駒王町は実に奇妙な町だ、とは裏側に通じる者達の共通認識である。歴史を振り返っても特に神仏や魑魅魍魎と深い関わりがあったわけではなく、勢力間抗争における重要地点を担うわけでもない。駅前の再開発に従って著しい発展を遂げた地方都市群の一つに過ぎず、強いて挙げるなら悪魔勢力が若手悪魔を領主として派遣し、将来の領地経営に備えた研修や逃走したはぐれ悪魔討伐の拠点に用いる場でしかなかった。事実、貴族達の中では個人的な別荘地として人間界に幾つもの土地を保有するのがある種のステータスとされている。
つまり彼らからすれば人間界の地方都市は数ある縄張りの一つに過ぎないのだが駒王町だけは別だった。どういう理屈か、歴史を語る上で欠かせない出来事や非常事態に多く巻き込まれるのだ。
「初代領主と前上層部のドタバタは詳しく知らねーけどさ? それを抜きにしても最近はマジで物騒なことが起きまくってんすわ」
この町呪われてんだろ、とわざとらしい苦い表情でフリードは語り始める。彼以上に駒王町で巻き起こった一連の事件を証言する適役は少ないだろう。ちなみに、フリード以上に証言台に相応しいであろう一誠はといえば、泣き疲れたのか妻のおっぱいに顔を埋めてすやすやと自室で眠っている。何も言わずに抜け出してきたのは過労で今にも倒れそうだったロリコン上司を心配してのフリードなりの優しさであり、決して授乳プレイを強いる上司に愛想を尽かしたのではない。
青少年保護育成条例に真っ向から喧嘩を売った一誠の未来はさておき、
それは、兵藤一誠との出会いでもある。
「当時の俺ちゃんってば″神の子を見張る者″所属の世界を股に掛けて活躍する完璧で究極のはぐれ悪魔祓いでさ。社会に縛られずに生きてやるなんて宣言して世界を相手にドッタンバッタン大暴れしてたんすわ! 七つのボールを集めたり人理修復の旅に出たり手に汗を握る冒険活劇の連続の日々を生き抜いてきたってばよ!」
自慢気に武勇伝を並べるフリードだが信じてはいけない。彼のそれは約八割が嘘だ。実際は社畜にありがちな悲しい台所事情を補うべく強盗紛いの活動を繰り返してきただけである。事前調査した家の住人が堕天使と敵対関係にある悪魔と契約していると知るや敵戦力の排除にかこつけて押し入り、金目の物と住人の命を嬉々として奪う姿は正真正銘の悪党だ。その所業には不法侵入常習犯のRPGの勇者も、「そこまで俺はやってない」と顔を真っ赤にして白旗と聖剣を振るうだろう。
そんな下水を煮詰めたような性格をしたフリードなのだから、レイナーレから協力を要請された計画も真面目に遂行するつもりは一欠片たりともなく、駒王町の住人達や彼女自身の貯金を拝借することしか頭になかった。
一誠と出会ったのは護衛対象であるアーシアを連れて適当な民家に押し入るという博打に打って出たある日の夜のことだった。
「……あなたって、本当に最低の屑ね」
「信じて送り出した彼氏いない歴=年齢領主が侵入してきた不審者にボロ負けしてアへ顔ピース敗北報告を送ってくるなんて……」
「殺すぞ」
「ごめんちゃい♡」
第一印象も後味も悪過ぎるファーストコンタクトは痛み分けに終わり、二度目の戦いも戦況の不利を悟って決着がつかないまま撤退を選んだ。レイナーレを見捨てて与えられた活動資金と金庫の中身だけ強奪して逃げ出したのだが、「そういえば彼女は今も元気でやってるかな」と思い出す程度には己の無責任な行動に対して後悔の念を抱いている。レイナーレの末路は既に把握済みだ。
こうしてカモを失ったフリードはボテ腹と化した財布を駆使して自由気ままに潜伏生活を送っていたのだが、そんな彼に次なる任務が飛び込んできた。
エクスカリバーを利用した宣戦布告。コカビエル直々の打診をフリードはその溢れる好奇心から即座に了承した。エクスカリバーといえばアーサー王伝説に登場する伝説の聖剣であり剣士を名乗る者なら誰もが一度は握ってみたいと思う名剣だ。かつての三つ巴の戦争で破壊され、その欠片が固有能力を持つ七本に分裂増殖している胡散臭い代物なのだが、それはそれとして伝説に触れるまたとない機会なのも事実である。決して提示された高額の報酬に屈服したのではない。
「ま、その話はロリコン上司と無関係だから置いとくでガンス。コカビーが苦労して集めたのに新登場新設定の聖魔剣に粉砕された話も空気の読める俺ちゃんは次元のザマスにフンガーするでゲス」
「ちょっと、そこまで語っておいて省略するなんて手抜きじゃない?」
「急に下ネタを使うなよ。彼氏いない歴=年齢に見え……ごめんちゃい♡」
「よろしい。でもこうして改めて振り返ってみると本当に様々な事件が発生しているのね」
「その原因って殆どが三大勢力だけどな」
「ごめんなさい」
「よろしい」
フリードはニヤニヤしながら頷き、引き続き駒王町で起こった出来事について語る。とはいえ、エクスカリバー事件の後に起こった出来事といえば駒王学園で開催された和平会談とその結果として締結された駒王同盟ぐらいだ。
長く争ってきた三大勢力の和平。
歴史的な観点から見れば快挙なのだが、この同盟も各勢力が代替わりしつつある現在は白紙寸前に等しい。勢力再建に奮闘する悪魔達はともかく、グレンデルの襲来により機能不全に陥った堕天使や不自然な沈黙を貫く天使に同盟をそのまま維持するつもりがあるかどうかは怪しい。それどころか支持率低下や和平に不満を募らせる下部組織へのパフォーマンスとして戦争再開を選びかねない。
第二次大戦の勃発。
今度は聖書の中だけでは終わらない、文字通り世界を揺るがしかねない悪夢はギリギリの綱渡りの上で辛うじて回避を続けている。
「あいつらには共通の敵が存在するからだ」
名前こそ出さなかったものの、フリードの言葉を聞いていた者達はその正体を直感した。
「確かに本人は悪魔を標的にしてるけどな、ありとあらゆる冤罪を抱えてる今じゃ誰も信じちゃくれねえよ。ちゅーか本人が全勢力に宣戦布告しちまってるからな」
冤罪の真実を知らない神話勢力からすれば本当に力に飲み込まれた末に暴走を開始したようにしか思えない。名だたる神仏でさえ戦々恐々と過ごしているのだから連合戦争で多くの将兵を喪失した三大勢力の不安は他神話の比ではないだろう。
仮にこの状況下で同盟を破棄しようものなら必ず赤龍帝はその隙を突いてくる──。
戦場で彼の恐怖を刻まれた彼らだからこそ、三つ巴の戦争を再び起こした後に自分達が辿るであろう末路も理解していた。続いているように思える平和は破滅を恐れての仮初めに過ぎない。
「逆に言えば、彼が死んだ途端に世界は戦争を選択する筈だ。あんたにも戦場行きの赤い切符が届くだろうぜ?」
「……」
「あんたは大将に泣いて感謝すべきだ。こうやってぬくぬくと領主ごっこをやってられんのも兵藤一誠が全世界の敵としてアンチ・ヘイトを集めているからだ……なんちゃって!」
最後こそ冗談めかして締め括ったものの、この町が奇妙であることは間違っていない。そのもう一つの証拠が駒王町の歴代領主を襲った悲劇だ。
──クレーリア・ベリアル。初代領主を務めた彼女は偶然にも″王の駒″の実在を知ってしまい、スキャンダルの発覚を恐れた前上層部の手によって眷属や恋人もろとも暗殺された。
──リアス・グレモリー。前領主だった彼女は元眷属の兵藤一誠が離反した責任を押し付けられ、没落寸前のグレモリー家と共に今や冥界中から後ろ指を指される日々を過ごしている。
駒王町の領主を務めた悪魔は悲惨な末路を辿る、とは冥界の貴族達の間でまことしやかに囁かれるジンクスだが、ところで今代の領主は名前を何と言っただろう?
「……」
彼の隣で顔を蒼白にしている金髪少女の名はシーグヴァイラ・アガレスという。悲しいことに駒王町の新領主と同姓同名同一人物だ。
「……お得意の冗談よね? ね? 早く嘘だと言いなさいよフリード」
「初代様に比べて無能姫は死んでないだけマシになってるし、三代目はもっとマシになるんじゃね? 知らんけど」
励ましにも癒しにもならないエールに、「死ぬ前に彼氏が欲しかったな」とシーグヴァイラは遂にポロポロと涙を浮かべた。
「さーて、長々と付き合わせて悪かったっすね」
そんな彼氏いない歴=年齢の領主を尻目に、フリードは真剣な表情で目の前の男に視線を移す。八重垣正臣と名乗った悪魔祓いの制服を着た男は特に気にした様子を見せず、逆に生気の抜けた目を細めた。かつての恋人の名を覚えている者と出会えたことが嬉しかったのだ。
「質問、いいかな?」
周囲を見渡しながら、八重垣は訊ねた。
「どうして潜伏場所が分かった?」
彼が不思議に思うのは当然だ。何故なら、彼らが立っているこの場所は町外れに佇む廃教会の地下室なのだから。
金を持っているのならホテルを転々とすればいいし、持っていないのなら住人を天誅するなりして空き物件にしてしまえば片付く。後者はフリードの持論だが。しかし普通は確信でも持たなければ地下室の存在にも気付かない筈なのだ。
そう、確信を持たなければ。
「そこら辺を歩いてた三代目領主を拉致して頼んで町中のホテルに確認してもらったが、それらしい宿泊客はいなかった。行方不明者の情報も無いとなれば後は消去法だ」
「だとしても、この部屋の存在は事前に知っていなければ思い付かな──そうか、君も」
「ピンポーン。この教会は俺の元上司が拠点に使っていた場所でな。ちゅーか俺も潜伏用に使ってた時期もあるし。だから割と綺麗だったろ? ちゃんと掃除してから出ていったんだぜ?」
「成程、合点がいったよ」
八重垣は肩を竦めた。潜伏場所が彼らにバレているということは討伐部隊も現れるだろう。相応の剣の腕前や″幽世の聖杯″で身体能力を強化されているとはいえ、大勢の悪魔達を相手に抗えるつもりはない。そしてフリードの今の所属先を考えれば一誠も姿を現す筈である。悪魔嫌いで有名な赤龍帝が討伐部隊と鉢合わせするというような幸運を期待したところで、その次に殺されるのは八重垣だ。
だが、彼の予想に反してフリードは頭を横に振った。
「大将は来ねえよ。この場所を知ってるのは俺と彼氏いない領主だけだ」
「そうか、君と彼氏いない領主だけか。僕も侮られたものだね」
「側近の俺で充分って意味ぐらい気付けよ、先輩」
「……地下室を汚したくない。上の礼拝堂で決着をつけようか、後輩くん」
また一つ、駒王町にて継がれた宿命が動き出す。
▼
「この懐かしい教会で、あのフリード・セルゼンと剣を交わす日が来ようとはね」
「俺のことを知ってんのかい。俺も有名になったもんでござんすね」
「かつての神童を知らないわけがないよ」
今にも朽ち果てようとしている廃教会の礼拝堂で悪魔祓いのコートを纏う二人が対峙する。神への礼拝の為に作られた神聖な場所で殺し合いをしようとは、これ程の侮辱は他に無いだろう。それこそ教会関係者の人間や天使達がこの光景を見たなら卒倒するかもしれない。しかしとうの昔に教会より堕ちた異端者達にとってはどうでもいいことだ。
前者は強盗殺人の常習犯であり、犠牲者達の数を数えれば他人の両手両足の指を借りても足りやしない。一誠配下の今では自重しているものの、殺人現場が日常風景だった男が今更そんなことを気にする筈もなかった。「親の顔を見てみたいね」とは本人の弁であるが孤児のフリードにとっての親とは教会傘下の戦士要請機関である。かつての神童がどうして殺人鬼にまで落ちぶれてしまったのか本人は頑なに語らない。
そんな文字通りの異端者なのだから悪い意味で有名なのは当然なのだが、実はそれを指摘した八重垣にも同じことが当て嵌まる。この男も裏側に属する事情通の間では有名なのだから。
「俺も先輩のこと知ってるぜ? 悪魔と恋仲になったっていう異端の教会戦士だろ?」
フリードの言葉に八重垣は口許を歪めた。彩りの欠けた眼差しには果てしない憎悪が宿っている。
「僕とクレーリアの件が後輩達にどう映っているのかは知らないけどね。契約なんかじゃない、僕らの愛は本物なんだ。けれど……連中は僕らを認めなかった」
「先輩が恋人さんの眷属になるなり、愛してるなら相応の方法があったんじゃねーの?」
「その予定だったさ。僕の死を偽装し痕跡を消した上で僕はクレーリアの生涯の″騎士″になる。そういう約束を交わしていたんだ。けど、あの日──」
今でも、あの光景は脳裏に強くこびりついて離れない。
クレーリアは、彼の目の前で嬲り殺しにされた。
悪魔の討伐部隊の手によって。
▼
事の発端は十年前、あるはぐれ悪魔の討伐任務を任された八重垣がクレーリアの治める駒王町に侵入してしまった日にまで遡る。当時の三大勢力は一時的な休戦こそ結んでいたが各地で小競り合いが頻発しており和平には程遠い状態だった。そんな状況で悪魔祓いが悪魔の領地に不法侵入してしまったとなれば事情を知った上役は嬉々として暗躍することだろう。その事態を回避するには早急にはぐれ悪魔を討伐し帰還する必要があった。
問題が生じたとするなら、討伐対象のはぐれ悪魔が彼の予想以上の実力を備えていた点である。
「事前調査の段階ではB級下位の扱いだった。特筆すべき能力も持たない。だから手の空いていた僕が単独で出向いたんだけど……恥ずかしい話、コテンパンにされちゃってね」
「おいおい、先輩も昔は天才少年だなんだって持て囃されてたらしいじゃん。そんな先輩を返り討ちにするって普通にヤバくない?」
「神器を隠していたんだよ。そいつは元人間だったのさ。元、だけどね」
不利な条件もしくは強制的に悪魔に転生させられる人間は後を絶たず、どうやらそのはぐれ悪魔もそういった被害者の一人だったらしい。八重垣と対峙した際には人の形も心も失っていたが。それはさておき、はぐれ悪魔は再び駒王町の暗闇に姿を消し、後には瀕死の重傷を負った八重垣だけが残された。
──こんなところで死にたくない。
──せめて、奴だけは殺さなければ民間人に被害が出てしまう。
──生きたい。
そうして息も絶え絶えに生を掴もうと足掻く八重垣の手を掴んだのが魔力反応を察知して駆け付けたクレーリアだった。
「敵対関係にある悪魔が目の前に現れたんだ。死にかけの僕を始末するんだと僕は覚悟した。だから僕はクレーリアに願ったよ。せめてはぐれ悪魔を殺させてくれとね」
彼にとって幸運だったのは、クレーリアが聡明な悪魔であったことだ。直前までの魔力反応や戦闘の痕跡、八重垣が発したはぐれ悪魔というワードから事態を察した彼女は事情を知っているだろう八重垣の回復を急いだ。駒王町を守る為にはぐれ悪魔の討伐を優先したのだ。そして眷属と使い魔に捜索活動を行わせると同時に目覚めた八重垣から事情を聞き出し、彼女は一つの結論に至る。
敵対関係にある悪魔祓いとの協力──。
呉越同舟。自分達と相手の戦力差を分析して迅速且つ確実な討伐を思案した結果だ。眷属や八重垣本人からも反対されたが領民の安全優先を盾に黙らせた。
ちなみに余談ではあるが、この判断は彼女の唯一にして最大の過ちだった。自分達の身に余ると判断したなら上役に応援を要請するなりディハウザーを頼れば事足り、敵対関係にある教会関係者との協力を強引に押し通す必要は無かったのだ。とはいえ、若さ故の視野の狭さや判断ミスは付き物であるし就任直後だけに自分の力だけで解決しようと意気込むのも仕方ないことではある。
それはそれとして紆余曲折の末に手を結んだ彼らは激戦の末にはぐれ悪魔討伐を果たし、戦場の吊り橋効果もあって距離を縮めた八重垣とクレーリアは愛を育み、
「あー、もういいっすわ。先輩の話は」
周囲に猛反対された挙げ句に冥界の前上層部に暗殺されてしまうのだが、フリードはうんざりしたように回想を断ち切った。
「少しは面白くなんのかと思って聞いてたが、ペラペラと地の文の無駄遣いするだけでちっとも面白くねえ。この小説、一話単位の平均文字数が約5000ぐらいしかないんだから急がなくちゃ」
「いや、普通そこで打ち切る!? せめて最後まで聞かない!? あとメタがしつこい!」
「シーグヴァイラは黙ってろって。要するに二人揃って異種族婚の難しさを理解してなかったってだけの話だろ。それを棚に上げてピーチク喚いてるからバカップルの称号を返上できないんだよ」
人間の国際結婚を例に挙げても、互いの価値観や文化の違いに困惑する場合がある。同種族間でさえそうなのだから種族が丸ごと違えば結婚へのハードルが更に引き上げられることは想像に難しくない筈だ。ましてや八重垣の属する教会とクレーリアの出身である悪魔は長年の敵対関係にあり眷属から反対されるのも当然だ。その困難を乗り越えるのであれば身分含む全てを捨てて誰も知らない地で細々と暮らしていくしか方法は無い。しかも両陣営からの追手から逃れながら。
話を聞いただけのフリードでさえ思い付くような手段を取らずに、教会を辞めて眷属にすれば解決すると考えた時点で二人の覚悟は中途半端だ。
「御託はいいからとっとと来いよ、先輩。どうせ反論できなくなったら後は暴力しかねえんだからさ。その方が分かりやすいだろ?」
「……その話を呑もう。どうやら遠慮なく君を殺せそうだからね」
▼むかし愛が死んだ街▼
幾度かの鍔迫り合いの末に剣もろとも弾き飛ばされたのは迎撃したフリードの方だ。大型トラックに跳ねられたかのように弧を描きながら壁に吸い込まれていき、しかし激突の直前でクルリと身を翻して衝撃を殺しながら大きく距離を取る。十年の歳月を経ても衰えていない剣技に感心しつつ、後方で待機していたシーグヴァイラに向けて合図を送った。直後、両手に生み出したバレーボールサイズの魔力球を放つシーグヴァイラ。
魔力球は猛スピードで八重垣を強襲するも手にした剣の一閃により中心から真っ二つに切り裂かれ、両断と同時に墜ちていく魔力球の隙間をすり抜けるようにしながら、今度は八重垣が剣を振りかざした。
悪魔と戦う教会戦士に与えられる、悪魔を確実に抹殺する為の光の剣。目映い輝きで形作られた刀身が一瞬にしてシーグヴァイラの視界を覆う。
「──させねえよ、ボケが」
首を狙った一撃は、同じ光の刀身によって受け止められた。
「なんだい、僕らのことを散々貶した割には自分もバカップルじゃないか!」
「寝てる間にオツムも眼球も腐っちまったか! こんなのと付き合うとか俺に失礼だろうが!」
「ぶち殺すぞ」
「お前も脳ミソ腐ってんのか!? いいか、赤龍帝の側近がこんなところでよ……」
しかし剣は同じでも使い手の力量には大きな差が横たわっている。最近はろくに鍛練もしておらず天性の戦闘センスだけで戦うフリードだが、それでも一誠から与えられた任務をこなすなど実戦までは怠けていない。対して八重垣は死亡してから十年もの月日が流れており、蘇生されるまで彼の魂は現世を漂い続けるだけだった。肉体を取り戻しても感覚まではそうはいかない。抱えたままの十年分のブランクがゆっくりと美しい剣技を汚していく。
そして遂に生じた、一瞬の隙。
「──死ぬ筈ねえだろ!!」
今度はフリードの方が刃を押し返し、勢いそのままに八重垣の腹に蹴りを入れる。似つかわしくない鈍い音が礼拝堂に響くと同時に床を転がされる八重垣。しかしフリードは追撃には移らない。彼が転げ回った理由が先の自分と同じく衝撃を殺す為であり、大したダメージを受けていないと気付いているからだ。不用意に追撃を図った瞬間に起き上がってカウンターを仕掛ける算段だろう。
事実、彼の読みは正しい。
しばらくの沈黙の後、「見抜かれたか」と八重垣は余裕そうに立ち上がる。剣を握っていない空き手にはいつの間に取り出したのか光の弾丸を打ち出す黒い銃が握られており、フリードの隙を虎視眈々と狙っていたことは明白である。
「流石は元神童だな。僕の手を悉く看破するとは」
「野郎に褒められたって嬉しくねーや。てな感じでシーグヴァイラたん誉めて誉めて~」
「キモッ」
「ア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ・ます! よーし、バカップルパワーでヤル気満々だぜえ!」
「……それ、僕への煽りのつもりかい?」
八重垣は青筋を立て、それを見たフリードは更に変顔混じりで反省を促すポーズを繰り出す。こうして彼らの戦いは激化の一路を辿るのだった。