はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(神滅具関連の設定を作者なりに独自解釈した趣味全開の回。リゼヴィムはこういうときに便利だね)


三つの誤算

▼三つの誤算▼

 

 世界中の神仏が二天龍の帰還を察知しているのだから、必然的にリゼヴィムもまたそれを把握していた。ルーマニアの裏側の中心部、その居城の最奥にて待ち構える彼はかつて父親達と激戦を繰り広げた暴虐の再臨に心底から歓喜した。

 彼自身も指揮官として古の三大勢力戦争に参戦こそしているものの、初代ルシファーの息子が最前線に赴くなど周囲に許される筈もなく、役割といえば比較的に安全な後方支援のみに留められていた。当然ながら、二天龍の乱入を目撃こそすれど交戦経験は皆無だ。

 その当時より母の言葉をモットーとして活動していた彼は、それを果たす絶好の機会──生涯の目標を逃してしまったことに深く絶望した。二天龍が聖書の神に封印されたと知り、自身の出撃を諌めた側近達を癇癪任せに惨殺する程に。

 

 だからこそ、だろう。

 神と魔王を失ったことで崩壊した世界の均衡が急速に以前の姿にまで癒されていく気配を感じ取ったリゼヴィムが纏うのは、普段のふざけた雰囲気ではなく、曲がりなりにも古の大戦時代を生き抜いた最上級悪魔としての絶大な魔力だった。

 

「……そうか、そうかそうかそうか! 二天龍はイッセーきゅんの死を理解した上で、それでも再臨を選択したのか!! 三大勢力への憎悪でもなく憐憫でもなく、たった一人の少年の願いを叶えるために共闘すらも受け入れるってのか!! ったく、どこまでが聖書の神の策略なんだ!? あいつらを神器に封印したのは、二天龍を()()()()()に仕立てる計画なんだろう? ドラゴンはいつだって戦いを呼び寄せるんだからな!!」

 

 二天龍を神器に封印こそすれど命を奪うまではせず、神器として人間の手に渡ることで他神話に強奪されにくい状況を作り、固有能力の一部を条件付きで解放されるように仕組んだ。

 

 何故か?

 ()()()の死後、必ずや三大勢力が衰退していくと予測したからだ。

 

「そもそも……あの戦争で神と魔王は相討ちになって死んだって話だが、それにしては奇妙な点があまりにも多いのさ。だって聖書の神が戦死した遠因を考えてみろ。あの戦争は純粋な三つ巴の争いじゃなかった。イレギュラーな乱入者のせいで一時的な休戦まで結んだ。その原因は?」

「……二天龍、ですね。当時の記録によれば、突如としてドライグとアルビオンが戦場に出現したことが発端とされています。個別に戦ったのでは勝ち目が無いと踏んだ三大勢力は手を組み、討伐された二天龍は聖書の神によって神器へと封印された……まさか記録が改竄されているとリゼヴィム様はお考えなのですか?」

「んー、そこは真実なんだろうよ。だから奇妙喜天烈摩訶不思議の奇想天外四捨五入なんだわ。冷静に考えてみろよ、ユーグリットきゅん。そのときは神と魔王も共闘してるんだぜ? そして聖書の神が死んだ遠因は二天龍の封印時に生じた極度の負担によるものだ。つまり……四大魔王は聖書の神が新たな神器を二つも製作し終えるまで律儀に待っていたことになる」

「それは……」

 

 魔王が神に従う理由が無い、とユーグリットは否定しかけた。仮に手出しを躊躇するとすれば、二天龍の封印が中途半端に終わる可能性を考慮したからだろう。それだけ二体のもたらした被害は大きかった。原因を労せずに取り除けるとなれば多少の猶予は与えて然るべきだと答えたかった。

 

「封印の失敗を恐れた? だったら次元の狭間の片隅とか、誰の手も届かない場所にでも放り込んでおけば済む話だ。三大勢力を恨んでるのは子供でも分かるしな。それを神器だぞ? まかり間違って解放でもされた日にゃそれが自分達の命日だ。そんなもん恐ろしくて人間の手に渡せんだろ。普通は全力で止めるわ」

「四大魔王もまた深手を負っていて、仕切り直しも兼ねて……」

 

 その割には元気そうだな、とリゼヴィムは即座に言った。四人掛かりで挑んで相討ちとはいえ、聖書の神の殺害に成功しているのだから。つまり四大魔王にはそれを成し遂げるだけの力はまだ辛うじて残されていたのだろう。

 

「考え方が逆なんだ。どのような過程を経たのかは知らないが、神も魔王も″赤龍帝の籠手″と″白龍皇の光翼″の完成を企てた。もしかしたら実は五人で仲良く術式を組んだのかもな」

 

 何故か?

 衰退した三大勢力を救うためだ。

 

 より厳密には、その妨げとなるであろう余計な枝葉を排除するためだ。

 

「二天龍との激戦で重傷を負った五人は、自らの死を悟った。そして……残された配下や同胞がどのような末路を辿るのかも。神がいなくとも世界は回る? バカタレ。主柱の喪失は神話としての存在意義を放棄するのと同義だ。後継者を立てたところで凋落は避けられない。他神話に侵略されるか自滅するかはさておき、このままでは三大勢力が遠からず滅びると彼らは考えた。故に救済策を残したのも当然の流れだった」

「つまり……大洪水の焼き直しですか。延命ではなくゼロからの再建。それを指導する救世主(ノア)を選別することこそが、最後の神滅具に与えられた真の役割だったのですね」

「腐敗も停滞も、全ては彼らの掌の上ってことだ」

 

 旧約聖書『創世記』が曰く、人間の堕落を嘆いた神は地上を洪水で滅ぼそうと決意した。しかし正しい人であったノアにだけは事前にその旨を告げ、ノアに方舟の建設を命じた。四十日間の洪水は地上の全てを滅ぼしたが、方舟に乗ったノアとその家族と動物達は生き延びたとある。

 つまり神滅具とは神を滅ぼす力ではなく、神()滅ぼすための力なのだ。

 尤も、それは″赤龍帝の籠手″と″白龍皇の光翼″の二種に限った話ではなく、全ての神滅具──否、神器という存在そのものを製作した理由かもしれない。

 

「なあ、聖書の神よ。あんたには一度会って話をしてみたかったぜ。どうしたらこんなに愉快で素敵な計画を思い付けるんだ?」

 

 恐るべきは、二天龍の擬似的な復活が世界に及ぼす悪影響を微塵も考慮していない点だ。

 

「イッセーきゅんがオーフィスと懇意になったのは流石に想定外だとしても、彼によって三大勢力が滅亡したのは想定内だ。歴代所有者の怨念の蓄積や命を削る″覇龍″も秘密裏に搭載されたシステムの一部だ。暴走によって擬似的な顕現を遂げた二天龍の憎悪を三大勢力に向けさせるための布石なんだろ?」

 

 神殺しの力を宿した人間が辿る末路を予測することなど石ころをパンに変えるよりも容易く、その怨念を燃料としたシステムの構築は地上を洗い流すことよりも簡単だ。人間の愚かさを知り尽くしているが故に。

 

「二天龍に限った話じゃないけどな。堕天使は神器所有者の殺害に動き、悪魔側は戦力確保という建前の強引な眷属化が横行した。猫も杓子も神と魔王の予想を越えられなかったのさ。それは天使すらも例外ではなかった」

「しかし天界は彼らの保護に動いています。凄腕の悪魔祓いとして知られるデュリオ・ジェズアルドや北欧に亡命しているアーシア・アルジェントを筆頭に教会出身の神器所有者は多いですが」

「少年少女は宣伝用の看板だ。あくまでも自分達を正当化するための道具に過ぎず、不都合となればアーシア嬢のように見捨てるのさ。だって結局は人間なんだ。それが神に仕える天使の価値観──ああ、そうだったのか。共犯者は魔王だけじゃない! お前達もその場にいたのか! 熾天使もまた密命を与えられていたのか! 神器所有者の偽りの拠り所という立場から三大勢力の末路を見届けることがお前達の使命だったんだ!!」

 

 天使の価値観に照らし合わせれば、主たる神だけを戦場に送るわけがない。その場には永劫の宿敵たる魔王がいるのだ。それこそ神の意向に沿わずとも護衛として留まった筈だ。

 誰が密命を受け取ったのかは分からない。ミカエルかもしれないし、ガブリエルかもしれない。はたまた四大熾天使の全員が命じられた可能性もある。どちらにせよ、彼らは主を喪失して数千年が経過した今も尚、その命令を遂行しているのだ。仮に天界が滅ぶとしても。

 そして魔王と熾天使が共犯である以上、堕天使だけが無関係であるとは考えにくい。少なくとも総督のアザゼルは関与している可能性が高いだろう。

 

 堕天使は神の子(地上)を監視し、天使は聖書(天上)が終末に至るまでを観測する。

 第二の方舟は完璧なものとなる筈だった。

 

「しかし誤算が生じた」

 

 一つは、三大勢力にとってのノアが現れなかった点である。

 悪魔は王も貴族も大衆も虐殺されたことで臨時政府の樹立すらも叶わないまま崩壊し、同じく指導者を失った″神の子を見張る者″と天界は鼠のように細々とした活動を余儀なくされた。そしてシーグヴァイラなど一部の生き残りも人間界での生活を選択したことにより三大勢力再興の芽は完全に潰えた。

 こうまで凋落の一路を歩むとは聖書の神も予想していなかったに違いない。二天龍や歴代宿主達の憎悪の深さを見誤った形だ。

 

 そしてもう一つが、兵藤一誠の存在だ。

 

「長い歴史を紐解いても、赤龍帝と白龍皇の両方を宿した者はイッセーきゅんの他には存在しない。だって彼らは常に争ってきたんだからな。それが共闘するなんざ考えもしなかっただろう。そうでなくとも聖書の神はどちらか片方だけが三大勢力に牙を剥くと踏んでいた筈さ。腐っても鯛だ。単体ならば同盟を結ぶなりして対処できるが……二体を同時に相手取るなんて芸当は不可能だ。ま、クソ孫を差し向けたのは俺なんだが」

 

 ましてやオーフィスと夫婦になったばかりか彼女を孕ませ、あまつさえ性行為中の粘膜接触が理由で無限の因子を獲得したと知れば、驚愕どころか卒倒するに違いない。

 

「ああ、俺達は惹かれあう! 水滴のように、惑星のように!! 俺達は反発しあう!! 磁石のように、肌の色のように!! きっとこれは俺達の宿命だ! ()()()から俺達はこうして戦う宿命を背負っていたんだ! だから派手で盛大な殺し合いにしようじゃないか、世界でたった一人の我が兄弟(ブラザー)!!」

「……クロウ・クルワッハがその言葉を聞けば激怒しそうですね」

 

 ユーグリットは胸を撫で下ろした。二天龍の気配を察知した邪龍達は大喜びで出撃していったが、そうでなければ今頃はこの場で大洪水の真似事に興じていたかもしれない。まるでかつての聖書の神のように、先程の言葉が興奮から飛び出した妄言ではなく真実であることに気付かないまま。

 

 さて、気付かなかったのはユーグリットのみならずリゼヴィムもまた同様だ。

 

「おやおや、誰かと思えばヴラディ家を追放された半端者ではありませんか。そこの悪魔共を手土産に許しでも乞う算段なのかい?」

「違うね、ヴァレリーを救出する作戦さ。それと訂正しておこうか、ツェペシュ家のクソ義兄(あにき)よ」

 

 そして三つ目の誤算が生じる。

 

「俺はギャスパーじゃない」

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