はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(◼️◼️◼️◼️にバイバイチャ)


異魔人 ─イマジン─

 愛は寛容であり、情が深い。愛は妬むことをしない。愛は傲慢にならないし、誇らない。

 

(新約聖書より抜粋)

 

▼異魔人 ─イマジン─▼

 

 振り降ろされた凶刃を受け止めたのはシーグヴァイラではなく瓦礫の山から飛び出したフリードだった。突然の復活劇に驚愕したのか、軽い鍔迫り合いだけで飛び退く八重垣。驚いたのはシーグヴァイラも同様であり、「フリード!?」と思わず叫んだ。重傷を負った上に生き埋めにされた人間がさも何事もなかったかのように自分を庇ったのもそうだが、彼女の視線を釘付けにしたのはフリードの全身から迸るドラゴン特有の赤黒いオーラである。

 

 忘れる筈もない。

 あれは赤龍帝の力だ。

 

「フリード……よね?」

「んだよ、ブサイクな泣き顔を晒しやがって。まさか俺ちゃんが死んだかもって心配してくれたんでちゅか? 残念無念、俺は死にませーん!」

「し、心配なんかしてないわよ!」

 

 謎のパワーアップを果たしても結局は平常運転な彼のテンションに巻き込まれ、涙を拭いながらもツンデレを披露するシーグヴァイラ。直前までとは打って変わって、とびきりの笑顔を見せる理由は本人も分からない。

 

「ほれ、再会を喜ぶのは後回しだ」

 

 じゃれ合いも程々にフリードは剣を構える。再会劇を邪魔する無粋な輩がまだ一人、この場には残っているのだから。

 

「貴様ら……!」

「なんだよ、先輩。野郎の嫉妬ってのは見苦しいんだぜ? 羨ましいなら適当に冥界でナンパしてくればいいじゃないっすか」

「黙れ黙れ黙れ……どうして君らは許されて僕らは許されないんだ? どうして彼女を……クレーリアを殺したァァァァァアッ!!』

「おーおー、愉快に素敵にフルモデルチェンジしやがりましたか」

 

 怨嗟を込めた咆哮が礼拝堂全体を揺らしたと同時に、八重垣の頬が崩れていく。グラスを叩き付けたような放射状のヒビは瞬く間に顔全体を覆っていき、それに比例して肉体も肥大化の一路を辿る。羽化するように悪魔祓いの制服を引き裂いて降臨したのは全身が黒い体毛に包まれた巨大な獣だった。

 

 その巨躯は手を伸ばせば軽々と天井に触れることができるであろうサイズを誇り、筋肉で膨れ上がった四肢は丸太を彷彿とさせ、軽く撫でただけでも人間の頭部を撥ね飛ばせるだろう。

 その風貌は伝承に現れる人狼や巨人に近いが、側頭部から禍々しく生える捻れた双角と山羊そのものの脚がそうではないことを教えている。

 

「……悪魔(バフォメット)

 

 変わり果てた八重垣を見上げながらシーグヴァイラが呟いた。その者は断じて教会戦士が至ってはならない姿であり、礼拝堂に招かれるべき存在でもない。その性質は清廉潔癖を貫かんとする教会の真逆の道を蠢くのだから。クレーリアと同種族になったという点だけを見るならお似合いの姿だが。

 

 「随分と悪趣味な細工をされたもんだ」と八重垣を蘇生させたであろう″幽世の聖杯″所有者の嫌がらせにドン引きしながらも、フリードは口角を三日月に吊り上げる。八重垣が悪魔にまで堕ちたのならフリードはもう一人の悪魔だ。このような事態を面白がって骨の髄まで煽り散らかすのだから。

 

「主が曰く、愛は傲慢にならないし……なんだっけか? 誇らないんだっけか? あーあー、クレーリアといいシーグヴァイラたんといい彼氏のセンスに欠けるってのは可哀想だねー」

『なんだと……!』

「今の先輩ってさー、すっげー傲慢で誇るどころか驕り昂ってるぜ。それって要するに」

 

 ロリコン上司が脳裏に過る。合法とはいえ幼女(オーフィス)を妊娠させたり授乳プレイに興じたりする性癖には流石のフリードもお手上げだが、しかし一誠は妻に対しては真摯に向き合い決して傲慢に接したりはしなかった。ましてやオーフィスが子を宿した今となってはこれまで以上に気にかけており、身重の彼女に負担を掛けるまいと身の回りの世話やメンタルケアを手伝い、任務でどうしても部屋を空ける場合はレイヴェル達に世話役を任せている。そうして一誠の疲労が蓄積すると今度はオーフィスが夫を精一杯に癒すのだ。

 

 児童ポルノな絵面はさておき、種族も年齢も何もかもが異なる彼らを結ぶのは互いへの尊重という赤い糸だ。そして、その別名こそが愛である。

 

「──あんたとクレーリアのそれは、偽りの愛だったってことだろ?」

 

 そんな二人を見てきた側近だからこそ、どうしても八重垣の叫ぶ愛は単なる言い訳にしか聞こえないのだ。そうでなければ想い人が守ろうとしたこの町で想い人との出会いの発端となったはぐれ悪魔のような真似をする筈がないのだから。

 

『……!』

 

 八重垣が右の拳を振り下ろす。巨躯が生み出す超怪力から放たれる鉄槌をまともに受ければ助からないだろう。しかし巨大故に隙もまた大きく、フリード達は難なく回避する。拳を叩き付けられた床が嫌な音を立てて崩落した。足場を失ったことにより凄まじい轟音の中で瓦礫と砂煙に沈んでいく八重垣。これで戦闘が終わったわけではない。彼が沈んでいった先には広い地下室が横たわっているのだ。

 

「待ってろ。すぐに殺してくる」

「私も行くわよ、この町の領主だもの」

 

 言い争う時間も惜しんだフリードが折れる形で二人は大穴に飛び降りた。彼が一足先に着地して周辺を手早く警戒し、それからシーグヴァイラを受け止める。崩落の影響で八重垣が潜伏時に用いていたランプは押し潰され、頭上から微かに注ぐ月明かりが二人の周囲を照らすのみだ。

 

 瞬間、八重垣が襲い掛かる。

 

『Aaaaaaaaaaaaa!!!!!』

 

 進路を阻む瓦礫を粉砕しながら突き進む力任せの攻撃にもう理性も人間性も見当たらない。如何に威力があろうと所詮は知性亡き獣の暴力だ。ましてや赤龍帝の力を一時的に宿したフリードにとっては文字通り子供の癇癪でしかなく、オーラを纏った左腕で難なくガードする。

 

「おい、シーグヴァイラ。明日から町の警備を強化することをオススメするぜ。こんなザルだから俺や先輩みたいなクソが闊歩してんだ」

 

 八重垣の腕をそのまま掴み上げ、逃すまいとするフリード。

 

「アドバイスに感謝するわ! お礼に強化したら真っ先にあんたを捕まえてあげる!」

「そんなに睨むなよ美人が台無しだっての。睨むだけの元気があるなら、さっさと倒しちまえ!」

「任された!」

 

 シーグヴァイラは合図に呼応して魔力を集中し、気の緩みで掌から消失した″時間操作″の術式を再展開する。一度は成功したからか、習得に向けた特訓漬けの日々が嘘のように再展開はスムーズだ。とはいえ、弾丸の速度で放たれたアガレス家の紋章を宿した術式は降臨した偽りの悪魔を止めるにはまだ足りないらしい。

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』

 

 与えられた強化形態──″魔人態(バフォメット)″が成せる恩恵だろう。術式の飛来を察知するや瞬時に魔力を滾らせ、フリードと同じように即席の鎧を創り上げた。ヘドロに似て醜悪極まりない濃密な魔力は相手に触れることを許さない。異変に気付いて咄嗟に飛び退いたフリードの視線の先では魔力の鎧に触れたシーグヴァイラの術式が効力を発揮することもなくそのまま溶かされている。数秒でも判断が遅ければ″赤龍帝の鎧″の幻影も無事で済んだかは分からない。

 

 しかし術式を強引に掻き消すほどの純度と毒性を持つのならそれは操る本人にとっても危険な諸刃の剣である証拠だ。八重垣の動きが明らかに鈍くなった瞬間を対峙する彼らは見逃さなかった。

 

「今から突撃してくるから、俺もろとも撃ち殺す覚悟で援護ヨロシク」

「……了解よ。ぶち殺してあげるから覚悟なさい」

「なんだ、妙に素直じゃねえの。普段からそうしてれば逆ハーレムだって築けただろうに勿体ねーな」

「殺すぞ」

「ごめんちゃい♡」

 

 ──まったく、どこまでもふざけた男ね。そんな奴に惹かれる私も……どうかしてるわ。

 

 敢えて大袈裟にかぶりを振り、意識と魔力を目の前に集中させるシーグヴァイラ。魔力出力は安定、感覚と思考も普段以上に研ぎ澄まされている。されど周囲の雑音は自身の心拍音すら一切が遮断されており、自分だけが世界から切り取られたような、これまで体験したことのない不思議な感覚だ。ゾーンと呼ばれる超集中状態に至ったのだ。その理由を彼女は既に知っている。

 

 連続する″倍加″の声音の中で、戦いの最終節が幕を開けた。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost──』

「……行ってくるぜ」

 

 戦闘におけるフリードの持ち味はその手数の多さである。我流の剣と悪魔祓い時代の洗練された剣筋を巧みに切り替えて翻弄し、更に閃光手榴弾などの多彩な小道具をミックスすることで、予測不可能な連続攻撃を可能としている。そういった変幻自在の立ち回りと敵への容赦の無さが長所であるなら短所には火力不足が挙げられる。養成機関時代から愛用している光の剣と銃の出力を技量だけで補うのにはどうしても限界が生じるのだ。裏を返せば出力不足を感じさせない程に彼の技量がずば抜けている証拠でもあるが。

 

 その人間離れした技術に赤龍帝という文字通り人外の力が合わさったなら、それは悪魔をも越える理不尽(ドラゴン)の顕現の瞬間に他ならない。

 

 ──なんだこりゃ、力が溢れてきやがる。

 

 両手をぐっと握り締め、開く。その動作を軽く繰り返しただけでフリードは自分がその身に天を降ろしたことを把握した。負った筈の重傷は最初から無かったかのように消え去り、代わりに絶え間なく沸き上がる赤黒いオーラの激流は一秒、二秒と経過する毎により勢いを増していく。

 

 しかし″魔人態″が放つ魔力がそうであるように或いは正規の宿主ではない弊害なのか、超高密度の赤龍帝のオーラは容赦なくフリードにも牙を剥く。全身を焼き尽くされるかのような熱気と激痛が身体を蝕むのだ。恐らくは数分も保たないだろう。今にも途絶えそうな意識を奮い立たせながら″魔人態″に成り果てた哀れな男を睨む。獣のような咆哮には愛も自我も消え失せており、宿るのは周囲への果てしない憎悪だけだ。

 

 挑発ついでにああ言ったが、とチェンソー状に形成したオーラを手に纏わせながらフリードは苦い表情を浮かべる。大切な者を害されれば悲しみ憎むのは当然だ。一誠は両親を殺害された際に″覇龍″と呼ばれる暴走状態に陥っているし、フリード自身もリントに性的暴行を加えた犯人全員を惨殺している。

 

 大切な相手を失う悲しみは深く大きいのだ。ましてや八重垣は目の前で恋人を嬲り殺しにされたのだから胸に宿した絶望は計り知れない。

 

「でもな、今の先輩はマジで見てらんねえよ。悪趣味な改造されちまってさ。ただ黒幕に踊らされてるだけじゃないかよ情けねー」

『Aaaaaaaaaa……』

「会話すらもできないか、仕方ねえ。引導を渡してやっから──もう黙れよ、八重垣先輩」

 

 迫り来る丸太に等しき剛腕を容易く受け止め、切断しながら彼は駆ける。如何に″魔人態″が超常の怪力を誇ろうとも動きが直線的過ぎるのでは攻撃が当たる筈がない。それに回避された直後もキョロキョロと相手を探し、宙を舞うように頭上を跳躍するフリードに気付かない有り様だ。その隙に今度は左腕を斬られ、激痛から八重垣が本能的に肩口を抑えた瞬間にもフリードはその背後に着地し、振り向き様に左太腿から先を斬った。

 

 支えを失なった八重垣は雄叫びを挙げながら倒れ伏す。その眼前にはどこまでも冷たい瞳で此方を見下ろすフリードが立っていて、そこでようやっと八重垣は彼の姿を視認したようだった。チェンソーを突き付けながらフリードは告げる。

 

「抵抗も降伏も無駄だ、楽にしてや──」

『Aaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!』

「まだ起きんのかよクソッタレが!」

 

 偽りの悪魔の双眸が赤く煌めき、絶叫すると同時に捻れた双角の間の空間から目映いプラズマが放たれる。それが残存魔力をかき集めた魔力砲にして八重垣の最後の悪足掻きなのだと悟った瞬間、フリードは顔色を変えて後方に大きく飛び退こうとした。しかし間に合わない。

 

 そしてフリードの視界を閃光が埋め尽くした。

 否、埋め尽くそうとした。

 

「──あんたって本当に世話が焼けるわね」

「すまない、遅れた……ましたっ!」

 

 呆れたような声音と共に、フリードに向けて発射されようとしていた魔力砲もろとも八重垣が一刀両断される。控えていたシーグヴァイラが″時間停止″の術式で動きを止め、落下するようにして真上から飛び込んできたゼノヴィアがデュランダルを振り下ろしたのだ。

 

 ″幽世の聖杯″で改造された元人間とはいえ、″魔人態″と化した八重垣は種族的には悪魔にカテゴリされる。そして聖剣は悪魔の天敵であり斬られれば最悪の場合は死体も残さずに消滅してしまう。

 

「アイエエエ!? 先輩が死んでる! ここに来てまさかの超展開なぜなーぜ!?」

「展開を急ごうと言ったのはフリードじゃない」

「申し訳ありません、討伐部隊との合流が遅れまして……うわっ、フリード・セルゼン!? どうしてこの町に! お前も洗濯に来たのか!?」

「やっはろー、おひさだねえ! 誰かと思えば美味しいところだけ奪ってくれたクソ悪魔のクソビッチではあーりませんか! ナイスタイミング! 以前のお返しついでに任されてくれないかなあ俺とシーグヴァイラたんの結婚式編の実況解説を!」

「「殺すぞ」」

 

 直前までのシリアスな空気はどこへやら、大騒ぎする三人を他所にかつて八重垣正臣と呼ばれた偽りの悪魔の死体は淡い光の粒子となって消えた。捨て駒としての役割を充分に果たして。

 

 

「ご苦労様です、シーグヴァイラ様。到着が遅れたこと謹んでお詫び申し上げます。しかし単騎で賊を討伐してしまうとは流石、かのアガレス家の才女ですな」

「いえいえ。わざわざ出動していただいてありがとうございます」

「なんの、これが我々の仕事ですから。これからも頼りにして頂けると幸いですが叶うなら平和でありたいものですな。おっと長々と失礼。それではこの辺で」

 

 そう言って転移していく討伐部隊を見送るシーグヴァイラとゼノヴィア。やがて彼らの姿が完全に消えたことを確認してから、「それにしても」と部隊の到着があまりにも遅かった点について思案する。八重垣を倒してから到着されたのでは今後、同様の事態が発生した際に到底間に合わない。

 

「まさか、敢えて部隊の到着を遅らせた? 侵入者が私達を殺害すると踏んで?」

 

 彼女達の殺害を目論む理由は、兵藤一誠との内通にシーグヴァイラが気付いたことを察知したのだろう。侵入者がシーグヴァイラを殺してくれればそれで良し、死なずとも戦いの中で重傷を負えば入院先に配下を送り込み、生き残ったならその時はまた別の機会を伺うだけだ。重要なのはごく自然な形で彼女を排除するという一点である。スキャンダル隠蔽の為に新たな爆弾を抱えたのでは本末転倒、もし四代目の駒王町領主に嗅ぎ付けられでもすれば笑い話にもならない。

 

「やはり、魔王様は私達の排除を?」

「間違いなくね。念の為に眷属をアガレス家お抱えの医療機関に入院させておいて正解だったわ」

 

 溜め息を吐くシーグヴァイラ。仮に木場達を首都リリスの病院に搬送していたなら医療ミスを装って始末されていただろう。

 

「これからどうなさいますか? 今後も魔王様は私達の命を狙ってくるものと思われます。このまま留まるのは危険です」

「いっそ両親も説得して他神話に亡命してやろうかしら。眷属を連れて北欧に亡命したディオドラもいることだし」

 

 進退について頭を悩ませていると長椅子の裏側からフリードがひょっこりと顔を出した。立場的には国際テロ組織の一員である為、シーグヴァイラとの繋がりを隠すべく討伐部隊が帰るまで隠れていたのだ。ちなみに顔がボコボコに腫れ上がっている原因は記すまでもない。

 

「……そろそろ出ていいっすか?」

「あら、あれだけ踏んだのにまだ生きてたの。本当にしぶといわね」

「我々の業界ではご褒美ですから」

 

 踏まれた際にシーグヴァイラのスカートの中身が見えたのもご褒美だ。ちなみに、まさかお堅い雰囲気に反してセクシーな黒色の紐パンを履いているとはフリードの目をもってしても見抜けなかった。

 とはいえ、笑ってみせたのはあくまでも痩せ我慢に過ぎない。実際は一時的にでも赤龍帝のオーラを纏った反動で彼の身体はボロボロであり、今や立ち上がるだけで全身に激痛が走る。リントも忠告していたようにこの状態では日常生活もままならないだろう。

 

「で、フリードはこれからどうするの? 言っておくけど私とのデートとかは却下で。どうしてもって懇願するなら付き合ってあげるけど?」

「ツンデレご馳走さまでーす! でもでもでもでも~喜んでお供したいのは山々なんすけど今日は帰るっすわ。あまり長くアジトを離れると大将に怒られちまうんでね」

「そう……」

「おやおや捕まえなくてええのんかあ? 自分で言うのもなんだけど俺ちゃんも中々の賞金首なんでござんすよ。ああ、もしかしてだけどこの俺に惚れちゃってんじゃないの~?」

 

 ニヤニヤ笑うフリードに、「勘違いしないでよね」とシーグヴァイラは慌てて言い返した。

 

「共闘してもらった恩もあるし今回は見逃すってだけなの! 次に駒王町に現れたら容赦なくぶっ倒してやるんだからね!」

「上等だ。俺とシーグヴァイラたん、どっちが強いかホテルで白黒ハッキリさせようぜ!」

「殺す」

「脚を横にーあら危ない! 頭を下げればセクシーパンツってか♡ じゃあ残念無念また来年ってことでバイバイチャ!」

「あっ、さては覗いたな!? 逃げるな!」

 

 顔を真っ赤にして追い掛けようとするも既に彼の姿は何処にも見当たらず、疲れた顔で椅子に座るシーグヴァイラ。しかし一方で嬉しそうな笑みを隠せていないのだから彼女がどう思っているかはお察しの通りである。

 

「……もしかして惚れました?」

「違ーう! あいつってば私がいないとどうしようもないから仕方なく面倒見てるだけよ! あ、その目は信じてないわね!?」

「……あのー、もしや彼氏のセンスに欠けるって言われたことありません?」

「どうして分かったの!?」

 

 ゼノヴィアも異性にはとんと縁がないものの、それにしても主君の壊滅的な恋愛運は異常である。しかも無自覚にダメンズにハマってしまうタイプなのだから手に負えない。

 

「……そ、そうよ! 惚れちゃったのよ!! でも悪いことなの!? だってあんなに男の人に優しくされたの初めてだもん! もしかしなくとも惚れるわよ!」

「せめて相手は選びましょうよ。あんたアガレス家でしょ。いつから暴食(ベルゼブブ)になったんですか」

「うるさいうるさいうるさーい! 見てなさいよ、次にあいつが現れたら記入済みの婚姻届を押し付けてやるんだからね!」

「そんな特級呪物さっさと捨ててください」

 

 かくしてゼノヴィアと言い争うシーグヴァイラだが、しかし彼女は知らない。

 もう二度とフリードと会えないことを。

 初代領主のように報われない恋で終わってしまうことも、これが今生の別れであることも、シーグヴァイラはまだ知らないのだ。

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