルビウムは続けることができなかった。

 

『オレ様のことは既に知ってるよな、クソッタレの悪魔共! ルーマニアの映像は全世界に流れたもんなあ? だったらオレ様がこの場に現れた理由も悪魔の運命も分かるよな! グハハハハッ!!』

『……我が名はヴァーリ・ルシファー。赤龍帝の名の下に、お前達に裁きを与えよう』

 

 悪意が、冥界の空に姿を現したからだ。

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