『グレンデルめ、随分と派手に遊んでるな』
「よそ見をするとは余裕だな!」
激戦を繰り広げる魔王達と邪龍を横目で眺めつつ、飛んできた弾幕を軽々と防ぐヴァーリ。あちらと同様に、この戦場にもまた明確な力量差が両者の間に横たわっている。ヴァーリは代名詞たる″白龍皇の鎧″を纏わずに純粋な上級悪魔としての力だけでロイガン率いる政府軍を手玉に取っているのだ。交戦の中で既に部隊は壊滅し、ロイガン自身も重傷こそ回避しているものの、疲弊が積み重なっていることは誰の眼にも明らかだ。
「チッ」
忌々しげに舌打ちするロイガン。彼女の視線の先では無傷のヴァーリが余裕そうな笑みを浮かべている。予想外の展開だ。冥界を襲撃してきた彼らの実力を比較して、白龍皇を有しているとはいえ、彼がグレンデルよりも格段に劣るのは確実である。故に手早く片付けた後にディハウザー達の応援に向かう算段だった。その為に″白龍皇の光翼″の性質的に苦手とするだろう対多数の戦闘を強いるべく政府軍の部隊までも動員したのだ。
それが蓋を開けてみれば魔力の束をぶつけられたことで部隊は早々に壊滅し、一騎討ちを挑んだロイガンも苦戦を強いられている。自分の予測が甘かったことに彼女は内心で幾つも苦虫を噛み潰す。
『この程度か、ロイガン・ベルフェゴール。案外にも期待外れだったな』
「調子に乗るなよ!」
両手に魔力を纏わせて突撃し、早期決着を試みるロイガン。その胸には自分の失態で部隊が壊滅してしまったことへの責任感と、テロリスト相手に負けるわけにはいかないというプライドがあった。或いは無自覚にヴァーリを見下していたのかもしれない。偶然にも白龍皇を宿しただけの少年にレーティングゲームのトップランカーにして最上級悪魔たる自分が負ける筈がないのだと。
『……ムカつくんだよ、その眼』
対して、目と鼻の先にロイガンが迫ってもヴァーリは眉一つ動かさない。静かに苛立ちを溢しなつつ背から黒い翼を拡げる。十二の翼は最上級悪魔の証拠。両手に携える黄金の魔力と、翼から放たれる白銀の波動は、神学において魔王と堕天使の両方の側面を有する″
「……綺麗」
降臨した彼の姿を一目見た瞬間にロイガンは動きと思考の全てを急停止させる。彼女だけではなく遠巻きに隙を伺っていた部隊の生き残り達もヴァーリの放つ輝きを見るや即座に臨戦態勢を打ち切った。
これこそがルシファーの名を冠する悪魔──その中でも特に才覚に溢れし者だけが発現する固有能力、″魔王化″である。ヴァーリの姿を視界に入れた悪魔はその瞬間にあらゆる敵対行動を放棄し、自害すらも含んだ命令を嬉々として実行する駒に成り下がってしまう。しかし悪魔以外の相手には効果を発揮せず、元の種族が悪魔以外の転生悪魔や混血悪魔にも効果が薄い。総じて純血悪魔との戦いに特化した凶悪な異能力である。そしてロイガンは名門ベルフェゴール家に名を連ねる純血の最上級悪魔だ。
『──頭が高いぞ。俺を誰と心得ている?』
故に、ヴァーリの支配からはどう足掻いても逃れられない。
▼逃れられぬ者▼
跪くロイガンや政府軍の連中を尻目に、ヴァーリは今後について思案する。自分を送り込んだリゼヴィムからは特に指示を得ていない。グレンデルを連れて適当に暴れるように指示されただけだ。
──奴の本当の狙いは何だ?
本拠地であるルーマニアを焼かせ、″神の子を見張る者″本部を強襲させ、冥界の奇襲を命じたところで、しかしリゼヴィムに利があるとは思えない。一誠に挑むと豪語するのならグレンデルを筆頭に″幽世の聖杯″で甦らせた戦力をそのまま送れば済む話である。しかし今のところヴァーリに与えられた命令は各勢力への襲撃と、旧魔王派の残党など手駒の確保のみに留まっている。
『いや、あのクソッタレのことだ。どうせ暇潰しに過ぎないんだろうな』
あれこれと考えてみたものの、やがてヴァーリは思考を諦めた。精神年齢が幼稚園児のリゼヴィムの考えを見抜こうとしたところで無駄骨だろうし、そもそも今のヴァーリは聖杯を介して彼に支配されている兵隊に過ぎない。この″魔王化″とて聖杯による強化の影響で覚醒したものであり、結局は付け焼き刃だ。まだ能力に慣れておらず行使可能な時間にも限界がある。
『それにリゼヴィムの母親は……ああ憂鬱だ』
「どうなさいましたか? ヴァーリ様」
『気にしないでくれ、ロイガン』
そう言って、ヴァーリは側近のように振る舞うロイガンを見た。つい先程まで戦っていたというのに今の彼女は犬のように従順だ。新たな部下として持ち帰ろうかと彼は思った。敵の扱いについては特に言われておらず、彼女の実力は折り紙付きだ。政府軍の部隊も練度こそ低いが使い捨ての駒にはなるだろう。というよりもロイガンの場合は置き去りにしようものなら恨まれかねない雰囲気である。本人が内に抱える年下を好む性癖も多分に含まれているかもしれないが。
彼女の扱いは後で決めるとして、グレンデルが満足した頃合いを見計らってヴァーリは撤退の合図を送るつもりでいた。
「ここか、祭りの場所は……」
だが、赤龍帝が戦場に降り立ったことにより事態は混迷を極めることとなる。
「──俺も混ぜろよ、
突如として冥界の空に降臨した一誠は″赤龍帝の鎧″越しに軽く周囲を見渡す。その中でも真っ先に視界に映ったのは、やはり襲撃者であるグレンデルとヴァーリだ。即座に臨戦態勢を取る彼らの足下もしくは背後には対峙していただろう悪魔達の姿が見える。
グレンデルと交戦していたファルビウムとディハウザーは一矢報いてみせたものの、その圧倒的な耐久力を前に敗北し、今や二人揃ってボロ雑巾と変わらない姿で地面に転がされている。実力差を考慮すれば妥当な結末だ。それに比べて意味の分からないのがロイガンである。神の真似事をしているヴァーリの傍らに控え、あまつさえ一誠に敵対的な視線を向けているではないか。内通を隠す為の芝居か、と一瞬だけ納得しかけたものの、彼女の立ち居振舞いは演技とは思えない。
そこまで考えを巡らせてから、一誠はその原因であろうヴァーリに訊ねる。
「随分とイメチェンしたな」
『ああ』
ごく自然に会話する一誠の言動を見てヴァーリは、予想通りか、と内心で舌打ちする。やはり転生前の種族が人間の彼には″魔王化″の支配能力も通用しないようだった。或いは内に宿るドライグが歯止めをかけているのかもしれないが、本題はそこではない。
何故、兵藤一誠はこのタイミングで出撃したのか。
グレンデル達が各勢力の襲撃を繰り返している以上、真偽はともあれ疑惑の眼は必ず″禍の団″──その中で最も名が知られている一誠に向けられるのは想像に難しくない。リゼヴィムの目的は恐らく冤罪を擦り付けることなのだろう、とヴァーリはようやっと一連の襲撃の真意を悟った。彼がルーマニアの事実上の支配者に納まり、″禍の団″所属のヴァーリ達を手駒に迎えた今、お膝元や他神話勢力で発生した襲撃事件の全てに関して″禍の団″の仕業だとする旨の公式声明を発表することができる。そうして一誠の危険度を高めることで各神話勢力の不安を煽り、連合戦争のように各勢力合同での討伐作戦を勃発させることがリゼヴィムの狙いだったのだ。
──どうしてこの場に現れた?
だからこそヴァーリは解せない。リゼヴィムの計画など一誠はとうに見抜いている筈なのだ。世界中から疑惑を向けられている状況で襲撃現場に姿を現せば偽りは真実に塗り替えられてしまう。なのにどうして、彼はトレードマークの赤い鎧を纏った上でオーフィスを置いてたった一人で冥界の空に降り立つのか。
──それではまるで、自ら冤罪を受け入れるようなもの……!?
『兵藤一誠、まさか君は!?』
「おい、さっきから
ガチャリ、ガチャリ、と鋼の擦る音が微かに、しかし確かに連続して響く。そして十も数えない間にも一誠はヴァーリの目の前に立っていた。
対峙。
赤龍帝を宿す者と白龍皇を宿した者が歴代が繰り返してきた決闘を今再び再現する。それが意味するところは
赤龍帝ドライグ。
白龍皇アルビオン。
そして、
『グハハハハッ!! やっとこさ来やがったか!! お前の登場をずっと待ちわびてたんだぜ? さあオレ様とお前、どっちが強いか勝負といこうじゃねえか!!』
″大罪の暴龍″グレンデルだ。
歓喜とオーラをばら蒔きながらグレンデルが意気揚々と二人の間に割って入り、そのまま正面から一誠の顔面目掛けて右の鉄拳を振り抜く。有り余る腕力に任せただけの全身全霊のストレートパンチだが、それでも並の相手なら余裕で消し炭にできる威力だ。現に先程も魔王クラスの猛者達を圧倒している。馬鹿げた威力を持つそれを今回は超至近距離、しかも不意打ちで放ったのだ。
″赤龍帝の鎧″に守られているとはいえ、重傷は免れないだろう。
攻撃を仕掛けたグレンデル本人も、それを見守るしかなかったヴァーリもディハウザーもファルビウムもロイガンも、果ては密かにこの事態を監視していたリゼヴィムすらもそう直感した。故に、一誠が容易く豪腕を掴んで見せた瞬間に全員が驚愕に眼を見開く。
『……は?』
有り得ない、と言いたげに呟くグレンデル。瞬く間に最高速度に加速しての全力の一撃だ。仮に相手が全盛期の二天龍だろうと相手取れる自信があったというのに何故こうも簡単に受け止められたのか、彼は理解が追い付かなかった。
対して、一誠は余裕の態度を崩さない。掴んだ手を振りほどこうとグレンデルが躍起になっても体勢を崩すどころか逆にますます手に力を込めていく。相棒を象った赤いフルフェイスの兜の下で彼は宣告する。
「──粛清を開始する」
告げたと同時に、グレンデルの全身が衝撃に襲われる。今の一瞬に何をされたのか彼には分からなかった。ただ、乱高下する視界の中心に佇む一誠が手に何かを持っていることだけは辛うじて理解できた。右肩に走る激痛と妙な軽さから、手に持つそれが自分から引き千切られた腕なのだと悟りながら受け身が間に合わずに地面と衝突する。即座に脚力を駆使して強引に大穴から脱出し、紫の上空を睨み付ける。
『お返しだ』
″幽世の聖杯″から与えられた再生能力で右腕を生やすとそのまま肩から切断して全力で投擲する。鉄壁の耐久力を誇る鱗をびっしりと揃えた即席ミサイルの完成だ。次の攻撃を魔力弾だと予想しているであろう一誠は必ず動揺し、少なからず隙が生じる。グレンデルはその隙を突く算段だった。
しかしそれでも一誠の余裕が崩れることはない。落ち着き払った様子で超高速で飛来するミサイルを一瞥する。特別な対応を行う必要性など無かった。左手を翳したその直後、翡翠の宝玉が凄まじい早さで連続して瞬き、″倍加″完了の合図を掻き鳴らしたのだから。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』
膨れ上がる身体強度と赤黒い魔力を武器に敢えてその場から一歩も動くことなく、身構えることすらもせずに正面衝突──粉砕されたミサイルの肉片と血がパラパラと地に降り注ぐ。
「神如きが、魔王如きが、邪龍如きが。俺の戦いの邪魔をするな」
『おい、ルシファーの小倅。お前は手を出すなよ? 赤龍帝はオレ様がぶっ殺す!!』
「強化を受けなきゃなんにもできない負け犬の分際でピーピー吠えてんじゃねえよ。やれるもんならやってみろ」
クイクイと手で招く仕草は戦闘続行の合図だ。ヴァーリが諌めるよりも早く、挑発に乗るようにしてグレンデルが弾丸となって突っ込んでいく。彼の短所が後先を考えないイカれ具合であるなら長所はやはり邪龍随一と称される身体能力と耐久力だろう。それに″幽世の聖杯″から与えられた高速再生能力を付け足せばこの世界に敵など存在しない筈だった。
ただし、今回は相手が悪過ぎた。″倍加″によりほぼ無限に自己強化を続け、常に相手の全ステータスを上回ることを可能とする
「邪龍如きが。お前とは格が違うんだ。礼儀を学んでから出直しな」
刹那、赤黒いプラズマを纏ったオーラの波動がグレンデルを襲う。蛇の形をした黒い暴風はまるで独立した意思を持つ生物のように丸呑みにせんと迫った。それが彼にとって戦いでも余興でもなく鬱陶しい蝿を叩き落とすのと同じ感覚であるのは言うまでもない。しかし向けられたグレンデルにとっては堪ったものではない。全盛期の二天龍のブレスに匹敵する威力のそれをまともに浴びてしまったのだ。自慢の耐久力や再生能力をフル稼動させ、それでも尚も耐えきれずに上空から墜落していく。
間髪入れずに二発目の波動の蛇が放たれたのは、その直後だ。
視界を覆う純黒の輝きを前に、グレンデルは己の死を直感した。 先の一撃で重傷を負い、墜落時の衝撃で半身が地面にめり込み、受け身さえも満足に取れないこの状態で二発目の直撃を許せば再生も間に合わずに消滅するだろう。有り体にいって詰みに等しい。それでも歓喜に口角を吊り上げるのは、彼が伝承にその名を刻んだ″大罪の暴龍″であるが故だ。
『グハハハハッ!! 上等だ! ぜってーに受け止めてやるよ!! そんでもってお前をぶち殺してやるから覚悟しとけや!!』
「遺言はそれでいいか?」
そうして、グレンデルはその全身を波動の波に呑み込まれた。
否、呑み込まれかけたのだった。
▼
「兵藤一誠、どういうつもりだ?」
本部に帰還した一誠を出迎えたのは鼻先に突きつけられた聖槍の切っ先と、瞳に怒気を孕んだ英雄派の面々及びソフィアだった。
「随分と手荒だな。″禍の団″を裏切った連中を粛清しに出向いた働き者だぜ、俺は? にっこり笑って戦いの疲れを労って欲しいな。最後に乱入してきたラードゥンのせいで取り逃がしちまったけどよ」
「はぐらかすな。俺達はその件について訊ねているんだ」
切っ先を向けたまま、曹操はソフィアが手元に作り出した映像術式を指す。画面には冥界のニュース速報が流れており、額に汗を浮かべるキャスターらしきスーツ姿の男がゲストや視聴者にも理解できるように今回の襲撃事件の解説を行っている途中だった。
キャスター曰く、
──兵藤一誠は、″禍の団″所属の諸派閥を傘下に収めたと宣言した。
──事実上、組織の現首魁は兵藤一誠である。
──今回の一連の襲撃事件は、それに反発したヴァーリとグレンデルの両者に対する粛清である。
「随分と奇妙な話だと思わないか? いつから俺達が君の傘下に降ったんだ?」
「魔法使い派のリーダーとして私は一誠さんの今回の声明を認めるわけにはいきません。それに他の派閥の方々からも困惑や反発の声が相次いでいます。釈明はありますか?」
″禍の団″を構成する各派閥は各々の目的を掲げて活動しており、決して一枚岩ではない。それは曹操率いる英雄派やソフィアの魔法使い派とて同じことだ。しかし一誠は組織を掌握したと喧伝した。これでは彼らの目的や願いを切り捨てたに等しく、故に二人は珍しく怒りを露にしているのだ。
そして心配なのは一誠の今後についてである。内部事情はさておき、″禍の団″の掌握を対外的に喧伝したのは紛れもない事実だ。三大勢力や各神話勢力からの警戒が跳ね上がることは想像に難しくない。あのような演説を去り際に行った今となっては尚更に。
──俺は、″禍の団″に属する全派閥を配下に収めた。そして新たに″幽世の聖杯″所有者も俺の協力者となった。これが何を意味しているかは、賢明なる諸君なら分かるだろう?
──つまり、俺達は古の時代に討伐された邪神や邪龍を
──赤龍帝の名において、俺はもう止まらない。
横槍を入れたラードゥンによってグレンデルとヴァーリが回収され戦いが終わった筈の首都リリスの上空で、一誠は高らかに復讐を宣言した。三大勢力だけでなく監視しているだろう黒幕や一部始終を眺めていた世界そのものに向かって告げたのだ。
今はまだ、世界に動きは見られない。
変革の予兆は見当たらない。
「
ただし、各神話勢力──特に秘密裏に″禍の団″の支援を行っていた四神話の内心は穏やかではない。これまで彼らが不干渉を貫いていたのは被害者が恨み連なる三大勢力であり加害者が復讐を誓う兵藤一誠だったからだ。対岸の火事と楽観視していたからこそ世界はアクションの欠片すら見せなかった。しかし今回の演説で一誠は言外に各勢力についても言及した。具体的に名指ししたわけではないものの、各勢力のトップは肝を潰したことだろう。そして疑心暗鬼の末に恐らくは皆が同じ結論に辿り着く筈である。
兵藤一誠は力に呑まれ、暴走を始めている──。
「こうなったが最後、回り出した疑惑の歯車は止められないさ。首魁の俺を討伐しようと世界中が躍起になるだろうぜ。ま、グレンデル達が″禍の団″を騙って襲撃事件を起こした以上、どう弁解しても俺の指示ってことにされちまうだろうけどな」
だからこそ好都合なのだ。
世界中の視線が一誠のみに注がれているこの状況こそ、彼が願っていた世界なのだから。
「お前ら、組織を離脱するなら今の内だぞ。英雄派はまだ表立って活動していないから無関係を押し通せるし魔法使い派も……会談襲撃の共犯として顔の割れているソフィアは別として、他の連中は人間界の片隅でひっそり余生を過ごすことぐらいはできるかもしれない」
「……まさか、君は」
曹操の言葉に一誠は言葉を返さないまま、自室の方向を寂しげに見つめた。
「もうテロ組織の首魁じゃない。もう世界に追われることもない。だから」
──あの親子は静かに暮らしていけるだろう。
それが、彼の考えた計画の終着点だ。
「そんな……!?」
「待て、考え直せ!! お前がいなくなったら彼女は絶対に悲しむぞ!!」
悲痛そうに口許を抑えるソフィアを他所に、説得を試みる曹操。しかし一誠は彼女の手元に今も映し出されたままの映像術式を指して、笑う。
「もう手遅れみたいだぜ?」
映像には、速報の字幕と共に炎上し煙が上がる冥界の各都市が映されていた。
『臨時ニュースをお伝えします。つい先程、冥界各地で原因不明の大規模な爆発が発生し──』