はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(最終話まで想定で残り10話を切りました。ここまで長かったです)


夢幻崩影

▼夢幻崩影▼

 

 まずは一人、面倒だった吸血鬼の男の排除に成功した。この俺が動けば眼光だけで塵芥と化す程度の存在ではあったが、現世への直接介入の禁止という縛りを古より自らに課している以上、害虫駆除ですら中々どうして骨が折れる。恩人たるオーフィスのためであれば労力は惜しまないが。

 神器研究家を自称するマリウスは普段こそ知的人ぶっているものの、あれは本質的に性根が卑しい。そういう者を生かしておいては……()()リゼヴィムを始末してもらう際の邪魔になる。故に魔神を想定よりも早期に叩き起こしてまで駆除させたのだ。

 

 さて、魔神バロールは″幽世の聖杯″に誘われることで一切の構造を把握していない筈の城内でも迷わずに歩を進めている──という()()()を敢えて訂正しないまま話をしよう。

 

 仇敵への復讐を遂げて愉快げなバロール(ギャスパー)とは打って変わり、その後ろを歩く女性陣は実に複雑そうな表情を浮かべている。それは彼のキザったらしい軽薄な言動が彼女達の好みと合致しないからであり、人命救助の大義名分があったとはいえ、吸血鬼達を虐殺しておきながら涼しい顔をしているバロールにとある大犯罪者の姿を重ね合わせたからである。

 

 即ち、兵藤一誠だ。

 

 その詳細を語る必要は今更あるまいが、強いて特徴を挙げるなら世界最強の愛妻家にしてロリコンといったところか。本来ならば姿形を自由自在に変えられるオーフィスが頑なに幼女体型を貫いていたのは、つまりそういうことなのだろう。妊娠と出産を経た現在では外見を固定されているがね。

 そしてもう一つの特徴が、二天龍の両方を宿した者である点だろう。ドライグとアルビオンの確執は有名な話だ。その彼らが共闘を選択したのは、少なくとも後者は恩返しの面が大きい。並々ならぬ憎悪を三大勢力に向けてきた二天龍としては連中を滅ぼした兵藤一誠に頭が上がらないようだ。

 

 そう、彼は有言実行した。アリーナへの超長距離砲撃による大量虐殺を立案・実行し、″悪魔の駒″の生産拠点アグレアスを墜とさせ、二度の連合戦争を勝利し十万単位もの軍勢を蹂躙し、遂には指導者だった魔王も熾天使も堕天使総督も殺害した。それにより三大勢力は壊滅し、悪魔に至っては絶滅の一歩手前にまで追い詰められた。

 そればかりか今度は世界中の神仏にまで宣戦布告したのだから、兵藤一誠が歴史上最大の凶悪犯罪者であるのは間違いない。テロリスト組織″禍の団″の首魁の座を継ぐに相応しい所業だ。

 

 シーグヴァイラ達がバロールに兵藤一誠の面影を見たのは、必要とあれば自ら手を汚すことも厭わない残虐性を垣間見たからだが、それ以上に両者の共通点をぼんやりと掴んでいたからでもある。

 

「思ったのだけれど、ギャス……バロールって兵藤一誠に似てるわね。惚れた女性のために命を捨てるところはそっくりだわ。彼は筋金入りのロリコン王だけど」

 

 ふむ、どうやら兵藤一誠の性癖は世間における共通認識のようだ。あれだけ行動を共にしておいて言い逃れするような性格でもないだろうが。

 

「ギャスパーの中で隠れてるときも聞き耳はずっと立てていたからな、噂は知ってるぜ。三大勢力を潰したらしいな?」

「そしてオーフィスを妊娠させた男だ。そればかりかリゼヴィムに誘拐された彼女を救出すべく、このルーマニアに単独で乗り込んできた」

「おいマジかよ!? それであんなにもドラゴンのオーラを振り撒いてるわけか!! リゼヴィムも間抜けなことしたもんだ!!」

「……避妊しないのもどうかと思うわ」

 

 その通りではあるが、心身共に崩壊寸前だった兵藤一誠や情緒の幼いオーフィスに理性(ゴム)を求めるのは少しばかり酷だろう。尤も、それさえしていれば事態がややこしくならずに済んだのも事実だが。

 

「だって、妻子を置いて死ぬつもりよ? 二人を守るという観点だけで見るなら、身代わりに死ぬのは最善かもしれない。でも残される側からすれば最悪手だわ。神話連合を巻き添えに心中するのは自分自身なのに、その後の世界がどうなるかは考えなくても分かることよ」

「……だからこそ、我々()殺さずに生かしておいたのでしょう。一介の小娘に過ぎない私達に──部下だったフリードと生前に交友を結んでいたとしても、ロイガンやディハウザーのような利用価値があるとは思えません。かといって、女子供だからと見逃すような情を持たないことはこれまでの所業が証明しています。そして、世界が主だった神話を喪失して荒廃するとなれば」

「我々は護衛として生かされたわけか。いや、厳密には候補だった。リゼヴィムの手勢と戦わせることで試したが、聖杯のゾンビにも劣るようでは力不足だった……か。毎度ながら兵藤一誠の用意周到さには本当に恐れ入るよ。果たして一体いつからこの計画を練っていたんだ……一体いつから彼は覚悟を決めていたんだろうな」

 

 愛する妻と娘を守るために命を捨てる。

 口にするのは簡単でも、実践するのは相応の決意が必要だ。それでも平然と──残された二人の悲しみを承知の上で実行に移すのは、真に愛していなければ不可能なことである。

 自身の行いを省みたのか、女性陣の言葉にバロールは無言で肩を竦めた。かつて愛娘も孫も殺せずに死の予言を受け入れ、今もヴァレリーの救出を試みている魔神の王には否定する権利など欠片たりとも無いのだ。とはいえ、それ故の人選だ。

 

 さて、兵藤一誠はドライグとアルビオンを解放することで妻子の護衛役を任せる算段のようだが、候補となる人材は他にも存在していた。部下であるフリードとレイヴェル、更には元英雄派に元魔法使い派の面々がそれだ。

 実力を考慮して前者の二人はベビーシッターのみに留めていたが、″黄昏の聖槍″や″絶霧″を有する元英雄派は荒廃した世界であっても生き残れるだけの戦力と設備を誇っていた。神話連合に加われなかった弱小勢力など相手にならないだろう。

 加えて、曹操側も″禍の団″を脱退こそすれど身重のオーフィスのことは気遣っており、いざとなれば彼女を受け入れることを約束していた。

 

 否、それが本来の計画だったのだ。

 狂ってしまったのは、どこぞのクソ野郎の気紛れに過ぎない。本当にどこの世界でも余計な真似をする男だ。

 

 しかし策と誤算は兄弟だ。どれだけ完璧を目指しても必ず穴が生じてしまう。

 

 三大勢力を翻弄しておきながらたった一本の横槍によって全作戦が瓦解した兵藤一誠のように。

 秘密裏に築いた牙城が魔神の帰還によって崩壊しかけているリゼヴィムのように。

 はたまた■■■の策を見抜けなかったばかりに■■の■■■を強奪された聖書の神のように。

 

 ……ほら、リゼヴィムの想定外が長い夢境から目覚めたようだぞ。

 

「ここは……ええと、吸血鬼に捕まってそれから実験体にされて……赤いドラゴンに……」

 

 シーグヴァイラに抱えられていた金髪の少女がゆっくりと瞼を開けた。人体実験の繰り返しで随分と衰弱しているだろうに、意識を取り戻したその瞳には既に以前の聡明さが宿っている。

 俺が夢の中で接触した影響か、フリードと同様に体内に残留する赤龍帝のオーラが宿主の活性化を促したのか、それともフェニックス家の血筋なのか。

 

「あら? 貴女は……シーグヴァイラ様? どうしてこんなところに? ゼノヴィアさんにギャスパーさんまで……それに、もしかして五大龍王のティアマット様!?」

「起きたのかい、不死鳥のレディ! そんなに捲し立てなくても俺が優しく丁寧に教えてあげるとも! そのためにも最初は互いの連絡先を交換して」

「「「黙ってろ」」」

 

 少し人選を誤ったかもしれん。前を見えなくされたバロールは放置しておくとして、シーグヴァイラが拳の返り血を拭いながら近況の説明を行う。

 三大勢力の壊滅、リゼヴィムによるオーフィス拉致、兵藤一誠のルーマニア侵攻、……。

 当初こそ驚愕していた彼女だが、説明を聞き終えると溜め息を隠せないでいた。元上司の破天荒さに呆れを通り越して諦めたのだろう。

 

「赤龍帝派を率いる我らがリーダーともあろう方がそのような……頭が痛くなりますわね」

 

 それでも見捨てるような真似をしない点は、彼の人選が完璧だった証拠だ。

 

「リーダー? 待って、記事ではフェニックス家惨殺事件の折に殺害されたと……ああ、そう思わせておいて兵藤一誠と手を組んでいたのね」

「別に命惜しさに寝返っていたわけではありませんのよ? ただ……家族だった悪魔には放逐されてしまったものですから。そういえば、自己紹介が遅れましたわね」

 

 そうして、少女は炎の翼を広げながら優雅に一礼する。

 

「──私はレイヴェル・フェニックス。赤龍帝派の構成員にして、兵藤一誠の左腕を務める一介の悪魔ですわ。以降、お見知りおきを」

 

 ……挨拶の度に焔を撒き散らす癖は兄貴譲りか、と言ったら怒られるだろうか。

 

「知ってるわよ。パーティーで幾度も顔を合わせた仲じゃないの」

「いえ、演出に水を差すのはどうかと。効果抜群になってしまいますから」

「久々の復活なのですから少しぐらい格好つけさせてくださいませんこと!?」

 

 しかも顔見知りなものだから派手な演出をしても効果は薄いようだ。あの世界の兵藤一誠は「火を消すには水だよな」と言っていたが、こんな形で再現されても困る。

 

 ともあれ、役者は揃った。最後の戦いの幕開けもそこまで迫っている。ただし……敵も一筋縄ではいかないものだ。

 例えば侵入者達の気配を察知したユーグリットが人形()を連れて独断で迎撃に動き始めたり或いは、

 

「久し振りだな。またこうして戦える日をどれだけ待ち望んでいたか」

『貴様か、クロウ・クルワッハ。子分共まで引き連れて、そんなに我らの首が欲しいか?』

「あれは単なる観客だ。手出しはさせんし、そのような無粋をする筈がなかろう。邪龍とてドラゴンの端くれだ。その程度の矜持は心得ている」

『ふふ、それを聞いて安心したぞ。それにあの頃よりも強くなった。我らを越えたと吹聴して回っているようだが……嘘ではなさそうだ』

「そうだ、俺は天を越えたんだ。二天龍が呑気に封印されている間も俺は修行を重ねてきた。今日はその証明をしてやろう」

『……それはつまり』

 

 ドラゴン達の宴の開幕である。

 

『──貴様の命日にしてくれという意味だよな?』

「──いや、新たな天龍の誕生だ」

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