はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(今回の神話関連の設定は大いに独自解釈を含みます)


Love Edit

「……どうして、貴方はこんな私にも優しく接してくれるのですか?」

 

 ──決まってるだろ。ヴァレリーは俺を甦らせてくれた恩人だからさ。

 

「それは……偶然なのです。私の持つ聖杯が引き寄せただけで、私に恩を感じる必要はありません」

 

 ──気にするな。俺が勝手にヴァレリーを女神と崇めてるだけだよ。

 

「もう……強引な人」

 

 ──だろ? 何を隠そう、この俺はかつてフォウォレ族を率いた魔神の王様だったのさ。ルーに討たれた今となってはただの落ちぶれた怨霊だけどね。

 

「魔神……」

 

 ──そう、この邪眼でダナ神族を相手に大暴れした最強無敵のバロール様さ。Are you ready?

 

「……貴方が私を恩人と言うように、私にとって貴方は大切な幼馴染みです。きっと私達の間に心の準備や決意は必要ありませんよ」

 

 ──それって告白お断りな感じ? ちょっとだけ超ショックかも。

 

「……あっ!? い、今のは決してそういう意味で言ったのではなくて!!」

 

 ──冗談さ。なあ、ヴァレリー。俺はこれから努力して全盛期よりもずっと強くなってみせるから。いつの日か残りの神性も必ず取り戻して完全な顕現を遂げるからさ。そうしたら、

 

「……そうしたら?」

 

 ──この壁を越えさせてあげるよ。

 

▼Love Edit▼

 

 四人にとっての幸運は、彼女達の中にルーマニアの裏側の地理に詳しい者がいた点と、城に侵入したタイミングがまたとない好機であった点だ。まるで誰かに導かれるかのように、三人の悪魔と一人のドラゴンは古めかしい廊下を進んでいく。

 

「警備兵どころか猫の子一匹も見付からない……もしかして私達を誘う罠なのかしら? だってリゼヴィムのような狡猾な男が侵入に気付かないとは考えにくいもの」

「そうだろうか? あれはジジイの姿をしただけの幼稚園児だ。新しい玩具が好きで好きで堪らない。己の好奇心と興味に準じて生きる、最低最悪の悪魔なんだ。そんな男が二天龍の再出現に心を奪われない筈がなかろう」

 

 そう言って鼻を鳴らしたティアマットの視線は廊下の先ではなく、彼らが降り立ったであろう方角を見つめていた。共闘が二天龍の選択だというならば水を差すような真似はするまい。ドラゴンとは誇りを重んじる種族なのだから。

 

「ところで、シーグヴァイラとゼノヴィアは上層部やリアス・グレモリーから説明を受けたのか?」

「……彼の経歴や宿している神器は履歴書に記載してあったけれど、少なくとも()()ギャスパーについては知らないわ」

「私も覚えがありません。付き合いが短かったこともありますが……ああ、しかし駒王会談の直前まで彼はとある一室に軟禁されていました。本人の性格もそうですが、神器の制御に難を抱えていたが故の処置だと。それも()()姿()に関係しているのでしょう」

「ま、無関係だと考える方がおかしいな」

 

 自ずと、女性陣の視線は一同を先導するギャスパーへと集中した。それに気付いた彼はオールバックにした金髪を撫でながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「なんだい、そんなに俺の顔に見惚れて。美女美少女に言い寄られるのは悪い気がしないけれど残念ながら今は逆ナンを受け付けてないのさ。俺には心に決めた必然で運命のマイハニーがいるんでね」

 

 以前までの小動物のような雰囲気とは似ても似つかない、キザったらしいギャスパーの振る舞いに、案内されている身で申し訳ないとは思いつつも三人は少し距離を離した。どうにも慣れないし、そもそも彼女達の性癖とはまるで異なるのも要因だ。

 

 さて、女装を好む男の娘が繁華街の客引きのような派手な衣装を魔力で象り、更には黒いマントを翻して颯爽と歩いているのには一つの理由があった。

 

 彼はギャスパー・ヴラディではない。

 より厳密には、内に宿りし別人格が彼の姿を借り受けた状態である。

 

「この俺が魔神バロール様だ! マイハニーを助けるための一時的な顕現とはいえ、これからどーぞ仲良く頼むぜ! Are you ready?」

 

 城内に侵入した途端の奇妙な変貌を気味悪がったシーグヴァイラが、「拾い食いでもした?」と思わず真顔で訊ねたのも無理はない。

 

「駄目じゃないの、ギャスパー。道端に落ちてるものを食べたら。お腹を壊してしまうわ」

「おいおい、俺の美しい顔に見惚れるなとは言わないが、せめて自己紹介ぐらいはきちんと聞いておいてくれよ? この俺は魔神バロール! かつてフォウォレ族を率いた最強無敵の王様だ!」

「「「さっきも聞いたわ(ぞ)」」」

 

 歩みは進めど会話は踊る。いよいよ頭を抱える主君の隣で、彼の名乗ったバロールという魔神についてティアマットが補足する。

 

「バロールはケルト神話やアイルランドの伝承に姿を現す伝説の魔神だ。最期は孫のルーに討伐されたと聞く。単眼であったり三つ目だったりと様々な言い伝えが残されているが、強大な邪眼の持ち主であった点は共通している。そして……ギャスパーがその身に宿す″停止世界の邪眼″の由来でもある」

「まさか、神器に引き寄せられたとでも? そんなラノベみたいなことって──」

「あっちゃうんだなあ、これが!!」

 

 その呟きにギ■■ルは立ち止まると、手品師を彷彿とさせる芝居がかった仕草で振り返った。その可愛らしい顔には、現世に帰還を果たせたことに対する歓喜の笑みが満ちている。

 

 生きたかった。死の予言を覆したかった。

 あらゆる策を講じた。非道にも手を染めた。溺愛していた娘のエフネすらも塔に幽閉した。

 しかしエフネはあろうことか敵対するダナ神族の男と密通し、やがて予言の子を孕んだ。

 

 愛娘が命を賭けて産んだ赤ん坊を、バロールはどうしても殺せなかった。誰よりも愛深き故に。

 こうして宿命を受け入れたバロールは予言の通りに孫であるルーに討たれ、王を喪ったフォウォレ族もまたダナ神族に滅ぼされる形で彼の後を追うこととなる。第二次マグ・トゥレドの戦いだ。

 その選択自体に後悔は抱いていないが、しかし自らの身勝手で王の責務を放棄してしまったことへの負い目を感じていた。

 

 故に未練に縛られた怨霊として幾千年もの時間をさ迷っていたバロールが、かつての妻に瓜二つな吸血鬼の少女に誘われるようにして、自身の名を冠した神器を所有する少年の肉体に憑依したのは、偶然ではなく運命だったのだ。

 

「初めてヴァレリーに会ったときの驚愕は今でも覚えてる。だって彼女の顔はマイハニー(ケスリン)に生き写しだったからな。おまけにポワポワした天然な雰囲気もそっくりなんだ。ありゃ本人が俺に恋い焦がれて転生してきたって言われても信じるさ」

「ケスリン……魔神バロールの細君か」

「夫が妻を助けるのは当然だろ?」

 

 やれやれ、とティアマットは肩を竦めた。当初は名を騙っただけの悪霊かもしれないと内心で疑っていたのだが、生前の妻の名前を出されては信じないわけにもいかない。神話のイメージとはあまりに欠け離れているが、目の前を歩くキザな彼は間違いなく本人なのだろう。

 

 しかしそうなると二つの疑問が過る。

 このタイミングでバロールの人格が表に出てきたのは何故なのか。

 そもそもギャスパーの人格は無事なのか。

 

 それを訊ねようとしたティアマットだが、

 

「おやおや? この部屋からレディの助けを求める声が聞こえてくるぜ~!? 俺の前でレディに狼藉を働く輩は許しておけないなあ!!」

「ちょ、ちょっと! 私達は城に侵入中なんだからもっと静かに行動を──」

「お邪魔しまーす!!」

「少しは私の話を聞きなさいよ!?」

「「お前(あんた)も充分に喧しいぞ」」

 

 無類の女好きの血が騒いだのだろう、ノック代わりにドアを蹴り飛ばしながら突撃していくバロールだったが、室内に広がる地獄と悪臭が飛び込んできた瞬間、これまでのキザな雰囲気を魔神のそれへと一変させる。

 

 そこは、失敗作の集積場所だ。

 

 違法な人体実験の被験者であろう痩せ細った少女達が檻の中に閉じ込められており、自分を救出に現れたのであろうキザな王子様の登場にも虚ろな瞳を向けるのみで僅かな反応しか示さない。

 食事も与えられず、恐らく床の埃を啜って辛うじて命を繋いでいる有り様だが、それすらも生きているだけマシであることは蛆の中で横たわる幾つかの腐乱死体からも容易に理解できた。

 しかし真の地獄は、その光景を醜悪な笑顔で眺めている監視役らしき吸血鬼達の存在にあった。他種族を露骨に見下す傾向にある彼らにとっては被験者の命など埃よりも軽く、良心など一欠片も傷まなかったに違いない。下級であれば同族ですら容赦なく差別対象にするのだから。

 

「……」

 

 バロールは自分を追いかけてきたシーグヴァイラ達が同じく室内に踏み入るよりも僅かに早く、無言のままドアを閉めた。その際の鬼の形相に三人が思わずたじろいだことにも気付かず、ポリシーに反してレディを驚かせるような真似をしてしまったことも気にせず。

 

「ああ? なんだよ、このガキ。新しい奴隷が送られてくるなんて聞いてないぜ」

「ちょっと待て、見覚えがある顔だな……そういえば時間を停止させるからって理由でヴラディ家を追放された忌々しい雑種に似てるな」

「──Are you ready?」

 

 監視役の男達が吐いた侮蔑にバロールは絶対零度の眼差しを向けると、闇を凝縮させて象った漆黒の巨刃で連中を纏めて一刀両断した。血の雨で濡れたその横顔には、誰よりも愛深き魔神であるが故の憤怒と悲哀が宿っている。

 

 死なせたくない。叶うなら救いたい。

 脳内であらゆる手段を模索した。いっそ自らの闇を分け与えて眷属にすることで生き長らえさせてやろうとも思った。ただし、彼の眷属化は悪魔のそれとは違い理性も自我も剥奪してしまう。

 その苦悩を少女達も悟ったのか、骨に皮を貼り付けただけの細腕で自身の首を指した。

 

 しばらくして、重たい音を響かせながらドアが開いた。

 

「俺の剣は一振りにつき十億ドル……と言いたいところなんだけどな。全員を助けられなかったから今回だけは出血大サービスしておくさ」

「ギャスパー、貴方は……」

「だから俺の名前はバロール様だっての。ま、それは置いといて……一人だけ、麗しの眠り姫を救えたんだ。悪いけど介抱してあげてよ。俺はツケの請求をしなくちゃいけない。おっと、応援は嬉しいけれど助太刀ならノーサンキューだぜ?」

 

 そう言ってバロールは胸に抱えている金髪の少女をシーグヴァイラに渡した。その視線は既に、廊下の奥に立つ一人の男へと移されていた。

 病的なまでに白い肌と派手な装飾の施された衣服が特徴的な眼鏡の男は、秘めた悪意を隠そうともせずに慇懃無礼な笑みを浮かべる。

 

「率先してゴミ掃除とは殊勝な心掛けですが、宰相たるこのマリウス・ツェペシュを無視するというのは少しばかり不敬が過ぎますね」

 

 彼は部下達を惨殺されたことを気にも留めていないようだった。実際、″幽世の聖杯″による恩恵を授けられておきながら侵入者に──しかも混血児に敗れるような者など、マリウスにとっては埃以下の存在だ。

 

 そう、彼はヴァレリーの下を訪れる物好きな少年の顔を覚えていた。身の程知らずへの教育と称して散々に痛めつけてやった本人なのだから。

 

「おやおや、誰かと思えばヴラディ家を追放された半端者ではありませんか。そこの悪魔共を手土産に許しでも乞う算段なのかい?」

「違うね、ヴァレリーを救出する作戦さ。それと訂正しておこうか、ツェペシュ家のクソ義兄(あにき)よ」

 

 裏を返せば、マリウスが把握していた情報は十年以上前の記憶に基づくその一点のみだ。

 ギャスパーの肉体に魔神バロールの人格が宿っていることを彼は知らない。その魔神がマイハニー(ヴァレリー)の瞳を焼いた犯人への復讐を虎視眈々と目論んできたことを彼は知らない。

 

「──俺はギャスパーじゃない」

 

 ましてや、目の前に立っているのがギャスパーではなく、憎悪の炎を燃やすバロールであることなどマリウスは知らなかった。

 

「ふん、世迷い言を。しばらく見ない間に随分と大きな口を叩くようになった。そこの下劣な悪魔に自信でも与えてもらったのか? ヴァレリーの件といい、さっきの被験者の小娘といい、物好きな趣味は相変わらずのようだな。あまりに穢らわしくて反吐が出そうだよ」

「自己紹介ならもっとマシな内容をあの世で考えることをオススメするぜ? お前の顔と一緒で品性に欠けちまってるからな」

「……雑種が。ぶち殺してや──」

 

 激昂任せに魔力弾を放とうとするマリウスだが、しかし自分の腕が一ミリたりとも動かないことに気付いた。断じて恐怖したのではないし、混血児を相手にそんなことがあってはならない。即座に仕切り直しを選択するも、今度は両脚が床から離れないではないか。

 時間停止か、と毒づくマリウスに、バロールはわざとらしくチッチッと指を横に振った。レディや家族への愛情はあれど、仇敵への復讐をそんな生易しい手段で終わらせるような温情は生憎と持ち合わせていない。

 

 ″停止世界の邪眼″だけがマリウスの自由を奪う手段ではない。

 その正体は、夜よりも深い深淵の闇だ。

 

邪眼王の紋章(ロイヤルパニッシュメント)。時間だけじゃない、この俺は全てを支配できるんだ。だからこそ最強無敵のバロール様なのさ」

 

 闇は意志を持つ一個の生物のように形を変えて蠢き続け、やがて邪眼を模した禍々しい漆黒の紋章をマリウスの足下に描いた。当然、それがバロールを表すフォウォレ族の文字であることをマリウスは知らない。知ったところで意味が無い。

 

「──Are you ready(死ぬ準備はいいか)?」

 

 待て、とマリウスは恐怖に歪んだ顔で言った。

 

「待て待て待て待て、考え直せ! 分かっているのか!? 私は宰相で神器研究機関の最高顧問で″クリフォト″の幹部なんだぞ! 貴様のような何も知らない雑種が首を突っ込むことじゃないんだ!!」

「……俺には、この世で嫌いなものは二つある。糸こんにゃくと、レディを泣かせるような男だ。そしてお前はマイハニー(ヴァレリー)を泣かせやがった。俺がお前を殺す理由はそれだけで充分なのさ」

 

 同時に、無数の小さな紋章に分裂した闇がマリウスの全身を覆い隠した。そうして蟲のように這いつくばりながら相手を生きたまま補食するのだ。

 肉を裂く音と断末魔の中に埋もれていく彼の姿を見届けながら、バロールはここまで蚊帳の外に徹していたシーグヴァイラ達へと振り返った。

 食欲も裸足で逃げ出す光景に、いよいよ本格的に距離を置いた女性陣。そんな三人にバロールは笑顔で告げる。

 

「……さ、ランデブーの続きと行こうか!」

「「「誤魔化せるわけないでしょ(だろ)」」」

 

 愛を追う旅は、まだ続く。

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