はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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月下迅龍

 聖と魔の融合。

 目の前で起きたイレギュラーを、コカビエルは欠伸をしながら見ていた。どうやら金髪の少年は″禁手″に至ったようだ。

 この時代だから誕生したのか、とコカビエルは頭の隅で考えた。とはいえ、彼にとっては些細なことだ。

 

 現段階での敵は、駒王学園を根城にするリアス・グレモリー及びその眷属。リアスの婿であるライザー・フェニックス。教会から派遣された戦士ゼノヴィア。各々が滅びの魔力や不死、それにデュランダルという厄介極まりない特性或いは聖剣を所有している。

 そこにリアスの″騎士″である木場祐斗が至って見せた″双覇の聖魔剣″、同じく″僧侶″のアーシア・アルジェントが所有する″聖母の微笑″、更にリアスと共に駒王町を任されているソーナ・シトリーの存在も考慮すれば中々に強力なチームになる。

 

 並の堕天使なら圧倒、組織幹部にして上級堕天使たる自分でも侮れば痛い目を見るだろうとコカビエルは冷静に分析した。数々の修羅場を潜り抜けてきた彼は決して慢心や油断をしない。先だってケルベロスや元教会戦士のフリード・セルゼンをけしかけたが、それも敵の力を測る為だ。

 ケルベロスは消滅し、フリードは木場に敗北し気絶しているがそれも構わない。そもそも彼らは捨て駒に過ぎず、使えないとなれば捨てるしかないのだから。

 その意味では、エクスカリバーの統合を目論んでいたバルパー・ガリレイと馬が合った。故に仲間に引き込んだのだが、そのバルパーすらもコカビエルは殺害した。彼にとっては当然の話だった。

 

「コカビエル! あなたの企みもそこまでよ!」

「……ふん」

 

 コカビエルは、兄と同じ紅髪の少女を忌々しく感じた。何故なら、古の三大勢力戦争においてコカビエルはサーゼクスに敗北しているからだ。その際は何とか逃げおおせたが代償として部下は全滅した。自分を逃がして死んだのだ。

 彼が戦争続行を願ったのは部下の敵討ちでもあった。柄ではないとコカビエルは決して認めなかったが、その一方で幾千幾万もの年月が経過した今でもその悔しさが胸中に残っているのも事実だ。

 

 必然的に、矛先はリアスに向けられた。

 

「……やるじゃないか、グレモリー。それにフェニックス。サーゼクスが来るまでの余興にはなるだろうな」

「コカビエル……! 聖書に名前を刻んだ男なら相手として不足は無いわ!」

「戦争を経験していないガキ共が! 俺にとっては不足なんだよ!」

 

 彼の苛立ちを示すかのように、彼女達を喰らわんと校庭に暴風が吹き荒れる。十枚の黒翼で生み出された暴風は容赦なくリアス達を襲い、砂混じりの風が皆の顔に直撃した。

 そして怯んだ隙に、コカビエルはライザーに急接近したのだ。

 

「なんだ、見えなかった!?」

「──まずはお前からだ、フェニックス」

 

 骨の軋む音が響いた。目視不可能の速度で叩き込まれた蹴りは、不死を持つライザーにもダメージを与えるには充分過ぎた。錐揉み回転しながら吹き飛んでいくライザー。

 咄嗟に炎を拡げ体勢を整えたが、様子を確認しようと開けた視界を空かさず放たれた第二撃が覆う。

 

 速度に比例して破壊力は上昇する。それが音速であればどうなるかは地面にライザーが転がっている時点で分かるだろう。再生能力に命を救われたが心は折れたかもしれない。しかし、それは自業自得だ。上層部からの評価を得るべく強引に参加しておきながら悔いても遅いだろう。

 そんな彼の無様な姿に、コカビエルはもうライザーに興味を示すことはなかった。フェニックスの名を冠するというから期待していればこの程度か、と落胆の色を隠せなかった。

 

 ゆっくりとコカビエルはグラウンドを見渡した。

 歴戦の猛者である彼から見て、リアス達はあまりにも弱い。

 

「エクスカリバー統合時に描いた崩壊魔法陣を解除するには俺を倒すしかないというのに……弱い、弱すぎるぞ! 余りにつまらんなあ!」

「く……ッ! 勝てなくても、私達は生きて再びこの学園に通うのよ!」

 

 返答として魔力弾と雷が飛んでくるが、大したダメージはない。ここまで実力差があると怒りを通り越して呆れが出てくるというものだ。

 

 ──つまらんな。そろそろ殺すか。

 

 コカビエルが右手を翳そうとしたその直前、第六感が反応した。脳裏で鈴を鳴らして警告してくる。

 

 戦場で何度も命を救われた直感である。長年の経験から、コカビエルは咄嗟に背後に光の槍を投げた。槍越しに視線を移せば、木場とゼノヴィアが顔を悔しさに滲ませながら必死で槍を受け止めている。つまり魔力弾はカモフラージュであり、本命は背後からの奇襲だったらしい。

 だが通用しない。コカビエル相手にそんな作戦が通用する筈がない。

 奇襲もまた立派な作戦であることは認めよう。しかし真の強者はそんな事をしない。正面から正々堂々と殴り合うだけで、強者は力と存在を誇示してきたのだ。小手先の技術で勝てる相手ではない。

 

「おいおい、侮られたものだ。その程度の作戦が成功すると本気で思っていたのか……?」

 

 重圧が増した。ズズズズ、と全てを飲み込むであろう力が放たれる。その途端にリアス達は蛇に睨まれた蛙となってしまった。

 と、コカビエルは不意に笑みを浮かべた。可笑しなものを見つけたかのように。

 

「……それにしても、お前らは親玉を失ってもよく戦えるものだ」

「それはどういうことよ!」

 

 怒号を浴びせるリアス。その声に、彼はより笑みを深めながら口を開いた。

 

「──かつての三大勢力戦争において、四大魔王のみならず神も死んでいるのさ」

 

 最重要機密、神の不在。

 

 決して外部に漏らされることのなかった情報をリアス、ゼノヴィア、そしてようやく起き上がったライザーはしっかりと聞いた。

 決して有り得ない話ではなかった。証拠ならそこにあるのだから。

 

「そこの金髪が至った聖魔剣。あれは神と魔王の死により世界のバランスが崩れたからこそ実現する代物だ。これ以上の証拠はあるまい」

 

 コカビエルの明かした真実に、熱心な信徒であったアーシアは崩れ落ちた。小猫が必死に落ち着かせようとしているが、しばらくは立ち直れないだろう。それを見たコカビエルは更に捲し立てていく。

 

「人間の信仰心や対価に依存しなければ滅んでしまうほどに疲弊した三大勢力。各勢力のトップは不都合な真実を隠蔽することに決定した。故にもう大規模な戦争は起きない。それだけ俺達は泣きを見た。あのまま戦争を続行すれば堕天使が勝利したというのに!!」

 

 やり場の無い怒りを放出させたような必至の形相。そこから語られた真相は純粋なアーシアの心を抉るには足りた。アーシアは涙を流しながら、その場に踞った。

 

「神は、死んでいる……? では、私達に与えられる主の愛は……?」

「聖書の神が残したシステムを使えば、祝福も悪魔祓いもある程度は作動する。とはいえ、加護を受けられる者は格段に減少してしまったがな。その聖魔剣を創り出せたのも神と魔王の不在によりバランスが崩れているからだ」

 

 ──全ては、天使共が与えた偽りの愛だ。

 

 残酷すぎる現実に彼女の精神は耐えられなかった。全ての制御がシャットダウンされ、アーシアはスローモーションのように崩れ落ちた。

 

「戦争だ! お前達の首を土産に、先ずはサーゼクスに宣戦布告してやる! そしてミカエルにも──」

 

 全ての翼を解放し、自信満々に叫ぶコカビエル。だがそれはガラスが壊れるような音に遮られた。

 ソーナが町を守らんと学園に展開していた結界術式は呆気なく壊され、そうして降り注ぐ結界の破片を纏う第三者の声が凛と響く。

 

「くだらない」

 

 声の主は純白の鎧を纏うヴァーリだった。

 

▼月下迅龍▼

 

 月を背に浮かぶ彼には一種の美しさがあった。途端にコカビエルは狂喜の笑みを消し去った。

 

 どうしてヴァーリが現れたのか。

 アザゼルの差し金なのか。

 

 警戒を強めながらコカビエルは訊ねる。

 

「あいつの命令で来たか。しかし邪魔立ては──」

「どこを見ている。俺は後ろだ」

 

 背後からの声。そして一撃。

 完全に無防備なところを突かれたコカビエルは僅か一秒そこらで地にねじ込まれた。慌てて翼を展開するが、もうかつての余裕は無い。

 

「おのれ、小癪な真似を……!」

「あんたが俺のスピードを捉えられなかっただけの話だ。さてと、俺の″白龍皇の光翼″の能力は既に知っているだろう?」

「確か、触れた者の力を半減……ッ!?」

 

 言い切るよりも早く、死刑宣告に等しい白龍皇の声が響く。

 

『──Divide』

 

 機械的な音声。次いでコカビエルは高所から猛スピードで落下していく感覚を味わった。思うように身体が動かない。

 それこそが″白龍皇の光翼″の真骨頂。触れた者の力を十秒毎に半減し持ち主の糧にするという凄まじい能力だ。しかし相手に触れなければ発動できないため、一騎討ちでこそ真価を発揮する能力である。

 

 つまり今現在この戦場において、ヴァーリは無敵ということだ。

 

『DivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!!!!!!』

 

 繰り返される音声。弱者に成り下がるコカビエルに反比例して、ヴァーリは魔王クラスにも力を上げていた。もうコカビエルの力は中級堕天使以下であり、彼の敗北は必至。ヴァーリは苦笑しつつ、侮蔑の眼差しを向けた。

 

「あんたを無理矢理にでも連れて帰るようアザゼルに言われたんだ。さっさと終わらせて……彼ともう一度戦いたい」

「畜生!! こんなところで、この俺がっ!! アザゼルゥゥゥゥゥッ!!! お、俺は──」

 

 ヴァーリがコカビエルの顔面を力の限り殴った。抵抗も叶わずに彼は気絶し、それによりグラウンドに描かれていた術式も消滅した。

 

 気絶したコカビエルの首根っこを掴みながら、ヴァーリは溜め息を吐いた。顔面が腫れ上がり見るも無惨な姿になってしまった彼を今から本部まで連れ帰らなければならない。そう思うと気が滅入る。

 

「フリードも回収しなければ。コカビエル同様に聞き出さなければならないことがあると言っていたしな」

 

 いそいそとフリードを探すヴァーリに、リアスが怒鳴った。

 

「待ちなさい! あなたは何者なの!!」

 

 この結末に納得できないという目を向けられたヴァーリは苛つく。本部に帰って面倒な書類を山ほど書かされてやっと自由時間が手に入るというのに、小娘にそれを奪われてたまるものか。

 ヴァーリはリアスに目もくれなかった。ただ、帰り際に一言告げた。

 

「俺のことより、赤龍帝を気にしたらどうだ?」

「……ッ!!」

 

 リアスは目を見開いて言い返そうとした。しかしヴァーリは既に夜空に軌跡を描いた後だった。

 こうしてコカビエルが引き起こした一夜の抗争は白龍皇の乱入によって終わりを迎えた。

 

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