「実はさ、イッセーきゅんに666をぶつけてやるつもりだったんだ。あんな化物が伝承の中だけの存在だとはどうしても思えない。かといって完全に殺せるとも考えにくい。どこかに封印されてるだろうと俺ちゃんは踏んだ。時間が足りねえってんで捜索を断念したけど」
三大勢力と兵藤一誠の戦い。自らの計画を自慢気に語るリゼヴィムの視線は、第二次連合戦争の光景を映し出すモニターを捉えて離さない。
「あまりに一方的な戦いってのも観戦していて面白くないじゃん? だからイレギュラーを乱入させてあげようと思ってさ。俺なりの愛と鞭ってやつよ」
魔王が束になったところで赤龍帝には勝てない。三大勢力が協力しても結果は同じこと。最初から結末は分かりきっている。監視という形で文字通りの高みの見物を決める各神話勢力だけでなく、一誠自身もそう思っていた。寧ろこの後に控える戦争の前座扱いだ。ところが、突如として戦場に降臨した二体の獣が彼らの目論見を破壊する。ルイス・キャロルの詩に登場する生物の名を冠する、悪意の塊。
『Aaaaaaaaaa……!!!!!』
あらゆる動物を強引に統一したようなキメラを象った巨大な純白の結晶体──バンダースナッチが咆哮し、鷹に似た剛翼から光と闇の暴風を放つ。前者は悪魔の天敵であり、後者も天使や堕天使の使う光を補食するように調整されている。そんなものを頭上から放たれれば三大勢力の軍勢がどうなるかは子供でも分かる。
「あのキメラは、プロトタイプであるイッセーきゅんの両親や試作型の八重垣きゅんを経て開発された先行量産モデルだ。素体に人間を使用したが故に性能不足が否めなかった二つとは異なり、ジャバウォック達にはレオナルドきゅんに作らせたアンチモンスターを採用した。ただの人間でさえ聖杯は怪物に変えたんだ。だったら……最初から怪物を素体にすればどうなると思う?」
聖杯の効果は絶大だ。例えばリゼヴィムの私兵である吸血鬼も、強化によりヴァーリ達を上回る程の戦闘能力を獲得した。それでも彼が求めるスペックには遠く及ばない。怪物を討つには怪物が必要だ。そうして選ばれたのがレオナルドの持つ″魔獣創造″であり、彼を手駒にするためだけに英雄派は襲撃されたのだ。後は輸送役に″絶霧″を欲した程度で、その他の死体はオマケに過ぎない。
リゼヴィムが豪語するだけあり、バンダースナッチやその発展型のジャバウォックはカタログスペックだけなら魔王クラスをも凌駕する。その証明がモニターに映される蹂躙劇だ。ただし、それ程の出力を有しておきながら三大勢力は真の標的ではない。
「暴走されても困るからな。ちゃんと停止手段は設定してあるんだぜ? 内部のコアを破壊してしまえばいい。ま、神に匹敵する一撃で存在そのものを消滅させないと即座に再生しちまうけどな! うひゃひゃひゃ♪︎」
『……フェニックス家の小娘で実験を繰り返した理由はそれか』
「だってイッセーきゅんは俺に夢と希望を与えてくれたヒーローなんだ。世界中の神仏を敵に回してでも愛する妻を助けるんだ。だったら、この程度の試練は乗り越えてもらわないと駄目だよな。そもそもバンダースナッチもジャバウォックも結局は二天龍の紛い物だ。あの三つ巴の大戦を再現するために製造された粗悪品。ほら、自分そっくりの偽者が登場する回もヒーローには必要だろ?」
『オーフィスには伝えていないが、あの小娘はもう使い物にならんぞ。完全に心が折れている』
「燃えるゴミの日にでも捨てといてよ」
人質として拉致されたレイヴェルは捕縛されてからも気丈な態度を崩さなかったが、それは却ってリゼヴィムの嗜虐心を刺激するだけだった。解剖と再生のループの末に彼女は壊れた。あれでは自分が廃棄されたことにすら気付かないだろう。
しかし少女の悲惨な末路などリゼヴィムの眼中には無い。彼の好奇心を掴んでいるのはモニターの向こう側にある戦場の光景だけである。ジャバウォック達の強襲を受けても、三大勢力の軍団は聖杯が与える命令に従い、一誠への攻撃を続けるのだ。その果てに自分達が滅ぼされるとしても。
「死ね、死んでくれ!! あの素晴らしい時代を忘れた愚か者共!! 俺達は戦うことでしか生き残れないんだ! 時代は変わった!? バカ言え、この戦闘本能までは変えられやしない!! それすらも捨てたのなら……三大勢力の名を失う前に潔く滅びてしまえ!!」
創成期、黄金期、衰退期。三つの時代を知る彼は同胞がゆるやかに四つ目を迎えている事実に我慢ならなかった。どうせ逃れられぬならせめて自らの手で引導を渡してやろうとリゼヴィムは笑った。
▼戦いの再臨▼
戦場と化した旧グレモリー邸敷地内の広場では、ただ一人を除いて、獣の降臨を気にもしなかった。元魔王であるサーゼクスもセラフォルーもファルビウムもアジュカも、熾天使たるラファエルもウリエルも、堕天使幹部のサハリエルもタミエルも。処刑台を除いて光と闇の暴風雨が降り注ぐ中、同胞の死を意に介さず全員が一丸となって一誠を襲撃する姿は、戦争というより特攻に似ていた。
無論、軍勢の中には聖杯で操られていない者もある。しかし熱狂に近い異様な雰囲気が彼らの冷静さを奪い、戦闘へと駆り立てた。割合で見れば聖杯の支配下にない者の方が少ない点も要因だろう。とはいえ、集団パニックから逃れられずとも強大な軍団であることに変わりはない。極度の興奮状態を戦意の昂りと言い換えれば、寧ろ厄介度は増していた。
「
先陣を切ったサーゼクスが、滅びの魔力で形成した弾丸を指先に込めた。
「
続くセラフォルーが、自身の周囲に無数の氷の礫を出現させた。
「
アジュカが、複雑な数式で構築された魔法陣を幾重にも展開した。
「絶対防御!!」
ファルビウムが、オレンジ色に輝く魔力を全身から放出した。
仕掛けたのは先代魔王達だけではない。光の槍の弾幕が同士討ちをも厭わない規模で形成され、前衛もろとも一誠を焦がさんと迫った。背後からの攻撃を受けて崩れ落ちる彼らと、翡翠の肉眼で地上の星空を眺める一誠の顔は同じ無表情だった。だが、それも一瞬のこと。次には憤怒を抑えきれずに歯軋りする。
「忌々しい……あのときからずっとお前に踊らされてたってことかよ……!」
『相棒! 気付いていると思うが、あの獣が纏う魔力は恐らく……っ!!』
「同じだな……父さんや母さんと……!!」
両親の死にリゼヴィムが関与していたと悟った一誠は絶望に苦虫を噛み潰す。サーゼクス達からすれば絶好の機会であり、ここぞとばかりに魔力を掃射した。
「隙を見せたな、赤龍帝!! 我が滅びの魔力に飲まれるがいい!!」
サーゼクスが蓄えていた魔弾を放つも、一誠は難なくこれを回避する。弾丸は一誠の額を貫くことなく穿つように通過していき、今まさに背後から彼を襲おうとしていたグレイフィアの部隊を悲鳴すら漏らさせずに消滅させた。さしもの一誠も魔王四人が相手となれば苦戦は免れない。しかしそれは神器を解放していないが故だ。序盤は可能な限りの温存を図っていたが、惜しんだまま戦死したのでは笑えないだろう。一誠の決断は早かった。
「──邪魔だ」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!』
″赤龍帝の鎧″を顕現させると同時に、彼の周囲を爆発的なオーラが覆う。そして血のように赤黒い繭が一誠を包み、迫り来る攻撃の全てを消し飛ばした。
「魔王如きが、俺の戦いの邪魔をするな!!」
一誠は咆哮した。口から焔を放射するという怪獣映画のような芸当は、自分の身体の全てをドラゴン化させたからこそ可能となった技だ。ドライグ譲りの火炎に相手が怯んだ隙を見逃すわけがない。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』
鎧の随所に埋め込まれた宝玉が点滅し、″倍加″の完了とそれに伴う一誠の力の急上昇を知らせる。必殺の攻撃が飛んでくることを悟ったサーゼクス達が咄嗟に飛び退くも、ドラゴンを相手取っての判断としては致命的に遅かった。″譲渡″の射程範囲から逃れることができなかったのだ。
『──Transfer!!!!!』
「