はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(久々の挨拶)


英雄になろうとした男

 その少年の不幸は聖槍を宿してしまった点と、それを扱えるだけの才覚を有していた点にある。

 

 三国志の英雄の末裔として生まれた彼は、肉親に堕天使組織へと売り飛ばされる形で帰るべき故郷を失った。家庭の困窮を見かねての身売りでもあったが、後に両親は身の丈を越えた豪遊の末に自殺したのだから救われない話である。

 

 曹操を自称する青年は拠り所を欲した。修行を兼ねた放浪の果てに自分と同じような境遇の若い少年少女達を集め、英雄派の前身となるグループを結成した。ゲオルクら幹部達は結成当初からの仲間でもある。

 

 ともあれ、曹操は居場所を得た。はぐれ悪魔を狩るフリーランスの賞金稼ぎという些か安定性に欠ける手段ではあるものの、口に糊をすることもできるようになった。活動に比例して、凄腕の賞金稼ぎとして名を知られた。

 

 思い返せば、あの頃が人生の絶頂期だったに違いない。

 

 成功体験は増長を産み、身の丈に合わない野心を灯らせた。もしくは内に抱えていた憎悪と承認欲求の暴走だろう。

 

 ──俺達は神々のせいで人生を狂わされた。つまり俺達は神仏の被害者だ。ならば我々には彼らを裁く権利がある。それを成すだけの神滅具()もある。否、俺達がやらねばなるまい。悪しき神を殺すのはいつだって英雄なのだから。

 

 その答えに思い至った日から、曹操の率いるグループは過激化の一路を辿った。超常への挑戦という建前を掲げ、積極的に同類組織との抗争や吸収を重ねて戦力拡大に務め、遂にはただの人間の寄り合い所帯でありながら百鬼夜行の代名詞たる″禍の団″への参加を果たした。

 しかし曹操はどこまでも不幸だった。英雄派として華々しく活動を開始しようとした直前に、赤い龍を宿す少年が組織に加入したのだから。

 

 兵藤一誠。ある日唐突にオーフィスが連れてきたSSS級はぐれ悪魔にして今代の赤龍帝である。自分達の復讐ごっことは根本的に異なる、狂気の塊としか形容できない存在を前に、英雄派は沈黙するしかなかった。″無限の龍神″の下で命を削りながらトレーニングを重ねるなど、彼らには真似できないからだ。

 

「……お陰で俺達は憑き物が取れたよ。あの特訓すらも躊躇するようなら、きっと俺達には神殺しなんて最初から成し得なかったんだ。テロリストとして活動する前に気付けたのは不幸中の幸いかな」

 

 ──戦場を駆けるだけが英雄ではあるまい。ちっぽけな俺達だが、それでもやれることがある筈だ。ああ、そうだ。これまで散々に悪魔を殺してきたから、今度は人助けがしたいな。もう血生臭いのは御免だ。

 

 これまでの活動方針を百八十度転換し、英雄派は孤児院の運営へと乗り出した。自分達と同じ境遇の子供達を守ることも大切だとする理屈の裏には、兵藤一誠への羨望と微かな恐怖があった。

 

「正直に打ち明けると、俺は少し怖かった。あり得たかもしれない俺の未来だと思うとね」

 

 曹操は人間性を捨てられなかった。以前の遮二無二突っ走っていた頃ならともかく、孤児達の兄貴分として慕われるようになってからは、嬉々として大量虐殺に手を染める一誠の姿には複雑な感覚を抱いていた。

 恨みある三大勢力が蹂躙される光景への歓喜と、その中に孤児院の子供達と年齢の変わらない少年少女が含まれている事実への悲しみだ。

 

「……俺は人間だったよ。最後の最期まで」

 

 曹操は、右肩に担いだ聖槍を空き手で触れる。

 

「お前らにも悪いことをした。俺の都合で振り回すばかりか死なせてしまったな」

「そう気にすんなよ、曹操。確かに結果だけ見ればお前の誘い文句は大嘘になっちまったけどよ。チビ共の面倒を見るのは楽しかったし、最後はきっちり逃がせたんだ。こんなクソッタレの人生としちゃ上出来だろうぜ」

「殺し殺されの繰り返しよりも、助け助けられの重ね合いの方がよっぽど良いってね。強いてマイナス点を挙げるなら回り道が多過ぎたってことぐらいじゃない? こんな簡単なことに気付くまでにどれだけ遠回りしてんのって話よね」

「違いない」

 

 両隣に並ぶヘラクレスとジャンヌの励ましに、曹操は苦笑した。どうやら人生は不幸ばかりでもなかったらしいと感じながら。

 

「久し振りだな、英雄派。わざわざ北欧の片田舎から観光旅行か。福利厚生の一環ならもっとマシな場所を選んだ方がいいぜ」

 

 そして少年の最後の不幸は、死に方は選べても死後を選べなかった点にある。

 

「これはこれは、赤龍帝殿。まさか、神の敵対者の塊ともあろう存在がこのような廃教会で寝泊まりしているとは。以前のアジトは放棄したのかな?」

「せっかく俺達が有効活用しようと思ったのにな。リゼヴィムのクソ野郎が旧魔王派の残党を寝返らせたお陰で捨てる羽目になっちまった。それにしても、仮にも英雄を名乗ってたお前らが厄介な尖兵に成り下がりやがって。覇業は一代のみ、とはよくいったもんだ」

「……厄介、か。兵藤一誠に称されるなら、大手を振って自慢できる」

 

 半壊した礼拝堂の中で、曹操達は一誠と対峙する。聖杯の恩恵により復活と強化を施されたかつての仲間を相手取るのは、さしもの一誠とて心身共に厳しいものがある。さりとて、背を向けようものなら駒王町一帯が滅ぼされる可能性もある。

 

 何もかもを失った一誠だが、この町にはまだ親友が暮らしているのだ。

 

「確認しておくが、ここに来たのはお前らだけじゃないんだろ? フリードが戦ったという悪魔祓いは単なる陽動役、これはあくまでも足止め。ジークもそうだが、ゲオルクとレオナルドが顔を見せてない時点で……大体の予想はつく」

「ふふ、洞察力は健在だな。周囲に広く認知されているのは神仏にも届く実力だが、本当の恐ろしさはその頭脳だと俺は思うよ。一つ訊くけど、答え合わせは必要かい?」

 

 ドライグを模した紅蓮の全身鎧に包まれながら、一誠は不敵に告げる。

 

「いらねえよ。それに生前のお前達ならともかくゾンビで足止めとは、俺も侮られたものだ」

 

 ティアマットはこの場にいない。シーグヴァイラ達の護衛に向かわせた。まだ万全ではないが、こちらが合流するまでの時間さえ稼いでくれればいい。

 

「一つだけ頼みがある。住民の避難そのものは既に完了させているが、かといって町を更地にしたいわけじゃない。フリードの墓を荒らす真似もしたくない。だから″禍の団″の旧アジトに舞台を移そう。その方が、互いに心置きなく戦えるだろ? もう誰もいないんだからさ」

「いいだろう」

 

 超常の存在を倒すのはいつだって人間だ。生前の曹操の言葉である。

 

「──よわっちい元人間のささやかな挑戦だ。蒼天のもと、赤龍帝を相手にどこまでいけるか、やってみようじゃないか」

「じゃあ……英雄になってみろよ」

 

 一誠は発破をかけたが、単なる足止め役の尖兵にそれを求めるのは酷だろう。強いて挙げるなら、身の丈を弁えない点は両親に似ているようだ。

 

▼英雄になろうとした男▼

 

「読み違えた、のでしょう」

 

 超常への挑戦が始まったのとほぼ同時刻、シーグヴァイラは深夜の駒王学園にて徒労の溜め息を吐いていた。

 

「英雄派が差し向けられるとして、その最終目的は兵藤一誠が駒王町を壊滅させたと思わせること。現世に手を出したとなれば、いよいよ神話勢力が黙っていませんから」

 

 ならばこそ大量のモンスターを生み出せるレオナルドと移動の要たるゲオルクは学園に配置する筈だと彼女は推測した。リゼヴィムの子供染みた悪意を考慮した上での読みはどうやら外れたらしく、学園内をくまなく捜索しても二人の姿は見当たらなかった。

 

「その代わりに招かれざる客人は来ましたけどね。はぐれ魔法使いの団体に″魔帝剣″のジーク、挙げ句に見慣れぬ邪龍達まで。学校見学にしては少しばかり派手が過ぎます」

「ニーズヘッグにラードゥンだ。こうして睨み合うのは数百年振りか。相変わらずしぶといな」

「ど、どっちも伝承に名を残したドラゴンじゃないですかぁ!?」

 

 ゼノヴィアが冷や汗を流しながらデュランダルを手に滑らせ、ティアマットが忌々しそうに舌打ちし、ギャスパーは涙目で震えている。三者三様の反応ではあるが、最悪に極めて近い状況は全員が理解していた。

 

「病院送りで済めば大金星かしらね」

 

 数で劣り、個の戦力もティアマットを除けばたかが知れており、一誠の応援は期待できそうになく、肝心のゲオルクとレオナルドの行方も分からない。

 

「その読みが外れれば、私達はワイルドハントの仲間入りか?」

 

 それすらも生易しい処置であろうことは、実験用の母胎に堕とされかけたティアマットが一番よく把握していた。

 

「ぼ、僕がはぐれ魔法使いの時間を停止させます! 僕だってシーグヴァイラ様の眷属ですからぁ!」

 

 ギャスパーは泣き喚きながらも腹を括った。

 

「かの″魔帝剣″なら相手にとって不足はない」

 

 ゼノヴィアはデュランダルの切っ先をジークフリートに定めた。

 

「ちょっと!? 主君に邪龍討伐を押し付けるなんて扱いが酷すぎるわよ! せめてもう少し労ってくれてもいいじゃない!」

 

 シーグヴァイラは魔力を放出した。

 

「正面から戦おうとするな。あいつらの能力は厄介極まりない」

 

 ティアマットはドラゴンの姿に戻ると臨戦態勢を取った。

 

「……聖杯の縛りもあってね、悪いけど手加減はできないんだ。よわっちい人間のささやかな挑戦だと思って、どうか受け取ってくれ」

 

 この戦いに、夜明けは訪れない。

 

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