はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(今章完了。次章で完結。リアスの末路については単に殺害するだけだと予定しているルートに進まなくなる可能性があるのでこうしました)


始まりの終わり

 これで、一誠の復讐は終わる。

 

「随分と長かった。そうは思わないか?」

「……!」

「そんなに泣くなよ。感動の再会じゃないか。ニッコリ笑って歓迎してくれてもいいだろ?」

 

 かつて自室だった部屋。片隅に敷かれた薄汚い段ボールがリアスの人生最後のベッドだ。あの高飛車な言動はどこへやら。四肢と口を縛られて転がされている彼女はこれから自分が歩むであろう末路を叩きつけられてか、ポロポロと涙を流すばかりで会話もできない。この期に及んで笑顔ならそれはそれで恐ろしいが。

 

「ま、お前の思ってることは正解だ」

 

 一誠は今からリアスを殺す。

 

 伝説のドラゴンである赤龍帝をその左手に宿した青年は自身を救ってくれた主のために尽くすが裏切られた。信じる者も帰るべき場所も失った青年はオーフィスの誘いで″禍の団″へと属し、復讐を誓った。そして今日、復讐を果たすのだ。

 

「お前の家族は俺が殺した。お前の故郷は俺が滅ぼした。あの前政府上層部もフェニックス家もサーゼクスも……この俺が全部ぶち殺した。これでお前の居場所は無くなった。仮にこの家からどうにか脱出したところで生きていく糧を失った」

「……」

「俺はこの瞬間を待っていた。ずっとずっとお前を殺す日を待ち望んでいた。どうやって残酷に殺してやろうかと考えてきたんだ。火炙りにしようか四肢を千切ろうか……」

 

 そうして自身を見下ろす、かつて一誠だったドラゴンの眼差しに、リアスは思わず眼を瞑った。

 

「──けどな、憎悪と同じぐらいに俺は悪魔(お前ら)に感謝してもいるんだぜ?」

 

 感謝とはどういう意味か。不思議そうな視線を向けるリアスに一誠は独白する。それは彼女だけでなく悪魔全体に向けたものであり、一誠が前々から心のどこかで抱えていた感情だ。

 

「今となっては考えるのも無意味だろうけど、もしも……お前達が俺を見捨てなかったら? ライザーの甘言に上層部やサーゼクスが乗らなかったら? 俺を保護してくれていたら、信じてくれていたら。きっと俺は変わらずにオカルト研究部の一員として活動していたことだろう。父さんも母さんも死なず、相変わらず松田や元浜とバカやって、そしてお前らの隣で笑えたんだ」

 

 でもオーフィスとは出会えない、と彼は続けた。

 

「ああ、″禍の団″の首領に担がれてる点は同じだろうから結局は出会ったかもな。しかしその場合はいつか戦うべき強敵になってた筈だ。今みたいに結婚してなかったか……もしかすれば和解してオカルト研究部のマスコットに就任したかもな。可愛いし」

 

 曲がりなりにもテロリストを率いていた手前、オーフィスには多少なり窮屈な思いをさせるかもしれない。それでもアーシアや白音に妹分として可愛がられただろうし、あの容姿ならリアスのコネで駒王小学校にも通えたことだろう。友達にも恵まれたかもしれない。

 形は違えど、それは一誠が命を捨ててでもオーフィスに与えたかった平穏な生活に違いないのだ。

 

 だからこそ一誠はその可能性を拒絶する。その未来を捨て去ってくれた悪魔達に心底から感謝する。

 

「ああ、俺は矛盾してる!! オーフィスが幸せになるってのに──そんな形で幸せになって欲しくないと願う俺がいる!! 俺の知らない誰かを好きになるとか、俺の知らない平行線の道を歩んでいくとか。そんな俺自身もオーフィスのことを愛さないまま、愛すという発想すらないまま、リアス達を好きになるんだ。そんなのは嫌だ。俺はオーフィスを愛してる!! オーフィスの良き夫良き旦那でありたい!! 俺がオーフィスを幸せにしたいんだ!!」

 

 彼は知らないことだが、原典における兵藤一誠は冥界の救世主だ。SSS級はぐれ悪魔として追われることもなく仲間と共に幾度もの危機を乗り越え、三大勢力を滅ぼすこともなく遂には上級悪魔へと成り上がり、ただ一人の女性だけを一途に愛することもなく長年の夢だったハーレムを築いた。絵に描いたような順風満帆。まるでライトノベルの主人公を思わせる人生だ。彼の人間時代の親友が聞けば血涙を流して羨むだろう。

 

「それでも……俺はオーフィスが隣に存在しない人生を歩みたくない」

 

 最初は居場所をくれるからという身も蓋もない理由があった。それはトレーニングに付き合ってくれた恩義となり、やがて彼女の境遇を知ったが故の同情や憐憫に変わり、そうして抱いた共感を喪失への恐怖が掻き立て、愛という名の依存を纏わせた。

 

 最早、オーフィスは一誠の全てだ。彼女のためなら自分の命も捨てられるし、神も国も世界すらも滅ぼせてしまえるのだ。仮に悪魔が一誠を見捨てなければ、彼はオーフィスと出会わないままだったか或いは今のような関係にならなかった。それは何よりも恐ろしい未来だ。

 

「だから、俺は()()に感謝してる」

 

 涼しげな声の正体は狂気である。

 

 無限の欠片である蛇でさえ旧魔王派は永遠に等しい寿命の殆どを失ったというのに、無限そのものに到達した代償が寿命や人の形を捧げるだけで済む筈がなかったのだ。オーフィスとの性交で経口接種した無限の魔力は体内に残留し、莫大な強化の対価として加速度的に一誠の心身を汚染する。今日まで堪えていたのは彼の強靭な精神力と、器を維持するためにドライグとの取り引きでドラゴンの肉体を獲得し続けたからだ。

 

 しかしそれも限界だ。混沌と虚無を司る無限の魔力は宿主の心身を食い荒らすだけでは足りず、空腹という手段で一誠に餌を要求する。望むのは渇きを癒す魔力と身体を維持するだけの肉。アジトを捨ててからというもの、一誠は纏まった休息や食事を取れずにいた。このままでは最愛の妻の首に齧りつきかねない。

 

「なあ、部長。俺はお前を憎んでるけど感謝してもいるんだ。これは嘘じゃない。だってレイナーレに殺された俺の命を救ってくれたもんな。ああ、どうしてあの戦場で食わなかったんだ。あんなバイキングを逃すなんてどうかしてるサーゼクスの肉でも食えば滅びの魔力が手に入ったんだ。でも恐らくオーフィスやフリードが見てるから駄目なんですよ」

 

 既に人としての形を捨てたが、捧げられるものはまだ残っている。

 

「──補食(復讐)してやる」

 

 心だ。

 

「安心してくださいよ部長。ちゃんと感謝を込めて骨すらも齧りますから。だってカルシウムっていう栄養素ですもんね。でもすいません、俺って料理できないんで。丸焼きとかワイルドな内容になりますけど大丈夫ですよね? ああ良かった、泣いて喜んでる。ありがとうございますリアス部長。眷属思いの主君で俺は幸せ者ですよ」

 

 一誠はリアスを床に押さえつけると、邪魔な布を引き千切った。対してリアスは身を捩らせて逃げようとするも四肢を拘束されている点と一誠との腕力差からどうしても逃げられない。

 

「俺には木場みたいな剣の才能はありません。朱乃さんみたいな魔力の天才でもありません。小猫ちゃんみたいな馬鹿力も無いしアーシアの持ってる素晴らしい力もありません。だから俺は……」

 

 その譫言は、侵食がもたらした記憶の混乱によって唐突に漏れ出た過去だ。

 

「……っ! ……っ!?」

「俺はずっとこうしたかった。ずっと、こうされたかった……こんな味か」

 

 自慢の胸はボリューミーな脂身でしかなく、代名詞の紅髪は鮮やかなパスタであり、身に宿した滅びの魔力はスムージーの代用だ。飢えたドラゴンにとってはまさしく極上の馳走だろう。

 

「……っ! ……! ……」

「まだ死なないでくださいよ部長。ほら、これとか甘くて美味いっすよ」

「……」

「久々の温かいメシだ……うま……幸せ……」

 

 しばらくの間、何かの壊れる音だけが続いた。

 

「……」

 

 その残酷な光景を、リアスの瞳を経由して誰かが見ていた。咀嚼音の中で彼女が息絶える瞬間まで。

 

▼▼

 

 リアス・グレモリーの死によって、兵藤一誠の復讐は果たされた。前悪魔上層部もライザーもサーゼクスも殺害した。

 

 第二次連合戦争にて首脳陣を皆殺しにされた三大勢力は絶滅寸前に追い込まれた。″神の子を見張る者″は新総督ベネムネの下で一致団結すれば細々と活動していけるだろうが、悪魔と天使はそれすらも叶わない。人間界で暮らす一部の例外を除いて、遅かれ早かれ彼らは絶滅するだろう。

 

 静観に徹していた他神話勢力は一誠への警戒を強め、遂に連合軍を組織しての赤龍帝討伐作戦を決意した。これには各神話間の派遣争いの意図も大いに含まれているが少なくともそれは一誠が死亡した後のことである。

 

『どうだった、相棒。復讐の味とやらは』

「……はは」

 

 そして、その渦中にある本人は捨ててはならないものを代償に捨ててしまった。

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ──」

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